簡単な計算式や年金の計算方法も わかりやすい住民税の計算方法
毎月天引きされている住民税。高い金額を引かれていて、どのように計算しているのか気になりますよね。
この記事では、住民税の計算方法を詳しく解説します。
そもそも住民税とは?
住民税とは、住んでいる自治体に納める税金のこと。都道府県民税と市区町村民税を合わせて住民税と言います。
住民税は毎年1月から12月の1年間の所得を元に計算され、翌年の6月から徴収されます。新卒1年目が住民税を引かれないのは、この1年のズレによるものです。
住民税の計算方法
住民税の計算方法は以下の通りです。
住民税は、所得割といって、所得に応じて計算するものと、均等割という定められた額を一律に課税するものがあります。
税率や金額は住んでいる都道府県や市区町村により異なるため、正確な住民税を計算したい場合は、住んでいる自治体のHP等で確認しましょう。ちなみに、住民税は納める年の1月1日時点で住んでいる自治体の税率と金額が適用されます。
この記事では、東京都港区在住のAさんと、神奈川県横浜市在住のBさんの情報を元に住民税の計算をしていきます。
住民税の計算をする上で基本となる「課税対象額」の計算方法を解説した後、「おおよその住民税を計算する方法」と「住民税を正確に計算する方法」をそれぞれ紹介します。
住民税の課税対象額を計算しよう
住民税を計算する上で、まずは基本となる課税対象額を計算してみましょう。住民税の課税対象額とは、「所得割」の税率をかけるときに対象になる金額です。
課税対象額を出すには、年収から1年間の社会保険料と所得控除(税金がかからない一定の金額)を差し引きます。
社会保険料と所得控除、それぞれの計算方法を解説します。
1:社会保険料を計算する
ここでは、以下3つの社会保険料の計算方法を紹介します。Aが最も簡易的な概算方法です。
B、Cが最も正確に計算できるため、なるべく正確な住民税を知りたい場合は、こちらを利用してください。
A:おおよその額を計算する方法
社会保険料の金額は、おおよそ給与の14.5%(40歳以上は介護保険料を含むため15.5%)です。
※健康保険料5%(介護保険を含めると6%)、厚生年金保険料9.2%、雇用保険料0.3%で計算しています。
<Aさん>
年収500万円×14.5%=72万5,000円
<Bさん>
年収800万円×15.5%=124万円
B:給与明細から計算する方法
給与明細から社会保険料を計算したい場合、1年間すべての月収分とボーナス分の「社会保険料合計」の金額を確認しましょう。
もし「社会保険料合計」の欄がないときには「健康保険料」「介護保険料」「厚生年金保険料」「雇用保険料」の金額をすべて足します。
<Aさん>
月収31万2,500円、ボーナス(年2回)62万5,000円として計算
月収分:4万5,961円
ボーナス分:8万9,812円
4万5,961円×12ヶ月+8万9,812円×2回
=73万1,156円
<Bさん>
月収50万円、ボーナス(年2回)100万円として計算
月収分:7万6,725円
ボーナス分:15万3,450円
7万6,725円×12ヶ月+15万3,450円×2回
=122万7,600円
C:給与明細がない場合の計算方法
給与明細がない場合に、毎月の給与やボーナスの額から、それぞれの社会保険料を計算する方法です。
健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、雇用保険料それぞれの額を求めます。
このうち雇用保険料は、年収の額に0.3%をかけて計算します。
一方、健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料は、勤め先が入っている保険組合によって異なります。
ここでは、中小企業などが多く加入している協会けんぽの保険料額表を使用します。
月収の金額、ボーナスの金額でそれぞれ表を見て、年間の金額を求めましょう。
※協会けんぽ「令和4年度の保険料額表」
<Aさん>
月収31万2,500円、ボーナス(年2回)62万5,000円として計算
