給料・労働条件を解説 非正規雇用とは?正規雇用との格差はある?
正規雇用(正社員)以外の働き方を指す「非正規雇用」。給与や労働条件など、正社員との違いが気になる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、非正規雇用の割合からメリット・デメリットまで詳しく解説します。
非正規雇用ってどんな働き方?
非正規雇用とは「正規」の条件に満たない勤務形態
非正規雇用とは、正規雇用に満たない条件で雇われることです。
厳密な定義がなくさまざまな働き方が含まれており、一般的に正規雇用以外の雇用形態をまとめて非正規雇用と呼んでいます。
正規雇用の条件は、以下の3つをすべて満たしていることです。
- 期間の定めがない
- 所定労働時間がフルタイムである
- 直接雇用である
逆に、「雇用期間が決められている」「短時間勤務」「直接雇用に当てはまらない」のどれかに該当する場合は非正規雇用ということになります。
非正規雇用の種類
非正規雇用の具体的な種類として、パートタイム・アルバイト、派遣労働者、契約社員、臨時職員、嘱託社員などがあります。
非正規雇用の種類 | 特徴 |
パートタイム、アルバイト
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派遣労働者 |
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契約社員(有期雇用者) |
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臨時職員 |
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嘱託社員 |
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その他 |
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非正規雇用の割合は労働者全体の37.9%
「『非正規雇用』の現状と課題」によると、2018年の非正規雇用労働者の割合は、全体の37.9%です。二十年以上緩やかに増加しており、人数としては2,120万人に上っています。
中でも正社員になる機会がなくやむを得ず働いている「不本意非正規」雇用の割合は、非正規で働く人の12.8%となっています。
年代別では25~34歳の割合が19%(47万人)と高くなっており、若い世代の働き方の希望と現実のギャップが課題となっています。
正社員はしばらく減少が続いていましたが、2015年から増加に転じており、2013年に行われた法改正が影響していると考えられます。
改正労働契約法のポイント
非正規雇用に関わる改正が2013年に行われ、5年の無期転換ルールの節目となる2018年を過ぎました。影響を実感している方もいるのではないでしょうか。
非正規雇用の待遇に関わるポイントを3つにまとめました。
無期転換ルール
無期転換ルールとは、同じ企業で5年以上契約を更新して働き続けると、労働者が申込みをすることで期限のない「無期」契約に変えられるという制度です。
職場で重要な仕事を任されている人が長く働けるようになりますが、2013年以降企業が「5年を越えての更新はできない」などのルールを設けて事実上無期転換を受け入れないなど、法の抜け穴が問題となっています。
「雇い止め法理」の法定化
これまで判例だけだった「一定の場合に雇い止めが無効になる」という規定が法律に盛り込まれました。
雇い止めは、有期労働契約の契約期間が満了した際に、企業側が労働契約更新を拒否することをいいます。
非正規雇用の不安定さを生み出す一因となっているため、企業に対する雇い止めの制限が以前より厳しくなっています。
コラム:非正規雇用でも社会保険に加入できる?
一定の条件を満たしていれば、非正規雇用でも社会保険に加入できます。
正確には条件を満たしている=加入が義務付けられているため、「社会保険に加入できるかどうか」は条件が合っているどうかがポイントになります。
健康保険、厚生年金、雇用保険に加入するには下記のような条件を満たす必要があります。
<健康保険・厚生年金保険の加入条件例>
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 1年以上の勤務が見込まれる
- 学生でないこと(※夜間や定時制を除く)
<雇用保険の加入条件例>
- 31日以上雇用される見込みがある
- 週20時間以上勤務する見込みがある
- 学生でないこと(例外あり)
なお、社会保険のうち「労災保険」は企業に加入の義務があるため、上記のような勤務条件に関係なく保障を受けられます。
非正規雇用が増えている理由は?
