仕組みをわかりやすく解説 裁量労働制とは?

2024年4月から、裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要になります。

「裁量労働制」とは具体的にどんな働き方なのでしょうか?

裁量労働制とはどんな制度?

裁量労働制とはどんな制度なのでしょうか?仕組みや「こんな時はどうなる?」といった疑問にお答えします。

裁量労働制とは◯時間働いたとみなす制度

裁量労働制とは、あらかじめ労使協定で「みなし労働時間」を決め、実際の労働時間がそれより長くても短くても、「決められた時間分を働いた」とみなす制度です。

みなし労働時間を1日8時間と労使協定で定めた場合、実労働時間が5時間であっても10時間であっても、どちらも「8時間働いた」とみなします。

みなし時間より実労働時間が短くても給与が減ることはない一方、実労働時間がみなし労働時間より長くても、時間外手当が支払われることもありません。

ただし、裁量労働制を導入している企業では、みなし労働時間を法定労働時間よりも長く設定している場合もありますその場合は、法定労働時間を越えた分の時間外手当は必ず支給しなければなりません。

▼みなし労働時間と時間外手当の例

所定労働日数が22日の1カ月のみなし労働時間が220時間の場合
→法定労働時間(1日8時間・週40時間まで)は176時間
→法定『外』労働時間は44時間
→1日あたり2時間分の時間外手当はあらかじめ給与に組み込まれている

「遅刻」「半休」「残業」という概念はなくなる

裁量労働制の下では、1日の実労働時間に関係なく「労使協定で決められた時間分働いた」とみなすため、遅刻や半休、残業というものはありません

ただし、「朝に会議が入っていたのに昼に出社する」「毎日午後には帰ってしまい、仕事が進まない」など、業務に支障を来すことは評価に影響してしまうので、気をつけましょう。

裁量労働制とフレックスタイム制は異なる

裁量労働制とフレックスタイム制は、似ている制度として混同されがちですが、実は労働時間の考え方が全く異なる制度です。

裁量労働制とフレックスタイム制の違い

裁量労働制は実労働時間に関係なく「◯時間働いたとみなす」制度です。

一方、フレックスタイム制は「△カ月の期間で、◯時間働くことを前提に、始業と終業の時刻を従業員が決める」制度です。

※フレックスタイム制について詳しくは→フレックスタイム制とは?【図解】
※裁量労働制が採用される仕事について詳しくは→裁量労働制で働けるのはどんな人?

【Q&A】よくある裁量労働制の4つの疑問

裁量労働制では時間外手当が支払われませんが、休日出勤や深夜労働をした場合はどうなるのでしょうか?また、有給や欠勤はどう扱われるのでしょうか?

Q1:休日出勤をした場合はどうなる?

裁量労働制だと、時間外手当はないと思いますが、休日出勤をしても何も手当の支払いはないのでしょうか?

裁量労働制のみなし労働時間はあくまで「所定の労働日(平日)に◯時間働いたとみなす」ものであるため、土日休みの会社で土曜日に休日出勤をすると、働いた時間分だけ給料が出ます

法定休日に出勤をした場合は、働いた時間分の給与に加えて、35%以上の割増賃金が上乗せされます。

例えば、時給換算1,500円で法定休日に8時間働くと、16,200円以上が休日出勤手当として支払われます(振替休日または代休を取得した場合はこのとおりではありません)。

▼休日出勤の賃金の計算例

=1時間あたりの賃金×働いた時間×1.35以上
=1,500×8×1.35以上
=16,200円以上

Q2:深夜労働をした場合は?

裁量労働制で深夜労働をした場合の給与はどうなるのでしょうか?

22時から翌朝5時までの深夜労働時間帯に働いた場合は、裁量労働制であっても、その時間分は25%以上の深夜手当が支給されます。

注意点としては、その日が所定の労働日の場合、深夜に働いても、時間については「みなし労働時間分だけ働いた」とみなされること。その分の給料は通常の給料にあらかじめ含まれているため、追加で支給されるのは割増分だけです。

時給換算1,500円で22時~翌1時の3時間深夜労働をした場合、通常の給料に3時間分の割増賃金1,125円以上が足されます。

▼深夜労働の割増賃金総額の計算例

=1時間当たりの賃金×深夜労働時間×25%以上
=1,500×3×0.25以上
=1,125円以上

Q3:裁量労働制の有給休暇(有給)はどんな仕組み?

