すぐわかる図解つき 正しい残業代の計算方法
給与明細には、基本給のほかに「時間外手当」「残業手当」といった項目があります。残業した分がもらえる、と考えているだけで、正しく計算されているか、確認したことのない人も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、正しい残業代の計算方法を解説します。今月の残業代がいくらなのか手軽に計算したい人も、残業時間に対して残業代が少ないので正しく把握したいという人も、この記事を読めば正しい残業代を自分で計算できるようになります。
また、未払いの残業代を会社に請求したいと考えている人は、「未払い残業代の請求方法 完全ガイド」も併せてご覧ください。
残業代発生の基本と正しい計算方法
残業代を計算するためには、1時間あたりの給料がいくらで、何時間残業したかを把握することが必要です。
1時間あたりの給料は「給与明細」から、何時間残業したかは会社の勤怠管理システムやタイムカードなどで「実働時間」を確認すればわかります。計算する前に準備しておきましょう。
「週40時間、1日8時間」を超えたら25%割増の残業代が発生
「週40時間、1日8時間」の法定内労動を超えて働くと、その時間は「残業」と呼ばれます。残業に発生する賃金は、1時間あたりの賃金の25%増となります。これが残業代の基本です。
たとえば定時が9時~18時(休憩1時間)、週5日で働いていれば週40時間働いていることになります。この働き方をしている人が18時を過ぎても仕事をしていれば、残業代が発生するというわけです。
コラム:法定時間外労動と法定時間内残業
上記のように会社が決めた定時がすでに週40時間を超えている人には「法定時間外労動」しか発生しませんが、定時が週40時間に満たない場合は、「法定時間内残業」が発生する可能性があります。
時短勤務の人や週に働く日数の少ない人、会社の定時が8時間よりも短く設定されている人などに該当します。双方の違いは以下のとおりです。
- 法定時間外労動
労働基準法第32条で「法定内労働」と定められている「週40時間、1日8時間」を超えた際に発生。「1時間あたりの賃金×1.25」で計算します。
- 法定内残業
「週40時間、1日8時間」には満たないものの、企業の定めた所定労働時間(定時)をオーバーした際に発生。法律上、割増賃金の規定はなく、1時間あたりの賃金が支払われていればOK。ただし独自に割増賃金を設定している会社もあるようです。
残業時間の基本的な数え方
自分がどのくらい残業しているのかわからない人は、まずは会社の決めた定時(所定労動時間)を確認してみましょう。実働時間が所定労動時間を超えていれば、超えた分が残業時間となります。
また、実働時間は実際に働いていた時間を意味します。下記のように、働いていなかった時間は含まれないことに注意しましょう。
・休憩時間
・遅刻や早退などで勤務していなかった時間
・有給休暇を取得した日
残業代の基本的な計算式
大まかな残業代は、「1時間あたりの賃金(時給)×1.25(割増率)×残業時間」で算出できます。
1時間あたりの賃金がわからない場合は、月給÷(1日の所定労働時間〈定時〉×21日〈1ヶ月の平均勤務日数〉)で割り出しましょう。1ヶ月の勤務日数は、休みの多い月などは21日よりも少なくなります。
会社によって、月間平均所定労働日数や月間平均所定労働時間を定めていることもあるので、就業規則を確認してください。
例えば月給25万円、定時が9時~18時(実働8時間)の人が1ヶ月で20時間残業したとすると、残業代は以下のように計算できます。
1時間あたりの賃金[25万円/8時間×21日]×1.25×20時間
=1時間あたりの賃金1488円×1.25×20時間
=37,200円
残業代を簡単に知りたいという人は、まずはこの式に当てはめて計算してみましょう。
より正確な残業代を計算するには
さらに正確な残業代を知りたい場合には、「1時間あたりの賃金(時給)×割増率×残業時間」の計算式に、月給に含まれる諸手当や、残業の種類ごとに異なる割増率を加えて計算する必要があります。計算式は以下のとおり。
諸手当と割増率について、さらに詳しく説明していきます。
諸手当を除外して、より正確な時給を算出
1時間あたりの賃金をより厳密に計算するためには、月給から通勤手当や住宅手当を引いて計算する必要があります。給与明細を見れば自分がもらっている手当がわかりますので、確認して計算してみましょう。
