廃止傾向にある? ジョブローテーション制度の実態
多くの企業で導入されているジョブローテーション。
さまざまなスキルの習得や業務の経験ができる一方で、専門的なキャリアを形成しにくいというデメリットも存在します。
その実態について詳しく解説します。
ジョブローテーションとは?
意味や目的
まずは、ジョブローテーションの実態や導入する目的について解説します。
戦略的に職務を変更する
人材異動のこと
ジョブローテーションとは、社員の能力開発を目的とした定期的な人事異動のことを指します。
短くて半年、一般的には3年~5年に一度のペースで「営業部から経理部」「経理部から監査部」などと、部署異動や担当業務の変更が行われます。
※ジョブローテーションがある企業のみ
労働政策研究・研修機構(JILPT)の2017年調査によると、過半数の企業がジョブローテーションを取り入れており、社員数が多くなるほど導入割合も高くなっています。
中でも社員数が1,000人以上の大企業では、約7割もの会社がジョブローテーション制度を導入していることがわかります。
※正社員のみの人数
※出典:調査シリーズNo.174『企業の転勤の実態に関する調査』|労働政策研究・研修機構(JILPT)
ジョブローテーションの目的2つ
企業がジョブローテーションを行う目的は、主に「個々人のスキルの幅を広げる」「業務の属人化を防ぐ」の2つに分けられます。
個々人のスキルの幅を広げる
ジョブローテーションには、社員にさまざまな部署の業務を経験させ、スキルの幅を広げさせるという目的があります。
社員は営業力や企画力といった多方面でのスキルが満遍なく身に付き、将来の幹部候補として期待されます。加えて、多様な業務を経験させることで、本人に向いている仕事を把握させる狙いもあります。
業務の属人化を防ぐ
ジョブローテーションを行うもう一つの目的は、業務の属人化によって特定の社員に負担が集中しないようにすることです。
ローテーションにより部署間の人材の流動性が高まれば「◯◯さんしかできない」といった属人的な業務が減り、欠員が出てもお互いの仕事をカバーできる頑強な組織が出来上がります。
また、社員一人ひとりが業務過多によるストレスから解放され、作業効率化にもつながります。
コラム:ジョブローテーションは廃止傾向?
昨今の日本では、終身雇用を前提としたジョブローテーションの維持が難しくなり、制度を廃止する企業も出てきています。
従来、ジョブローテーションによって会社の業務を知り尽くしたジェネラリストを育てていた企業も、終身雇用制度の崩壊を見据えて、人材育成の方向転換を迫られています。
これは、転職による企業間での人材の流動性が高まり、同じ会社で長期間働き続ける人が減ったことで、ジョブローテーションの有効性が疑問視され始めたことが背景にあるでしょう。
そうした中で、とりわけスキルや経験値が重要になる専門的な職種の場合、採用の段階からあらかじめ職務が限定されているジョブ型雇用を取り入れている企業も増えつつあります。
ジョブローテーションが実施されている企業に入社を検討する場合、自身のキャリア設計のためにも、自分の思い描くキャリアにジョブローテーションという制度・働き方が適切かどうか、一度考えてみると良いでしょう。
※終身雇用について詳しくはこちら→終身雇用は崩壊する?転職との関係や崩壊による影響は?
ジョブローテーションのメリット・デメリット
ジョブローテーション制度のある会社で働くメリットとデメリットを紹介します。
メリット1:
自分の適性を見極めながら働ける
ジョブローテーションのメリットとして、複数部署の業務を経験する中で、自分の適性を見極められることが挙げられます。
例えば、営業職でテレアポや商談といった社外との密なコミュニケーションが苦手だと感じても、異動後に一人で黙々と集中して作業できる事務職には向いていると気付ける、といった具合です。
メリット2:
企業理解が深まり、視点が広がる
ジョブローテーションには、さまざまな部署で経験を積むことにより、会社全体に対して広い視野を身につけられるというメリットもあります。
部署間のつながりや仕事・お金の流れ、自分が担当しているタスクの役割などをより明確に理解し、多角的な視点で物事を考えることができます。
例えば、部署を横断した大きなプロジェクトを始める場合に、ジョブローテーションによってより広く業務を理解している社員は、チームをうまくまとめることができるでしょう。
デメリット1:
スキルが中途半端になる
ジョブローテーションのデメリットは、スキルや知識が中途半端になりやすいことです。
どんなに特定の業務を極めたいと感じても、一定期間で必ず部署異動があるため、専門性を高めたい人には向いていません。
具体的には、経験を積み重ねていくことで熟練した技術を磨いていくクリエイター職(デザイナーやエンジニアなど)などは、ジョブローテーションに向いていないと言えます。
デメリット2:
異動の度に「新人」になる
ジョブローテーションで別の部署に異動した場合、毎回新人として再スタートすることになります。
部署によって仕事内容はもちろん、求められるスキルも異なるため、仕事ができるようになるまでのキャッチアップに苦労することは少なくありません。
同時に人間関係もリセットされるため、若いうちは部署異動のたびに新人扱いされ、雑用を任されることで仕事にやりがいが持てなくなることも。
また、今までの部署での仕事に適性を感じ、長く働きたいと思っていた人にとっては、新たなスタートをむしろ負担に感じてしまうこともあるでしょう。
コラム:ジョブローテーションは転職に不利?
ジョブローテーションで部署ごとの経験が浅いままでの転職は「即戦力としての専門性がない」として、選考で不利になることがあります。
特に、専門職への転職では一定のスキル・実績などが重視されるため、それまで配属期間が短く、十分な経験を積めなかった場合は自主的にスキルを高める必要があります。
ジョブローテーションのある会社に勤めている場合、転職活動時に有利に動けるよう、能動的にキャリア設計を行うことが大切です。
具体的には「自分がどのような仕事をしたいのか」「そのためのスキルはどこの部署なら得られるのか」を普段から考え、異動が出たタイミングで人事へ交渉をしてみるといった具合です。
まとめ
ジョブローテーションは定期的な部署異動のことです。自分のスキルを増やす、キャリアの幅を広げるといったメリットがあります。
一方で、やりたいことが明確な人にとっては、ジョブローテーションの「広く浅く」の働き方が将来のキャリア形成を阻害してしまう場合があります。
もし、ジョブローテーション制度が自分に適していないと感じた場合は、人事担当者に希望部署に異動してもらえるよう交渉をしてみるなど、主体的に行動していくことが大切です。