健康保険料:ひと月あたり1万5,696円、ボーナス1回あたり3万656円
厚生年金保険料:ひと月あたり2万9,280円、ボーナス1回あたり5万7,187円
雇用保険料:ひと月あたり937円、ボーナス1回あたり1,875円
1年間の社会保険料
(1万5,696円+2万9,280円+937円)×12ヶ月+(3万656円+5万7,187円+1,875円)×2回
=73万392円
<Bさん>
月収50万円、ボーナス(年2回)100万円として計算
健康保険料・介護保険料:ひと月あたり2万8,625円、ボーナス1回あたり5万7,450円
厚生年金保険料:ひと月あたり4万5,750円、ボーナス1回あたり9万1,500円(上限)
雇用保険料:ひと月あたり1,500円、ボーナス1回あたり3,000円
1年間の社会保険料
(2万8,625円+4万5,750円+1,500円)×12ヶ月+(5万7,450円+9万1,500円+3,000円)×2回
=121万4,400円
2:所得控除額を計算する
所得控除には、会社員なら全員対象になるものと、配偶者や扶養親族がいる場合に対象になるものがあります。
- 基礎控除(年収2,500万円以下の場合)
- 給与所得控除
配偶者や扶養親族がいる場合に対象になるもの
- 配偶者控除(自身の年収が1,000万円以下、配偶者の年収が103万円以下の場合)
- 配偶者特別控除(自身の年収が1,195万円以下、配偶者の年収が103万円超201万6,000円以下の場合)
- 扶養控除(16歳以上の扶養親族がいる場合)
会社員が全員対象になるもの
会社員が全員対象になる控除は「基礎控除」と「給与所得控除」があります。
基礎控除は年収2,695万円以下の場合のみ対象になります。給与所得控除は「会社員」なら全員が対象になるものです。
自営業など会社勤め以外の人は、基礎控除のみを対象としてください。
<Aさん>
基礎控除:43万円
給与所得控除:500万円×20%+44万円=144万円
<Bさん>
基礎控除:43万円
給与所得控除:800万円×10%+110万円=190万円
配偶者や扶養親族がいる場合
配偶者や扶養親族がいる場合「配偶者控除」と「配偶者特別控除」、「扶養控除」の対象となる場合があります。
配偶者控除は、自身の年収が1,000万円以下、配偶者の年収が103万円を超えない人が対象です。
配偶者特別控除は、自身の年収が1,195万円以下、配偶者の年収が103万円から201万6,000円未満の場合に対象となります。
扶養控除は、16歳以上の扶養親族がいる人が対象です。
※扶養親族について詳しくは→国税庁「扶養控除」
扶養親族が複数いる場合、人数分の控除額を足して計算します。
<Aさん>
0円
<Bさん>
配偶者控除:33万円
扶養控除:33万円×1人=33万円
3:課税対象額を計算する
1と2で求めた社会保険料と所得控除額を年収から引きます。1,000円未満の端数を切り捨てた金額が課税対象額となります。
<Aさん>
年収-(社会保険料+所得控除)=課税対象額
500万円-(73万392円+43万円+144万円)=239万9,608円
1,000円未満の端数を切り捨てて、
239万9,000円
<Bさん>
年収-(社会保険料+所得控除)=課税対象額
800万円-(121万4,400円+43万円+190万円+33万円+33万円)=379万5,600円
1,000円未満の端数を切り捨てて、
379万5,000円
ここで計算した課税対象額をもとに、「おおよその住民税を計算する方法」と「住民税を正確に計算する方法」を解説します。
おおよその住民税を計算する方法
住民税の税率や均等割で一律に徴収される金額は自治体によって異なりますが、基準となる税率は決められています。
ここでは、その基準として定められている税率を使い、おおよその住民税が分かる計算方法を紹介します。
正確に住民税を計算したい人は「住民税を正確に計算する方法」を参考にしてください。
標準となる税率に当てはめて計算しよう
標準となっている税率と均等割の額は上記の通りです。
