若者は我慢が足りない? 新卒の離職率|3年で3割辞めるって本当?
新卒で就職した仕事を辞めて転職したいと思っても、「今辞めると考えの甘い若者と思われるかも……」となかなか行動に移せない、そう思ってはいませんか?
悩んでいる人は新卒の離職率を確認して、他の人がどのくらい辞めているのか、動向をチェックしてみましょう。
仕事を辞めた理由も紹介するので、自分の辞めたい理由と照らし合わせて参考にしてみてください。
3年以内で3割辞める! 最新版・新卒の離職率
ここでは、厚生労働省の最新の調査データをもとに、最新の離職率の状況や、離職率がどのように推移してきたかを見てみましょう。
新卒3年以内の離職率は全体の32%
厚生労働省が2019年に実施した調査によると、2016年3月に大学を卒業して就職した新卒社員のうち、3年以内に仕事を辞めてしまう人は32%です。
内訳を見てみると、1年以内に辞めた人が11.4%、2年以内が10.6%、3年以内が10%。1年目に辞める人がもっとも多く、経験を重ねるごとに少しずつ離職率が低くなる傾向にあることがわかります。
1年で1割、2年で2割、3年で3割辞めるのは昔から!?
ここ10年の大学卒業後3年以内の離職率は、多少の波はあるもののおおよそ3割程度で推移しています。
下のグラフは、2005年から現在までの大卒の新入社員の離職率を表しています。
※出典:厚生労働省 新規学卒者の離職状況より「学歴別卒業後3年以内離職率の推移」
さらに30年前からのデータを見てみても、バブル崩壊の翌年、平成4年がもっとも離職率が低く(23.7%)、逆にもっとも高いのは平成16年の36.6%という結果に。いずれにしても、3割前後で推移していることに変わりはありませんでした。
「最近の若者はゆとり教育で育ったから、我慢が足りずすぐ辞めてしまう」などと言う人がいますが、3年で3割辞めるのは30年前からほとんど変わらない傾向なのです。
仕事を辞める理由は「労働条件」が1位
仕事を辞める理由のランキングでは、「労働時間・休日・休暇の条件」が最多。次いで2位は「人間関係がよくなかった」、3位は「仕事が自分に合わなかった」です。
※出典:若年者の離職状況と離職後のキャリア形成Ⅱ(第2回若年者の能力開発と職場への定着に関する調査)|独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)
これらの理由には、新卒後、何年以内に辞めるかによっても特徴があります。
1年未満で辞めた人の退職理由1位は、「仕事内容が合わない」です。次いで「労働時間・休日・休暇の条件」、「人間関係」が続きます。
この結果から、1年未満で離職する人は、入社前の理想と入社後の現実にギャップを感じているのだと考えられます。実際に働いたことのない大学生が、就職活動中に思い描ける仕事内容には限界があります。とくに会社説明会では華やかな部分にフォーカスして語られることが多いため、実際に働き始めてから「この仕事がしたいのではなかった」と気がつくケースが多いのでしょう。
一方3年以上になると、1位が「労働時間・休日・休暇の条件」、2位が「結婚・子育て」、3位が「給料」と退職理由のランキングは大きく様変わりします。
3年以上になると結婚や出産などのライフステージの変化が出てくる上、家族が増えると労働条件や給料などもシビアに考える必要が出てきます。そのため、仕事内容や人間関係よりを気にするよりも、「良い条件で、長く働きたい」という視点で退職を選ぶことが多くなるようです。
コラム:学歴で異なる離職率の7・5・3
学歴で7・5・3と離職率が異なると聞いたことがあるかもしれません。これは中学卒業後に就職した人は7割、高校卒業後に就職した人は5割、大学卒業後に就職した人は3割が3年以内に仕事を辞めることを表現したものです。
厚生労働省の学歴別データを見てみると、たしかにおよそ7・5・3で推移していることがわかります。
※出典:厚生労働省 新規学卒者の離職状況より「学歴別卒業後3年以内離職率の推移」
ただし、グラフをよく見てみると、中卒は7割弱、高卒は4割強、大卒が3割強でそれぞれ推移しており、「7・5・3」というのは少々誇張されていると言えるでしょう。
いずれにせよ若いうちに就職するほど、3年以内に仕事を辞める割合が高いわけですから、人生経験の浅いうちはなかなか自分に合った仕事が見つけられないということなのかもしれません。
新卒離職率は業界によって大きく異なる
「大学卒業後に就職した人のうち3割が、3年以内に仕事を辞める」というのは、どの業界でも同じなのでしょうか?
