Q&Aで解決 フレックスタイム制の8つの疑問
求人広告などでよく見かける「フレックスタイム制」。柔軟な働き方ができるメリットがある一方、デメリットもあります。
この記事では、フレックスタイム制に関するよくある質問のうち、8つの疑問について解説します。
Q1.フレックスタイム制って、どんな働き方?
A.「出社・退社時刻を自由に調整できる働き方」のこと
フレックスタイム制とは、予定や仕事量に応じて出社と退社の時刻を労働者が自由に調整できる制度のことです。
会社が決めた「◯ヶ月の期間で、△△時間は必ず働いてください」という労働時間さえクリアできれば、日によって実労働時間を柔軟に変えることもできます。それによって、下記のような働き方もできるようになります。
- 朝遅め(早めに)に出社することで、通勤ラッシュを避ける。
- 通院のために、早めに退社する。
- 保育園の送り迎えのため、曜日によって出社・退社時間を変える。
ただし、完全に自由に労働時間を変更できるわけではありません。フレックスタイム制では、下記の2つのルールを守る必要があります。
- ルール1:コアタイムには、必ず出勤すること
- ルール2:清算期間内で「総労働時間」をクリアすること
ルール1:コアタイムには、必ず出勤すること
フレックスタイム制には、必ず出勤していなければならない時間帯「コアタイム」が定められている場合が多くあります。いくら自由度が高い働き方といっても、この時間帯は勤務している必要があります。
もちろん、在宅勤務(テレワーク)の場合も同様です。会社に出社しないだけで、勤務すべき時間であることは変わりません。
また、出社・退社時刻を自由に決められる時間帯を「フレキシブルタイム」と言います。「8:00~11:00、16:00~22:00」といった形で決められており、この範囲内であればいつ出社・退社時間しても構いません。
なお、企業や職種によってはコアタイムを設けていないケースもあります。これを「スーパーフレックス制(フルフレックス制)」といいます。出社・退社時刻が定められておらず、いつ出社・退社してもいいため、より自由度の高い働き方と言えるでしょう。
ルール2:清算期間内で「総労働時間」をクリアすること
フレックスタイム制を導入している企業では「◯ヶ月の期間で、△△時間は必ず働いてください」と、労働時間数が定められています。
この◯ヶ月という期間を「清算期間」、働かなければならない△△時間を「総労働時間」と言います。清算期間内で総労働時間をクリアしていなければ、足りない時間は欠勤(時間控除の対象)となり減給などの対象となるため、注意してください。
清算期間は企業ごとに異なりますが、給与を計算しやすい「1ヶ月」に設定している企業が大半です。期間は3ヶ月以内であれば、企業側が自由に設定できます。
また総労働時間は、一般的に「1日あたりの標準労働時間×その月の所定労働日数」で定められます。たとえば、標準労働時間が1日8時間、月20日勤務の企業の場合、総労働時間は160時間になります。
Q2.フレックスタイム制のメリットは?
A.柔軟な働き方ができるようになること
たとえば……
- プライベートと両立しやすくなる
- 通勤ラッシュを回避できる
- 業務量に合わせて、効率的にスケジュールを組める
もともとフレックスタイム制は、仕事と私生活のバランスを取りやすくする目的で導入された制度です。子どもの送り迎えの時間や、通院などの用事を済ませるために活用している人が多くいます。
また、急な顧客対応等で労働時間が長かった日があれば、その代わりにあまり忙しくない日に退社時間を早めるといった働き方も可能です。疲れを取ったり、趣味の時間をとったりして、リフレッシュが図れます。
Q3.フレックスタイム制のデメリットは?
A.自己管理や、一緒に働く人との調整が大変
たとえば……
- 自己管理ができないと、業務が滞ってしまったり、勤務時間が不足したりする場合がある
- 会議できる時間が限られる
- 出社していない社員の仕事が回ってくる
フレックスタイム制は、業務時間を自分で調整できる反面、自己管理が重要です。たとえば清算期間のはじめの方で早めに帰る日が続くと、終わり際に総労働時間に対する実労働時間が足りなくなり、長時間労働で埋め合わせをすることになります。
また、一緒に働く人との調整に苦労する側面もあります。全員出社しているコアタイムに会議が集中したり、出社していない社員に代わって緊急度の高い仕事を対応したりすることも。必ずしも自分のペースで仕事できる訳ではないので、注意しましょう。
Q4.どんな企業が、フレックスタイム制を導入している?
