メリット・デメリットも紹介 財形貯蓄制度とは?
財形貯蓄制度は、給与から天引きで自動的に貯蓄され、手軽に引き出すことができないため、貯金が苦手な人におすすめの制度です。「就労条件総合調査」によると2019年時点で、約4割の企業が導入しています。
この記事では、3つある財形貯蓄の種類と、制度のメリット・デメリットをわかりやすく解説します。
財形貯蓄制度とは
毎月の給与から自動で天引きされる貯蓄制度
財形貯蓄制度とは、自分で決めた金額を、企業が毎月の給与やボーナスから天引きして銀行に貯蓄してくれる制度のこと。1971年に制定された「勤労者財産形成促進法」のもと、国が働く人の貯蓄や持ち家の取得をサポートするために作られました。
銀行に預ける際につく利息は決して高くはありませんが、給与から自動で天引きされるので、貯金が苦手な人でも計画的に貯蓄をすることができます。
企業が財形貯蓄制度を導入していなければ利用できませんが、継続して雇用されることが決まっていればアルバイトやパートでも利用可能です。企業によっては、貯蓄額が一定額に達するごとに奨励金を支給しているところもあるようです。
財形貯蓄制度の3つの種類【一般・住宅・年金】
財形貯蓄制度には、「一般財形貯蓄」「財形住宅貯蓄」「財形年金貯蓄」の3種類があります。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
一般財形貯蓄|目的は自由!貯金のための貯蓄制度
一般財形貯蓄とは、使用目的を限定しない財形貯蓄のことです。
利用目的 | 自由 |
対象年齢 | なし |
積立可能額 | 上限なし |
積立期間 | 3年以上 |
一般財形貯蓄は、利用目的に制限がないため、貯金のために利用する人が多いのが特徴。対象者の年齢、積立可能額にも制限がありません。
▼一般財形貯蓄のポイント!
- 利息に対して20.315%の課税がある
- 引き出せるのは1年後から
一般財形貯蓄を利用すると、貯蓄額にかかる利息に対して20.315%(所得・復興特別所得税15.315%と住民税5%)の課税があるので注意しましょう。
3年以上積立することが原則ですが、積立から1年経てば自由に引き出すことができます。
財形住宅貯蓄|住宅購入やリフォームの資金のための貯蓄制度
財形住宅貯蓄とは、貯まったお金を住宅購入やリフォームの資金に充てることに限定した財形貯蓄のことです。
利用目的 | 在宅購入・リフォーム |
対象年齢 | 54歳まで |
積立可能額 | 550万円まで |
積立期間 | 5年以上 |
契約時に55歳未満の社員が利用することができ、積立期間は5年以上となっています。
▼財形住宅貯蓄のポイント!
- 550万円までは利息が非課税
- 利用目的以外で引き出す場合は、過去にさかのぼって課税される
- 積立可能額は「財形年金貯蓄」と合わせて550万円まで
財形住宅貯蓄の特徴は、550万円の貯蓄までは利息に対して課税されないこと。財形住宅貯蓄と同時に財形年金貯蓄も利用する場合は、合わせて550万円までであれば利息が非課税です。
目的以外のために引き出そうとすると、5年前までさかのぼって非課税だった利息が課税対象になってしまうので注意が必要です。
積立総額についても、財形年金貯蓄と合算して550万円までとなっています。
財形年金貯蓄|老後の資金のための貯蓄制度
財形年金貯蓄とは、老後の資金づくりを目的とした財形貯蓄のこと。60歳を超えた際に、預金額を年金として5~20年の間で定期的に受け取ることができます。
利用目的 | 60歳以上で受け取る年金 |
対象年齢 | 54歳まで |
積立可能額 | 550万円まで |
積立期間 | 5年以上 |
財形年金貯蓄の対象年齢と積立期間は、財形住宅貯蓄と同様。対象年齢は55歳未満、積立期間は5年以上となっています。
▼財形年金貯蓄のポイント!