ここでは3年で3割を目安に、離職率が高い業界と低い業界について解説していきます。
産業別離職率ランキング サービス関連が上位に
厚生労働省の調べによると、大学卒業後3年以内の離職率がもっとも高いのは、「宿泊業、飲食サービス業」。実に5割以上が辞めてしまうようです。
次に離職率が高いのは「生活関連サービス業、娯楽業」で、「教育、学習支援業」「医療、福祉」が続いています。
一方、もっとも離職率が低いのは「電気・ガス・熱供給・水道業」という結果になっています。
※出典:新規大学卒業者の産業分類別卒業後の離職率推移(2016年3月卒業者データ)|厚生労働省
ブラック労動ゆえ? 離職率1位はサービス業
産業別の離職率ランキングを見てみると、上位を占めているのは「宿泊業、飲食サービス業」「生活関連サービス業、娯楽業」「教育、学習支援業」「医療、福祉」など、サービス系の職種が大部分を占めています。
とくにサービス関連の仕事は現在、24時間365日の営業かつ低価格競争にさらされている企業も多く、どうしても不規則な重労働になってしまいがち。同時に賃金もあまり高くなりにくく、「長く働くことはできない」と判断する人が多いのではないでしょうか。
また、「医療、福祉」などの分野も、看護師や介護関連職を中心に人手不足が叫ばれている職種が少なくありません。働く人が足りないために労働環境が悪くなり、仕事を辞めてしまう人が増える……という悪循環に陥っている病院や施設もあるようです。
離職率の低い業界の代表格はインフラ系
一方、「電気・ガス・熱供給・水道業」は3年後の離職率がおよそ1割とかなり低い水準です。次いで「鉱業、採石業、砂利採取業」「製造業」も離職率は2割を切っており、非常に低くなっています。
これらの業界に共通しているのは、独占企業が存在しており、機械化・自動化も進んでいることです。同時に労働組合の力も強いため、24時間運転の工場や設備の場合でも、完全シフト制で労働条件が守られています。さらに転勤なども少ない業界のため、人材が固定しやすいことも挙げられます。
こういった理由から、安定した賃金や労働条件で長く働くことができると判断され、新卒3年位内で辞める人は少ない傾向なのだと考えられます。
転職を希望する会社の離職率を知っておこう
いざ自分が転職する時には、できるだけ長く働ける職場を見つけたいものです。
離職率は、職場の働きやすさを知るためのひとつの指標になりますので、求人を探す際にはぜひ離職率もチェックしてみましょう。
まずは四季報をチェック
離職率は、東洋経済社が発行している「就職四季報」で確認することができます。上場企業や大手企業なら、就職四季報にデータが載っていますので、まずは確認してみましょう。ただし非上場企業や中小企業の場合はデータがないこともあります。
また、就職四季報にデータがある企業でも、離職率は「N/A」として公表していないケースがあります。離職率が高いことを隠すため非公開としていることも考えられますので、注意しておきましょう。とくに大手金融や大手小売業などは公表していないところも多いようです。
ちなみに東洋経済によれば、離職率がもっとも低い企業は国際石油開発帝石、宝ホールディングス、塩野義製薬、アイチコーポレーション、イーグル工業、横河電機、日本電子、日立ハイテクノロジーズの8社。中部電力、JSRが続き、上位にはメーカー、一次産業、インフラ産業が多くランクインしていました。
※出典:東洋経済ONLINE 「新卒3年後の離職率」が低い100社ランキング
四季報にない企業の離職率を知るには
就職四季報に、自分の転職したい会社の情報がない場合は、まずは転職エージェントやハローワークの担当者に聞いてみましょう。離職率としては教えてもらえない場合も、退職者数を聞くことができれば、会社概要などにある従業員数と照らし合わせておおよその見当をつけることは可能です。
また、求人票にある採用人数から、離職率を推測することも可能です。従業員数に対してあまりにも多くの人数を募集していたり、年中同じ求人を出し続けている企業があれば、離職率が高い可能性が考えられます。
面接で離職率を直接尋ねるという方法もありますが、聞き方によっては相手に失礼な印象を与えてしまうため、あまりお勧めはできません。「この会社は新卒から長く働いている方が多いのでしょうか」などと話を振って、それとなく聞き出すようにしましょう。
離職の理由も聞いておくとベター
自分の転職したい企業の離職率が高い場合は、働くための心構えをするためにもなぜ仕事を辞めてしまったのかを知っておけると良いでしょう。
一番望ましいのは現在働いている人に状況を聞くことです。そこでなるべく自分が希望する部署の労働条件や仕事内容を聞いておけると理想的です。たとえば以下のようなポイントを押さえられると、本当にその企業に転職すべきかの判断材料となります。
- 月の平均残業時間はどれくらいか
- 突発的な残業が多いのか、慢性的に残業が多いのか
- パワハラをする上司がいるのか
- 個人に裁量が任されているのか
直接の知り合いや友人などにその企業の関係者が見つけられない場合は、転職口コミサイトで確かめる方法もあります。
ただし、口コミサイトの情報は真偽を確かめる方法がなく、どちらかといえばネガティブな情報が多い場所です。全ての情報を鵜呑みにしないよう注意して、参考にする程度にとどめましょう。
まとめ
気になる新卒の離職率は、30年前から3割程度で推移しています。けして最近の若者が我慢強くない、というわけではありません。
また、転職を考え始めた際には、転職先の候補に考えている会社や業界の離職率、離職原因を確認するとより良い転職に結びつくはず。以下の3点がポイントです。
- 業界別の離職率は厚生労働省が公式に調査したデータを確認
- 会社ごとに知るためには四季報のデータを利用
- 実際の職場についても、可能な限り勤めている人から情報を聞き出す
以上のことを意識すれば、きっとみなさんの理想に近い企業が見つかるはずです。