正社員との違いからデメリットまで 無期雇用派遣とは?
「無期雇用派遣への転換を考えている」「興味はあるけどどんな働き方かよくわからない」という方のために、無期雇用派遣という働き方やボーナスなどの待遇面、メリット・デメリットについて解説します。
無期雇用派遣とは?普通の派遣・正社員との違い
近年、耳にするようになった「無期雇用派遣」とは、一体どんな働き方を指すのでしょうか。普通の派遣(登録型派遣)や正社員との違いを解説します。
派遣会社に無期雇用される派遣社員のこと
無期雇用派遣とは、派遣会社に無期雇用される派遣社員のことで、常用型派遣ともいいます。
派遣会社と「派遣先で働いている間だけ」有期雇用契約が結ばれる、従来の「登録型派遣」と違い、自宅待機の期間でも給料が減ることはありません。就業先は登録型派遣と同様、派遣先企業になります。
無期雇用派遣は、2013年の改正労働契約法・2015年の改正労働者派遣法によって新しく生まれました。
※派遣社員(登録型派遣)について詳しくは→派遣社員とは?わかりやすく解説
無期雇用派遣になると何が変わる?
これまで登録型派遣で働いていた人が無期雇用派遣になると、待遇や働き方にどんな変化があるのでしょうか。登録型派遣に比べてメリットはあるのでしょうか。項目別に詳しく見ていきましょう。
給料・昇給
▼無期雇用派遣のポイント
- 月給制で毎月の給料が変わらない
- 交通費を支給してもらえる
- 昇給制度がある
登録型派遣の多くが時給制なのに対し、無期雇用派遣は月給制で働くケースがほとんど。派遣先で働いている時間に関わらず、毎月一定の給料をもらうことができます。
無期雇用派遣では次の派遣先が決まるまでの待機の期間もないので、登録型派遣に比べて安定した雇用が保証されていると言えるでしょう。
また、無期雇用派遣は登録型と違い昇給制度があることもメリットのひとつ。登録型派遣では派遣先を変えない限り、時給を上げるのはなかなか難しいものの、無期雇用派遣では派遣会社の規定次第で月給が上がる可能性があります。
加えて、無期雇用派遣は交通費を支給してもらえることが多いようです。
ボーナス(賞与)
▼無期雇用派遣のポイント
- ボーナスが出ることが多い
- ボーナスの有無や金額は派遣会社によりけり
無期雇用派遣にはボーナス(賞与)制度があるというメリットも。その金額は派遣会社によってまちまちですが、例えば年に1~2回、10万円程度ずつもらえる派遣会社があるようです。
退職金
▼無期雇用派遣のポイント
- 派遣会社によっては退職金がもらえることもある
退職金制度については、今後は無期雇用派遣だけのメリットとは言えなくなるでしょう。
以前は「無期雇用派遣のみ」退職金制度の対象としている派遣会社が多かったものの、2020年4月施行の改正労働者派遣法により、退職金制度を設けている派遣会社であれば、無期雇用派遣・登録型派遣に関わらず、退職金がもらえるようになります。
派遣期間・抵触日
▼無期雇用派遣のポイント
- 3年を超えても同じ派遣先で働ける
- 長期的なキャリア形成が可能
登録型派遣には「同じ派遣先の同じ部署で働くのは最大3年まで」という、いわゆる「3年ルール」がありますが、無期雇用派遣にはそのルールは適用されません。3年を超えても同じ職場でそのまま働き続けることができます。
派遣先を定期的に変えなければいけない登録型派遣に比べ、無期雇用派遣は長期的なキャリア形成がしやすいとも言えます。
副業
▼無期雇用派遣のポイント
- 無期雇用派遣でも副業はできることが多い
副業の可否はあくまで派遣会社の規定によるので、無期雇用派遣だからといって、副業ができなくなることはありません。無期雇用派遣・登録型派遣に関わらず、正社員よりは制限が少ない傾向にあるようです。
産休・育休
▼無期雇用派遣のポイント
- 無期雇用派遣でも産休・育休は取得できる
- 同じ派遣先に復帰することは難しい
無期雇用契約・登録型派遣に関わらず、条件を満たせば産休・育休を取得することができ、もちろんその間は給付金をもらうことができます。登録型派遣だからといって産休・育休を取れず、自ら更新を希望せずに退職するしかないというのは間違いです。
ただし残念ながら、産休・育休後に同じ派遣先に復帰できる確率は高くはありません。これは派遣会社が空いたポストを埋めるために、すぐさま別の派遣社員を送ることが多いからです。
失業保険
▼無期雇用派遣のポイント
- 自宅待機の期間が発生しても給料は減らない
- 派遣会社を退職しない限り、失業保険の申請は不要
無期雇用派遣は仮に次の派遣先が決まるまで待機の期間が発生しても、給料が減ることはありません。よってそれだけでは失業とはみなされず、失業保険の支給条件からも外れます。無期雇用派遣で失業保険をもらうタイミングとしては、派遣会社を解雇されたとき、自ら退職したときだけです。
一方、登録型派遣は以下のような場合、失業保険をもらうことができます。
- 契約期間満了前に次の派遣先を指示されない
- 契約満了後の1か月間に同じ派遣会社から就業希望をしているのに就業できない
正社員と無期雇用派遣の違い
無期雇用派遣の待遇は、一見すると正社員と同等に思えます。しかし、両者には「雇用主が派遣会社か派遣先企業か」という大きな違いがあります。
この違いによって、無期雇用派遣には様々なデメリットが出てきます。詳しくは次の章『「無期雇用派遣はデメリットしかない」は本当?』で紹介します。
「無期雇用派遣はデメリットしかない」は本当?
