残業代ゼロ法案とは?働く人のメリットは?

「成立すれば残業代が出なくなるのでは」と、労働者にとっては不安の大きい残業代ゼロ法案。導入するか否かで2006年頃から議論が続いており、現在は「働き方改革関連法案」とセットで審議されています。

そもそも残業代ゼロ法案とはどんな法案なのでしょうか?私たちの働き方がどう変わるのか、動向を知っておきましょう。

残業代ゼロ法案とは

「残業代ゼロ法案」とは、高年収で専門性が高い労働者を残業代の支払い対象から外す法案です。正式名称は「高度プロフェッショナル制度」といい、労働時間と成果の関連性が高くない労働者に対して、時間ではなく成果で評価する仕組みを新しく作るという狙いがあります。

現在の法案にある条件では全員が「残業代ゼロ」になるわけではなく、対象者は一部の専門性が高い従事者に限られています。しかし、残業を助長しかねないとして成立に猛反対する野党や連合からは「残業代ゼロ法案」と揶揄されています。

残業代ゼロ法案の適用条件は?

残業代ゼロ法案のが適用できる人の具体的な適用条件は(1)特定高度専門業務の従事者(2)年収が1,075万円以上の2つです。ただし、企業がこの制度を使うは本人の同意が必要になります。

(1)特定高度専門業務の従事者

特定高度専門業務に当たるのは、以下のような職業です。「長時間働くほど、必ず成果が上がる」というわけではないと考えられている仕事です。

  • 金融ディーラー
  • アナリスト
  • 金融商品開発職
  • コンサルタント
  • 研究開発職

(2)年収が1,075万円以上

年収が1,075万円以上ある方が対象です。正確には、年間平均給与額の3倍を上回る水準額に該当する人が対象である、といったことが法案要綱に書かれています。

年間平均給与額については、厚生省の「毎月勤労統計調査」の平均月給をもとに、「26万1020円×12ヶ月×3倍」と計算されています。

※参考:「第140回労働政策審議会労働条件分科会 参考資料No.1(2017年9月)」―厚生労働省

働き過ぎを防ぐための健康確保策も

これらの条件だけでは、長時間労働が行われて労働者に健康被害が及ぶ可能性があるため、現在の法案では企業の努力義務として以下の条件を守ることが定められています。(1)は必須、(2)~(5)は選択制で、いずれか1つを選ばなければなりません。

(1)年104日以上かつ4週に4日以上の休日取得
(2)勤務間インターバルの導入と1ヶ月ごとの深夜業の回数制限
(3)1ヶ月または3ヶ月ごとの労働時間の上限設定
(4)2週間連続の休暇の確保
(5)疲労・心身の状況を確認するための健康診断の実施

勤務期間インターバルとは、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定の休息時間を設けなければならないとするものです。労働時間の上限は原則として月45時間、年360時間までとして審議されています(これを超えた場合は罰則あり。ただし、年720時間内の労働を認めるなどの特例も検討されている)。

※参考:「平成29年6月5日労働政策審議会 建議」―厚生労働省

残業代ゼロ法案のメリットとデメリット

残業代ゼロ法案には、働く人にとって以下のようなメリットとデメリットがあります。

メリット

  • 残業する(=非効率な働き方をする)ほど給料が高くなる矛盾が解消される
  • モチベーションアップにつながる
  • 仕事の効率や生産性が向上する
  • プライベートの時間を確保しやすくなる

デメリット

  • サービス残業や長時間労働が助長される
  • 残業代が支払われなくなり給料がダウンする
  • 休日が少なくなるおそれがある
  • 仕事優先になり育児・家事などを行いにくくなる

自分のペースで働きやすくなるため、プライベートの時間を確保しやすくなることがメリットの1つとして挙げられていました。しかしその一方、上記の健康確保策に挙げられた取得休日数や勤務時間の規制の上限ぎりぎりまで労働を強いられ、かえって自由な時間が減るデメリットも可能性としては考えられます。

残業代ゼロ法案、何が問題なのか?

メリットもデメリットもありますが、働く人にとってはネガティブな認識を持たれることが多い残業代ゼロ法案。この法案の問題点を整理してみましょう。

「残業させられ放題」の懸念

現状の高度プロフェッショナル制度では1日8時間、週40時間までの労働規制が適用されなくなり、残業代も支給対象外となるため、サービス残業が増える懸念があります。

日本ではすでに管理職(正式には管理監督者)は労働基準法において残業代の支払い対象外となっています。これは、管理職には役職手当がつけられ、高待遇である代わりに大きな責任を負うため時間の枠を超えて働かなければならないためです。

ただし、管理職者にも深夜の残業代(22時~5時まで)は支給されることになっているのですが、残業代ゼロ法案ではそれすら適用外になるため長時間労働が常態化しやすくなるのではないかと不安の声が上がっています。

また、働き過ぎを予防する策もあくまで努力義務という形にされており、健康確保策としては不十分との見方もあります。

残業代ゼロ法案の対象者および管理職(現在)の手当支給状況の一覧表。法定労働時間・時間外割増・休憩時間・休日・深夜割増、すべての手当が残業代ゼロ法案では×(支給対象外)。管理職(現在)は、深夜割増のみ◯(支給されている)。

