条件や計算方法も解説 派遣の休業手当ガイド

勤め先の会社が休業することになった時、派遣社員も休業手当をもらえるのでしょうか。
派遣社員が休業手当をもらうための条件や、その計算方法について解説します。

派遣も休業手当はもらえる?請求方法は?

派遣社員も正社員と同じように休業手当がもらえるのでしょうか。有期雇用・無期雇用での違い、もらえる条件についても説明します。

派遣でも派遣会社から休業手当がもらえる

派遣先の会社が休業した場合、派遣社員でも少なくとも平均賃金の6割の休業手当をもらうことができます(労働基準法第26条)。

「平均賃金」とは、残業代などを含む直近3ヶ月の賃金を平均した1日あたりの金額を指します。

※平均賃金の詳しい計算方法→「休業手当の計算方法

ただし派遣社員の場合、休業手当を支払われるよりも先に、新しい就業先を紹介されることの方が多いでしょう。

結果、無事に新しい就業先が決まれば、休業手当が支払われることはありません。

派遣社員の休業手当は原則、雇用契約を結んでいる派遣会社から支払われますが、派遣先との間に「派遣社員を休業させる場合は、派遣先会社が休業手当を支払う」などの取り決めがあるケースも存在します。

※参考:労働基準法第26条

有期雇用と無期雇用で支給期間に差がある

休業手当の支給期間は、同じ派遣社員でも、有期雇用か無期雇用かによって差があります

有期雇用派遣(登録型派遣)

派遣先会社による休業が終わるまで、または派遣期間満了まで

無期雇用派遣(常用型派遣)

派遣先会社による休業が終わるまで、または新しい派遣就業先へ派遣されるまで

有期雇用派遣は雇用期間の定めがあるため、派遣期間の満了にともなって休業手当の支給が終わってしまいます。

一方、無期雇用派遣の場合は派遣会社と無期雇用契約を結んでいるため、休業したまま派遣先との契約が満了しても、休業手当が途切れる心配がありません。

ただし、契約期間満了までに新しい就業先に派遣され、休業手当の支給は終了していることが多いでしょう。

※無期雇用派遣について詳しくは→無期雇用派遣とは?正社員との違いからデメリットまで

自分で休業手当を申請する必要はない

休業手当をもらうために、遣社員自身が書類を提出するなどの申請手続きをする必要はありません

なぜなら、休業手当を支給するのは派遣会社あるいは派遣先の義務だからです。

また、休業手当のもらい方は会社によって異なります。

給料と同じく月に一度まとめて支払われるのが一般的ですが、もし休業になった時のために、支給方法については派遣会社に事前に確認しておきましょう。

休業手当をもらうための条件

休業手当は、会社都合による休業だと支払われますが、会社の責任ではない理由による休業であれば支払われません。具体的なケースは以下の通りです。

<◯もらえるケース>
  • 資金調達が困難などの経営不振による休業
  • 資材の不足、工場設備の欠陥などの経営障害による休業
  • 会社が従業員を違法に解雇、出勤停止、ロックアウト(※)した場合
  • 会社が年次有給休暇の計画付与として一斉付与を行い、年次有給休暇の権利のない労働者を休業させた場合

※ロックアウト:会社側がオフィスや工場などを一時的に閉鎖すること

<×もらえないケース>
  • 台風や地震などの自然災害による不可抗力の休業
  • 正当なロックアウトによる休業
  • 労働安全衛生法の規定による健康診断の結果に基づいて行った休業
  • 一部の組合員によるストライキで就労できなかったストライキ不参加者の休業

コラム:新型コロナウイルスによる休業でも手当が出る?

新型コロナウイルスの感染拡大防止による休業でも、休業手当がもらえることがあります。

例えば、在宅勤務などで会社を運営できるのにも関わらず、経営者判断でそうしない場合などです。

新型コロナウイルスの感染拡大は不可抗力の自然災害ですが、在宅勤務などの代替措置を取らないことで、会社都合の休業とみなされます

ただし、政府からの休業要請などの場合、休業手当がもらえるかどうかは、以下の条件のもとで総合的に判断されます。

例えば接客業や製造業など、業務の性質上在宅勤務に対応できない仕事の場合は、不可抗力による休業になるため、休業手当がもらえません。

  • 企業の経営状況・業種
  • 労働者との協議の有無
  • 企業が十分に労働者への不利益回避の努力をしたか
  • 在宅ワークやテレワークの導入等が実現可能か

休業手当の計算方法

休業手当の金額の計算式は「平均賃金×60%×休業日数」です。

平均賃金は、直近の3ヶ月間の賃金(残業代や各種手当を含む)を、その3ヶ月の総暦日数(休日を含むカレンダー上の日数)で割って算定することができます。

【休業手当の計算方法】休業手当=平均賃金×60%×休日日数。平均賃金=直近3ヶ月の賃金総額÷3ヶ月の総暦日数※残業代や各種手当を含む。ボーナスは含まれない。時給制か月給制かで、平均賃金の計算方法が変わるため、それぞれの休業手当の金額をシミュレーションします。