正社員と似たような待遇で、かつ登録型派遣に比べてメリットが多い無期雇用派遣ですが、その一方で、下記のようなさまざまなデメリットも指摘されています。「無期雇用派遣はデメリットしかないからやめとけ」と言われる、その背景に迫ります。
給料は結局変わらず昇給も考えにくい
無期雇用派遣になったとしても「実際もらえる給料は登録型派遣のときと変わらない」ことがあるようです。
一部の派遣会社では無期雇用派遣だと交通費が出る分、登録型派遣のときよりも1時間あたりの給料を引き下げられ、結局登録型派遣のときともらえる給料に差がなくなってしまうことも。加えて「交通費の支給は月1万円まで」など上限があることも少なくないようです。
また昇給についても、制度自体はあっても具体的な規定がなく「一向に昇給する気配がない」という派遣会社もあるようです。
その上、登録型派遣と違って時給の高い派遣先を選ぶことはできず、どんな派遣先であれ基本給は固定になってしまいます。
さらに派遣会社に無期雇用されている立場上、時給交渉なども言い出しにくいという実態もあります。
正社員との待遇差がある
無期雇用派遣の雇用主はあくまで派遣会社なので、正社員と同様に月給制でボーナス・退職金がもらえるとしても、その金額はあくまで派遣会社の規定に準じます。
そのため、正社員との明らかな待遇差を感じることが少なくなく、例えば、派遣先の業績がよく正社員のボーナスは増えたとしても、無期雇用派遣のボーナスは変わらない、といったことが起こりえます。
派遣先を自分で選びにくい
無期雇用派遣では、派遣先の企業を自分で選ぶことが難しい場合があります。
「無期雇用派遣は自宅待機の期間があっても給料は変わらない」という点は、一見大きなメリットのように見えます。
しかし実際のところ、派遣会社は人件費削減のため、待機の期間ができるだけ発生しないよう、派遣社員個人の希望をよそに、次々と新しい派遣先を紹介します。
登録型派遣では自宅待機の期間中は無給になる代わり、気に入らない派遣先を拒否することもできますが、無期雇用派遣ではそうはいきません。無期雇用派遣は雇用の安定と引き換えに、基本的に派遣会社の指示に従う義務があるからです。
紹介された派遣先を拒否し続けると最悪、業務命令違反として派遣会社を解雇されてしまうことも。
結果、十分に考える時間もないまま、希望通りとは言い切れない派遣先で働くことになる恐れもあるのです。
長期の休みが取りづらい
無期雇用派遣の場合、登録型派遣のように「しばらく仕事は休んで長期の旅行に行こう」といった自由な働き方はできなくなります。なぜなら無期雇用派遣はあくまで派遣会社に無期雇用されている身分なので、正社員と同じように、自宅待機の期間なしで働き続けなくてはいけないからです。
たとえ契約の更新を希望しなくても、すぐに次の派遣先が紹介されるため「無給でいいのでしばらく休みたい」といったことは難しくなるでしょう。
採用試験があるので最初のハードルが高い
登録型派遣は登録の手続きや簡単なスキルチェックのみで働くことが可能ですが、無期雇用派遣の場合は正社員の採用と同じように学歴やスキル、資格などが厳しく審査され、事前の採用試験をパスする必要があります。
コラム:改正労働者派遣法で無期雇用派遣のデメリットは改善される?
2020年4月1日、派遣社員を含むパートタイム労働者・有期雇用労働者に関わるいくつかの法律が改正され、今後は正社員との待遇差が埋まっていくことが期待されています(中小企業などは2021年4月1日施行)。
主な改正のポイントは以下の3つです。
- 不合理な待遇差の禁止
- 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
- 行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争解決手続き(行政ADR)の整備
このうち最も注目すべきは『1.不合理な待遇差の禁止』。「同一労働同一賃金」の考え方に基づき、基本給やボーナスから昇給制度に至るまで、あらゆる待遇について正社員と派遣社員(を含む非正規労働者)の間に不合理な差をつけることが禁止されます。例えば、同じ職場で同じような仕事をしている場合、正社員と同じだけの給料・ボーナスがもらえることになります。
仮に「派遣社員のボーナスは業績に関わらず一定額に留める」といった待遇差を設ける場合、会社は「派遣社員にはノルマを課しておらず、会社への貢献が一定のため」といった合理的な理由について、きちんと説明する義務もあります。単に「派遣社員だから」「将来の役割期待が正社員と異なるから」といった曖昧な理由では、待遇差を設けることはできません。
今後この法改正によって派遣社員の待遇改善がなされるのか、注目が集まっています。
無期雇用派遣として働くには?
