本当に1000万稼げるのか。 建築士の平均年収はどのくらい?

資格の種類によって設計できる建築物や年収が変わってくる建築士

この記事では、建築士の働き方による年収の違いや、年収1,000万円を超える方法を解説します。

一級建築士の平均年収は703万円

2019年に厚生労働省が発表した調査をもとに計算すると、一級建築士の平均年収は703万円で、全体平均と比べると約200万円高い結果となりました

職種別の年収ランキングでは建築士は129職種中10位。一級建築士の年収は非常に高い水準にあることがわかります。

ここからは建築士資格の種類や所属する企業規模や性別によって、年収がどのように変わるのかを解説します。

※出典:
令和元年 賃金構造基本統計調査賃金構造基本統計調査(e-Stat)
※年収は「きまって支給する現金給与額×12+年間賞与その他特別給与」で算出。千円以下は四捨五入し、万単位で統一。以下、断りがなければこのデータを使用します。

建築士の種類と年収の傾向

建築士の資格には「一級建築士」「二級建築士」「木造建築士」の3種類があります。

「一級建築士」の資格を取得していれば設計する建築物に制限はありませんが「二級建築士」「木造建築士」の資格には設計できる建築物に制限があります。

1一級建築士

一級建築士の平均年収は703万円。職種や会社によって300万円~1,000万円前後とかなりの開きがあります

一級建築士は資格を利用して個人で設計事務所を経営したり、大手のゼネコンで設計や工事監理をしたりと、働き方はさまざまです。働き方に応じて年収も変わり、一様に平均程度の収入が見込めるわけではありません。

一級建築士は設計できる建築物に制限はなく、高層マンションや競技場など建築物の種類に関係なくあらゆる設計が認められています。

2二級建築士

二級建築士の年収は300万円~700万円前後で、職種や会社により年収幅は広くなっています。

中小の建築会社で営業・企画と設計の仕事を兼務した働き方をする場合は、工事監理のみに比べ年収が高い傾向があります。

二級建築士の資格は都道府県が行う二級建築士試験に合格することで取得できます。二級建築士は扱える建物の規模や用途が制限されていますが、戸建住宅程度の規模であれば設計をすることができます。

二級建築士資格であってもゼネコンに就職したり、個人で建築設計事務所を設立したりすることはできます。しかし、設計できる建築物に制限があるため、一級建築士に比べ仕事の範囲は狭くなり、年収も少なくなる傾向があります

3木造建築士

木造建築士の資格を取ることが多い大工の年収から推察すると、年収は約350万円前後と推測できます

木造建築士の資格が特に求められる求人はあまりないため、正確な年収は不明です。

木造建築士の資格も二級建築士と同様に、都道府県による木造建築士試験に合格することで取得できます。

木造建築士が設計できる範囲は木造建築物に限られており、延べ面積が300㎡を超えるものや、3階建て以上のものは二級建築士以上の資格がなければ設計できません。年収を上げるには、より規模の大きい建築物の設計が可能である二級建築士以上の資格を取得した方が良いでしょう。

企業規模の大きさに比例して平均年収も多くなる

一級建築士の平均年収は会社の規模に比例して多くなっています

従業員数が10人~99人で577万円、100人~999人で747万円、1,000人以上で900万円となっています。従業員数が多いほど事業規模が大きく売上高も高いことから、平均年収も高くなる傾向にあります

会社規模別 一級建築士の平均年収 10〜99人:577万円、100〜999人:747万円、1,000人以上:900万円

一級建築士の年収は男女差が小さい

女性の一級建築士の年収は608万円で、718万円の男性に比べて110万円低くなっています。しかし他の129の職種と比べると、男女の年収差100万円程度はむしろ少ない方です。

ほかの職種は、より男女の年収差が大きい傾向にあり、特に開きの大きい航空機操縦士は500万円前後の年収差があります。

男女別の平均年収比較 一級建築士:男性 718万円・女性 608万円、航空機操縦士:男性 1,708万円・女性 1,213万円、公認会計士・税理士:男性 767万円・女性 509万円、医師:男性 1,227万円・女性 1,016万円

