【記入用のシートつき】 求人のプロが解説・業界研究のやり方
企業研究に比べて、業界研究のやり方は抽象的なイメージを持たれがちです。そこでこの記事では、のべ数千社の求人広告を制作しているコピーライターが、ポイントを絞った業界研究のやり方をご紹介します。
5つの項目+αでまとめる【業界研究シート】を使いながら、「何のためにやるのか」「何を調べればいいのか」「どこから情報を取ってくればいいのか」を身につけましょう。
こんな人は、業界研究をしよう
業界研究は、就職・転職先の選択肢を広げたり、「どの業界を選ぶべきか?」の判断に必要な材料を集めたりするために行います。業界研究の結果、自分で志望業界を絞り込めるようになることがゴールです。
業界研究をするべき、3つの人物タイプ
特に業界研究が効果的な方は、下記の3つのタイプに当てはまる方です。自分がどのタイプに当てはまるか理解することで、「特にどんな情報を集めればいいのか」を意識できるようになり、効果的な業界研究を行えるようになります。
1. やりたいこと・志望業界が決まっていない人
いくつかの業界について調べることで…
- どんな業界があるのか把握できるようになる
- 志望業界を2~3個に絞り込んで、具体的な企業選び(企業研究)に進めるようになる
2. 志望業界・企業が決まっているけど、滑り止めもほしい人
志望業界と関連する業界にも視野を広げることで…
- 就職・転職先の選択肢を広げられる
3. 採用担当者からの評価が高い志望動機などを作りたい人
業界の将来性やトレンド、新技術の開発動向などを調べることで…
- 「なぜこの企業・業界を選んだのか?」という面接の定番質問への対策ができて、合格率を高められる
業界選びの「3つの判断軸」
就職・転職先を選ぶとき、判断の軸は【3種類】あると言われています。
- やりたい仕事ができそうか【仕事内容・職種 軸】
- 余裕のある暮らしができそうか【収入 軸】
- 業界・企業・仕事に、今後の成長性はありそうか【将来性 軸】
「仕事内容・収入・将来性」という3つの判断軸は、dodaが2019年に発表した『転職理由ランキング2019<総合>』でもトップ3に入っている、代表的な転職の判断軸です。自分がどの判断軸を重視しているか理解し、共通のものさしで業界同士を比較すれば、判断がブレることなく希望に合った業界を探せるようになります。
今回は、判断の助けになる【5つの要素】をピックアップした【業界研究シート】をご用意しました。次の章では、業界研究本やWEBサイトを活用したシートの記入方法をお伝えします。
5つの要素で作る「業界研究シート」
【ダウンロード(Excel版)】
※PCなど、画面上で記入したい方向け
【ダウンロード(PDF版)】
※印刷して使いたい方向け
シートを使った業界研究は、下記の5つのSTEPで行います。
▼STEP1 自分が業界研究をするべきタイプか判断する
▼STEP2 研究する業界を選ぶ
▼STEP3 「業界研究シート」にそって、情報を集める
▼STEP4 集めた情報をもとに、「仕事内容」「収入」「将来性」の判断軸にそって、その業界が自分の希望に合っているかチェック
▼STEP5 志望業界を絞り込む
情報収集は、『業界地図』をはじめとした専門書籍や、WEBサイトを使って進めるのが基本です。重要だと感じた文章を書き写して(コピペして)、シートの空欄を埋めていきます。自分が読めればいい資料なので、キレイにまとめる必要はありません。特に気になった箇所にマーカーを引くなどして、情報をテンポよくまとめていきましょう。
調べる業界は、どう決める?
