転職×天職 > 半導体業界での転職 > PPM分析にみる日本半導体産業界のポジショニング20年史 > 第四回

第四回 ナノテク時代を迎えた半導体業界の今後を予見する

2000年代初頭の世界を襲った半導体不況は、2003年以降、やや落ち着きを見せている。在庫調整が一巡したこと、世界的なモバイル市場の堅調な伸び、また日本においても景気のゆるやかな上昇が続いたことなど…を背景に、1990年代までのような二桁成長は望めないまでも、年間9%前後の成長率を示すまでに回復したこの時期は、穏やかな「安定成長期」といってもいいかもしれない。
現在、半導体業界は、技術的にはナノテクノロジーの領域に突入したといわれている。その分野でのリーダーは韓国の三星電子であり、すでに超微細化技術によるDRAMの量産化技術も確立されている。一方、日本の半導体各社は、アジア勢との正面対決を避け、デジタル家電やモバイル機器向けの高機能なシステムLSIに特化する戦略をとっている。
では、この半導体業界は、今後どういった方向に向かうのだろうか。この章では、半導体業界の未来を予測し、また成長率、シェアともに高い「スター」の地位を獲得していくには何が必要かを考えてみることにしよう。

石田正直氏による予測:日本半導体業界が真の強さを回復する条件

■業界再編

2000年代初頭の半導体不況の波を受けて、第一次の業界再編が行われた。その結果、誕生したのが半導体専業大手であるエルピーダメモリ、ルネサステクノロジ…などだが、依然として「総合電機メーカーの半導体部門」という従来からの形で存続しているメーカーも複数存在している。これらが業界再編によって統合していくことによって、国際的な競争力を増すことが必要である。

■エコカー

地球温暖化の原因といわれる排気ガス対策に有効なエコカー(ハイブリッドカーや電気自動車など)の需要が世界的に拡大することが予測される。先端技術の結晶であるエコカー市場が伸びれば、半導体市場にも大きく寄与することは間違いない。特に、エコカー技術で世界をリードする日本では、半導体業界は自動車産業とともに発展していくことになるだろう。

■九州シリコンクラスター

アメリカのシリコンバレーのようなモデルが、日本では福岡を中心とする九州で実現するのではないだろうか。現在、すでに半導体メーカーの工場やファブレスメーカーの集積があり、自動車メーカーも進出が進んでいる。

■産学官連合、国家的取り組み

米国のシリコンバレーは、スタンフォード大学を中心にハイテク産業が隆盛した。産学官が連携するには、国レベルでの取り組みが不可欠である。

■アプリケーションマーケット

やみくもに新技術を追うのではなく、マーケティングの観点から適正な投資規模や方向性を定めなくてはならない。

■科学としての半導体研究

バイオテクノロジーと半導体理論の融合、あるいは製造技術においてはマスクレス方式など、画期的なアイデアを実現することで未来の主導権を奪うことができる。

こうした諸条件が必要ではあるが、日本の半導体業界の発展はかなりの確率で約束されているといえるだろう。
これまで、「半導体業界」という時、「デバイスメーカー」を指す狭義の意味で述べてきたが、実は半導体業界には、「半導体材料」「半導体製造装置」という裾野の業界がある。広く見れば、これらもすべて半導体業界に入るのである。
そして、この「半導体材料」「半導体製造装置」の2分野は、日本メーカーが世界を席巻している業界でもある。シリコンウエハーやマスクショップなど、日本メーカーなくしては世界の半導体業界が立ち行かない分野も少なくないのだ。
そういう広い見地から見れば、日本の半導体業界は圧倒的な強みを持っているといえる。デバイスメーカーに関していえば、今後もアメリカやアジアとの競争が続くが、先に述べたような条件さえクリアすれば、ここでも「スター」の座を獲得することも決して夢ではないといえるだろう。