時給制|有期雇用(登録型)派遣

有期雇用(登録型)派遣に多い時給制では、労働日数の少なさから、総暦日数で割ると平均賃金が低くなってしまうことがあります。

その可能性を考慮して、平均賃金の計算パターンが2つあります。

このうち金額が大きい方を平均賃金として、休業手当を計算します。

【時給制では平均賃金の計算が2つある】1)通常パターン:平均賃金=直近3ヶ月の賃金総額÷3ヶ月の総暦日数。2)最低保証額パターン:平均賃金=直近3ヶ月の賃金総額÷3ヶ月の労働日数×60%。1・2のいずれかの金額の高い方を、平均賃金とする。

通常パターンは平均賃金の原則的な計算方法で、直近の3ヶ月間の日数で割って計算します。

一方の最低保障額パターンは、実際に働いた日数で計算する方法です。実際に計算してみましょう。

<条件>

  • 時給:1,000円
  • 労働時間:8時間/日
  • 月の労働日数:20日
  • 直近3ヶ月の総暦日数:91日(4/1~6/30)
  • 休業日数:10日(7/1~7/9)

休業手当は3万1,640円

(1)平均賃金:通常パターン

=(直近3ヶ月の賃金総額÷直近3ヶ月の総暦日数)
=(1,000円×8時間×20日間×3ヶ月)÷91日
=480,000円÷91日
5,274円(※小数点以下切り捨て)

(2)平均賃金:最低保障額パターン

=直近3ヶ月の賃金総額÷その期間の実労働日数×60%
=(1,000円×8時間×20日間×3ヶ月)÷(20日間×3ヶ月)×0.6
=480,000円÷60×0.6
4,800円

→この場合、通常パターンの方が金額が大きいため、平均賃金として採用されます。

その6割にあたる3,164円が、1日分の休業手当となり、仮に10日間休業した場合は3,164円×10日=3万1,640円がもらえます。

月給制|無期雇用(常用型)派遣

無期雇用(常用型)派遣に多い月給制では、原則通り「平均賃金×60%」で休業手当を計算します。

<条件>

  • 月給:25万円→直近3ヶ月の賃金総額:75万円
  • 直近3ヶ月の総暦日数:91日(4/1~6/30)
  • 休業日数:10日間(7/1~7/9)

休業手当は4万9,450円

1日あたりの休業手当

=平均賃金×60%
=(直近3ヶ月の賃金総額÷3ヶ月の総暦日数)×0.6
=(75万円÷91日)×0.6
=4,945円(※小数点以下切り捨て)

→10日間休業した場合の休業手当:4,945円×10日=4万9,450円

派遣の休業手当に関するトラブル対処法

休業した場合、雇い止めのリスクに晒されやすい派遣社員が、トラブルに巻き込まれた時の対処法を説明します。

契約解除されたらすぐに解雇される?

派遣先の休業によって派遣契約を解除されたとしても、すぐに派遣会社に解雇されるわけではありません

派遣会社は、まずは解雇より先に、他の就業先を紹介する、休業手当を支払うといった措置を取らなければならないからです。

ただし、派遣先も派遣会社もやむを得ない事情によって、他の就業先の紹介・休業手当の支払いができず、仕方なく解雇されるケースも。

その場合、30日以上前に会社から本人に解雇を伝える必要がありますが、それができない場合、代わりに解雇予告手当が支払われます。

※派遣切りについて詳しくはこちら→「派遣切り」とは?前兆はある?違法性・対処法もわかりやすく解説!

派遣先が休業になったらどうする?

「仕事がないから明日から休んでほしい」などと派遣先の会社に言われた場合は、まずは派遣会社に相談しましょう。

他の就業先を紹介するのか、休業手当を支給するのか指示を出してくれるはずです。

両社間に事前取り決めがなかった場合は、その時に話し合うので、指示が来るまで待機しましょう

万が一休業した場合に備えて、派遣先と派遣会社どちらから休業手当を受け取るのか、他の就業先を紹介してもらえるのかを事前に確認しておくと良いでしょう

休業手当未払いがあったらどこに相談?

派遣先会社も派遣会社も休業手当を払おうとしない、あるいは他の就業先を紹介しようとしない場合は、最寄りの労働基準監督署や都道府県労働局に相談しましょう

相談する場合は、いつから給料や手当が支払われていないのか、契約書の内容はどうなっているのかといった証拠を取りまとめておきましょう。

各都道府県労働局に設置してある総合労働相談コーナーは、予約不要で無料で相談することができます。個別の紛争については、弁護士に相談するようにしましょう。

※参考:相談窓口等一覧|厚生労働省

まとめ

派遣先の会社が休業した場合、派遣社員でも休業手当が支給されます。

自分から請求するわけではなく、派遣会社(取り決めがあった場合は派遣先会社)から休業手当が出ます。

もし派遣先の会社が休業することになった場合、すぐに他の就業先を紹介してもらう、あるいは休業手当を支給してもらうために、まずは派遣会社に相談しましょう。

(文:転職Hacks編集部)

この記事の監修者

社会保険労務士

山本 征太郎

山本社会保険労務士事務所東京オフィス

静岡県出身、早稲田大学社会科学部卒業。東京都の大手社会保険労務士事務所に約6年間勤務。退所後に板橋区で約3年開業し、2021年渋谷区代々木に移転。若手社労士ならではのレスポンスの早さと、相手の立場に立った分かりやすい説明が好評。様々な業種・規模の会社と顧問契約を結び、主に人事労務相談、給与計算、雇用保険助成金などの業務を行う。

山本社会保険労務士事務所東京オフィス 公式サイト

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