先程計算した課税対象額に10%をかけ、5,000円を足した金額が年間の住民税となります。
月額は、年額を12で割り、100円未満を切り捨てた金額です。ただし、切り捨てられた端数は6月分にまとめて納めるため、他の月に比べて少し高くなります。
<Aさん>
東京都港区在住
(239万9,000円×10%+5,000円)÷12
=24万408円(月額2万400円)
指定都市は住民税率の基準が異なる
指定都市と言われている地域は標準となる税率が少し異なります。指定都市の標準税率は以下のとおりです。
ただし、都道府県民税と市区町村民税の合計の税率は、指定都市以外の自治体と変わらないため、結局のところ住民税は同じ金額になります。
指定都市に認定されているのは次の20都市です。
<指定都市>
札幌市、仙台市、さいたま市、千葉市、横浜市、川崎市、相模原市、新潟市、静岡市、浜松市、名古屋市、京都市、大阪市、堺市、神戸市、岡山市、広島市、北九州市、福岡市、熊本市
<Bさん>
神奈川県横浜市(指定都市)在住
(379万5,000円×10%+5,000円)÷12
=38万4,500円(月額3万2,000円)
住民税を正確に計算する方法
住民税を正確に計算したい人向けの計算方法を紹介します。
所得割、税額控除、均等割それぞれの計算方法を解説していきます。
1:所得割を計算する
住んでいる自治体のHPから、所得割の税率を確認しましょう。
そのうえで、都道府県民税率と市区町村民税率をそれぞれ、課税対象額にかけましょう。
<Aさん>
東京都港区の場合:都民税4%、特別区民税6%
239万8,000円×(4%+6%)
=23万9,900円
<Bさん>
神奈川県横浜市の場合:県民税2.025%、市民税8%
379万5,000円×(2.025%+8%)
=38万449円
2:税額控除を計算する
次に、所得割から引かれる税額控除(税金の額からさらに引かれる金額)を計算します。
税額控除には、寄付金税額控除や住宅ローン控除などがありますが、ここでは、住民税を納める全員が対象となる「調整控除」を紹介します。
調整控除は、課税対象額が200万円を超えている場合と200万円以下の場合で、計算方法が異なります。
課税対象額が200万円を超える場合
課税対象額が200万円以上の場合、「人的控除額の差の合計額」から、「住民税の合計課税所得金額」のうち200万円を超えた金額の5%になります。
ただし、この金額が2,500円未満の場合には、2,500円が控除されます。
基礎控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除など、自分や家族などの「人」に関わる控除は、住民税と所得税で控除額が異なっています。
人的控除額の差の合計額とは、それら全ての控除の差額を合計したもののことを指します。
扶養親族が複数いる場合には、扶養控除の差額を人数分足して求めます。
※1:適用される基礎控除額に関わらず均一
※2:税制改正前(2018年度まで)の配偶者特別控除の差額(住民税33万円、所得税36万円)を基準に計算
※3:税制改正前(2018年度まで)の配偶者特別控除×2/3の差額(住民税22万円、所得税24万円)を基準に計算
※4:税制改正前(2018年度まで)の配偶者特別控除×1/3の差額(住民税11万円、所得税12万円)を基準に計算
※5:税制改正後に新たに控除の適用を受けるため、控除差額を起因とする新たな負担が生じることがないため、調整控除の対象外
<Aさん>
課税対象額は239万9,000円で200万円以上になる
人的控除は基礎控除のみ
{5万円-(239万9,000円-200万円)}×5%=-1万7,450円
となり、2,500円以下のため、
調整控除は2,500円
<Bさん>
課税対象額は379万5,000円で200万円以上になる
人的控除は基礎控除、配偶者控除、扶養控除の3つ
{(5万円+5万円+5万円)-(379万5,000円-200万円)}×5%=-8万2,250円
となり、2,500円以下のため、
調整控除は2,500円
