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第三回 2000年代 世界の半導体業界が不景気に

読み違えられた市場

1990年代にはパソコンの爆発的な普及によって巨大な低価格DRAMマーケットが出現したが、2000年代に入る頃、それに代わって世界規模で着目されるようになったのが、携帯電話を中心とするモバイル、デジタル通信機器市場だった。
パソコンに比べて低価格で扱いやすい端末、一人に一台が基本となるパーソナル性…などは、まさにユビキタス時代の萌芽といえるものであり、その先にはパソコン以上のマーケットの広がりがあることを多くの人々が予感した。その結果、世界の半導体メーカーはこぞってこの市場に参入していったのである。
しかし、その結果はマーケットの飽和状態だった。モバイル機器向けメモリーは生産過剰となり、あっという間に価格の下落に直面した。モバイル時代とともに輝かしい未来が予想された2000年代は、なんと世界的な半導体不況で幕を開けることとなった。各メーカーは膨大な在庫を抱え、その処理に数年という時間を費やすことになった。

業界再編とアジア勢の台頭

日本の半導体業界も、当然のようにこの不況に巻き込まれた。この時期の各メーカーの動きは、まず設備投資を手控えたこと。半導体の最先端300mm(12インチ工場)は数千億円単位の資本を必要とする。不況 時にはしかたがないこととはいえ、これによって景気が上昇局面を迎えた時にも機動的な生産に対応できないという状況を生んでしまった。
次に、大規模な業界再編が行われた。従来、日本の半導体メーカーは、「総合電機メーカーの半導体部門」という形をとっていた。しかし、世界的半導体不況のなかにあって、収益率の悪い部門を分離して別会社にするリストラクチャリングに踏み切らざるをえない状況となった。エルピーダメモリ、ルネサステクノロジなど大手半導体専業メーカーは、この時期に生まれたのである(エルピーダはNECと日立、ルネサスは日立と三菱電機の半導体部門がそれぞれ分離・統合されて発足)。

ちなみに、この世界的な半導体不況を逆手にとって大幅にシェアを伸ばしたのが、韓国の三星電子だった。三星は、1990年代からフォトマスクの数を低減させた低コスト生産技術を確立していたが、不況時でも設備投資、研究投資のペースを落とさず、日本をはじめとする世界の大手半導体メーカーの動きが鈍った時期にも、着々とリスタートの準備を行っていたのである。

世界の在庫調整が終わって、これから生産という時に、いち早く態勢を整えていた三星はたちまちトップシェアを獲得した。首位メーカーは価格決定権を持ち、ますます一人勝ちが進む。現在、世界のDRAM市場で、シェアにおいても利益率においても、トップの三星をおびやかすことのできるメーカーは存在しない。この三星を筆頭に、現在、世界のDRAM市場は韓国、台湾などのアジア勢がほとんどのシェアを持つようになっている。実は、その背景には半導体製造装置の性能向上があるといわれている。1980年代から90年代には、半導体メーカーしか持ち得なかった超微細化技術に対応する製造ノウハウが、しだいに半導体製造装置メーカーへと浸透していった。これにより、高度な性能を持つ製造装置さえ導入すれば、誰でも一定レベル以上の半導体を製造できるようになった。ノウハウを日本やアメリカの半導体メーカーが独占できた時代は終わりを告げたのである。

システムLSIに活路を見出す

PPM分析にみる日本半導体産業のpositioning20年史

では、DRAM市場を韓国などのアジア勢に奪われた日本の半導体業界はどのように動いたのだろうか。当時、日本は低コスト生産技術においてはリードを許していたが、高性能・高品質という面では依然として他の追随を許さない技術を誇っていた。

この特長を生かすべく、日本の各社が取り組んだのがデジタル家電向けの「システムLSI」であった。プラズマや液晶などのデジタルテレビを中心とするデジタル家電は、日本メーカーの得意な垂直型アプリケーションの代表的な製品である。家電メーカーとの緊密なコラボレーションが欠かせないシステムLSIは、日本的な「匠の技」といってもいい開発力をフルに発揮できる分野だったといえるだろう。

現在も、日本の半導体業界は、このシステムLSIを中心に差別化を図る戦略をとる企業が中心になっており、一定の成果をあげているという評価はできるだろう。世界の全半導体市場におけるシェアはアメリカに次ぐ2位の座を保っているからだ。

しかし、問題がないわけではない。特定用途のために開発されるカスタム性の強いシステムLSIは、販路が限定されてしまう宿命を持つ。汎用品のように競合メーカーに売り込みにくい。結果的に収益性という面では、ASSPやFPGAなどユニークな個性を持つ汎用半導体に軸足を移したアメリカ勢にも大きく水をあけられているのが実情だ。
半導体不況から日本製半導体の復権への道筋は、まだ明確になっているわけではない。