引かれる手当は主な以下のとおり。
・家族手当(扶養手当・子女教育手当)
・通勤手当
・別居手当(単身赴任手当)
・子女教育手当
・住宅手当
・臨時に支払われた賃金
・1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与、精勤手当など)
これら手当であっても、一律で支払われている場合は割増賃金の計算の基礎から除外できないケースもあるので、就業規則を確認の上計算してください。
ちなみに社会保険労務士の受験者などは、これらの頭文字をとって「かつべしじゅうりいち」と覚えるのが定番のようです。
残業の時間帯や休日によって、異なる割増率を掛ける
40時間、1日8時間を超えた「法定時間外労働」には基本的に25%の割増賃金が支払われますが、法定時間外労働の中でも割増率が異なるケースがあります。
たとえば定時の18時を過ぎても残業が続き、22時以降になった場合は、法定時間外労働の25%に深夜残業として25%が加算され、割増率は合計50%となります。
割増率の一覧は以下のとおり。「時間外労働+深夜労働」など異なる割増賃金を合算できるパターンもありますので、確実に計算しましょう。
法定休日とは、労働基準法で定められ、「週1日」または「4週間を通じて4日以上」必ず与えられる休日です。必ずしも暦通りの土日や祝日が該当するわけではなく、企業によって定められた曜日やシフト等に従います。
土日休みではない仕事の人は、就業規則などを確認してみましょう。「週1日」または「4週間を通じて4日以上」の休日がもらえていない場合は、出勤日に割増の残業代が発生している可能性があります。
正確な残業代の計算シミュレーション
ここまで説明してきたことを使って、諸手当や残業の種類ごとの割増率を踏まえた正確な残業代の計算をシミュレートしてみましょう。
Aさんは9~18時定時(休憩1時間)の会社で、月給28万2000円で働いています。上記の計算式を使って、ある1週間の残業代を算出してみましょう。
(1)まずは1時間あたりの賃金を算出
まずは1時あたりの賃金を計算してみましょう。Aさんの月給と手当は以下のとおりです。
月給(手当含む):28万2000円
通勤手当:1万円
住宅手当:2万円
これを当てはめると、1時間あたりの賃金は下記のように計算できます。
Aさんの1時間あたりの賃金は、1500円ということがわかりました。
(2)残業の種類ごとに残業時間を整理
次に、残業の種類ごとに、Aさんの1週間の残業時間をまとめ、割増率を確認してみましょう。
<月~金曜日>
月~金曜日までは毎日9時間働いていますが、法定労働時間は8時間ですので、1日1時間オーバー×5日=「5時間」の法定時間外労働(残業)が発生しています。
<土曜日>
Aさんの会社では、土曜日は所定休日(法定休日以外の休日)です。1週間の労働時間が40時間を超えている場合、所定休日に働いた時間は法定時間外労働(残業)として扱われます。
Aさんは月~金曜日までに40時間以上働いているので、土曜日の「12~22時」の労働時間である10時間は、すべて法定時間外労働(25%割増)の扱いとなります。
また、22~23時の1時間は「深夜労働」の扱いとなり、時間外労働の25%割増に深夜労働の25%を加算する必要があるので、50%割増となります。
<日曜日>
法定休日(労働基準法によって定められた休日)である日曜日には、9時間働いています。法定休日に働いた分は、すべて休日労動の割増賃金(35%割増)が発生します。
これらを整理すると、Aさんの残業時間は下記のようにまとめられます。
法定時間外労働(25%割増):15時間
法定時間外労働+深夜労動(50%割増):1時間
休日労動(35%割増):9時間
(3)1時間あたりの賃金と割増率、残業代を掛け合わせる
これでAさんの1時間あたりの賃金、さらに残業の種類ごとの割増率と残業時間がわかりました。これを式にあてはめて計算してみましょう。
法定時間外労働(25%割増)
1500円×1.25×15時間=28,125円
法定時間外労働+深夜労動(50%割増)
1500円×1.5×1時間=2,250円
休日労動(35%割増)
1,500円×1.35×9時間=18,225円
これらを合算して、残業代の合計を算出してみましょう。
Aさんの1週間のこの週の残業代は、48,600円だということがわかりました。
コラム:残業代、残業時間の端数はどうなる?