ほとんどの場合、調整控除を計算すると2,500円以下になりますが、扶養親族が多い場合などは、2,500円以上になることがあります。
<調整控除が2,500円以上になる例>
課税対象額が220万円、扶養親族が3人(うち1人特定扶養親族)の場合
人的控除は基礎控除、扶養控除
{(5万円+5万円×2人+18万円)-(220万円-200万円)}×5%=6,500円
課税対象額が200万円以下の場合
課税対象額が200万円以下の場合、「人的控除額の差の合計額」か「住民税の合計課税所得金額」のうち、少ない方の5%が控除額となります。
※「人的控除額の差の合計額」について詳しくは→「人的控除額の差の合計額」とは
「住民税の合計課税所得金額」とは、課税対象額のことです。
上記2つの中から、少ない方に5%をかけましょう。
コラム:ふるさと納税をしている場合の税額控除
ふるさと納税をしている場合は、上記の調整控除に加えて、控除が受けられます。控除額は、寄付金の額から2,000円を引いた額です。
ふるさと納税先の自治体が5団体以内の場合、ワンストップ特例制度として、確定申告の必要がなくなります。
ワンストップ特例制度を利用する場合には、所得税からの控除はされず、所得税分の控除額も含めて翌年度の住民税から控除されます。
ただし、寄付金の額には上限があります。収入額や扶養家族の人数などによって異なるため、注意が必要です。総務省の「ふるさと納税ポータルサイト」から計算シミュレーションができます。
3:均等割を確認する
均等割も住んでいる自治体によって異なります。こちらも各自治体のHPを見て確認しましょう。
<Aさん>
東京都港区の場合
都民税:1,500円
特別区民税:3,500円
1,500円+3,500円=5,000円
<Bさん>
神奈川県横浜市の場合
県民税:1,800円
市民税:4,400円
1,800円+4,400円=6,200円
4:住民税の計算式に当てはめて計算する
1・2で出した所得割から、3で出した税額控除を引きます。その後、3で確認した均等割を足すと、住民税の金額となります。
月額は、年額を12で割り、100円未満を切り捨てた金額です。ただし、切り捨てられた端数は6月分にまとめて納めるため、他の月に比べて少し高くなります。
<Aさん>
23万9,800円-2,500円+5,000円
=23万2,400円(月額1万9,300円)
<Bさん>
38万449円-2,500円+6,200円
=37万1,749円(月額3万900円)
会社を退職したら住民税はどうなる?
会社を退職した場合、住民税の課税対象額の計算が上記とは少し異なります。
ここでは、年金と退職金にかかる住民税の計算方法を紹介します。
退職金にかかる住民税の計算方法
退職金は給与所得ではなく、退職所得として計算されます。
退職金から退職所得控除額(退職金の控除額)を引いた金額の50%が、住民税の課税対象額になります。
課税対象額が分かったら、「おおよその住民税を計算する方法」もしくは「住民税を正確に計算する方法」から住民税を計算しましょう。
年金にかかる住民税の計算方法
年金は雑所得として計算されます。1年間に受け取る年金の合計額を元に、下記の表に当てはめて、課税対象額を計算してみましょう。
課税対象額が分かったら、「おおよその住民税を計算する方法」もしくは「住民税を正確に計算する方法」から住民税を計算しましょう。
まとめ
住民税の計算方法は上記の通りです。住んでいる自治体によって、税率や均等割の金額が異なるので、正確に計算したい人は必ず各自治体のHPを確認しましょう。
(文:転職Hacks編集部)
この記事の監修者
特定社会保険労務士
成澤 紀美
社会保険労務士法人スマイング
社会保険労務士法人スマイング、代表社員。IT業界に精通した社会保険労務士として、人事労務管理の支援を中心に活動。顧問先企業の約8割がIT関連企業。2018年より、クラウドサービスを活用した人事労務業務の効率化のサポートや、クラウドサービス導入時の悩み・疑問の解決を行う「教えて!クラウド先生!®(商標登録済み)」を展開。