転職との関係や崩壊による影響は? 終身雇用は崩壊する?
終身雇用が崩壊に向かっているというニュースが気になっている方は多いのではないでしょうか。
終身雇用は本当に崩壊するのか、どのような変化が起きるのか。終身雇用崩壊の実態や理由、転職への影響などを説明します。
終身雇用は崩壊する?
すでに崩壊しつつある終身雇用の実態
終身雇用は崩壊し始めているといえます。
事実、経済界トップは崩壊について言及し、転職者数や非正規雇用者の割合も増加の一途をたどっていることがその現れです。
トヨタ社長や経団連会長の発言
経済界の重鎮であるトヨタ自動車の社長と経団連会長が2019年5月、相次いで終身雇用の維持が困難であると明言しました。
キーパーソンが終身雇用の崩壊に言及したことで、雇用不安が確実視されるようになりました。
トヨタ自動車の豊田章男社長(2019年5月13日、日本自動車工業会の会長会見にて)
「雇用を続ける企業などへのインセンティブがもう少し出てこないと、なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」
団連の中西宏明会長(5月7日、定例記者会見にて)
「働き手の就労期間の延長が見込まれる中で、終身雇用を前提に企業運営、事業活動を考えることには限界がきている。」
非正規雇用の増加
総務省によると、平成の30年間で「正規の職員・従業員」は3452万人→3423万人と29万人減少している一方、「非正規の職員・従業員」は817万人→2117万人と1300万人増加しています。
2018年は前年に比べて84万人も増え、約2120万人が非正規雇用という調査結果でした。
2001年以前の統計は調査方法が異なるため単純比較は難しいものの、非正規雇用が急速に増えたことは、終身雇用の維持が難しくなってきていることを示すひとつの指標と言えるでしょう。
※参考→統計トピックスNo.119「統計が語る平成のあゆみ」|総務省統計局
終身雇用が崩壊する理由
崩壊の理由としては、経済低迷やデジタル化、グローバル競争の激化など複数の要因が考えられます。
終身雇用は右肩上がりの経済成長が前提にある制度です。
しかし、バブル崩壊により日本経済は大きく低迷、その後続いた景気の冷え込みは「失われた30年」と呼ばれ、いわゆるロスジェネ世代の就職難につながりました。
また、労働者派遣法のたび重なる改正により、施行当時(1987年)はごく限られた職種にのみ適用されていた派遣労働が段々と拡大され、2005年頃から派遣市場が急速に成長しました。
そのような中2008年にリーマン・ショックが起こり、その余波で多くの派遣社員がリストラされた「派遣切り」が社会問題となりました。
このように経済成長に期待できない環境において、人件費は大きなコストと捉えられるようになります。
また、法律で社員の解雇が厳しく制限されている事情も重なって、終身雇用を続けることは会社の将来に負債を積むことと考えられるようになりました。
さらに、デジタル化やグローバル競争の激化など社会が大きく変化し、企業が生き残るためにより高い専門性が追求されるようになりました。
そのため職種を限定せずさまざまな業務を経験する「総合職」のようなスキルよりも、特定の分野で高いスキルを持つ人材が歓迎される傾向も強まっています。
事実、転職者も増えている
上記のような変化に伴い、転職をする人も増えています。
従来の「1社で幅広い業務をこなし勤め上げる総合職」=ジェネラリスト的な働き方から、「専門スキルを生かして1つの業務に特化する」=スペシャリスト的な働き方が注目されていることで、終身雇用の必要性が弱まり転職市場が活気づく一因となっているようです。
労働力調査によると、2011年以降転職者数は増加し続けており、2018年の転職者は329万人と、前の年に比べて18万人も多いという結果になりました。
特に若い世代で転職する人が多く、24歳まででは11.3%と、数%~7%にとどまっている25歳以上の割合を大きく上回っています。
※参考→「労働力調査(詳細集計)平成30年(2018年)平均(速報)」|総務省
終身雇用は維持すべき?働く人は崩壊を望む?