- 550万円までは利息が非課税
- 利用目的以外で引き出す場合は、過去にさかのぼって課税される
- 積立可能額は「財形住宅貯蓄」と合わせて550万円まで
財形年金貯蓄は、財形住宅貯蓄と合わせて550万円までは利息が非課税となります。また、財形住宅貯蓄と同様に、年金受給以外の目的で引き出そうとすると、5年前までさかのぼって非課税だった利息が課税対象になってしまいます。
積立総額は、財形住宅貯蓄と合わせて550万円までです。
財形貯蓄制度のメリット・デメリット
ここでは、財形貯蓄制度のメリット・デメリットを紹介します。
メリット1:自分で貯金する必要がない
財形貯蓄制度のメリットは、自分でわざわざ貯金する必要がないこと。貯蓄したいお金を給与から自動で一定額を天引きしてくれるので、「月末にカツカツになってしまい、貯金するつもりだったお金から使ってしまう」ということや、「貯金のことを考えて節約しなければならない」ということもありません。
メリット2:住宅ローンを利用できる
2つ目のメリットは、いずれかの財形貯蓄を1年以上継続していて、残高が50万円以上あれば、住宅の購入やリフォームをしたいときに、最高で貯蓄額の10倍まで融資を受けられることです(財形持家転貸融資)。
金利タイプは5年間の固定金利で、5年経った時点でその後の5年間の金利が確定します。融資の上限は4000万円で、住宅購入価格の90%まで借り入れることが可能です。
デメリット1:預金にかかる利率が低い
財形貯蓄制度のデメリットは、預金にかかる利率が低いこと。そのため、金利によって利益を出すことには向いていません。
三大メガバンクと呼ばれる「みずほ銀行」「三菱東京UFJ銀行」「三井住友銀行」の財形貯蓄制度の利率は0.02%。100万円貯蓄したものを1年間預けていたとしても、利息は20円(税引き後16円)ほどにしかなりません。
デメリット2:預金を簡単に引き出せない
お金が急に必要になったときにすぐに引き出せないという点も、財形貯蓄制度のデメリットの1つです。
財形貯蓄で預けたお金を引き出すには、会社への申請が必要になり、手続きの際には書類などを準備しなければなりません。実際には、書類を提出してから1週間前後を目安に登録している口座に入金されます。
コラム:財形貯蓄制度に似ている「社内預金制度」とは?
財形貯蓄制度に似ている制度として「社内預金制度」があります。
2つの制度の大きな違いは貯蓄の預け先です。「財形貯蓄」は金融機関なのに対し、「社内預金」は会社です。また、利率にも違いがあります。「財形貯蓄」の商品の利率は0.01%が多いのに対して、「社内預金」は下限利率が0.5%に設定されています。
ちなみに、財形貯蓄制度と社内預金制度はともに、導入している企業の数が年々減少傾向にあります。厚労省の「就労条件総合調査」によると、2019年時点で財形貯蓄は全体の38.1%、社内預金は3.6%が導入していることが分かりました。
※社内預金について詳しくは→社内預金制度とは?利率が高いって本当?
財形貯蓄制度のQ&A【転職・退職時など】
ここでは、転職や退職の際の手続きなど、財形貯蓄制度にまつわる疑問について解説します。
Q1.財形貯蓄制度とは退職金のこと?
財形貯蓄制度と退職金は違います。
財形貯蓄制度は給与からの天引きで社員自身が負担しますが、退職金の掛け金は基本的に会社が負担するものです。
Q2.財形貯蓄制度を中断したい場合は?
一般財形貯蓄は、いつでも中断することが可能です。
財形住宅貯蓄と財形年金貯蓄も、中断すること自体は可能です。しかし、目的以外に使うために解約や払い出しをすることになるため、過去5年間をさかのぼって利息に課税されてしまいます。
Q3.退職する際はどうすればいい?
退職後に再就職する予定がない場合や、転職先に財形貯蓄制度がない場合は、財形貯蓄制度を解約する必要があります。手続きについては、退職する際に会社に相談しましょう。
転職する予定はあるが勤務先がまだ決まっていない場合は、2年間は従来の金融機関に保有しておくことができ、新しい転職先で手続きすることで積立を継続できます。ただし、2年以上の期間が空くと、非課税の優遇措置がなくなり課税対象になるので注意しましょう。
Q4.転職先でも財形貯蓄制度を継続できる?
転職先に財形貯蓄制度がある場合は、継続することが可能です。その際、転職先の提携金融機関が同じかどうかで手続きが異なります。
金融機関が同じ場合
金融機関が同じ場合は、退職する会社を通して金融機関に「勤務先異動申告書」を提出します。勤務先異動申告書の記入については、退職する会社の担当者に相談しましょう。
金融機関が異なる場合
退職する会社と転職先の金融機関が異なる場合は、転職先が契約している金融機関と契約することで、それまでの積立の継続(預け替え)が可能です。
コラム:財形貯蓄制度と確定拠出年金の違いって!?
財形貯蓄制度と混同されやすい制度に「確定拠出年金」があります。
積立額や積立期間、税制上の優遇などが全く異なっています。両者の違いは以下のとおりです。
※確定拠出年金について詳しくは→転職後、確定拠出年金の移換は必要?
まとめ
財形貯蓄制度は、自ら貯金をしなくても給料から一定額を天引きして積立貯蓄ができる制度のこと。
住宅購入や年金受給など目的別に分かれているため、制度を活用する場合は自分のニーズと制度の利点を照らし合わせて検討しましょう。
この記事の監修者
社会保険労務士
三角 達郎
三角社会保険労務士事務所