対象者が広がるおそれ

現在は年収1,075万円以上という明確な基準がありますが、徐々に基準の金額が引き下げられて対象者が広がるのではないかという不安があります。過去にも「小さく産み、大きく育てる」という形で派遣法の対象者がだんだんと拡大されていった例があるため、「同じことが起きるのではないか」と心配する方が少なくないようです。

“残業体質”の日本、問題の根は深い

高度経済成長時代は労働の成果が時間に比例したため、長く働いた人ほど評価される傾向にありました。しかし、現在は少子高齢化やグローバル化に伴って柔軟な働き方が求められるようになり、従来の働き方は通用しなくなってきています。

Karoshi(過労死)という言葉が海外にも浸透するほど残業問題が深刻化している事態を受けて、政府はさまざまな方法で改善を試みてきました。しかし、なかなか改善には至っていません。例えば、法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えた残業をやむをえず認めるための制度として「36(サブロク)協定」があります。しかし、これを結ぶと制度の穴を突いて青天井に残業させることもできてしまうため、なかなか残業時間は減りません。

残業問題が改善しないのは、そもそも業務量が多すぎるからなのか制度自体に問題があるからなのか結論を出すことは難しいです。しかし、日本の企業の“残業体質”が変わらない限り、残業代ゼロ法案が実行されたとしてもされなかったとしても、ブラック企業や過労死といった問題はなかなかなくならないでしょう。

コラム:「公務員は除外」という噂には誤解も

「公務員だけが特別に除外されている」というのは誤解です。2014年の衆院厚労委員会での民主党議員と厚労省官僚のやり取りをきっかけに、「公務員だけ除外されるのは不公平だ」として一部で批判が起きたことがありました。この件に関する山井和則議員(民主党所属、当時)のつぶやきがTwitter上で1万以上リツイートされ、当時話題を呼びました。

官僚たちが手を振って拒否した理由を「ひどい制度だから除外した」とは一概にはいえない部分もあります。公務員は「国民に奉仕する職業」です。災害時や緊急時は深夜の業務や泊まり込みの待機をすることもあるといいます。霞国公 2017 年残業実態アンケートでは、月平均残業時間が34.1時間(民間平均は10.8時間)であり一部の国家公務員は激務なことが伺えます。

「(ひどい制度だから導入は)とんでもない」というよりは、「すでに長時間労働が起きている状況で導入するのはナンセンスだ」という意味合いでの発言だったのかもしれません。いずれにせよ、残業時間を減らしていく努力は公民ともに必要です。根本的解決につながる議論がなされることを政府に期待したいものです。

※参考:「2017 年残業実態アンケート結果について」―霞が関国家公務員労働組合共闘会議 
/「毎月勤労統計調査 平成28年分結果速報」―厚生労働省

残業代ゼロ法案はいつから始まる?

残業代ゼロ法案は2006年頃から長い間議論され続けており、具体的にいつ始まるかは現状では決まっていません。

成立日は未定。秋の臨時国会に注目

残業代ゼロ法案は、審議のたびに野党や連合から反発を受けて見送られてきたため成立日は未定です。

安倍内閣は早期の成立を目指し、働き方改革法案と高度プロフェッショナル制度、残業規制上限制度などをセットにして審議会に持ち掛けています。2017年9月15日には審議会が行われましたが、残業代ゼロ法案については労働者側から「まだ実施すべきではない」と反対意見が挙がりました。厚生労働省の審議会は反対意見も付記して、同月28日の臨時国会に法案を提出する予定です。

労働者vs使用者 これまでの流れ

法案の成立をめぐって、労働組合連合が立場をひるがえすなどさまざまな動きがありました。これまでの流れを簡単にさらっておきましょう。

残業代ゼロ法案をめぐる年表。2006年:「日本版ホワイトカラー・エグゼンプション制度」が提案される(第1次安倍内閣)。2007年:野党連合から「残業代ゼロ法案」として批判を受ける。⇒見送り/その後、政権交代などにより残業代ゼロ法案の話題は一時的に消滅。2014年6月:「新たな労働時間制度の創設」として形を変えて再検討
(第2次安倍内閣)。2015年4月:「高度プロフェッショナル制度」として労基法改正案が国会に提出されるも、批判を受ける。⇒その後約2年間見送り。2017年7月:反対の姿勢を見せていた連合が、条件つきで容認。しかし、連合内で反発が生じ一転して容認を撤回。2017年8月:安倍内閣が「働き方改革」との1本化を進める。※反対の声も。2017年9月15日:「働き方改革」法案が「おおむね妥当」とされる。※労働者側は一部反対。2017年9月28日:秋の臨時国会に審議会が法案を提出予定。※2017年9月28日時点での情報です。

ホワイトカラー・エグゼンプションとは時間ではなく成果に応じて給料を支払う制度のこと。アメリカでは週455ドル以上の稼ぎがあり、特定の職務に就いている人を対象に実施されています。かつて安倍内閣でもこれを導入しようとしましたが、世論の反発を受け見送りとなりました。

その後も労働者と使用者間の対立は続き、法案の成立には至っていません。残業代ゼロ法案の今後の行方に注目です。

まとめ

残業代ゼロ法案によって働き方が改善されるかどうかは、結局のところ企業や職場による…といったところではないでしょうか。

労使間の対立は続き、残業代ゼロ法案の導入時期はいまだに予想がつきませんが、私たちの働き方や生活に大きく影響しうるため、今後の動向に注目です。

 

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