いくら引かれる?いつもらえる? 厚生年金保険とは?
社会保険の1つである「厚生年金保険」。事業所ごとに加入する保険なので自分自身で手続きをすることは特にありませんが、どのような保険制度なのか知らない人も多いはず。
この記事では、厚生年金保険についてわかりやすくご紹介します。
厚生年金保険とは?
厚生年金保険とは「会社員や公務員が入る年金制度」
厚生年金保険とは、会社員や公務員が入る公的な年金制度のこと。厚生年金保険は、事業所ごとに加入する保険で、以下のような事業所は必ず加入することになっています。
- 常時従業員を雇っている株式会社などの法人の事業所、国・地方公共団体
- 常時5人以上を雇っている個人の事業所(飲食店や旅館などのサービス業を除く)
- 従業員の半分以上が同意し、会社が申請した事業所
厚生年金保険に加入している人は、20歳から60歳のすべて人が必ず加入することになっている「国民年金保険」にさらにプラスした保険料が毎月の給料から引かれています。
保険料を納めると、定年退職後の65歳から「老齢厚生年金」として受け取ることができます。
公務員や私立学校教職員は、2015年までは「共済年金」という別の保険制度がありましたが、現在は厚生年金に一元化されました。
厚生年金保険では国民年金保険よりも手厚い保障を受けられる
厚生年金保険に加入している人(第2号被保険者)は、国民年金にしか加入義務のない自営業の人(第1号被保険者)よりも高い保険料を払っている分、将来もらえる年金の受給額が多いことが特徴です。
国民年金が土台である1階部分とした場合、厚生年金は上乗せとなる2階部分に当たります。
3階部分には、「厚生年金基金」「確定拠出年金」など、1階と2階の公的年金に上乗せして加入することができる私的年金制度が当てはまります。
厚生年金保険料はいくら?どうやって引かれる?
月給の9.15%が毎月天引きされている
厚生年金保険に入っている会社員や公務員は、毎月の給料から月給の9.15%が保険料として天引きされています。
実際の保険料率は18.3%ですが、半分は会社が負担しています。給与明細には会社と折半した保険料額が書かれています。
実際に天引きされる保険料額は、毎月の給料を単純化した32の等級によって決まります。1カ月にもらう基本給や手当などの合計(報酬月額)が当てはまる「標準報酬月額」に保険料率(9.15%)をかけた額が毎月の給与から天引きされています。
厚生年金保険料の早見表は以下のとおりです。
※参照:令和2年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険料額表(令和6年度版)|日本年金機構
月給20万円の場合
月給20万円の場合、毎月の給料から1万8,300円が保険料として天引きされています。
報酬月額19万5,000円以上21万円未満の人は「14等級」に当てはまり、標準報酬月額が20万円となります。この場合、保険料額は20万円×18.3%なので3万6,600円となり、その半分である1万8,300円が天引きされます。
月給25万円の場合
月給25万円の場合、毎月の給料から2万3,790円が保険料として天引きされています。
報酬月額25万円以上27万円以下の人は「16等級」に当てはまり、標準報酬月額が26万円となります。この場合、保険料額は26万円×18.3%なのでは4万7,580円となり、その半分である2万3,790円が天引きされます。
厚生年金(老齢厚生年金)をもらえるのはいつ?いくら?
厚生年金は基本的には65歳からもらえる
働いている間に厚生年金保険の保険料を納めると、65歳になったら「老齢厚生年金」として受け取ることができます。実際に年金をもらい始める時期は、60歳に繰り上げることも70歳に繰り下げることもできます。
実際に厚生老齢年金をもらう際は、年金を受け取る本人が手続きを行う必要があります。受給開始前に日本年金機構から郵送されるお知らせを確認しましょう。
ちなみに、以前は国民年金を含めて25年以上の納付期間が必要でしたが、2017年8月からは納付期間が10年以上あれば年金を受け取れるようになりました。
厚生年金の平均受給額は「月額14万円」
2022年度の厚労省のデータによると、厚生年金の平均受給額は月額約14万5000円。一方、国民年金ではは約5万6,000円でした。
男女別の厚生年金の平均受給額は、男性が約16万円、女性が約10万円となっています。
女性の方が平均年収が低い(=納める保険料が少ない)傾向があるため、それに伴って平均受給額も低くなっていますが、実際の受給額は厚生年金保険に加入していた期間と納めた金額によって異なります。
コラム:受給開始を70歳にすると受給額42%アップ!