裁量労働制でも有給はもらえますよね…?有給をとった場合はどのように扱われるのでしょうか?

有給は、裁量労働制の場合でも、裁量労働制ではない人と同様に付与されます。扱いも同様で、「休んでも給与が支払われる休暇」となります。

有給をとった日の給与は「所定労働時間の賃金」がそのまま支給されることが多いものの、どのように計算されるのかは会社によって異なります。詳しくは会社の就業規則を確認しましょう。

Q4:欠勤するとどうなる?

裁量労働制で欠勤した場合は、どう扱われるのでしょうか?

有給を使わずに欠勤した場合は、裁量労働制だからといって「みなし労働時間分働いた」とされることはなく、「欠勤」として扱われます

欠勤した場合に、欠勤分の給与が引かれるかどうかは、会社によって異なります。詳しくは就業規則を確認してみましょう。

コラム:裁量労働制は「みなし労働時間制」の一つ?

みなし労働時間制とは、実際の労働時間にかかわらず「あらかじめ決めた時間分を働いたとみなす」労働時間制度のことで、裁量労働制も、この「みなし労働時間制」の一つです。

みなし労働制・事業外みなし労働時間制・裁量労働制の解説

みなし労働時間制には、裁量労働制のほかに「事業場外労働のみなし労働時間制」もあります。

事業場外労働のみなし労働制とは、訪問活動をメインにする営業職など、会社で仕事を行うことが少なく労働時間が算定しづらい労働者に対して、事前に取り決めた労働時間分を働いたと「みなす」制度です。

※みなし労働時間制について詳しくは→残業代やメリット・デメリットを解説 みなし労働時間制とは?

裁量労働制で働けるのはどんな人?

裁量労働制は、働き方の多様化にともない注目を集めていますが、実は制度を適用できる仕事は限られています。

裁量労働制には2つの型がある

裁量労働制にふたつの型があります。「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」です。

それぞれ、対象となる職種や業務の範囲が法律で定められていますので、順に確認していきましょう。

「専門業務型裁量労働制」とは?

専門業務型裁量労働制の対象となるのは、以下の19業務。

【専門業務型裁量労働制の対象】 (1)新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務 (2)情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であつてプログラムの設計の基本となるものをいう。(7)において同じ。)の分析又は設計の業務 (3)新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法(昭和25年法律第132号)第2条第4号に規定する放送番組若しくは有線ラジオ放送業務の運用の規正に関する法律(昭和26年法律第135号)第2条に規定する有線ラジオ放送若しくは有線テレビジョン放送法(昭和47年法律第114号)第2条第1項に規定する有線テレビジョン放送の放送番組(以下「放送番組」と総称する。)の制作のための取材若しくは編集の業務 (4)衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務 (5)放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務 (6)広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務) (7)事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務) (8)建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務) (9)ゲーム用ソフトウェアの創作の業務 (10)有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務) (11)金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務 (12)学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。) (13)公認会計士の業務 (14)弁護士の業務 (15)建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務 (16)不動産鑑定士の業務 (17)弁理士の業務 (18)税理士の業務 (19)中小企業診断士の業務

上記の業務であれば無条件に裁量労働制が適用されるわけではなく、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる場合、裁量労働制を適用することができます。

専門業務型裁量労働制を導入するには、事業主と労働者の過半数で組織している労働組合、または労働者の過半数を代表する者との間で、労使協定を結ぶことが必要です。

※参照:専門業務型裁量労働制(厚生労働省労働基準局監督課)

「企画業務型裁量労働制」とは?

企画業務型裁量労働制の対象となるのは、以下の要件に当てはまる4つの業務です。

【企画業務型裁量労働制の対象】 (1)事業運営に関する事項についての業務 (2)企画、立案、調査および分析の業務 (3)業務の性質上、その業務を適切に遂行するためには、その遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務 (4)遂行手段や時間配分の決定などについて、使用者が具体的な指示をしない業務

具体的には経営企画、営業企画、生産企画、人事・労務、財務・経理、広報といった部署の仕事が、企画業務型裁量労働制の対象になる職種として挙げられます。

企画業務型裁量労働制を導入するには「委員の半数が労働者である」などの要件を満たす労使委員会を設置し、その委員の4/5以上の多数による議決で、8つの事項を決議する必要があります。また、事業主は、決議が行われた日から起算して6カ月以内ごとに1回、所定様式により所轄労働基準監督署長へ定期報告を行うことが必要です。

※参照:企画業務型裁量労働制(厚生労働省労働基準局監督課)

