転職後の手続きもこれで安心! 確定拠出年金の移換手続きは?
老後の生活資金として加入している人も多い、確定拠出年金。転職する際には、6ヶ月以内に移換手続きが必要です。
ここでは、企業型確定拠出年金に加入している場合、iDeCoに加入している場合、それぞれの移換手続き方法を解説するほか、確定拠出年金の基礎知識や、解約したい場合、転職後に放置してしまった場合の手続きについても紹介します。
「企業型確定拠出年金」に加入している人が転職する際の手続き
転職時に企業型確定拠出年金を移換する手続きについて、下記の状況別に説明します。
企業型確定拠出年金を移換する際には、転職先に企業型確定拠出年金の制度が整っているかを確認する必要があります。転職先に制度の有無を確認してから手続きを行いましょう。
転職先に企業型確定拠出年金が「ある」場合
転職先の会社にも企業型確定拠出年金がある場合、前職でも加入していたことを転職先の担当者に伝えましょう。
「個人別管理資産移換依頼書」に必要事項を記入して、転職先に提出すれば、手続きを進めてくれます。
移換に関しては、個人でその他の手続きをする必要はありません。
ただし、用意されている金融商品は、企業によって異なるため、今まで運用していた商品は一度売却・換金され、新たな金融商品に自動配分されてしまいます。どのような商品に配分されたかについては、移換完了の通知を確認しましょう。
移換完了の通知が届いたら、金融商品をよく確認し、再度金融商品を選び直す必要があります。
転職先に企業型確定拠出年金が「ない」場合
転職先に企業型確定拠出年金がない場合、
- iDeCoに移換する
- 確定給付企業年金に移換する
の2種類の方法があります。
1.「iDeCo」に移換する
転職先に企業型確定拠出年金がない場合、基本的にはiDeCoへの移換となります。
※企業型確定拠出年金とiDeCoの違いについては→企業型・iDeCo(個人型)って何が違う?
iDeCoを取り扱っている銀行・証券会社・保険会社などの金融機関から1つ選んで、iDeCoの口座開設の手続きと、資産を移す手続きをしましょう。
基本的な流れは以下のとおりです。
(1)加入先の金融機関を選ぶ
※詳しくは→運営管理機関一覧
▼
(2)電話やメールなどで口座開設の資料や申込書、「個人別管理資産移換依頼書」を取り寄せる
▼
(3)申込書や個人別管理資産移換依頼書を加入先に提出する
▼
(4)移換完了の通知が届いたら、運用する金融商品を選び直す
iDeCoは取り扱っている金融機関が多く、口座管理手数料や信託報酬などの手数料、金融商品のバリエーションが異なります。そのため、いくつかの金融機関を比較して自分に適したものを選びましょう。
また、移換が完了すると、資産が自動配分されてしまいます。移換完了の通知が届いたら、金融商品を確認し、再度自分の方針に沿った金融商品を選び直しましょう。
2.「確定給付企業年金」に移換する
転職先に企業型確定拠出年金はないが、「確定給付企業年金」の制度がある場合、資産を移せる可能性があります。
規約によって認められている場合のみ可能なため、まずは転職先の担当者に前職で企業型確定拠出年金に加入していたことを伝え、移換が可能であれば手続きを行いましょう。
手続きでは、確定給付企業年金の実施事務所または企業年金基金で用意される専用の申込書が必要なため、企業を通して手続きしなければなりません。
▼確定給付企業年金とは?
企業が用意する年金制度の1つで、「給付額」があらかじめ決められているのが特徴です。年金資産の運用は、企業が一括して行い、運用リスクは企業が負います。そのため、もし運用に失敗しても、企業が補填してくれるため、損をするリスクがありません。
その代わり、自己都合退職の場合は一定の減給、懲戒解雇になった場合は、不支給となるのが一般的です。
なお、確定給付企業年金に加入していた人が転職を機に確定拠出年金に移換することもできます。
退職後、企業に勤めない場合
公務員や個人事業主(自営業)、専業主婦(夫)になる、6ヶ月以上無職になるなど、退職後に企業に勤めない場合、資産をiDeCoに移す必要があります。
※企業型確定拠出年金とiDeCoの違いについては→企業型・iDeCo(個人型)って何が違う?