厚生老齢年金をもらい始める時期は65歳が基本ですが、60歳に繰り上げることも70歳に繰り下げることもできます。65歳よりも繰り上げると「0.4%×繰り上げた月数※」分が減り、逆に65歳よりも繰り下げると「0.7%×繰り下げた月数」分が増えます。※1962年4月1日以前生まれの方の減額率は0.5%となります。
仮に受給開始を60歳にした場合、「0.4%×60カ月(5年)」でマイナス24%の減額となります。仮に受給開始を70歳にした場合は、「0.7%×60カ月(5年)」でプラス42%の増額となります。
厚生年金保険にまつわる6つのQ&A
■厚生年金保険にまつわる6つのQ&A
Q1.転職した場合の手続き方法は?
退職してから次の会社まで1日も空けないで転職する場合、厚生年金保険に関する手続きは会社側が行ってくれるため、手続きは特にありません。入社までに年金手帳または基礎年金番号通知書を準備しておきましょう。
次の入社までブランクがある場合、厚生年金保険を抜ける手続きは退職する会社が行ってくれます。ただし、国民年金に加入する手続きは自分で行わなければなりません。年金手帳か基礎年金番号通知書を持って、居住地の自治体の役所で申請しましょう。
※退職後の国民年金への加入について詳しくは→退職にともなう年金の手続きガイド
Q2.結婚した場合の手続き方法は?
結婚して家族の扶養に入る場合や、家族を自分の扶養に入れる場合は、厚生年金保険に加入している人(第2号被保険者)の勤務先を通じて申請します。「被扶養者届」と「国民年金第3号被保険者該当届」を勤務先に提出しましょう。
ちなみに、離婚により配偶者を扶養から外す場合も勤務先に伝えればOK。扶養から外された配偶者は、国民年金に加入する場合は自治体の役所で、転職する場合は新しい勤務先で厚生年金の加入手続きを行います。
Q3.育休中も厚生年金保険を納める必要はある?
育児休業を取得している間は、休業期間中に勤務先を通じて年金事務所に申請することで厚生年金の保険料の納付が免除されます。産前産後休暇も同様です。
免除期間は年金額を計算するときには「保険料を納めた期間」として扱われるので、将来受け取る年金の額が少なくなることはありません。
Q4.時短勤務して納める保険料が減るともらえる年金の額も減る?
時短勤務中で給料や納める保険料が減った場合でも、子どもが3歳になるまでは、子どもが生まれる前の報酬月額に応じた保険料を納めているとみなして(みなし措置)、将来の受け取れる年金額を維持することができます。
養育を開始した月(出産、別居していた子どもとの同居など)から1年前以内に厚生年金保険の被保険者の期間があれば、みなし措置を受けられます。
申請の際は、会社に「厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例申出書」を提出すればOK。退職している場合は、直接日本年金機構に提出します。
Q5.パート・アルバイトでも厚生年金保険の加入者になれる?
パートやアルバイト、契約社員や時短勤務の場合でも、1週間の労働時間および1カ月の労働日数が、同じ事業所で同じ業務を行っている正社員の4分の3以上あれば被保険者になります。
これを満たさない場合でも、下記の5つの条件をすべて満たせば対象になります。
■パートやアルバイトが社会保険に加入できる条件
- 1週間の労働時間が20時間以上
- 1カ月の給与が8万8000円以上
- 2カ月を超える雇用の見込みがある
- 従業員数が101人以上
- 学生ではない
※2024年10月からは、従業員数51人以上の企業で働くパート・アルバイトが新たに社会保険の適用となります。
実際の加入手続きは会社を通して行いますが、国民保険を抜ける手続きは自分自身で行う必要があるので、詳しくは会社に相談してみましょう。
※詳しくは→ 社会保険適応拡大ガイドブック|厚生労働省、日本年金機構政府広報/パート・アルバイトの皆さんへ 社会保険の加入により手厚い保障が受けられます。
Q6.病気やケガをしたときにも年金がもらえるって本当?
年金保険制度は、定年後の老齢年金以外に「障害年金」と「遺族年金」にも活用されています。
障害年金は、病気やケガをして働くことや通常の日常生活を送ることが難しくなった場合に受け取ることができます。遺族年金は、亡くなった被保険者の給料で生計を立てていた場合、残された遺族が生活するために受け取る年金です。
※詳しくは→年金の受給|日本年金機構
まとめ
厚生年金保険は、会社員や公務員が入る公的年金制度です。月給の9.15%が毎月の給料から天引きされて納められています。
保険料を納めると、65歳から「老齢厚生年金」として受け取ることができます。受け取るタイミングによって、受給額が減ったり増えたりします。
この記事の監修者
社会保険労務士
山本 征太郎
山本社会保険労務士事務所東京オフィス
静岡県出身、早稲田大学社会科学部卒業。東京都の大手社会保険労務士事務所に約6年間勤務。退所後に板橋区で約3年開業し、2021年渋谷区代々木に移転。若手社労士ならではのレスポンスの早さと、相手の立場に立った分かりやすい説明が好評。様々な業種・規模の会社と顧問契約を結び、主に人事労務相談、給与計算、雇用保険助成金などの業務を行う。