男女別の職種別年収ランキングでは、一級建築士は女性が9位、男性が11位となっており、男女ともに平均と比べて年収は比較的高いといえます。

建築士の働き方と年収の関係

建築士の資格は建築に関わるさまざまな仕事で生かすことができます。

ここでは建築士の働き方や、キャリアを積み上げていくことで年収は上がるのかなどについてご紹介します。

建築士の主な勤務先5つ

建築士の代表的な勤務先は以下の5つです。

  1. 建築設計事務所
  2. 建設会社
  3. ハウスメーカー
  4. 地方自治体の建築部門
  5. 独立して個人事務所を経営

それぞれの詳細や特徴についてご紹介します。

(1)建築設計事務所

建築設計事務所では建築物の設計図制作、工事全体の監理、建築工事契約に関する書類作成や手続きなどの業務を行います。

建築設計事務所のなかでも企業規模の大きいものは組織系建築設計事務所と呼ばれ、三菱地所設計などが該当します。

大規模な建築物の設計などを請け負っており、企業規模の大きい建設事務所であれば、高収入を得ることが可能です。

(2)建設会社

建設会社では建築物の計画から設計、工事まで一括で請け負い、建築物が出来上がるまでの全体の管理を主な業務としています。

会社規模が大きい建設会社はゼネラルコントラクター(ゼネコン)と呼ばれ、話題性の高い大規模な建築事業を扱っていることが特徴です。大手ゼネコンには、清水建設などが該当します。

個人の建築設計事務所などに比べると、給料や福利厚生が充実している傾向にあります。プロジェクトによっては複数の工事業者の管理をしなければならないため、リーダーシップや統括する能力が養われます。大手ゼネコンで巨大プロジェクトを指揮できるようなスキルがあれば、高収入が見込めるでしょう。

(3)ハウスメーカー

ハウスメーカーで扱う建築物は戸建て住宅がメインとなり、設計や技術開発が主な業務です。

また、建築の知識を生かして販売や企画などを行う職種もあり、ハウスメーカーでの働き方は多様といえます。また、日本全国に支店などのネットワークを展開している会社が多く、顧客は企業よりも一般消費者であることが特徴です。

販売実績に応じてインセンティブが発生することもあり、自身の成績が好調であれば収入は増える傾向にあります。

(4)地方自治体の建築部門

公務員として県庁や市役所など、地方自治体の建築部門で都市計画や施設の安全管理などの業務を行う建築士もいます。

自治体で管理している建物のメンテナンスに関する計画や予算の立案、住民が新築の家を建てる際の建築基準審査などが主な業務です。

建築設計事務所や建設会社などの働き方と異なり、建築物を一から設計することはありません。建築士の知識を生かしながら、休日や給料などを安定させながら働くことができるという特徴があります。

企業と異なり業績や実績による大きな収入の増加は見込めませんが、年齢や職能に応じて安定的に収入を得ることができます

(5)独立して個人事務所を経営

建築士として独立して建築設計事務所を経営する働き方です。顧客や仕事の種類、報酬など、裁量の大きい働き方ができます。一方で仕事がなく、経営に苦労している建築設計事務所が多いことも事実です。

個人事務所を経営する場合は、初めは建築設計事務所や建築会社に入社し、経験やスキル、コネクションなどを得た後に独立するケースが一般的です。指名での設計依頼が多く、人気になれば高収入が見込めます

一方、下請けの仕事のように売上額が少ない仕事ばかりになると、安定した収入が見込めず苦しい生活となります。

キャリアと年収の関係

年齢を重ね、建築士としてのキャリアを積むにつれ年収は上がります

年齢区分別 建築士(男性)の年収と累積収入額推移 平均年収:23〜24歳 388万円、25〜29歳 560万円、30〜34歳 798万円、35〜39歳 755万円、40〜44歳 827万円、45〜49歳 782万円、50〜54歳 743万円、55〜59歳 802万円、60歳 632万円/平均生涯年収 2億7,741万円

