昇給交渉などの対処法も解説 給料が上がらない本当の理由

「真面目に働いているのに給料が全然上がらない」「日本の景気は上昇傾向にあるのに、自分の給料だけ上がっている気がしない」と感じる人は少なくありません。

この記事では、日本企業の給料の実態給料が上がりづらい構造について解説します。また、給料を上げるために転職する上での注意点や、転職以外の昇給方法などを紹介します。

給料が上がらないのは普通?

給料が上がらない状況は自分だけなのでしょうか? まずは、給料に関するデータで昇給の実態を見ていきましょう。

データ上、給料が上がっていないとは言い切れない

給料に関する調査データを見ると、全国的には必ずしも「給料が上がらない」と言い切ることは難しいようです。

平均年収は2013年以降上昇傾向にある

国税庁の民間給与実態統計調査によると、調査を始めた1997年以来、平均年収が最も低かった年は2009年の405万9,000円で、その後2013年以降は上昇傾向。2018年時点では440万7,000円となっています。

平均年収の推移を表したグラフ(金額・増減率)

※参考→民間給与実態統計調査|国税庁

平均年収が落ち込んだ2009年前後以降の大きな出来事としては、リーマンショックや東日本大震災、アベノミクスなどが挙げられます。どれか一つが原因となって平均給与が増減したのではなく、さまざまな要因が重なった結果と言えます。

ちなみに、平均年収に加え最低賃金も上昇傾向にあり、2012年度の749円から2019年度には901円に増加しています。

平均給与、最低賃金がそれぞれ上昇傾向にあることから、全国的な数値の上では、給料はむしろアップしているように見えます。

8割の企業で定期昇給がある

「給料が上がらない」とは言い切れない要因として、約8割の企業で定期昇給制度が設けられている点が挙げられます。昇給の平均額は、2018年が5,934円、2019年が5,997円となっており、1年で63円増えています。

ただし、中小企業に限定すると、2018年が4,840円、2019年が4,765円と75円減っており、大企業が平均昇給額を押し上げる結果となりました。

企業規模別の昇給額平均早見表。2019年は、全体:5,997円、中小企業(300人未満):4,765円、大企業(300人以上):6,199円。2018年は、全体:5,934円、中小企業(300人未満):4,840円、大企業(300人以上):6,111円。

※参考→平成30年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況|厚生労働省

ちなみに、昇給を義務付ける法律はないため、昇給制度が設けられていなくても違法ではありません。

ただし、就業規則に昇給制度を設けているという旨の記載があるのに一切昇給されない場合、適切な昇給額を請求できる可能性があります。

※定期昇給額について詳しくは→企業の昇給額の平均は5,997円!企業規模別の差も解説

給料が上がらない4つの理由

平均年収などの調査データを見る限り、一見給料は上がっているように見えますが、体感として「給料が上がらない」と感じている人が多いのが実情です。

そう感じる4つの理由や仕組みを見ていきましょう。

  • 会社が利益を貯蓄に回してしまうから
  • 物価上昇に応じた上がり方ではないから
  • 専門的知識・スキルが必要ない仕事だから
  • 安定性の代わりに基本給が安い仕組みだから

1会社が利益を貯蓄に回してしまうから

給料が上がらない理由として、会社が利益を貯蓄(内部留保)に回すことによって、社員に給料や賞与の形で還元されにくいことが挙げられます。

「内部留保に回す」とは、利益を原材料の仕入れ、工場の設備投資、広告宣伝など事業を行うための資金に使うことを指します。利益を内部留保に回した結果、社員に還元するための現金が残らず、結果的に社員の給料が増えない状況が続くことになります。

国内企業全体の内部留保は年々増大していることから、景気は復調傾向で、会社としては利益を生み出しているものの、内部留保の増加によって社員の給料が上がらないのが実情です。

2同時に物価も上昇しているから

給料が多少上がったものの、物価も同時に上がっているため、実質的には給料が上がっていないと感じるケースがあります。

消費者物価指数の推移を表したグラフ

商品の小売価格の変動を表す消費者物価指数は、2015年以降徐々に上がっており、2020年4月時点で101.9でした。

これは、2015年の物価を100とした場合の数値で、2015年に100円で買えたものが、2020年4月では102円になっていることを表しています。

定期昇給などで給料が上がっても、物価上昇率を超える増加でなければ、実質的な給料アップを感じることは難しいでしょう。

※参考→2015年基準 消 費 者 物 価 指 数|全 国 2020年(令和2年)5月分|総務省

3専門的知識・スキルが不要な仕事だから

専門的な知識やスキルを必要としない仕事は、労働者の替えがすぐに見つかることから、給料が上がりにくいと言えます。

一方で、専門知識やスキルを必要とする仕事は、労働者の替えがきかないので会社が社員を引き止めようとし、給料が上がりやすいと言えます。

しかし実際には、そうした会社の思惑と裏腹に、給料を抑えた仕事はその割に仕事内容が過酷なため離職が起きやすく、劣悪な労働条件から応募者も少ないため、人手不足に陥っている職種があります。例えば、工事現場の作業員や介護職などがその代表例です。