A.「情報通信業」や「大企業」の導入率が高い
厚生労働省の調査によると、もっとも導入が進んでいる業界は情報通信業で、24.2%の企業がフレックスタイム制を採用しています。
厚生労働省 平成31年就労条件総合調査報告より
フレックスタイム制の導入率は、業界や職種、企業の規模によって異なると言われています。一般的に、エンジニアやプログラマー、デザイナーなど、個人作業が多い職種ほどフレックスタイム制に向いているようです。もしフレックスタイム制で働きたいなら、転職の際にはこうした職種が多い業界・企業に注目するといいでしょう。
加えて、従業員数が多い大企業ほど、フレックスタイム制の導入率が高くなる傾向もあります。下の表のように、従業員数1000人以上の企業とそれ以外では、フレックスタイム制の導入率に倍以上の差があります。
厚生労働省 平成31年就労条件総合調査報告より
大企業ほど導入が進んでいる理由の1つが、働き方改革と言われています。
中小企業に先立ち、大企業では働き方改革によって残業時間の上限が設定されたため、業務効率をアップする取り組みとしてフレックスタイム制が注目されるようになりました。世間からの注目を集めやすいという背景や、多様な業務に合わせた制度を積極的に導入しているという点から、大企業ほど制度の導入が進んでいるようです。
また、フレックスタイム制の導入率が低い業界でも、大企業に限っては導入率が高いというケースもあります。たとえば製造業の場合、全体の導入率は6.6%ですが、従業員数1000人以上の企業の導入率は57.3%と、極端に導入率が異なるのが特徴です。最近では、在宅勤務(テレワーク)×フレックスタイム制という企業も増えています。
Q5.フレックスタイム制だと、残業時間はどうなる?
A.総労働時間を超えた分が「残業」になる
フレックスタイム制では、会社が決めた総労働時間を超えて勤務した時間が「残業」になり、残業代が発生します。
逆に、1日に何時間働いたとしても、清算期間内の実労働時間が「総労働時間」を超えなかった場合は、残業代は発生しません。通常の働き方と異なり、日ごとの残業という考え方は無いので注意しましょう。
補足:実労働時間が足りないと給料が減る
総労働時間を超えた分は残業代が出る反面、清算期間内で実労働時間が不足した分は欠勤・遅刻扱いとなり、給料が減額されるか、次の清算期間に不足した労働時間がプラスとなり、総労働時間が増やされます(ただし、法定労働時間の総枠の範囲内)。
Q6.フレックスタイム制に、休日出勤はある?
A.法定休日に出勤すると、休日出勤扱いになる
フレックスタイム制でも、法定休日(週に1日、あるいは4週で4日あたえられる休日)に出社した場合は、休日出勤扱いになります。このとき、35%以上の割増賃金が発生するので、覚えておくといいでしょう。
一方、法定外休日(法定休日の日数を超えて、企業が独自に付与している休日)に出社した場合、休日出勤としてカウントするかは企業によって異なります。就業規則に明記されているので、気になるようでしたら人事部や総務担当へ確認してみましょう。
Q7.有給休暇は、どんな扱いになるの?
A.「1日あたりの標準労働時間分、働いた」とみなされる
フレックスタイム制で有給休暇をとった場合、その日は「1日あたりの標準労働時間分だけ働いた」とみなされます。
標準労働時間は、清算期間と総労働時間から計算可能です。たとえば、清算期間が1ヶ月(20日勤務)・総労働時間が160時間の企業の場合、1日あたりの標準労働時間=8時間です。「標準労働時間」は企業・職業によって多少異なるため、確認しましょう。
Q8.裁量労働制との違いは?
A.裁量労働制は、実際の労働時間にかかわらず「○○時間働いた」とみなされる働き方
裁量労働制は、実際に働いた時間に関係なく「決められたみなし労働時間分働いた」ものとして、給与が支払われる働き方です。
極端な話、1日1時間しか働いていなくても、月60時間残業していても、支払われる給与額は変わりません。出社・退社時間も業務を遂行する手段も労働者が決定するため、自由度が大変高い働き方でもあります。
一方でフレックスタイム制は、あくまで「実際に働いた時間に対して、給与が支払われる」働き方です。出社・退社時間の自由度が高いという点は裁量労働制と似ていますが、実際の労働時間を元に給与額が決まるという点で、大きく異なります。
詳しくは→仕組みをわかりやすく解説 裁量労働制とは?残業代は出ない?
まとめ
フレックスタイム制は、社員が出社・退社時刻を調整できる制度。通勤の混雑・三密を避けるために活用したり、子どもの送り迎えと仕事を両立したりと、得られるメリットは大きいと言えます。
制度をうまく活用するためには、自分がどれくらい働けなければならないかを把握しておきましょう。勤務時刻を定める「コアタイム」と、自分が何時間働く必要があるかを定める「清算期間」「総労働時間」を押さえれば、困ることはありません。
プライベートと仕事の両立に一役買うこの制度、Q&Aを見てぜひ活用してみましょう。
(文:転職Hacks編集部)
この記事の監修者
特定社会保険労務士
西岡 佳誉子
社会保険労務士 小泉事務所
大手社会保険労務士事務所勤務後、2010年7月社会保険労務士小泉事務所 入所。手続き等の業務の他、人材活用に伴う助成金・奨励金の申請、社員教育、賃金・退職金制度に関するコンサルティング、様々な書籍の監修業務に従事している。