まず業界研究で多くの方がつまずくのは、自分がどの業界を調べるべきかという点。志望業界がハッキリしている人は そのままシートを記入し始めればいいですが、【志望業界が決まっていない/他の業界にも選択肢を広げたい】という方も多いはず。
そこで、おすすめしたいのが「興味のある商品・サービスから、逆引き的に業界を探す」方法です。一般的に業界名は、関連する商品・サービス名を冠しているものがほとんど。『業界地図』などを開いて、自分に関わりのある名前がついた業界をピックアップしてみるといいでしょう。
もう少し具体的な商品・サービスから逆引きしたい人は、「業界研究大図鑑(マイナビ)」などの活用をおすすめします。その特徴は、パソコン、インテリア、ブライダルなど、身近なモノ・サービスを題材にして、関係する業界が細かく紹介されている点。1つの商品から芋づる式に、まわりの業界にも視野を広げられますよ。
業界研究に必要な、5個の要素+α
「仕事内容」「収入」「将来性」の判断軸を使って業界を選ぶとき、必要な要素は5つあります。それぞれ押さえておきたい記入のポイントがあるので、それにそって書籍などから要素を拾って埋めていきましょう。
基本となる5つの要素
1業界名
これから調べる「業界の名前」をメモする欄です。参考にする書籍・WEBサイトから、名称を書き写しましょう。
<記入のポイント>
■「業界名」はサイト・書籍によって異なる
たとえば「自動車業界」という大きなくくりで業界をまとめているケースもあれば、「自動車(国内/国外)」「トラック」などに細分化しているケースもあります。
そのため、複数の情報源を活用する場合は、同じ業界について書かれていることを確認するのが大切です。「業界の概要」や「主な企業の名前」を手がかりに、同じ業界を指しているか確認しましょう。
2概要
その業界で扱っている商品や業界規模など、業界の全体像をイメージするために必要な情報をメモしましょう。書籍・WEBサイトでは、よく「概要」「基本情報」といった項目にまとめられています。
<記入のポイント>
■どんな商品・サービスを扱っている業界か?
何を扱っているかは、業界研究で必ず押さえておくべきポイント。具体的な商品名・技術名をメモしておきましょう。聞き覚えのある言葉が出てきた業界は、「興味のある業界」としてピックアップしてもいいかもしれません。
■市場規模(売上高)はどのくらいか?
市場規模を調べておくと、日本におけるその業界の重要性が読み取れます。大規模な業界だと、関わっている企業・人も多いため、就職・転職先の選択肢も多いと言えるでしょう。ここで調べた市場規模(売上高)は、企業の売上シェアの計算にも活用できます。
■歴史が長い/新しく生まれた業界か?
古くからある業界は、存続している理由があるはずです。食品や鉄鋼業界のように「生活に欠かせない」といった理由がないか探してみましょう。また、その理由が今後も続くかどうかも考えてみてください。紙媒体の需要減少に悩む出版業界のように、歴史が長い業界であっても、これまでの事業基盤が揺らいでいるケースもあるので注意が必要です。
一方で、ロボットやAIのように新しく生まれた業界の場合は、「どんな需要・背景があるのか」を探すことが大切です。人手不足や大量生産といった背景があった場合、それらが継続的かどうかを考えることで、将来性を推測することができます。
3平均年収
業界によって、年収は大きく異なります。他の業界と比較するために、必ず調べておきましょう。業界全体の平均年収がわかればベストですが、主要な企業の数字だけでも構いません。あくまで目安として使いましょう。
<記入のポイント>
■「すべての職種」の平均値という点に、注意
一般的に、公開されている平均年収は「その業界全体の平均値」です。実際は、営業や設計、エンジニアといった職種ごとに収入の差がある点には注意しましょう。応募する企業を絞り込む段階になったら、あらためて「自分が志望する職種」の年収を調べるようにしてください。
4どんな職種があるか
業界内にある、主な職種を記載する欄です。職種名やその解説を見れば、その業界にどんな仕事があるのかを把握できます。
<記入のポイント>
■知らない職種名は、概要を調べる癖をつける
職種名から仕事内容を連想できるようになると理想的です。シートを見返したときに調べ直すのも手間になるので、記入時に「職種の簡単な説明」を添えておくと、使いやすいシートになります。
5景気の見通し/トレンド
将来性を分析するために必要な情報です。書籍や業界研究サイトから「好景気か/不況か」を読み取りましょう。天気予報のマークを使った「業界天気予想」といった形式で、景気のよしあしをわかりやすく表現している場合もあります。
<記入のポイント>
■トレンド=景気の背景をメモする
将来性を推測するには、「どんな要因が景気に影響をあたえるか」を知っておく必要があります。たとえば消費税の増税が予定されていれば、駆け込み需要で小売業などが好景気に。オリンピックなどのイベントがあれば、建設ラッシュによる好景気がやってくると予想できるでしょう。
