開業医・勤務医の差も解説 歯科医師の年収っていくら?

医師といえば高収入な職業というイメージがありますが、歯科医師の年収は実際どのくらいなのでしょうか。

ここでは歯科医師の平均年収や開業医・勤務医の収入格差などについてご紹介します。

歯科医師の年収はおよそ600~1,400万円

歯科医師の年収は約600~1,400万円です。

厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」によると歯科医師の平均年収は平均811万円ですが、役職や勤める病院の種類によって収入は大きく変動します。

例えば、第23回医療経済実態調査によると、歯科診療所の院長の平均年収は約1,480万円ですが、勤務医の平均年収は約701万円と半分以下になっています。

※月給:きまって支給する現金給与額、ボーナス:年間賞与その他特別給与額
※1,000円以下を四捨五入
※参考:令和4年 賃金構造基本統計調査 職種|厚生労働省

平均811万円という金額はサラリーマンの平均年収443万円(国税庁「令和3年民間給与実態調査)と比較すれば十分に高収入です。

一方、医師の平均年収が1,429万円ということを考えると、ほかの専門医と比べると収入が低いのも事実です。

歯科医師の年収は減少傾向に

現状はやや持ち直していますが、1990年代後半から歯科医師の年収は右肩下がりといわれてきました。

その背景には医師と患者の需給のバランスが崩れていることが関係しています。昭和の時代、日本は患者数に対して歯科医師の人数が不足していたため、政府は歯学部を増設するなど歯科医師を増やす政策をとりました。

しかし、フッ素など虫歯予防策が浸透し患者数が減少したこと、それにも関わらず歯科医師が増えすぎたことによって、現在は歯科医師の過剰供給状態に陥っています。

コラム:歯科医院の数がコンビニより多くなったわけ

1950~60年代の日本は「虫歯の洪水」時代とも呼ばれ、国民の3割がむし歯を抱えている状態でした。虫歯は社会問題となり、政府は歯科医師の人数を増やすために、1969年は当時“人口10万人あたり35人程度”だった歯科医師の数を“人口10万人あたり50人”まで増加させる方針を固めます。

これをきっかけに多くの大学が歯学部を新設、さらに新たな歯科大学も設けられました。1960年代には1,100人程度だった入学定員が10年で3,500人台まで伸び、歯科医師は順調に増加しました。

しかし、国民の間ではフッ素などの予防歯科が定着したこともあり、そもそもの患者数が減少していきました。その一方で、大学の定員は変わらなかったことから、歯科医師はハイペースで増加を続け、過剰供給に陥ってしまったのです。

現在歯科医師の数は、人口10万人あたり80人以上となっています。また、「歯科医師の数はコンビニより多い」のは事実で、2023年4月時点でコンビニの数が55,759店なのに対し、歯科診療所の数は67,761軒(2023年3月末時点)です。

※コンビニの店舗数
→参考:コンビニエンスストア統計調査月報|日本フランチャイズチェーン協会

※歯科診療所の施設数
→参考:医療施設調査・病院報告|厚生労働省

年齢別の年収のピークは40代後半~50代後半

※1万円以下を四捨五入
※参考:令和4年 賃金構造基本統計調査 職種|厚生労働省

歯科医師の年収を年齢別に整理すると、収入のピークは男性が40代後半、女性が50代後半にあることがわかります。

さらに歯科医師免許に定年はないため、60代以降も働いて収入を得ている医師が存在することがわかります。

子どものいる女性歯科医師の約6割が離職経験あり

2020年12月31日時点の歯科医師数は10万7,443人で、そのうち男性が8万530人、女性が2万6,913人です。割合にすると男性が約75%。女性が約25%と、男性が全体のおよそ3/4を占めています。

※参考:令和2年 医師・歯科医師・薬剤師調査|厚生労働省

日本歯科医師会の調査によると、子どもがいる女性歯科医師の中で仕事を離れた経験がある人の割合は62.6%。離職後はパートやアルバイトなどで働く、有給休暇を取得しやすい勤務先に変更するなどの選択を迫られる方も少なくありません。

