辞めるのは逃げじゃない 仕事がつらいなら辞めていいこれだけの理由

真面目で責任感が強い人ほど、「辞める」ことに負い目を感じるもの。

かつて、責任感から心と体を壊すまで働き続けたブロガーのフミコフミオさんに、真面目で責任感が強い人へのアドバイスを綴っていただきました。

「逃げちゃダメだ」と唱え続けた20代

僕はフミコフミオ、食品会社で働く中間管理職だ。これまで二十数年間、人並みに厳しいサラリーマン人生を送ってきた。

今でこそ快適に仕事ができる環境を手に入れられたが、特に20代から30代前半にかけての時期は「仕事がつらい」「出勤するのもイヤだ」「ノルマのことを考えると夜も眠れない」という毎日を過ごしていた。まさに鬱に片足を突っ込んでいた状態だったと思う。

だからといって会社を辞めることもできず、当時大ブームになっていた「新世紀エヴァンゲリオン」の碇シンジ君のようにリアルに「逃げちゃダメだ」と唱えながら仕事をしていた。まだ経験も少なく仕事との付き合い方がわかっていなかったのと、「こうありたい」という自分の理想と現実とのギャップに潰されかけていたのだ。

僕が会社を辞められなかったのは責任感からである。「仕事から逃げたらダメだ」「逃げたら周りに迷惑がかかる」と考えていたし、上司や先輩から「仕事を投げ出すのか?投げ出された仲間のことは考えないのか」と言われて、責任感とつらさとの板挟みで苦しんだからだ。

そういう経験があるので、管理職として働く今、部下や若手社員から「退職を考えている」と打ち明けられたときは「今は大変なときだけれど、少し我慢しよう」「このまま投げ出していいのか」といった責任感を刺激する発言だけは避けるようにしている。

つらさを我慢しても良いことなどない

たしかに、どんな仕事にもつらいことはある。一から十まで楽な仕事というものはない(あればいいけれど)。身も蓋もない言い方かもしれないが、仕事にはつらい要素が多少なりともあるからこそ、その対価として給料をもらえるのだ。僕らがお金を稼げるのは、つらさという悪魔に心と体を捧げているからなのだ。

退屈なミーティング、ルーティンワーク、無駄な上司への報告、酷暑の中での外回り…。そんなつらさに耐えることで仕事は成立している。 つらさを乗り越えることで得られる経験やスキル、仲間からの信頼、達成感や充足感。これらは仕事に真剣に向き合っていればいるほど何物にも代えがたい大切なもののように思える

でも、もし今仕事を辞めたいと思うほどの耐えがたいつらさを抱えているのなら、ちょっと考えてみてほしい。今の仕事は、そのつらさを耐え忍んでまで続ける価値のあるものなのかを。

本当に追い詰められていると気がつかないが、仕事を通して得られるもののほとんどは働く場所を変えても得られるものだ。つまり、耐えがたいつらさと引き換えにしてまで得るようなものではないのである。二十数年間働いてきたからこそ断言できる。「つらさを乗り越えて得られるものなどたいしたものではない」と。

心と体が壊れる前に外に目を向けてみよう

一方で、つらさが心と体に与えるダメージを軽く見てはいけない。心と体が壊れてからでは取り返しがつかない。つらさが限界を越えるようであるなら、つらさの原因から距離を置くことをおすすめする。

僕はかつて、限界を感じながらも責任感から働き続け、体がいうことを聞かなくなったことがある。ベッドから立ち上がれなくなり、足が前に出なくなった。幸いにも1カ月半ほどの休職で復活できたが、同じようにつらさと戦って倒れ、戻って来られなかった同僚たちもいる。僕が復活できたのは運が良かっただけに過ぎない。手遅れにならなくて良かったと今でも思う。

仕事は生きる意味そのもの、人生を賭ける価値のあるものと考える人もいる。もちろん、その価値観を否定する気はない。

だけど、突き詰めてみれば仕事は生活のための手段にすぎない。たかが手段のために擦り減って、心や体を壊すのはいかがなものだろう。「仕事は生きる意味だ」と考えている人でも、心や体を壊してしまったら肝心の仕事そのものができなくなってしまう。

だったら、心や体が壊れる前により良い手段を選択すればいい。「仕事で得られるもの」と「仕事で被るつらさ」を心の中で天秤にかけてみよう。もし、天秤が「つらさ」側に傾くようなら、「部署異動を申請する」「退職して転職する」といった手段を取ればいい。実際のところ働く場所は今いる場所だけではないのだから、外に目を向ければよい。

どれだけ仕事に責任感を持っていても、自分にしかできない仕事など存在しない。誰かが欠けてもカバーできるのが会社という組織だ。むしろ、自分よりも今の仕事に適した人物が現れて、関係者各位全員がハッピーになるかもしれないと考えておけばいい。

「逃げちゃダメ」なのは人類存亡レベルのピンチだけ

だが、真面目な人ほどそうは考えられないものだ。「そう簡単に辞められない」「信頼を失ってしまう」と自分を追い込んでしまう。「辞めるのは問題から逃げているように思える」「責任があるから逃げられない」と、「辞めること=逃げること」ととらえてしまう。