その他にも、原材料の高騰や自然災害といった景気を左右する要因・リスクが存在します。
書籍等では「最近の動向」「トレンド」といった項目にまとまっているので、調べてみましょう。
■不景気への「対抗策」があるかどうかもメモしよう
志望する業界の見通しが明るくなくても、悲観する必要はありません。というのも、不景気への「対抗策」があれば巻き返しが可能だからです。
たとえば、紙媒体の需要減少に悩む出版業界は、電子書籍の市場開拓などの対抗策で巻き返しを図っています。「不景気の理由」と「対抗策」をセットで把握できると、先入観にとらわれずに将来性を分析できますよ。
この先の選考に備えて調べたい「+α」
ここからは、面接やエントリーシートづくりに向けて、+αで調べておくと役立つ内容です。最初から志望度が高い業界・企業がある場合、業界研究の際にまとめておくと効率的ですよ。
+興味を持ったポイントなど
面接や書類でよく聞かれる、「この業界に興味を持った理由」。その質問に答えるために、正直な感想・印象を残しておきましょう。
<記入のポイント>
■いったん、正直な感想を残しておく
「稼げそうだから」「将来が安泰そうだから」といった感想は、面接時に話すのはNG。ですが、まず自分の本心をハッキリさせるために、シートに記入しておくことをおすすめします。言葉にしておくことで、就職・転職を通じて何を大切にしているかがブレなくなります。
■興味を持ちやすいのは、こんなポイント
あまりピンとくるポイントが無かった人は、下記の志望動機づくりによく使う項目に着目してメモするといいでしょう。
- 社会貢献性が高い(人の役に立てそう)
- 生活や人命を守るやりがいがある
- 有名製品・サービスに携われる
- 主体的に働ける
- 技術を磨ける
- 商品・サービスを通じて感動を与えられる
+業界内のシェア・ランキング/主要な企業の名前
業界研究が終わったら、いよいよ応募する企業の絞り込みに入ります。そのときに必要なのが、具体的な企業名です。
<記入のポイント>
■各社の「成功の理由」をメモする
おすすめなのが、業界内で大きなシェアを持っている企業を例に、成功している理由を記入すること。たとえばコンビニ業界では、各社が差別化戦略を取ることでポジションを確立しています。商品開発の戦略だけでも、「プライベートブランド商品を多数展開」「ホットスナックに注力」など、戦略はさまざま。調べたうえで、その戦略に自分がどう貢献していくかを面接などで伝えられると、採用担当者からの評価も高まるでしょう。
■グループ企業にも注目
大手企業の場合、生産や材料調達などの機能ごとに、グループ企業を持っているケースも少なくありません。企業の本体だけでなく、グループ企業にまで視野を広げておくと、就職・転職先の選択肢が広がるのでおすすめです。企業のHPに「グループ企業」といった項目があるので、目を通しておきましょう。
おすすめ書籍&サイトはコレ!
業界研究は、定番の書籍『業界地図』を使って進めるとスピーディです。市販されている『業界地図』で有名なものは、「会社四季報 業界地図」と「日経業界地図」の2種類。いずれも、100以上の業界情報を1~2ページでシンプルにまとめています。
それぞれの書籍の特徴をまとめたので、調べたい項目にあわせて使い分けてみましょう。
【書籍】東洋経済新報社「会社四季報 業界地図」
<こんなときに便利>
「業界の全体像を、パッと把握したい」
- 業界シェアや勢力図がわかりやすく、業界の全体像を把握しやすい。主要な企業の解説も充実している。
- 「業界天気」の解説がシンプルでわかりやすい。次年度の予報もあるので、業界の将来性を読み取りやすいのもポイント。
【書籍】日本経済新聞出版社「日経業界地図」
<こんなときに便利>
「長文を読むのが苦手だから、内容別にシンプルにまとめられた情報がほしい」
- 「基礎知識」「最近の動向」といった項目が立てられており、わざわざ長文を読み解く必要がない。
- 「業界天気」の解説が充実。具体的な数値・用語も交えた説明がある。
- ページごとにフォーマットが若干異なるので、読むのに慣れが必要。
コラム:知っていると役立つ書籍&WEBサイト
業界地図以外に参考になる書籍・サイトも3種類ご紹介します。「業界内にどんな仕事があるのか知りたい」「もっと詳しく業界の動向を知りたい」ときに、ピンポイントで活用してみましょう。
【書籍】秀和システム、「最新〇〇業界の動向とカラクリがよ~くわかる本」シリーズ
<こんなときに便利>
「志望動機づくりのために、業界の詳しい知識がほしい」
- 1つの業界に特化した「解説本」。その業界の概要や歴史、トレンドなどが詳しく記載されている。
- 業界を構成する「専門分野」ごとの説明が豊富な点も特徴。たとえば機械業界なら、工作機械・建設機械・精密機械など、機械ごとにトレンドが紹介されている。