崩壊が進む一方で、終身雇用を支持する人は近年増えています。労働政策研究・研修機構の「第7回勤労生活に関する調査」によると、終身雇用を支持する割合は過去最高の87.9%と、9割近くに達しています。1999年の72.3%に比べ、15ポイント以上支持割合が上昇しました。
また、支持割合を年齢層別に見ても、全ての年代で87%を上回っています。2004年までの調査では年代が上がるにつれ終身雇用を支持する割合が多い傾向にありましたが、2007年の調査で20代、30代の支持割合が10ポイント以上伸び、全ての年代で8割を超えました。
年齢に関係なく評価されるべきという実力主義が広がる一方で、将来の見通しへの不安から若い世代にも終身雇用を希望する人が増えていることがうかがえます。
そもそも終身雇用とは?
企業が社員を定年まで雇用すること
終身雇用とは、正規に採用した労働者を原則定年まで雇用することです。年功序列と企業別組合と合わせて、日本的経営三種の神器と呼ばれることもあります。
新卒で優良企業に入り、定年まで勤め上げるという働き方を支えてきた仕組みです。
終身雇用のメリット・デメリット
働く人にとって終身雇用は、安定性や教育環境などメリットが大きいですが、モチベーションが下がるなどデメリットもあります。以下にそれぞれ3つずつ例を挙げます。
終身雇用の3つのメリット
1生活が安定する
よほどのことがない限り解雇されないため、長期的な人生設計を立てやすくなります。
2教育体制が整っている
勤め続ける前提のため、先輩から後輩へノウハウを受け継ぐ環境ができています。
3会社との強い信頼関係を築ける
雇用が保障されているため、「会社のために」という気持ちが生まれやすくなります。会社としても、信頼関係によって社員の定着率が上がって人材流出を防ぐことができます。
終身雇用の3つのデメリット
1モチベーションが下がる
終身雇用は年功序列制度と並んで確立されていることがほとんどで、ベテランより優秀な社員でも勤続年数が短ければ給与が低く、モチベーションが下がりかねないというデメリットがあります。
2女性の労働機会が減少する
長期雇用を前提に採用したい企業が「女性は出産や育児などで辞めてしまう」と考え、女性の採用を控える懸念があります。
3長時間労働になりやすい
終身雇用では人材の入れ替わりが少ないため、会社側は必要最低限の人数を雇い、人数に対して仕事が多い場合は残業で対応するため長時間労働の温床になります。
法律により会社が社員を解雇できる条件が厳しく制限されていることも関係しています。
終身雇用の崩壊がもたらす影響
終身雇用が崩壊するとリストラが増える?
リストラという呼び方ではありませんが、終身雇用が崩壊すると希望退職者を募る企業が増える可能性はあります。東京商工リサーチが2019年5月に行った調査によると、希望・早期退職者を募集した上場企業は16社。
半年も経たないうちに前年1年間の12社を上回りました。
終身雇用が崩壊すると転職しやすくなる?
転職者は増えており、需要の高い職種においては今後ますます条件の良い転職がしやすくなると予想されます。
終身雇用の崩壊が進めば転職経験者も増え、転職は当たり前という認識が広まっていきます。
働き方改革の推進やAIやICTの普及に伴い、テレワークや在宅勤務など柔軟な働き方が広がり、国際社会で技術革新やビジネスモデルの変化に対応できるような人材獲得の競争が激化すると考えられます。
特にIT関連の業界・職種では、転職市場が活性化する局面にあります。
また、転職ニーズが高まっている現状を受けて政府は2018年3月、「年齢にかかわりない転職・再就職者の受入れ促進のための指針」を発表しています。
終身雇用の崩壊と、多くの人が1つの企業にとらわれずに働く状態である「労働力の流動化」が表裏一体で進んでいく可能性が高いでしょう。
終身雇用の崩壊で新卒一括採用はなくなる?
新卒一括採用は当面はなくなりませんが、業務内容や勤務地があらかじめ限定されているジョブ型採用(雇用)など、多様な採用方法が広がると考えられています。
2019年4月22日に行われた、経団連と大学の代表による会議「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」では、「新卒一括採用と企業内でのスキル養成を重視した雇用形態のみでは企業の持続可能な成長やわが国の発展は困難」とされています。
まとめ
終身雇用はすでに崩壊しつつありますが、崩壊がもたらすのは悪いことばかりではありません。
特に転職を考えている方にとっては、決断の後押しとなるでしょう。