iDeCoを取り扱っている銀行・証券会社・保険会社などの金融機関から1つ選んで、資産を移す手続きと、iDeCoの口座開設の手続きをしましょう。
基本的な流れは以下のとおりです。
(1)加入先の金融機関を選ぶ
※詳しくは→運営管理機関一覧
▼
(2)電話やメールなどで口座開設の資料や申込書、「個人別管理資産移換依頼書」を取り寄せる
▼
(3)申込書や個人別管理資産移換依頼書を加入先に提出する
▼
(4)移換完了の通知が届いたら、運用する金融商品を選び直す
iDeCoは取り扱っている金融機関が多く、口座管理手数料や信託報酬などの手数料、金融商品のバリエーションが異なります。そのため、いくつかの金融機関を比較して自分に適したものを選びましょう。
また、移換が完了すると、資産が自動配分されてしまいます。移換完了の通知が届いたら、金融商品を確認し、再度自分の方針に沿った金融商品を選び直しましょう。
コラム:企業型確定拠出年金の全額移換の条件は、勤続年数3年以上
転職前の会社に3年以上勤めていた場合、これまで企業型確定拠出年金として積み立てていた資産の全額を移換することができます。
一方、勤続年数が3年未満の場合、会社が支払っていた掛金が引かれる可能性があります。退職前には、まずその点について企業の担当者に確認してください。
「iDeCo」に加入している人が転職する際の手続き
iDeCoに加入中、転職して勤務先が変わったときには変更届の提出が必要です。
ここでは、iDeCo(個人型確定給付年金)に加入していた人が転職する場合の手続きについて下記のパターン別に解説します。
転職先に企業型確定拠出年金が「ある」場合
転職先に企業型確定拠出年金がある場合、iDeCoの手続きとしては以下の2種類があります。
- 企業型確定拠出年金に移換する
- iDeCoと企業型確定拠出年金に同時に加入する
ただし、2の場合は、企業が同時加入を認めていなければなりません。
1.「企業型」確定拠出年金に移換する
転職先に企業型確定拠出年金があり、iDeCoとの同時加入が許されていない場合は、企業型確定拠出年金に資産を移さなければなりません。
iDeCoの「加入者資格喪失届」を運営管理機関に提出して加入者資格を喪失させましょう。
その後の手続きは、転職先の担当者に申告すれば行ってもらえます。
2.「企業型」確定拠出年金と「iDeCo」に同時加入する
企業型確定拠出年金とiDeCoへの同時加入を認めている企業もあります。
2つの制度それぞれの知識が求められるため、上級者向けの方法ですが、企業型確定拠出年金に加入しつつ、運用の自由度を高めたい方にはメリットがある方法です。興味がある方は企業の担当者に問い合わせてみましょう。
転職先に企業型確定拠出年金が「ない」場合
転職先に企業型確定拠出年金がない場合の手続きは、以下の2種類があります。
- iDeCoに加入を続ける
- 確定給付企業年金に移管する
1.「iDeCo」に加入を続ける
iDeCoに加入を続ける場合、資産の移換は必要ありませんが、勤め先が変わったことは加入している金融機関に届け出なくてはなりません。転職先の確定給付企業年金の有無によっては、掛金の限度額が変更になる可能性があるからです。
「加入者登録事業所変更届」「事業所登録申請書兼第2号加入者に係る事業主の証明書」を金融機関に届け出ましょう。
公務員から会社員になる場合、上記の「事業主の証明書」に加えて「被保険者種別変更届」を提出する必要があります。
2.「確定給付企業年金」に移換する
転職先に確定給付企業年金の制度があるなら、確定給付企業年金にiDeCoを移せる可能性があります。
規約によって認められている場合にのみ可能な方法のため、まずは転職先の担当者にiDeCoを移せるか尋ねましょう。
▼確定給付企業年金とは?
企業が用意する年金制度の1つで、「給付額」があらかじめ決められているのが特徴です。年金資産の運用は、企業が一括して行い、運用リスクは企業が負います。そのため、もし運用に失敗しても、企業が補填してくれるため、損をするリスクがありません。
その代わり、自己都合退職の場合は一定の減給、懲戒解雇になった場合は、不支給となるのが一般的です。
なお、確定給付企業年金に加入していた人が転職を機に確定拠出年金に移換することもできます。
退職後、企業に勤めない場合
退職後、企業に勤めない場合は、引き続きiDeCoに加入できますが、登録している情報を変更する手続きが必要です。
この場合の手続きは、以下のように退職後の働き方によって異なります。
- 公務員になる場合
- 専業主婦・自営業になる、6ヶ月以上無職の場合
1.公務員になる場合
公務員になる場合、登録事業所の変更手続きが必要です。
「加入事業所変更届」に転職先が記入済みの「事業所登録申請書兼第2号加入者に係る事業主の証明書」を添付して、iDeCoの運営機関に提出しましょう。
2.専業主婦・個人事業主になる、6ヶ月以上無職の場合
6ヶ月以上就職しなかったり、個人事業主(自営業者)または専業主婦(夫)になったりする場合は、登録している国民年金の情報を変更する必要があります。サラリーマンの被保険者種別の第2号から、個人事業主(自営業者)や無職の場合は第1号、扶養に入っている配偶者の場合第3号に変更しましょう。
第1号、第3号と変更先別に変更届が用意されていますので、モデルに従って記入の上、運営管理機関に提出しましょう。
コラム:企業型とiDeCo(個人型)って何が違う?