※計算方法:生涯年収=【各年齢区分の年収×該当年数】の合計(23歳~60歳までの年収合計)
※1級建築士(男性のみ)。女性はデータなし。

初任給やその後の年収の増加、生涯年収の傾向について、以下詳しく見ていきましょう。

初任給は27万円前後

一級建築士の初任給はおよそ27万円前後です。(令和元年 賃金構造基本統計調査の一級建築士(男)の20~24歳の月収から類推)

建築士の働き先として代表的なゼネコンやハウスメーカーなどは、建築士資格の保有の有無にかかわらず全員を総合職待遇として採用する傾向があります。

就職四季報2019年度総合版によると、大手ゼネコン会社の初任給はおよそ23万円~28万円が主流。職種や会社によって初任給に差があるため、正確な数値が知りたい方は会社ごとの採用サイトなどから調べましょう。

資格取得やスキルアップによって、できる仕事の範囲が広がれば給料も多くなっていきます。会社によっては資格取得のサポートをしてくれる場合があるため、求人を見る際チェックしてみると良いでしょう。

※参照:
賃金構造基本統計調査(e-Stat)

ピーク時の年収は827万円

40~44歳の建築士は平均年収が男性で827万円となり、建築士として最も年収の高い年代です。

会社の中心となる年代であり、若手時代の経験や建築士資格を生かし、プロジェクトを成功させることで年収は上がっていきます

ただし、業務量の多さから残業や休日出勤などもあるため、年収には時間外労働の賃金も多く含まれていることを知っておきましょう。

生涯年収は約2億8,000万円

男性の一級建築士の生涯年収は、賃金構造基本統計調査によると約2億8,000万円です。

これに対し、サラリーマンの生涯年収の平均は男性で約2億7,000万円、女性で約2億2,000万円。算出した金額は経営者や役員などが生涯年収を押し上げている平均値であるため、その金額と同等である建築士の生涯年収は比較的高い部類にあたります。

ただし、建築士の収入は事務所の規模や資格の級数によって開きが大きいため、すべての建築士が生涯年収2億8,000万円を稼げるとは限りません。

※参照:賃金構造基本統計調査(e-Stat)

建築士で年収1,000万円を超える方法

建築士で年収1,000万円を稼ぐには、次の2通りの働き方がおすすめです。

建築士の平均年収は703万円ですから、年収1,000万円を稼ぐのは簡単ではありませんが、働き方によっては実現も可能です。

1大手ゼネコンでキャリアを積む

ゼネコンの中でも大手と呼ばれる会社でキャリアを積み順当に昇進していけば、年収1,000万円を見込めます。

建築は多くの専門の工事業者による分業が主流となっており、屋根をつくる屋根工事や壁や床を塗る左官工事など、一つの建築物に多くの専門工事業者の力を要します。

ゼネコンは、その多くの専門工事業者をまとめる役割を担っており、全体をまとめるマネジメント能力が問われる仕事です。大規模な工事を請け負う大手ゼネコンは売上額も高いため、年収も他の建築関連の会社よりも高い傾向があります。

2実績とコネクションを作って独立

在籍していた会社で実績やコネクションがある場合は、独立して年収1,000万円を叶えることができます。

独立して建築設計事務所を持つ場合は、「管理建築士」の資格が必要です。

建築設計事務所には必ず一人以上の「管理建築士」資格取得者を置いておくよう法律によって定められており、全国で実施される管理建築士講習を修了することで取得できます。

まとめ

建築士の年収は勤める企業や働き方によって、大きく変わります。

一級建築士の資格さえ取得できれば高収入が約束されるわけではなく、資格を生かして規模の大きいプロジェクトを成功させるスキルが重要視されます。

これから建築士を目指す方や、建築士としてキャリアアップを目指している方は、自分の希望に合わせてキャリアプランを考えていきましょう。