4終身雇用の安定性と引き換えに基本給が安く抑えられているから

給料が上がらないと感じる理由として、そもそもの基本給の設定が低いことが挙げられます。終身雇用の考え方が根強い日本において、企業は「経営状況に応じて社員を解雇することで人件費を抑える」といった人員整理が自由にできません。

そこで、基本給をあらかじめ安く設定することで、社員を常時抱えていても経営が圧迫されないように調整しているのです。

終身雇用は同じ会社で定年まで安心して働ける反面、基本給が安い、昇給額が少ない、といった給料が上がりにくい状況を作っています。

※終身雇用について詳しくは→終身雇用は崩壊する?転職との関係や崩壊による影響は?

コラム:看護師・保育士は給料が上がらない?

看護師や保育士といった職種では、役職に就くまでは昇給率が低く、長く勤めていても「給料が上がらない」と感じる場合があるようです。

そもそもの基本給も高いとは言えず、人と密に接する緊張感が常にあり、仕事量も多いことを考慮すると、割に合わないと感じる人が多いようです。

また、看護師も保育士も職員数に対して役職のポストの空きが少ないため、いつまでたっても役職につけず、昇給額も少ないという実態があります。

加えて保育園の場合、役職に就いた人がそのまま数十年動かない、家族経営なので身内しか役職に就けない、などの理由で給料が上がりづらい人もいます。

ちなみに、認可保育園については2017年からは「副主任保育士」「専門リーダー」「職務分野別リーダー」の3つの役職が設けられ、「副主任保育士」「専門リーダー」は月額4万円、「職務分野別リーダー」は月額5,000円のベースアップによる処遇改善が行われました。これにより、保育士の労働条件の改善が期待されています。

給料が上がらない場合、転職するのはあり?

給料が上がらない場合、いっそ転職するのはありなのでしょうか? また、それによるデメリットはあるのでしょうか?

給料が上がらないことで辞める人は約6割

2019年のエン・ジャパンの調査によると、転職の理由として最も多いのは「報酬をあげたい」で57%でした。給料を上げるために転職する人が一定数いることがわかります。

現状の給料を上げるためには「会社からの評価を上げて昇給する」あるいは「給料の高い転職先へと転職する」のどちらかを選択することになります。現職での給料アップが望めない以上、転職を選ぶ人が一定数いるのも無理はありません。

※参考→転職理由(退職理由)のホンネとタテマエ ~転職者の2人に1人は、ホンネを伝えていない!|エン・ジャパン

給料が上がらないことを理由に転職するデメリット

給料が上がらないことが不満で新たな会社に転職した場合、以下の3つのデメリットが考えられます。

  • 給料アップが転職理由だと雇ってもらえない
  • 給料が変わらないこともありえる
  • 仕事がきつくなる可能性がある

給料アップが転職理由だと雇ってもらえない

給料が上がらない場合、転職理由として給料アップを挙げがちですが、そればかり考えていては採用される可能性は低いでしょう。給料のことで頭がいっぱいになることで企業研究がおろそかになり、志望動機が曖昧になったり、入社の熱意が伝わらなかったりするからです。

また、企業は以下のようなリスクを考え、給料アップだけを転職理由とする人を敬遠する傾向があります。

  • さらなる高収入が望める会社があれば、すぐに辞めてしまう
  • 求める給料が能力・実績に見合っていない人は、自分と会社のことを客観視できておらず、自己中心的な言動をして周囲に悪影響を与える

 転職を考える際は、その会社で働きたい理由やその会社でやりたい仕事など、給料以外の志望動機を見つけましょう。

※転職理由の伝え方について詳しくは→面接でハズさない転職理由の伝え方

※転職時の給料アップの交渉について詳しくは→転職時の給与交渉│基本の流れと失敗しないコツ

給料が変わらないこともありえる

給料が上がらないことを理由に勢いで転職したものの、転職前後で給料が変わらない可能性もあります

厚生労働省によると、約6割の人が転職前後で給料が変わらない、または減ったと答えています。

転職前後での給料の変化に関する厚労省の調査(2018年)結果を表した円グラフ。1割以上増加との回答が26%、1割未満増加との回答が11%、変わらないという回答が28%、1割未満の減少との回答が8%、1割以上の減少との回答が27%。