企業型確定拠出年金(別名:企業型DC)は、国民年金や厚生年金とは別に、企業が個々に用意する企業年金の一種です。掛金は基本的に会社が支払ってくれます。企業型確定拠出年金は企業ごとに管理されているため、転職や退職の際には、変更の手続きをする必要があります。
一方、iDeCo(個人型確定拠出年金)は、個人が任意で加入する確定拠出年金のことです。iDeCoの場合、掛金は全額自己負担となります。
iDeCoと企業型確定拠出年金の違いは以下の表の通りです。
「確定拠出年金」に関するQ&A
ここでは、「確定拠出年金」にまつわる疑問を解説します。
Q1.転職を機に確定拠出年金を解約することはできる?
転職を機に、確定拠出年金を解約したいのですが、解約して一時金を受け取ることはできますか?
諸条件を満たしていれば解約し、脱退一時金を受け取ることはできます。ただし、解約の条件はかなり厳しいです。
転職や退職を機に、確定拠出年金を解約して現金(脱退一時金)を受け取りたいと思っても、いくつかの条件を満たさなければ、解約をすることはできません。
解約のための条件は、企業型確定拠出年金、iDeCoそれぞれの場合で細かく決められています。確定拠出年金は基本的に60歳になって初めて受け取る年金として設計されているため、解約の条件を満たすことは非常に難しいです。
それでも、自分が条件を満たせているかどうか知りたいという方は、以下のリンク先から問題回答形式の判定テストを受けてみてください。
企業型確定拠出年金の解約の条件
- 企業型確定拠出年金の加入者・運用指図者またはiDeCoの加入者・運用指図者(掛金の拠出はせず、資産の運用をする人)ではないこと
- 個人別管理資産額が1万5,000円以下であること
- 企業型確定拠出年金の資格喪失日の属する月の翌月から起算して6ヶ月を経過していないこと
iDeCoの解約の条件
- 国民年金の保険料免除者であること
- 障害給付金の受給者ではないこと
- 通算拠出期間が1ヶ月以上3年以下、または個人別管理資産が25万円以下であること
- 企業型確定拠出年金またはiDeCoの資格喪失日の属する月の翌月から起算して2年を経過していないこと
- 企業型確定拠出年金から脱退一時金の支給を受けていないこと
Q2.転職後、企業型確定拠出年金の移換手続きを忘れて放置してしまっていたら?
退職後、企業型確定拠出年金の手続きを忘れて放置してしまっているのですが、手続きは必要ですか?
企業型確定拠出年金は、転職後6ヶ月以内に移換手続きをしなければなりません。6ヶ月を過ぎてしまった場合、資産を保管するための手数料がかかります。
転職や退職で企業型確定拠出年金の資格を喪失した場合には、転職・退職の翌月から6ヶ月以内に移換の手続きを行いましょう。期間内に手続きをしなかった場合、運用されていた資産は現金化され、国民年金基金連合会によって自動移換されてしまいます。
自動移換された場合、資産自体は引き継がれますが、移換手数料や毎月の管理手数料などがかかるため、今まで貯めてきた資産が減ってしまいます。
具体的なデメリットは以下の通りです。
- 年金資産が運用されない
- 自動移換で連合会に預けられている期間は正式な加入期間とは認められないため、受給開始の時期が遅れる可能性がある
- 移換手数料(3,240円)や毎月の管理手数料(51円/月)などの費用負担が生じる
なお、6ヶ月以内に移換の手続きを行わなかった場合でも、新たに企業型確定拠出年金やiDeCoに加入すれば、自動移換された資産はまた自分の口座に移換されます。その際にも手数料(1,080円)が引かれるので、注意が必要です。
まとめ
確定拠出年金は老後のための資産形成ができる便利な制度ですが、転職の際には手続きにおいて注意すべきことがあります。
自分の状況では、どのような手続きを行うべきなのかをチェックし、スムーズに資産を移しましょう。
この記事の監修者
社会保険労務士
山本 征太郎
山本社会保険労務士事務所東京オフィス
静岡県出身、早稲田大学社会科学部卒業。東京都の大手社会保険労務士事務所に約6年間勤務。退所後に板橋区で約3年開業し、2021年渋谷区代々木に移転。若手社労士ならではのレスポンスの早さと、相手の立場に立った分かりやすい説明が好評。様々な業種・規模の会社と顧問契約を結び、主に人事労務相談、給与計算、雇用保険助成金などの業務を行う。