僕は、歌舞伎町のホストクラブ『ペガサス』で働く袋小路ケン。今日は出勤早々に後輩のタケルが話しかけてきた。どうやら悩みがあるらしい。

チビで非イケメン、まったく指名が取れないダメホストだった僕が後輩の相談に乗る日が来るなんて……。

ダメホストだった僕にも後輩ができた

「ケンさん、おはようございます!」

出勤した僕に後輩のタケルが大きな声で挨拶する。ホストクラブには次から次へと新人が入ってくるから、僕にもそれなりに何人か後輩ができていた。

僕が働く『ペガサス』の代表、神崎さんが言うには、1年後に残っているホストは100人に1人だという。そう考えると、入店して1年以上が経った僕は、相当頑張っているほうかもしれない。

声をかけてきたタケルは、入店して1カ月ほど。俳優の坂口健太郎に似た色白イケメンだから、僕がホストを始めたときと違って、初来店のお客さんから結構送り指名はもらっている。ただ、なかなか本指名にはつながらず、苦戦していた。

ホスト仲間からは人懐っこいキャラで可愛がられているのに、お客さんには意外に冷淡なときがあることに、僕は気づいていた。

後輩ホストに相談された「悩み」とは?

「ケンさんって、いつも穏やかですけど、接客中にイラつくこととかないんですか?」

重ための前髪をいじりながらタケルが聞いてきた。

「ヘルプで入ったとき、お客さんからガン無視されると憂鬱になることはあるけど、イラつきはしないかな」

「マジっすか!? 神ですね」

「タケルはどんなときにイラつくの?」

「そうっすね。やたらおべっかを使ってすり寄ってきたり、ネガティブな話をえんえんと聞かされたりするときとか……」

「なるほど。でもさ、それに付き合ってあげるのがホストの仕事なんじゃない?」

「……それはそうなんですけど、なんかイラついちゃうんですよ。そんなときに口を開くと、お客さんに不機嫌なのがばれそうだから、つい黙り込んじゃうんですよね」

「なぜかイラッとする」にも理由がある

これと似た話を、何かの本で読んだことがあった。たしか「同族嫌悪」というやつだ。

「本の受け売りなんだけどさ。イラっとしたり、ストレスを感じたりする相手って、自分と根っこのところでは似た者同士なんだって」

「どういうことっすか?」

自分の中の嫌な部分や、なりたい自分の姿を相手の中に見つけて、それに嫌悪感や嫉妬心を抱いてしまうらしいよ」

「ホントっすか? 自分は無理しておべっかなんて使いませんし、相手が聞いたら暗い気持ちになるから愚痴もめったに言わないっすよ」

でも、だからこそ同族嫌悪は起こる。

「タケルは、本当はすりたくないゴマをすらなきゃいけないときもあるし、お客さんの前でグチなんて言えない、って思ってるよね? 自分がやりたくないことや、できないことを相手にやられてイラッとしちゃうんじゃない?」

僕はイラっとしてしまう理由を、こんな感じでタケルに説明してあげた。でも、それがなぜ「似た者同士」ということになるのか、すんなりと納得はできなかったらしい。

自分と真逆のタイプにも同族嫌悪を感じる理由

「うーん……イラっとするまでいかなくても、ケンさんだって苦手だって思う相手の一人やふたりはいますよね? それって自分と似たタイプですか?」

「苦手な相手か……。自分のことだけ考えてグイグイ来る、押しの強い相手はうんざりかも」

「それってケンさんと真逆のタイプじゃないですか。同族嫌悪になってないですよ」

「でも、根っこのところでは同じなんだと思う。たとえば、女の子って押しの強い男が嫌いじゃなかったりするよね。昨日まで悪口言っていた相手なのに、グイグイ来られたら付き合ったりするのを見たりすると、自分の行動力のなさを情けなく思うもん。心の奥底では、自分もそうなれたらって思っているんだから同族だよね」

まさみちゃんのことが、頭によぎる。

まさみちゃんは、僕がずっと片思いしていた女の子で、嫌われるのが怖くて「いい人」を演じているうちに、元カレとヨリを戻してしまった。告白もできないうちにフラれるなんて情けなさすぎる。

「なんかリアルですね。自分のことだとちょっと納得いかないけど、たしかにその話はわかる気がします。特にケンさんはルックスで勝負できるタイプじゃないから、自分からいかないと道が開けないですもんね」

タケルがからかい半分に言う。

「おまえね、少しは気遣えよ。来週のトイレ掃除もタケルな」

「勘弁してくださいよ~。パワハラ反対。でも、ケンさんの言うとおりかも。ホストの仕事を否定するわけじゃないけど、おべっかを使ったり、グチって弱みを見せたくなかったりする自分がいる気がしてきました。意外に俺様タイプなのかも。意外じゃないのかもしれないけど」

「同族嫌悪」を克服すると嫌いな人がいなくなる

「あ、もうちょっとだけいいですか?」

タケルはまだ話したいことがありそうだ。そろそろ準備をしなければいけない時間だけど、もう少しタケルの話を聞くことにした。

「すみません、ケンさん。せっかくだから、どうしても聞いておきたくて」

「どんなこと?」

「結局、同族嫌悪って、いいことないっすよね。でも、どうすればいいんですか?」

「それは……受け入れるしかないんだよ」

「は!? それだけ、ですか?」

「そう。同族嫌悪の相手を嫌うってことは、自分を嫌うことになっちゃうよね。だから、自己肯定感も下がっちゃっていいことがないから、否定せずに肯定して受け入れるしかない」

「自己肯定感ってなんです?」

「自分に価値があると思えることだよ。自己肯定感が低いと自信が持てなくて、人の顔色をうかがったり、いろんなことにチャレンジできなくなったりするんだよ」

「へぇ~勉強になります! でも、受け入れろって言われてもどうすればいいのかわからないんですけど」

相手にイラっとしたときの対処法

「相手にイラっときたら、『その人は自分自身かもしれない』と考えてみたら?」

「自分自身かもしれない?」

「タケルの場合なら、『しょうがないよな。人に気に入られようと思うなら、おべっかは王道だよな』『ネガティブな気持ちを素直に口に出せるなんてすごいな』と、相手を許して認めてあげれば、受け入れることができるようになるんじゃない?」

「それって、自分の嫌なところも許して受け入れるってことですよね。いやー、さすがっす、ケンさん。これができたら、人として成長できそうっすね」

心理学の本で読んだメソッドを伝えただけで、こんなに喜んでもらえるなんて思わなかった。でも、覚えているだけで、まったく実践できていないのが、僕らしいといえば僕らしいけれど。

<構成/伊藤彩子>

▶︎第27回は11月26日(木)の公開予定です。
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この記事を書いた人

斉藤恵一

斉藤恵一(さいとう・けいいち)

セルフマネジメントプロデューサー。日本心理学協会 認定心理士。大学時代に歌舞伎町のホストの世界に飛び込むも半年間売り上げゼロ。そこからセルフブランディングに取り組み、約6年間売上げNO.1となる。現在は美容業界、アパレル業界などでメンタリングやコミュニケーションスキルなどセルフマネジメントのプロデュース、人材育成に取り組む。

Twitter:@keiichisaito