残業代の計算をする際、端数(小数第一位以下)が生じた場合は、50銭未満の端数を切り捨て、50銭以上1円未満の端数は1円に切り上げて処理します。
※参考:厚生労働省 東京労働局 「残業手当等の端数処理はどうしたらよいか」
また、労働時間はたとえ1分であってもカウントされますが、企業の事務処理を簡単にするため、1ヶ月間の時間外労働の合計に30分未満の端数が出たら切り捨て、30分以上の端数は1時間に切り上げることができます。
ただし、これはあくまで1ヶ月間の総労働時間数に対する規定です。1日単位で、例えば2時間15分の残業を2時間で処理することは違法ですので、自分の残業代を確認する際は注意して見てみましょう。
ケース別 残業代の考え方と計算方法
ここでは、さまざまな勤務体系で働いている人や役職者などの残業代について、考え方や計算方法を見ていきます。
どのケースでも「残業」と認められた労働に対しては、残業代は発生します。
裁量労働制(みなし労働時間制)
8時間以上のみなし労働時間と深夜労働・休日労働に発生
裁量労働制とは、実際働いた時間に関係なく、事前に決めた時間働いたと「みなす」勤務体系です。「みなし労働時間制」とも言われます。
ちなみに、みなし労働時間制には、事業場外労働のみなし労働時間制、裁量労働制(専門業務型・企画業務型)があります。
例えば、専門業務型の裁量労働制で、みなし労働時間を1日8時間とした場合には、労働時間が5時間の日も、10時間の日も、8時間労働したこととして扱われます。そのため、原則として残業はありません。
ただし、規定のみなし労働時間が法定労働時間である1日8時間を超えている場合、法定労働時間を超過した時間は「残業」扱いで割増賃金が支払われます。
また、裁量労働制は、深夜労働と休日労働には適用されませんので、深夜労働と休日労働があったときも割増賃金が支払われます。なお、一定時間分の残業代相当額を、固定残業代としてあらかじめ支払っている場合には、固定残業を超過した分の割増賃金が支払われることになります。
企業が裁量労働制などのみなし労働時間制を設定するためには、厳しいルールがあります。それらを満たしていない場合は、そもそもみなし労働時間制自体が成立していない可能性があるので、未払い残業代の請求を考えている人はチェックしてみましょう。
管理職
実質が伴わない「名ばかり管理職」は残業代発生の可能性あり
労働基準法では、管理監督者(管理職)には残業代や休日出勤手当を支払わなくていいことになっています。
しかし、労働基準法上の「管理監督者」としての権限が与えられていないにもかかわらず、管理職として扱われている「名ばかり管理職」の人は、本来であれば残業代をもらえます。
「管理監督者」を判断するポイントは以下のとおり。
- 経営方針の決定に参画している
- 労働者の管理監督や指揮命令、採用等の権限を持つ
- 出退勤について規制を受けず、勤務時間を自由に決められる
- 職務の重要性に見合う十分な役職手当などが支給されている
管理職とされているにもかかわらず上記に該当していない人は、「名ばかり管理職」かもしれません。名ばかり管理職であると認められれば、一般職と同じように計算して割り出された残業代が支給されます。
管理監督者であっても「深夜手当」は計上できる
労働基準法上の管理監督者であったとしても、午後10時~翌午前5時までの深夜勤務については、割増賃金の25%を計上することができます。
ただし、管理監督者は「残業」という概念がないので、時間外勤務(25%)や休日勤務(35%)の割増は計上できません。
通常の深夜残業は、「時間外勤務の割増25%+深夜勤務の割増25%=50%」の割増率で計算しますが、管理職は「時間外勤務の割増」はもらえません。つまり、深夜残業でも、時間当たり賃金に「深夜勤務の割増25%」だけを乗じます。
同様に、休日深夜勤務の場合も、一般職は「休日勤務の割増35%+深夜勤務の割増25%=60%」の割増率になりますが、管理監督者は「深夜勤務の割増25%」だけとなります。
日給制
月給制と同様に計算すればOK
日給制でも、所定労働時間を超えた労働時間については残業が発生します。その場合、1時間あたりの賃金は、契約時に決めた日給÷所定労働時間で計算します。
例えば、「日給:12,000円、1日の所定労働時間:6時間」という契約で、9時間労働をした場合、時給は12,000円÷6時間=2,000円となります。
8時間までは法定内労働に当たるので、時間外であっても時給は2,000円ですが、8時間を超えた分は25%の割増賃金となります。以上を踏まえると、残業代は以下のように計算できます。
6~8時間までの2時間の労働分:2,000円×2時間=4,000円
8時間を超えた1時間の労働分:2,000円×1.25×1時間=2,500円
残業代合計:4,000円+2,500円=6,500円
残業代は6,500円となり、残業代も含めた日給は18,500円になります。
変形労働時間制/フレックスタイム制
