定時退社or形骸化? ノー残業デーの意味とは?

皆さんの会社では、「ノー残業デー」にノー残業で帰れていますか?

ノー残業デーとは、その名のとおり「残業をしない日」のことで、企業が週に1~2回、曜日を決めて残業せずに帰ることを推奨している日です。会社によっては「早帰りデー」という名前で呼ばれていることもあります。

しかし、制度こそ存在するものの、結局は名ばかりで機能していない企業が多い、というのが現状とも言われています。

ここでは、ノー残業デーの意義やメリット・デメリット、機能の実態など、労働者にとっての「ノー残業デー」の在り方について考えていきたいと思います。

ノー残業デーがある=良い会社とは限らない

ノー残業デーは会社ごとの独自の取り組み

時計を確認して笑うビジネスマンまず前提として押さえておきたい点は、「ノー残業デーを設けているから、働きやすい会社」とは、一概には言えないということです。

ノー残業デーは法律などで決まっているものではなく、会社ごとの独自の取り組みです。つまり、そもそもノー残業デーが制定されるということは、裏を返せば「日々の残業が多い会社」とも考えられます

もっと酷くなると、「ノー残業デー以外は残業するのが当たり前」という社風であるかもしれません。今の日本では、ある程度の残業は当然、という風潮が蔓延している傾向にあります。

しかし本来は「残業がない、残業が少ない会社」こそが、働きやすい会社であるということ、「ノー残業デー」とは、あくまで残業過多の是正策のひとつである、ということを念頭に置いておきましょう。

そもそもノー残業デーとは

ノー残業デーは、40年以上行われている制度

ノー残業デーという制度がいつ発祥したのか、明確な発端は定かではありません。
全国紙4紙(朝日、読売、毎日、日経)のデータベースを調べてみると、「ノー残業デー」に関するもっとも古い記事は以下のものでした。

池田物産、月1回は「ノー残業デー」  ノルマ化断ち切り、「経費削減」再確認。

日産自動車系の内装メーカー、池田物産(※)は月に1日、全工場に「ノー残業デー」を設けることになった。経費削減意識の徹底と、残業のノルマ化による生産意欲低下を防ぐのが狙い。(以下略)

※転職Hacks注:現・ジョンソンコントロールズ株式会社

1976年6月14日 日経産業新聞より

この記事からは、今から40年前にはすでにノー残業デーを導入している企業があったことがわかります。

1955年ごろからの高度経済成長期以降、労働者は国から「国家復興」と「経済発展」に邁進することが求められるようになり、日本人の「働きすぎ(仕事中毒=ワーカホリック)」の傾向は強まっていきました。

働きすぎの歪みとして、過労死が社会問題化したのが1990年ごろ。また、同時期にバブルが崩壊して経済成長が鈍化したことから、労働時間短縮の動きも発生しました。さらには2007年に「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」を策定し、官民を挙げてさまざまな取り組みを進めています。

こうした流れの中で、「働きすぎ」や「経費削減」などの是正策のひとつとして、企業としても取り組みやすいノー残業デーは現在まで長く行われ続けているようです。

ノー残業デーは社員にも企業にもメリットがある

疲れた顔のビジネスマンノー残業デーは、労働者と企業の双方にメリットがあります。

大まかに言えば、労働者にとってはワークライフバランスの改善企業にとっては残業代支払いの軽減による経費削減が望めます。

経費削減という点で言えば、2011年の東日本大震災の後、節電対策の一環としてノー残業デーの取り組みを行った企業や官公庁が多かったのを覚えている方も多いのではないでしょうか。

他にも、生産性の効率化など労働者・企業双方にも利益をもたらす効果もある一方、デメリットもあります。
例えば、ノー残業デーに片付けられなかった仕事を結局は別の日に対応せざるを得なくなる、家に持ち帰って残務を整理するなど、本末転倒な結果を生み出す危険性も孕んでいるのです。

労働者側の視点で考えた、ノー残業デーのメリットとデメリットをまとめてみました。

▼ノー残業デーのメリット
(1)疲労が軽減し、オンとオフのメリハリがつく
(2)残業しないように仕事の効率化を考える癖がつく
(3)周りの視線を気にせず、堂々と帰れる
(4)「ノー残業デーは早く帰れる!」を目標に頑張れる

▼ノー残業デーのデメリット
(1)業務量は変わらないため、結局、他の日の残業が増える
(2)急ぎの案件に対応できない
(3)自分のペースで働けなくなる

ノー残業デーも設けながら、他の日もなるべく定時に近い時刻に退社できることが一番の理想ですが、なかなかそう上手くは行かないのが現状のようです。

コラム:なぜノー残業デーは水曜日が多いの?