裁量労働制のメリットとデメリット

自由で働きやすいように感じる裁量労働制ですが、メリットがある反面デメリットも存在します。具体的にどんなメリットとデメリットがあるのかを、まとめました。

メリットは生産性の向上が期待できること

裁量労働制のメリットは、「時間的な融通が利き、生産性の向上が期待できる」こと。裁量労働制は、前述のとおり、実労働時間に関係なく「◯時間働いたとみなす」制度であるため、実際の労働時間がみなし労働時間を下回った場合でも、賃金が減ることはなく、あらかじめ決めた賃金が支払われます。

そのため、業務を効率化させて早く退勤し、退勤後のプライベートの時間を充実させることも可能で、結果として生産性の向上に繋がります。

「月曜日は仕事を長めに頑張り、火曜日は仕事の時間を短く切り上げてプライベートの時間を多くとる」というような働き方も裁量労働制なら可能です。

みなし労働8時間・休憩1時間英訳の働き方例の図解:実労働時間が10時間の場合でも4時間場合でも、8時間労働扱いとなる

このような働き方をしても、月曜日・火曜日ともに「みなし時間分働いた」とみなされます。

他にも、裁量労働制では以下のような働き方ができるでしょう。

  • 月の前半に集中して仕事をこなし、後半はプライベートの時間を重視する
  • 子どもが早く帰ってくる水曜日は、家族との団らんの時間をとるために早く帰る

このように、どれだけ働いても同じ時間労働したとみなされるため、日によって労働時間を変えることができるという自由度の高さが、裁量労働制の大きなメリットといえます。

デメリットは業務量と報酬がアンバランスになりがちなこと

1長時間働いても時間外手当はなし

裁量労働制では、「みなし時間が法定労働時間を超えた」「休日労働や深夜労働をした」という例外を除き、労働時間が長くても時間外手当が出ません

実際の労働時間が10時間であっても12時間であっても、みなし時間が8時間なら時間外手当はゼロ。どんなに働いても、みなし時間分しか働いたことになりません。

ただ、企業によっては「みなし労働時間を実労働時間が超えた場合、時間外手当を別途支給する」としているところもあるので、就業規則を確認してみましょう。

2みなし労働時間と業務量が見合わない場合がある

みなし労働時間と業務量が見合わないケースは珍しくなく、決められたみなし時間では、こなせない仕事量や成果を求められる場合もあります。

実際、「求められる目標が高く、クリアするためには長時間労働になってしまう」など、裁量労働制におけるみなし時間と業務量のバランスの悪さに対して不満の声が出ることは、少なくありません。

一歩間違えると、裁量労働制は「定額での働かせ放題」という状況にもなりかねません。

コラム:裁量労働制を廃止する企業も?

裁量労働制は自由度が高い反面、「定額働かせ放題」も起こりやすい制度。裁量労働制が適用される場合は、労働時間、業務量、報酬のバランスが著しく崩れないように気をつけましょう。

自由度の高い働き方が会社の実態や文化にあわず、裁量労働制を廃止する企業も出ています。

みずほフィナンシャルグループは2022年に、約20年間導入していた企画職の裁量労働制を廃止。個々人の労働時間が見えにくく、長時間労働を懸念する声が上がっていました。裁量労働制を廃止することで労働時間を見える化し、社員が働きがいを感じられる環境づくりを進めていくといいます。

※参考:「みずほ、働き方「見える化」へ 裁量労働制を廃止」(2022年6月1日)

まとめ

裁量労働制は、実労働時間にかかわらず「みなし労働時間分働いた」とみなされる制度。

「自分の裁量で日々の労働時間を調整できる」というメリットがある一方、「企業側の管理体制、実施方法によっては長時間労働につながりかねない」というデメリットもあります。

就職・転職時は不利な条件で働かされることがないよう、しっかりと条件を確認しましょう。

この記事の監修者

社会保険労務士

三角 達郎

三角社会保険労務士事務所

1972年福岡県生まれ。東京外国語大学卒業。総合電気メーカーにて海外営業、ベンチャー企業にて事業推進を経験後、外資系企業で採用・教育・制度企画・労務などを経験。人事責任者として「働きがいのある企業」(Great Place to Work)に5年連続ランクインさせる。
現在は社会保険労務士として、約20年の人事キャリアで培った経験を活かして、スタートアップ企業や外資系企業の人事課題の達成から労務管理面まで、きめ細やかにサポートを行っている。
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