※参考→平成30年雇用動向調査結果の概況-表6転職入職者 1)の賃金変動状況別割合|厚生労働省

転職前よりも1割以上給料が増えた人は3割を切っているので、転職したからといって簡単に給料が上がるわけではないようです。特に、未経験の業界・職種に転職する場合は、今までのキャリアが評価されにくく、一般的には収入が下がりやすいと言われています。

※転職と給料の増減について詳しくは→実際、転職で給料は下がるの?男女・正規非正規の厳しい格差

仕事がきつくなる可能性がある

給料が上がらないことが不満だった場合、転職先は給料が良い会社を選びがちですが、その分求められるスキルが高かったり、仕事量が多かったりするので、以前よりも仕事がきつくなる可能性があります。

今の会社の給料面には不満があったものの、仕事内容については満足していた場合、これまでと同じような働き方を想像している分、転職先の仕事がきついと感じやすくなります。

【体験談】転職の失敗例

給料が上がらないことが不満で転職した場合、結果的に失敗して後悔する人もいます。

給料が高い同業他社に転職したAさん

以前は小さな会社の営業職として働いていましたが、規模が小さいので給料も安く、長く勤めていてもあまり給料が上がりませんでした。

生活にゆとりが欲しくなり、収入アップを目指して転職活動を始めました。収入アップを志望理由として伝えていたせいか、転職活動ははじめ難航していましたが、最終的には収入アップを見込める大企業になんとか就職することができました。

しかし、同業種・同職種という今までの経験やスキルを見込んでの採用だったので、入社してすぐに残業しなければ終わらないような量の仕事をたくさん任されてしまいました。職場の雰囲気も悪く、だれかに仕事を頼むということもできません。収入は前職より1割程度増えたものの、生活のゆとりは増えていない気がします。

今では給料アップだけで転職先を決めてしまったことを後悔しています。

給料が上がらない時の転職以外の対処法

「給料が上がらない」という不満への対処法は、転職だけとは限りません。

ここでは、転職以外の給料を上げる一例を紹介します。

昇給交渉をする

給料が上がらない場合、上司や人事に給与査定や定期面談などのタイミングで給料を上げてほしいと相談することで、改善される可能性があります。

その際、自分の仕事ぶりや成果を客観的に評価できる資料を作成し、「目標の○%を達成したから給料を上げてほしい」といったように、給料を上げてもらう根拠を明確に提示しましょう。

十分な成果を出せていなかったり、働き始めてまだ年数が浅かったりすると、要求は却下されてしまうでしょう。給料が上げるためには、まずはある程度の期間働いて、その中で着実に実績を残すことが重要です。

<昇給交渉の例文>

今日はお時間をいただきありがとうございます。

私はこの会社に勤めて5年になります。その間、自らの成長とともに会社の成長に貢献してきました。◯社もの新規顧客の獲得に貢献し、私が作ったプレゼンテーションのフォーマットは全社的に活用されるようになりました。

これからの仕事量を鑑みて、もし可能でしたら給料について考え直していただけませんでしょうか。今後チームのさらなる発展に尽力するつもりですので、ご検討いただけますと幸いです。

副業を始める

会社が給料を上げてくれない場合、副業で収入を増やす手もあります。

副業の中には、資格や技術が不要で気軽に始められるものもあり、会社帰りや土日などの空いた時間を使って手軽に収入を増やすことができます。

ただし、会社によっては副業が禁止されている場合があるので、就業規則を事前に確認しましょう。副業はさまざまな理由で会社にバレることがあるので、禁止されている場合はやめておきましょう。

独立して起業する

「誰よりも成果を出しているのに給料を上げてもらえない」「会社員としての雇われで働くことに嫌気が差した」といった人は、思い切って独立し、起業する方法もあります。

会社員の場合は会社から給料をもらう形ですが、独立すると利益が収入に直結するので、成果次第では大幅な収入アップとなります。

ただし、現状より収入が増えるかどうかは経営者としての実力次第。経営がうまくいかない場合、会社員の頃よりも収入が下がってしまうこともあります。最悪の場合は赤字を抱え破産することもありえるので、そのビジネスによって安定した収益が得られるのか、慎重な判断が必要です。

まとめ

日本の景気は復調傾向にあるものの、体感として給料が上がっていないと感じる人は多くいます。給料が上がらない理由は、企業の内部留保や終身雇用制度など、さまざま要因が絡み合っています。

給料を上げるために転職を選択する方法もありますが、必ずしも今と同じような働き方で給料だけ上げられるわけではありません。

給料アップだけを目的に早急に転職を考えるのではなく、まずは今の職場で評価を上げることに注力するのが良いでしょう。

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