「ノー残業デーは水曜日」である会社は、とても多いのではないでしょうか?
ふと考えると、「そもそも何故に水曜日?」というギモンが頭をよぎります。

「スイスイ帰ろう! 水曜日」と、単純にゴロが良いからかな…などと思った人もいるかもしれませんが、多くの企業は、「週の真ん中に入れることで仕事にメリハリをつけ、生産性を高める」という理由から、水曜日に制定しているようです。

大企業などでは部署間の連携などの問題から、曜日は全社共通であることがほとんどですが、中には、営業所や部署単位でノー残業デーの曜日が異なる企業もあります。
その際は、メンバーで多数決を取って、希望者の多い曜日をノー残業デーとすることが多いようです。

となると、だいたい希望者が集まる曜日は「金曜日」。
これはおそらく、飲みに行く、遊びに行く、といった、「余暇の充実を目的としたノー残業デー」という位置づけです。

その他、業務の〆日などを考慮し、なるべく仕事に影響が出ない曜日にするなど、状況に応じてそれぞれ制定している企業も多いようです。

ノー残業デーのリアルと功罪

労働時間削減施策として約7割の企業が実施

オフィスノー残業デーは、企業が行う長時間労働対策としてもっともメジャーな制度です。

シンクタンクである日本生産性本部がが上場企業の人事労務に尋ねた調査によると、働き方の見直しにつながると思われる施策の導入率のうち、最も高いのが「ノー残業デー(ウィーク)設定」(67.6%)でした。

次いで、「フレックスタイム制度」(53.9%)、「在宅勤務制度」(37.3%)が続いており、就労規則などを変更せずにすむノー残業制度が企業としても導入しやすい制度であることが伺えます。

※出典→第16回日本的雇用・人事の変容に関する調査結果|公益財団法人日本生産性本部

多くが形骸化 理由は「みんな帰らないから」

ノー残業デーは広く行われているものの、現場の実態はそう上手くはいっていないようです。

転職Hacksが、ノー残業デーを実施している企業で働いている人に話を聞いてみたところ、「みんなが帰らないから帰れない」といった声が聞こえてきました。

20代・事務職

私の部署は遅くまで残業するタイプの人が多く、しかも若手がひとりだけ先に帰るのはちょっと…という雰囲気。毎週木曜日がノー残業デーに設定されているものの、誰も意識している様子はありません。

いつか早く帰ってやろうと目論んではいるのですが、なかなか実行に移せていないのが実情です。

ノー残業デーを、仕事のムダを考えるきっかけに

カフェで仕事をする2人2章でも少し触れましたが、「ノー残業デー」は確かに定時退社できるものの、そこで片付けられなかった仕事を翌日以降に回してしまえば、月単位、年単位の残業時間でみるとさほど変わらない、などということも起こり得ます。

労働者と企業にとってのノー残業デーは、労働者が心身ともに健全に働く環境を整えることで、生産効率を上げることが最終目的であるはず。
ノー残業デーに定時退社することだけに注力するのではなく、「ノー残業デーに定時で帰るための仕事の配分」を意識することで、仕事全体の能率向上や無駄の省き方を考え直すきっかっけとすることから始めてみてはいかがでしょうか?

ノー残業デーは「やらないよりはマシ」なもの

ノー残業デーが上手く機能していないとしても、ノー残業デー制度を取り入れているということは、「なるべく社員の残業を減らすよう努力している」企業であるということですから、制度すらない会社に比べれば、恵まれた環境であると考えられます。

今の会社での働き方を考え直していたり、残業がない(少ない)会社に転職を希望している人は、ノー残業デーの有無や実施状況をひとつの目安としてみてはいかがでしょうか?

求人検索サイトの中には、「ノー残業デー制度あり」で絞り込めるサイトもあります。

  • @type
    キーワードから探す求人情報全体から→ノー残業デー(44件)
    (件数は2020年3月時点)

ただし、これも制度があるだけにとどまり、実際に機能しているか否かは、求人広告だけでは判断できません。
気になる人は面接で状況を率直に聞いてみる他、企業の口コミサイト「転職会議」「キャリコネ」「Vorkers」などをチェックすると、実態が見えてくるかもしれません。

コラム:ノー残業デーが機能しにくい企業/しやすい企業の違い

深夜に残業する男性ノー残業デーの強制力は、企業によって千差万別です。
何となく壁にポスターが貼ってある、軽くアナウンスが流れる、上司から形ばかりのメールがくる程度で、実際は皆、残業している、という企業もあれば、ノー残業デーにうっかり残業をしてしまうと罰則(以降数ヶ月間、一切の残業を禁止する、など)を受ける企業もあります。

ノー残業デーが機能しにくい企業は、「顧客ありきの業種であることが多いようです。
下請け業者など、顧客から仕事の依頼がきたら、定時後であろうと断れない…という類の企業は、ノー残業デーが形骸化しがちです。

一方、ノー残業デーが機能しやすいのは、メーカーなど業務がシステマティックに管理されている企業でしょう。
メーカーには工場が必ずあり、工場の勤務体系は非常にしっかりと時間で区切られています。大きな理由は、長時間労働をして集中力が低下することにより、製造ミスや作業時の思わぬ大事故につながる危険性があるからです。
また、労働組合が強い企業もノー残業デーが機能する傾向にあります。

多くのメーカーは、本社などホワイトカラーである職種も、おおよその部分は工場の勤務体系に合わせた働き方をするところが多いため、ノー残業デーも定められたとおりに機能していることが多いようです。

まとめ

一般的な「ノー残業デー」の実態を知ることで、自社のノー残業デーの状況や、形骸化している理由も、何となく腑に落ちるところがあったのではないでしょうか?

ノー残業デーは、労働者が会社から与えられた権利。周囲を気にして帰りにくいという人は、勇気を出して一度、さりげなく帰ってみてはいかがでしょうか?
案外、あなたが恐れるほど、咎める人はいないかもしれません。

また、ノー残業デーを意識することで、仕事全体の効率化を常に念頭に置きながら働くことができるようになれば、自身のスキルアップに大きく役立つはずです。

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