「部下ガチャ」に外れたら? 使えない部下とストレスなく付き合う方法
上司という立場にある以上、部下のとんでもない言動に頭を抱えたこともあるはず。
食品会社の管理職を務めるブロガーのフミコフミオさんが、使えない部下とストレスフリーにつきあうために実践していることとは?
仕事が進まないのは「部屋が寒い」から!?
新型コロナ感染拡大に伴って、僕が部長職を任されている営業開発部門は原則在宅勤務になった。メンバー同士が顔を合わせる機会は減ったけれど、チームはうまく機能していた…はずだった。
部下の一人、仮にAとしよう、そのAの仕事が遅れ始めたのだ。何か問題があるのか気になった僕は、Aに遅れの理由を確認することにした。
「案件の進捗が遅れているようだけど、状況はどうなっている?もし問題があったら報告してほしい。対応できるものは僕のほうで考えるからさ」と僕の問いかけに、Aの回答は驚くべきものであった。
「大きな問題はありません。ただ…」
「ただ…何があるの?」
「自室が寒くて…(仕事に集中できません)」
ジーザス。神はその瞬間、死んだ。
「部屋が寒いから仕事ができない」…斬新すぎる。僕にはAの言っていることが理解できなかった。
「部屋が寒いから」が言い訳になるのか?というか、それが言い訳として成立すると考える思考回路が理解できず、僕は頭を抱えてしまった。
それと同時に「こんな言い訳をされるなんて上司としてナメられているんじゃないか?」といった疑念や「部屋が寒くても任された仕事はやりきれ、寒いなら温めろ」といった怒りなど、さまざまな感情的モヤモヤが僕に襲いかかったのだ。
その場は冷静を装って「部屋が寒いなら暖房を用意するように」とだけ注意して終わったが、次はどんな言い訳を持ち出すのか考えるだけで気が遠くなりそうだった。
「部下ガチャ」がハズれるのは当たり前
「親ガチャ」「上司ガチャ」という言葉が使われるようになって久しいが、人は親を選ぶことはできないし、会社員は上司を選ぶことはできない。希望を抱いて入社しても、配属されるまでどんな上司の下で働くことになるかわからないというのは、たしかにガチャガチャのようなものだ。
では逆に、上司の立場から部下を選べるかというと、実は上司も部下を選ぶことはできない。中には、力を持った一部の人間なら部下を選べるという会社もあるかもしれないが、仮に選べたとしても履歴書や職務経歴書、そして採用面接で人物を見て判断するしかない(社内異動の場合は別だが)。
そして、それらの書類に描かれた人物像や採用面接で醸し出されるデキる感が、配属後に期待通りの成果が上がることを保証してくれるわけではない。経験を重ねて見る目を養えば選考の精度を高めることはできるけれど、それでも採用した人間が期待した通りの人材なのかどうかは「神のみぞ知る」である。
しかも、採用選考の過程で自分から問題点や欠点を明らかにする人間はいないから、採用してみて「こんなはずじゃなかった」と後悔することは当然起こり得る。つまり、どんな部下が配属されるのかは、実質的にガチャなのだ。「部下ガチャ」である。
僕はそういう諦念をもって「部下ガチャ。当たればいいなー」と祈りながらサラリーマン生活を送っているが、たとえガチャがハズれたとしても絶望する必要はないと思っている。
なぜなら、そこから成長して立派な戦力になっている人も多いのだ。僕は役職についてから様々な部下や後輩を見てきたが、当初は「ハズレか?」と思われた人のほとんどは、経験を重ねて立派な戦力になった。
残念ながら、社風や業務内容とのミスマッチでうまくいかなかったケースもあるが、本人から「自分、向いていなかったです」といって辞めていってしまわない限りは、他の部署に異動させて適性を見ることもしてきた。つまり、配属された部下が期待値を下回っていてもなんとかなるのだ。
問題は常識のない「トンデモな部下」
しかし、問題なのは冒頭で紹介した部下Aのような「トンデモな言動を繰り出してくる」部下である。Aの場合、仕事面では優秀とまではいかないがギリギリ戦力になっている。そのためチームには必要な存在であり居場所を確保しているが、その謎の言動にはしばしば頭を抱えさせられる。
そういえばこんなこともあった。Aと働き始めたばかりの頃の話だ。
営業経験はあったが他業界からの転職組だったAを、僕はいちはやく戦力になってもらいたいという気持ちからマンツーマンで教育した。今思えばそれが裏目に出たのだろう。彼は僕のいない場所で「部長のプレッシャーが強すぎて実力を発揮できない。もっと任せてほしい」と文句を言っていたのだ。
その話を別の部下から聞いた僕には、「確かに圧をかけすぎたかもしれない」という自覚があったので、彼と少し距離を置くことにした。とりあえず彼に仕事を任せてみて、問題があるようなら適宜助言をしていくというスタイルに切り替えたのだ。