最近の歯科医師国家試験では、合格者のうち40%以上を女性が占め、これから女性歯科医師はどんどん増加すると予測されます。出産後の復職支援制度を整えることはもちろん、診療所に託児所を設けたり、保育施設を充実させたりするなど、子どもを持つ女性医師が働きやすい環境の整備が求められています。

歯科医師における開業医と勤務医の年収差

※1万円以下を四捨五入
※参考:第23回医療経済実態調査(2021年)|中央社会保険医療協議会

歯科医師に限らず、医師である以上、開業医と勤務医のどちらの立場で働くのかを考える必要があります。開業医と勤務医で年収にどれだけの差があるのか、詳しく見ていきましょう。

開業医は年収590万円程度と医師にしては低い

歯科医師が開業医として働く場合、平均年収は587万円と医師にしては低め。

人口が少なく、歯科医師の需要が少ない地域であればあるほど、年収は下がります。施設数も全国的に過剰であることから、施設一棟あたりの患者が少ないことも影響していると考えられます。

一方、歯科診療所を医療法人として法人化すれば、院長として約1,400万円弱の年収を手にすることもできるようです。

ただし、開業には数千万円の初期投資が必要な上、その設備を維持していくためのお金も確保しなければなりません。一概に「開業医の方が儲かる」とはいえません

コラム:開業には5,000万円程度かかる

医師の開業にかかる費用は最低でも5,000万円といわれ、7,000万円前後に及ぶケースもあります。開業資金の目安は下記の通りです。

  • 開業する土地・場所の確保:約500万円
  • 内装・外装の工事:約1,000~1,500万円
  • 医療機器の購入:約1,500~3,000万円
  • 広告費など:約300~500万円
  • 経営が軌道に乗るまでの運転資金:約1,000万円

自身の貯金や親からの援助があるとしても、ローンを組む必要がある人がほとんどでしょう。

さらに、開業したからといって必ずしも経営が成功するとも限りません。立地が悪く人が集まらなかった、歯科診療所同士の競争に勝てなかったなどの理由から数年で廃業を余儀なくされるケースもあります。

給与面だけをみれば非常に魅力的な開業医ですが、大きな先行投資が必要なだけでなく、さまざまなリスクがあるのです。

勤務医は一般病院・歯科診療所で年収の差は約1.5倍

歯科医師が勤務医として働く場合、その年収は歯科診療所で746万円一般病院で1,156万円と、約1.5倍以上の差があります。これほどの差が生まれる要因は、経営の安定性・規模の大きさが給与にも影響しているためだと考えられます。

歯科医師が勤務医として働く場合、他の診療科が併設された規模の大きな病院で働く方が年収は高くなると言えるでしょう。

※一般病院と歯科診療所の違い

 一般病院

…患者20名以上の入院施設を備えた医療施設。医師のほか、看護師や薬剤師などの最低人員などが決められている。

歯科診療所

…一般病院の定義を満たさない医療施設。医師1名以外の人員規制はない。

コラム:海外ならもっと儲かる!? 歯科医師の平均年収

歯科医の中には海外でキャリアを積むことを検討している人もいるでしょう。そこで気になるのは、やはり給与や待遇ですよね。

歯科医の待遇は国によって実にさまざまです。例えばアメリカでは、歯科医の平均年収は約18万米ドル。日本円に換算すると約2,400万円(1米ドル=132.14円で換算)で、内科医に次ぐ高年収の職業です。アメリカでは歯並びを重要視する風潮があり、幼い頃から矯正歯科に通う子どもも珍しくありません。自費治療が多いことも歯科医師の高収入に影響しています。

オーストラリアでは、歯科医師の平均年収は約97,000豪ドルで、日本円に換算すると約870万円(1豪ドル=89.56円で換算)です。首都圏の平均年収が約72,000豪ドル(約640万円)なので、オーストラリアにおいて歯科医師は高収入な職業といえます。オーストラリアは予防歯科が盛んで、虫歯にならないためのクリーニングや定期検診に力を入れている診療所が多いようです。

韓国の歯科医師平均年収は約5,800万ウォン。日本円にすると約580万円(1ウォン=0.10円で換算)です。韓国の平均年収が約4,000万ウォン(約400万円)であることを考慮すると、やはり高収入な職業といえるでしょう。韓国はオーラルケアに対する意識が高く、矯正歯科・美容歯科が盛んなため歯科医師の需要があります。