そして、エヴァンゲリオンのシンジ君のように「逃げちゃダメだ」をマントラのように唱えながら戦いを継続してしまう。かつての僕がそうだったように。

でも、エヴァンゲリオンの「逃げちゃダメだ」は人類滅亡と自分の生存という究極の選択を迫られたシンジ君の発言だ。はたして僕らの仕事はそんな究極の選択を迫られるほどのものだろうか。そんなはずはない。大きな夢や目標があっても、命や健康よりも大切な仕事などあるはずがない

断言しよう。もし責任感から「逃げちゃダメだ」と考えているのなら、それは過剰な責任感だ。つらさを感じながらも、仕事をやり通さなければいけないと考えている時点で、もう十分に一社員、労働者としての責任は果たしている。

自分ですべてを抱え込まず、つらい状況を上司や先輩に相談してみよう。それでも状況が改善されないなら、責任を果たしていないのはつらさを感じている従業員を放置している上司や会社である。だから責任を感じる必要は一切ない。前述したように、「仕事で得られるもの」と「仕事で被るつらさ」を天秤にかけて自分はどうしたらいいか判断しよう。

より良い環境を選ぶのは「逃げ」じゃない

ここで改めて考えてほしい。そもそも辞めるのは逃げなのだろうか。たしかに、与えられた場所から離れようとする姿勢は逃げるイメージに直結する。より安易な選択肢を選んでいるように見える。

だが、より良い環境を求めることは逃げではない。自分自身が自分らしく、生き生きと力を発揮できる仕事を選ぶことの何が逃げなのか。苦難の道をわざわざ選ぼうとするのはマゾヒストである。

仕事を辞めることを「逃げ」ととらえるのは、人材不足を恐れる会社側の都合である。「逃げるのか?」と責任感につけこんで、つらい仕事を押しつけたい会社側の理屈でしかない。

エヴァンゲリオンの大人たちが、少年少女を人型汎用決戦兵器に乗せ、彼らが戦いに拒否反応を示すと「逃げるのか?シンジ」と責任感に問いかけるような卑怯な言動をしていたのと同じである。

エヴァンゲリオンの主人公が困難に立ち向かうのはアニメだからだ。「逃げちゃダメだ」とつぶやきながら困難に耐えて戦うほうがドラマになる。「つらすぎるので金輪際エヴァには乗りません」ではドラマが起きない。

だが、人生はアニメではない。視聴者を惹きつけるためのドラマなんて必要ない。それに、アニメのように数カ月限定で終わるつらさなら耐えられるかもしれないが(シンジ君もエヴァが半年間だったから耐えられた)、問題は仕事のつらさの多くは、数カ月では光が見えないことなのだ。

僕らは自分の人生にこそ責任を負うべきである。僕らが負うべき責任とは、自分の選択で自分の人生を生きること自分の人生をよりよいものにすることである。

つらさに正直になろう。仕事がつらいと感じて「これからどうすればいいのか」と悩んだり、「仕事を投げ出すわけにはいかない」と良心の呵責を感じたりしているのなら、それ以上の責任感を持つ必要はない。もっと自分の人生について、より良い選択をしよう。

つらい環境から脱出することは、逃げではなく、より良い、真っ当な選択をしているということにすぎない。むしろその場に留まっていることが、自分の人生をよりよいものにする責任から逃げていることになってしまう。

このように考えてみれば、仕事がつらいからと転職や退職を考えたとき、「辞めるのは逃げだよな…」「逃げちゃダメだ」という過剰な責任感を持つことはなくなるはずだ。

ガンガン逃げよう。積極的に

たかが仕事である。つらさに耐えて止まっているその場所で得られるものは、本当にそこでしか得られないものなのか冷静になって考えてみよう。

もしそこでしか得られないものがあるのなら、どうすればつらさを軽減できるか考えて会社や上司に訴えてみよう。それでも改善されなければ働く場所を変えればいい。

働いている人間の責任感に頼って、つらさを受容させているほうが異常なのだ。「逃げちゃダメだ」と言わせているほうがおかしいのだ。

繰り返すが、仕事においてより良い環境を選ぶことは逃げではない。もし、それを逃げだというのなら逃げちゃダメな仕事なんてない。会社や上司の命令で無理矢理エヴァンゲリオンに乗せられて、しんどかったらエヴァに乗ったまま逃げ出してしまえばいい

僕らには、僕らにつらさを耐えるよう強いているあらゆるものから逃げる権利がある。ガンガン逃げよう。どこまでも、徹底的に。(所要時間55分)

▼辞めないことで失うものもある

▼それでも迷ってしまう人は

この記事の執筆者

フミコフミオ

海辺の町で働く不惑の会社員。普通の人の働き方や飲食業や給食について日々考えている。現在の立場は営業部長。90年代末からWeb日記で恥を綴り続けて20年弱、主戦場は、はてなブログ。

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