非正規雇用労働者が10年で355万人増加
「『非正規雇用』の現状と課題」によれば、2018年までの10年間で、非正規雇用労働者は355万人増えています。労働者全体の増加は421万人なので、非正規雇用が増加の8割以上を占めていることがわかります。
この変化には、どのような理由があるのでしょうか。
理由1:都合のよい時間に働きたい
2018年の労働力調査によると、非正規の職に就いた理由で最も多いのは「自分の都合のよい時間に働きたいから」でした。
該当者は597万人に及び、非正規職についた人全体の29.9%を占め、2017年から58万人増となっています。内訳は女性427万人(30.9%)、男性171万人(27.7%)です。
「自分の都合のよい時間に働きたい」という理由は、2016年から継続してトップになっています。それまでは男性で「正規の職員・従業員の仕事がないから」、女性で「家計の補助・学費等を得たいから」などの理由が多くなっていました。
理由の変化には、女性の就業が増えたことや、柔軟な働き方への関心の高まりが関係しているかもしれません。
※参考→「労働力調査(詳細集計)平成30年(2018年)平均(速報)」|総務省統計局
理由2:家事、育児、介護との両立
「家事・育児・介護等と両立しやすいから」という理由で非正規雇用を選択している人は254万人で、非正規職についた人全体の12.7%に及びます。2018年の調査では2017年に比べて19万人増加しています。
内訳は女性247万人、男性4万人となっており、増加分(19万人)は女性のみです。
高齢化や待機児童問題に関連して、介護や育児の担い手が依然女性中心であることが読み取れます。
理由3:高齢者の人口増加
高齢化の影響も顕著に表れており、2018年時点で、非正規職についている65歳以上の人は358万人で、非正規職者全体の16.9%に及びます。65歳以上の非正規職者は、2018年までの10年間で204万人増加しており、ほかの年代の増加が最大103万人であることと比べると、急速に増えていることが分かります。
65歳以上の高齢者の再雇用などについて定めた「高齢者雇用安定法」や、厚生年金の受給開始年齢引き上げなど、単純な人口増加だけではなく高齢者が働く必要性が生じていることも背景として考えられます。
理由4:人手不足の拡大
人手不足に悩む企業が増えてきている点も理由の1つです。
企業が正社員以外の労働者を活用する理由として「正社員を確保できないため」が、2014年では26.1%と、2010年から2014年の4年で8.3ポイント伸びています。
正社員より給料が低いことや、柔軟に働いてもらえることが魅力なのかもしれません。
そのほか、非正規雇用労働者が増加した理由として、「正社員を重要業務に特化させたい(5.5ポイント増)」「即戦力・能力のある人材を確保したい(6.7ポイント増)」ニーズが高まっている点が挙げられます。
非正規雇用のメリット・デメリットは?
非正規雇用で働く3つのメリット
柔軟に働ける
フルタイム勤務よりも働く時間が短く、ライフスタイルに合わせて仕事に取り組むことができます。家事・育児・介護と仕事を両立させたい、持病があるためフルタイム勤務が難しい方にとっては働きやすい特徴といえるでしょう。
異動の可能性が低い
正規雇用と比べて、人事異動や転勤が少ないメリットがあります。高齢の両親と同居しなければならない、子どもを転校させたくないなど、転勤が難しい場合に適しています。
採用されやすい
正規雇用に比べ、採用のハードルが高くない面もあります。同じ企業であっても、学歴やスキルなどの条件は正規雇用よりも緩く設定されているのが一般的です。
非正規雇用で働く3つのデメリット
給与が安い
給与の低さは、非正規雇用における大きなデメリットです。
平成29年賃金構造基本統計調査によると、正規雇用と非正規雇用の賃金の差は全体で11万800円であり、正規雇用のわずか65.5%の賃金しかもらっていません。
待遇が不安定
正規雇用に比べて、賃金以外の待遇も不安定であることも挙げられます。「期限の定めがある」勤務形態のため職を失う可能性が正規雇用に比べて高いほか、健康保険など社会保障の適用が少ない、賞与や退職金制度の対象になりにくいというデメリットがあります。
結婚しにくい
収入や待遇の不安定さなどの影響から、非正規雇用の場合、正規雇用と比べて結婚する割合が低くなっています。
2012年に独身・20代だった人のうち、2016年に結婚している人の割合は正規雇用の男性で22.4%、女性で30.5%となっています。比べて非正規雇用の場合は、男性7.6%、女性24.6%となっています。
結婚生活や子育てなどにかかる資金などをふまえ、経済的な不安などから結婚に踏み切れないことが多いと考えられ、特に男性において顕著に傾向が表れています。
非正規の待遇改善のための取り組みって?
非正規雇用と正規雇用の格差を解消するため、厚生労働省は2020年まで「正社員転換・待遇改善実現プラン」を実施しています。
不合理な待遇差を解消する
正規雇用と同じ仕事をしているにも関わらず賃金が低いなど、不合理な格差を解消する取り組みが含まれています。
具体的には「同一労働同一賃金の促進」や「最低賃金、賃金の引き上げ」など。
実現すれば、職種によっては給与が正規雇用と同一になったり、現状よりも時給が高くなったりする可能性があります。
不本意非正規雇用労働者を正社員に転換する
無期転換ルールの周知徹底など、正社員への転換促進も行われています。
特に若い世代で多い「不本意非正規」の割合を減らすねらいがあります。
まとめ
非正規雇用は生活との両立がしやすいメリットがあり、待遇改善の動きもあります。
一方で給与や福利厚生など、不安が大きいのも事実です。自分に合った働き方を検討する際に、この記事が助けになれば幸いです。
この記事の監修者
特定社会保険労務士
成澤 紀美
社会保険労務士法人スマイング
社会保険労務士法人スマイング、代表社員。IT業界に精通した社会保険労務士として、人事労務管理の支援を中心に活動。顧問先企業の約8割がIT関連企業。2018年より、クラウドサービスを活用した人事労務業務の効率化のサポートや、クラウドサービス導入時の悩み・疑問の解決を行う「教えて!クラウド先生!®(商標登録済み)」を展開。