海外のキャリアを考える場合は、年収だけでなくその国がどんなオーラルケアに力を入れているのかチェックしておくと役立つのではないでしょうか。

※為替レートは2022年12月末時点のもの

歯科医師になるためには

歯科医師として働くためには、歯学部で6年間の教育を受け、歯科医師国家試験に合格し、歯科医師免許の交付を受けることが必要です。

また、2006年4月からは資格取得後に、研修施設の指定を受けた病院・診療所などで1年以上の臨床研修を行うことが義務づけられました。卒後臨床研修を修了した後は勤務医・開業医・研究者などのキャリアがあります。

増え続ける歯科医師、資格試験は難化

歯科医師国家試験の難易度は年々上昇しています。

これには歯科医師数と患者数の均衡を保つために、2006年に厚生労働省と文部科学省が歯科医師を減らす方針を定めたことが大きく影響しています。

2006年に行われた第99回歯科医師国家試験は合格率80.8%、翌年は74.2%と、比較的高い合格率を保ってきました。

しかし、近年は徐々に合格率が下降しており、2023年1月の試験では3,157人が受験し2,006人が合格、合格率は63.5%でした。

現在も歯科医師の数は飽和状態にあるため、今後の試験の難化は避けられないと考えられます。

歯科医師免許を取得する

歯科医師国家試験を受験するためには、基本的に大学の歯学部を卒業する必要があります。

細かい受験資格は以下の通りです。4つの項目のいずれかを満たせば歯科医師国家試験の受験資格を得たことになります。

  1. 歯科大学や歯学部で歯学に関する正規の課程を修めて卒業した人
  2. 歯科医師国家試験予備試験に合格した後、1年以上の診療および口腔衛生に関する実地修練を受けた人
  3. 外国の歯科医学校を卒業した、または外国で歯科医師免許を取得した人の場合は、事前に歯科大学や歯学部を卒業した人たちと同等の「学力および技能」を持っていると厚生労働大臣から認定を得ることが必要
  4. 沖縄復帰前に琉球政府の歯科医師法の規定によって歯科医師免許を受けたとみなされる人のうち、厚生労働大臣が認定した人(沖縄の復帰に伴う厚生省関係法令の適用の特別措置等に関する政令(昭和47年政令第108号)第18条第1項の規定に基づく)

※参考:歯科医師国家試験の施行について|厚生労働省

歯科医師国家試験に合格すると、歯科医師免許の交付を受けられます。ちなみに、歯科医師免許を取得すると「食品衛生管理者」「衛生検査技師」「衛生管理者」の資格も同時に付与されます。

歯科医師国家試験に合格後、研修施設の指定を受けた病院・診療所などで1年以上の臨床研修を行ってようやく、勤務医・開業医・研究医などとして勤務することになります。

コラム:歯科大学の学費は3,000万円超え!?

国公立大学の場合、授業料は6年間で約350万円です。これに対して私立大学は学校によって異なりますが、概ね6年間で2,000~3,000万円程度です。

また、授業料のほかに教材費などを支払わなければならないため、私立大学の場合は6年間の大学生活で数千万円の学費が必要になります。

現在歯科医師を養成する大学は国立11校、公立1校、私立15校の計27大学29学部(日本大学と日本歯科大学が各2学部)です。このうち国公立の歯科大学や歯学部は学費が安価なことからも人気が高まっています。しかし、私立大学では志願者数の減少が見られ、定員割れに苦しむ大学も出ています。

まとめ

歯科医の年収は600~1,400万円程度で、勤務形態や勤務先によって差があります。

開業医になれば年収1,000万円超えも可能ですが、莫大な初期投資が必要なだけでなく、ローンや設備維持費などの出費も相当なものです。

勤務医から開業医へのキャリアチェンジは慎重に行うべきでしょう。

この記事の執筆者

「転職Hacks」編集部

株式会社クイック

株式会社クイックが運営する、転職活動にまつわる情報サイト「転職Hacks」の編集部。履歴書・職務経歴書の書き方や面接対策などのノウハウ記事、キャリアの悩みを解消するインタビュー・コラムを掲載中。

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