無期雇用派遣になる方法は2つ
無期雇用派遣として働くには、2つの方法があります。
登録型派遣として5年以上働く
登録型の派遣社員として同じ派遣会社から通算5年以上派遣された場合、無期雇用派遣への転換を申請することができます。これを「5年ルール」「無期転換ルール」などといいます。
厳密には以下の3つの条件を満たす必要があります。
- 有期労働契約の通算期間が5年を超えている
- 契約の更新回数が1回以上である
- 現時点で同一の使用者との間で契約している
ただ派遣会社への登録を5年以上していればいいというわけではなく、同じ派遣会社から派遣され、実際に働いた期間が通算5年以上ないといけません。
また、前の派遣先との契約が満了してから次の派遣先で働き始めるまで、待機の期間が6か月を超えると、待機の期間前の契約期間を5年に含めることはできません。これを「クーリング」といいます。
加えて、5年たってから申請するだけで無期雇用派遣になれるわけではなく、派遣会社で面接などの選考をクリアする必要があります。
この背景には、無期雇用することで毎月一定額の給料を支払う必要があるため「人件費削減のためにできるだけ優秀な人材だけに絞りたい」という派遣会社の狙いがあります。
無期雇用派遣の求人に応募する
派遣会社によっては、はじめから無期雇用派遣を募集しているところもあります。この場合も同様に選考があり、履歴書を書いたり面接を受けたりする必要があります。
無期雇用派遣として働ける派遣会社
無期雇用派遣として働くことのできる派遣会社を一例で紹介します。他の派遣会社で働いたのち、新しい派遣会社の無期雇用派遣に応募することも可能です。
派遣会社 | 無期雇用派遣サービスの名前 |
アデコ | キャリアシード・ハケン2.5 |
リクルートスタッフィング | キャリアウィンク |
テンプスタッフ | ファンタブル |
スタッフサービス | ミラエール |
マイナビワークス | マイナビキャリレーション |
派遣会社によって昇給制度・交通費やボーナスの有無が異なりますので、よく調べた上で登録しましょう。
無期雇用派遣から正社員になれる?
多くの人にとって気になるのが、無期雇用派遣から派遣先企業の正社員になれるのかということではないでしょうか。
その実情について解説します。
無期雇用派遣から正社員になった例はまだ少ない
無期雇用派遣から派遣先企業の正社員になれる可能性はゼロではありませんが、実際にはそういった例が少ないのが実情です。
というのも、「無期雇用派遣を正社員として登用することにあまりメリットがない」と考える企業が少なくないためです。
例えば、業績不振になった場合などは、無期雇用派遣であれば契約解除することができますが、正社員となるとそうはいきません。
また、無期雇用派遣を正社員にすることで、それまで不要だった福利厚生などの費用がふくらみ、企業の人件費がかさんでしまいます。
加えて2013年・2015年の法改正で無期雇用派遣への転換制度が実施されて日が浅いこともあり、正社員登用の実例はまだ少ないのが現状です。
正社員を目指すなら正社員の求人に応募するのが近道
将来的に正社員になることを目指しているなら、はじめから正社員の求人に応募する方がいいかもしれません。登録型派遣から正社員になることは現状難しい上に、「派遣社員」としてのキャリアが長くなり、正社員への道はさらに遠ざかってしまうからです。
今後、改正労働者派遣法により無期雇用派遣と正社員の待遇差は埋まっていく可能性もありますが、無期雇用派遣を正社員までのキャリアステップと考えるのは避けた方がいいでしょう。
両者も同様に選考という敷居があるのであれば、はじめから正社員の求人に応募した方がいいかもしれません。
まとめ
有期雇用の派遣とは違い、雇用が保証され、交通費やボーナスが支給される無期雇用派遣。収入が安定している一方、派遣先企業が選べないなどのデメリットもあります。
無期雇用派遣への転換を検討する際には、メリット・デメリットを把握した上で決断しましょう。
この記事の監修者
社会保険労務士
山本 征太郎
山本社会保険労務士事務所東京オフィス
静岡県出身、早稲田大学社会科学部卒業。東京都の大手社会保険労務士事務所に約6年間勤務。退所後に板橋区で約3年開業し、2021年渋谷区代々木に移転。若手社労士ならではのレスポンスの早さと、相手の立場に立った分かりやすい説明が好評。様々な業種・規模の会社と顧問契約を結び、主に人事労務相談、給与計算、雇用保険助成金などの業務を行う。