- 志望業界が決まったあとで、志望動機づくりの材料に使うのがおすすめ。
【WEBサイト】株式会社 帝国データバンク 景気・業界の動向
※アクセスはこちら→景気・業界の動向 | 株式会社 帝国データバンク
<こんなときに便利>
「業界の将来性について、専門的な分析記事を読みたい」
- 企業の信用調査・倒産情報調査で、日本最大手の企業が運営するサイト。各業界の景気・動向を、天気予報に見立てて記載している。
- 「どんな要因で、景気が変動しそうか?」「業界内にどんな課題があるか?」がシンプルにまとめられている。業界の専門用語も使われているので、「どんな用語を覚えておくべきか」の気づきも得られる。
- 「景気・経済動向記事」「業界情報記事」といった読み物系のコンテンツも充実。興味を持った業界に関する記事を読んで、知識を深めるのもおすすめです。
【WEBサイト】業界動向サーチ
※アクセスはこちら→業界の動向やランキング、シェアなどを分析-業界動向サーチ
<こんなときに便利>
「業界動向を手早く把握したい」「どんな職種があるのか知りたい」
- 有価証券報告書(上場会社などが発行している、企業情報の報告書)をもとに、独自に研究した業界動向を公開しているサイト。120を超える業界の情報が、網羅的に掲載されている。
- 「平均年収」「景気の見通し」「職種」「シェア」「主要な企業名」など、掲載されている情報は豊富。その一方で、情報が複数ページにまたがって記載されているので、探し方にコツが必要。
- 例)職種 → 検索フォームで「〇〇業界+職種」で検索するといった工夫が必要。
分析は、ポイントを押さえて
3つの判断軸ごとに、業界を評価するためのポイントを用意しました。集めた情報を使って、その業界がポイントを満たしているかチェックしてみましょう。もし判断に必要な情報が足りないと感じたら、追加でリサーチするようにしてください。
やりたい仕事ができそうか【仕事内容・職種 軸】
【参考にするシートの要素】
2.概要、4.どんな職種があるか
仕事内容・職種を軸に就職・転職活動をする方は、まずこの2点をチェックしましょう。各業界でこのチェックを行い、応募する企業を絞り込んでみてください。
<注意>
応募する企業まで決まったら、「志望する企業で、その仕事ができそうか」も確かめておきましょう。やりたい仕事が業界的にあるとされていても、企業によってはその仕事がない可能性もあります。
たとえば大企業の場合、特定の業務に特化した子会社・グループ企業を持っていることが一般的。「システムの設計をしたい」と考えていても、実は大企業の本体には、そのポストがない可能性があります。入社後のミスマッチを防ぐために、ぜひ子会社・グループ企業との仕事の棲み分けを調べてみてください。
余裕のある暮らしができそうか【収入 軸】
参考にするシートの要素:3.平均年収
収入を重視する場合、シンプルに平均年収を比較しましょう。比較の際は【業界間>業界内】の順で収入を比べて、応募先を絞り込むのがおすすめです。同じ職種でも、業界によって給与の差があるケースも多いので、必ず複数の業界に目を向けるようにしましょう。
<注意>
「業界全体」と「職種個別」の平均年収は異なるので注意が必要です。応募先の企業を絞り込む段階になったら、募集要項で「希望する職種の収入」を調べて、各社で比較してください。
業界・企業・仕事に、今後の成長性はありそうか【将来性 軸】
参考にするシートの要素: 5.景気の見通し/トレンド
<注意1>
好調が予想されている場合は、その状態が今後も続くかどうかを分析します。たとえば、好調の理由がオリンピック等のイベントや法改正前の駆け込み需要であれば、影響は一時的な可能性が高いでしょう。同様のイベントが定期的にあるか等を調べ、需要が途切れないかどうか確認し、将来性を予想してみてください。
一方、環境問題など、継続的な課題を解決するための新技術は、将来的にも需要が高いと考えられます。関連する業界・企業にも、継続的に仕事がまわってくる可能性が高いでしょう。
<注意2>
不況が予想されている場合は、「対抗策があるか?」を分析することが重要です。既存の技術を活かして新事業に乗り出すことで、不況を乗り越えた企業も数多くあります。新技術の開発動向などはニュース・新聞が詳しいので、チェックしておくのもいいでしょう。
まとめ
自己分析や企業研究に比べて、研究のやり方が漠然としている業界研究。ですが、「仕事内容」「収入」「将来性」という、業界選びの判断軸にそった情報収集を意識すると、調べる内容は意外とシンプルだとわかります。
下記の進め方をおさらいして、効率的に業界研究を進めていきましょう。
<この記事を書いた人>
国木田のっぽ
年間300社以上の企業広告・求人票を制作してきたコピーライター。のべ数千社分の「企業研究・広告制作ノウハウ」を活かして、就活・転職で使える記事を執筆中。ちなみに、身長は164cm。 #のっぽとは