もちろん不安はあった。だが「任せてほしい」と言っているように、本人に自信があるように見えたし、業界こそ違うが営業経験もあった。要所要所でチェックしておけば大きな問題にはならないだろうと見込んだのだ。
ところが…である。見守り型の教育に切り替えて数日後、Aは「部長が放任主義すぎて、何をしていいかわからない。これでは実力が発揮できない」と裏で文句を言ったのである。
どっちやねん…。
その事実を知った僕が、悲しみを通り越してあきれてしまったのは言うまでもない。
謎の助言をしてくる部下に「イラっ」
トンデモな部下の中には、無理筋な言い訳や強引な持論を持ち出すだけでなく、なぜか「こうしたほうがいいです」と謎の助言をしてくるやつもいる。
仕事ではないが、こんなこともあった。部下Bとランチで飲食店に入ったときのことだ。食事を終えて会計を済ませたときだったと記憶しているが、僕が「ごちそうさま」と店員さんに言ったことに対して、Bからの指導が入ったのだ。
具体的に言うと、「ウチらは客としてカネを支払っているのだから、ごちそうさまを言う必要はありませんよ」と笑いながら謎の助言をしてきたのである。こちとら礼儀としてやっているだけなのに、だ。
「対価に応じたサービスを受ける。それがビジネスです」と言っていたBだが、その言動は矛盾していた。
なぜなら彼はその店で唐揚げ定食を頼む際に、「自分は重度のマヨラーなので、マヨネーズを大量につけてくれ」とオーダーしていたのである。
しかし厳密に言えば、追加マヨは代金に含まれていない。つまりBは対価に見合わない過剰なサービスを要求しているのだ。店員からビジネスライクに「別料金です」と言われたらどうするつもりだったのか。
僕が純粋な好奇心からそう尋ねると、彼は「それはそれですよ。こちらは客ですから」と実に都合のいいことを言ったのだ。対価に応じたサービスを受けるのがビジネスなんじゃないのか?
このような自分に都合のいい勝手な解釈は、トンデモ部下の特徴のひとつである。これテストに出るので、覚えておいてほしい。
なぜトンデモな部下は謎の自信に満ちているのか
残念ながら、僕らの職業人生においてこうしたトンデモな部下からは逃げられない。僕が常に気を付けているのは、トンデモな部下には2種類あるということだ。
ひとつは経験不足が原因で結果的に周囲に迷惑をかけてしまうもの。年が若ければ社会人経験も少ないのだから、少々常識に欠ける行動を取ってもそれはしかたない。微笑ましいものだ。
僕らにとって耐え難いのはもうひとつのトンデモな部下である。彼らは、部下Bのように理解不能の自信を持ってワンダーな理論を繰り広げ、周囲に迷惑をかける。彼らがどうして謎の自信を得られるのか、また、なぜ謎理論を生み出して迷惑行為に至るのか、一時期僕はかなり真剣に考えたことがある。
だが、わからなかった。僕が得たのは、意味不明なものを理解しようとしてはいけない、意味不明なものは意味不明のまま受け入れること、という教訓だけであった。
避けられないのなら楽しんでしまおう
彼らが繰り出すトンデモな言動を、親身になってまともに受け止めたらヒットポイントを削られる。下手をすると彼らとの付き合いにおけるストレスから心筋梗塞や脳卒中を起こして、命にかかわる問題になるかもしれない。
僕らがトンデモな部下に対してできることは、彼らを楽しむことである。実際、僕はトンデモな部下を楽しむことができるようになってから、彼らで悩むことはなくなった。ストレスフリーだ。
楽しむためには、まず、彼らと同じ土俵に立たないようにすることだ。選手と選手のように同じ立場で対峙するのではなく、彼らをジャッジする審判の立場に立つのだ。
必要なものは冷静さと分析である。
たとえば、何でも上から目線で語る部下であれば、冷静に見つめることで「自分の実力不足から目をそらして、上から目線で語ることでプライドを保っているんだね」と分析できるかもしれない。謎のアドバイスを繰り出してくる部下なら、「周囲の大人な対応を真に受けて、自分を過大評価してしまったんだね」と思えるだろう。
そうやって冷静に分析すれば、彼らにイラつくこともなくなるし、心理的な距離感を保つことができる。そうすれば、退屈極まりない職業人生において、トンデモな部下は楽しみを提供してくれるホットなコンテンツになる。そのホットさを楽しむためには、常に冷静であることが必要なのだ。
トンデモな部下を楽しむマインドが身に付けば、彼らのトンデモの向こう側に隠されている長所も見つけられるようになるだろう。それが見つかるのは宝くじ当選レベルの確率かもしれないけれど…ゼロではないのだから。(所要時間65分)
この記事の執筆者
フミコフミオ
海辺の町で働く不惑の会社員。普通の人の働き方や飲食業や給食について日々考えている。現在の立場は営業部長。90年代末からWeb日記で恥を綴り続けて20年弱、主戦場は、はてなブログ。
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