基準時間を超えたら残業代が発生
変形労働時間制とは、簡単に言うと、労働時間の基準(定時)を1日単位ではなく、月単位・年単位で清算する制度です。1日何時間働いても、月・年単位で決めた時間内で収まっていれば、残業はしていないことになります。
ただし所定労働時間を設定する際には、1週平均40時間以内におさまるようにしなければいけません。
土日出勤の多い仕事や、シフト制、曜日や時期ごとで繁忙期・閑散期のある業界や職種では、変形労働時間制が積極的に取り入れられています。
また、フレックスタイム制とは、定められた労働時間の中であれば、労働者自身が出社時間と退社時間を決めることのできる制度です。
この制度において、労働時間の基準となる期間を「清算期間」と言います。清算期間は2019年4月以降、3ヶ月以内となりましたが、一般的には、月単位で清算する企業が多いようです。
1ヶ月単位の変形労働時間制または1年単位の変形労働時間制では、対象期間を1ヶ月とした場合も1年とした場合も、「週の労働時間の平均が40時間を超えていないか」が、残業代発生の基準となります。この基準に則り、1ヶ月の所定労働時間の合計が以下の表の上限時間を超えたときに、残業代(25%割増)が発生します。
所定労働時間が以下の表の数値を超えると、残業代(超過時間×1.25)が発生します。
便利に活用! 残業代が計算できるツール
最後に、自分の残業代がいくらなのかを計算できるツールを紹介します。用途に応じて使い分けてみましょう。
すぐに残業代を知りたい人はサイト上で簡易計算
とりあえず自分がもらっている残業代が正しいのか、また今月の残業でいくらもらえるのかの目安が知りたい人などは、簡易計算できるサイトを利用しましょう。
簡単に使える分、誤差が出てしまうことに注意してください。
Casio 「Keisan」 残業代の計算
法定時間外労働のほか、深夜労働、法定休日、月60時間超の割増の有無を入力することで、残業代の適正金額を計算できます。
細かく計算したい人は無料ソフトを使おう
より細かく残業代を計算したい人は、無料ソフトを使ってみましょう。細かい入力が必要で手間がかかる分、正確な残業代が計算できます。
残業代計算ソフト 「給与第一」
京都第一法律事務所が開発したソフト(Excelシート)。そのまま訴訟資料としても利用できるほど細かく正確で、裁判所でも活用されています。
残業証明や計算が一手にできるスマホアプリ
残業時間の管理や残業代の自動計算ができる便利なスマートフォンのアプリもあります。未払いの残業代を請求したい場合の証拠集めにも便利です。
残業証明アプリ(iPhoneのみ対応)
弁護士の監修により開発されたアプリ。GPS機能により、職場にいて残業したことを2年分自動記録でき、支払われるべき残業代も自動計算してくれます。適切な残業代の目安が把握できるとともに、企業に残業代を請求する際の法的証明にも使用できます。
弁護士が開発し、残業代を請求することに特化したアプリ。スマホのGPS機能を使い、自動で出勤・退勤を記録することが可能です。正確な残業代も自動で計算できる他、勤務先や自宅近くの弁護士検索機能もついています。示談交渉や裁判の証拠としても使われており、100万円以上の残業代を獲得した実例もあります。
自力算出が不安な人は、相談窓口へ
計算ツールを使っても入力内容に不明点がある、自分で計算した残業代が合っているかわからないという人は、相談窓口で専門員に算出してもらう方法もあります。
まずは、厚生労働省が管轄する最寄りの労働基準監督署や、総合労働相談コーナーに足を運んでみましょう。
その際は、残業代を算出するために必要となる、以下の資料を持参しましょう。
・雇用時にもらった労働条件を示した書類(雇入通知書、労働条件通知書など)
・就業規則、賃金規程、退職金規程などの社内規程類
・出退勤の記録(タイムカード、メモなど)
さらに詳しく必要な書類を知りたい人は、未払い残業代の請求方法 完全ガイド 4.残業代を請求するための証拠の残し方を参照ください。
まとめ
残業代の正しい計算方法を知り、自分の残業代を把握することはできましたか?
残業代にもさまざまな種類があり、難しいと思うかもしれませんが、残業時間と割増率がわかれば計算は単純です。
せっかく遅くまで残って働いたのであれば、その分残業代ももらいたいと思うのは当然です。万が一、算出された残業代を満額支給されていなかった場合は、自分の計算で合っているのか会社に問い合わせてみてもよいかもしれません。
この記事の監修者
特定社会保険労務士
成澤 紀美
社会保険労務士法人スマイング
社会保険労務士法人スマイング、代表社員。IT業界に精通した社会保険労務士として、人事労務管理の支援を中心に活動。顧問先企業の約8割がIT関連企業。2018年より、クラウドサービスを活用した人事労務業務の効率化のサポートや、クラウドサービス導入時の悩み・疑問の解決を行う「教えて!クラウド先生!®(商標登録済み)」を展開。