あなたは何時間? 残業時間の平均と残業事情
「今日も残業。もっと早く帰って、自分の時間が持てたらなぁ」……仕事をしていれば、誰しもがそんな思いに駆られることがあるでしょう。
自分の残業時間が他の人たちと比べて長いのか、それともみんなもっと忙しい中で頑張っているのか、気になることはありませんか?
この記事では、世の中の平均的な残業時間を大公開。さらに業界や年齢による動向、残業にまつわるトラブル対処法など、現代日本の残業事情にまつわる情報も紹介します。
平均残業時間の最新事情
まずは、世の中の平均的な残業時間を把握するとともに、業界・年齢・年収の違いによる残業時間の差異などについて、見ていきましょう。
残業時間 厚労省の調査は「9.2時間」、口コミサイトでは「47時間」!?
厚生労働省が毎月発表している「毎月勤労統計調査」の最新データを見ると、事業所規模5人以上の企業における「所定外労働時間」は、月間「9.2時間」となっています。
一方、社員による会社評価、約6万8千人の会社員による口コミ情報を掲載しているサイトOpenWorkのレポートによると、月間の平均残業時間は「47時間」となっています。
この差の原因は、政府調査は「雇用主」、口コミサイトは「労働者」と、調査対象が異なる点にあります。
口コミサイトの情報は、わざわざ書き込む人=会社に不満を抱いている人、であることが多いため、口コミが書かれる会社に偏りが出がち。ゆえに、すべてを鵜呑みにするのは危険です。
また、厚労省の調査でこれだけ低い数値が出ているということは、サービス残業など雇用主には見えない部分での残業時間を拾えていなかったり、企業が残業時間を隠ぺいしている可能性も推測されます。
あなたの残業時間に近いのは、どちらでしょうか?
(所定外労働時間=早出、残業、臨時の呼出、休日出勤等の実労働時間数)
※出典:OpenWork|約6万8000件の社員口コミから分析した‘残業時間’に関するレポート
業種別では「コンサルティング・シンクタンク」が最長
前述のOpenWorkアンケート調査より、残業時間の平均を業界別で見ると、「コンサルティング、シンクタンク」が月間83.5時間ともっとも長いことが分かります。次いで、「広告代理店、PR、SP(セールスプロモーション)、デザイン」(78.6時間)、「建築、土木、設計、設備工事」(70.8時間)において、残業時間が長いという結果が出ています。
また、職種別に見ても、残業時間の長い上位3職種は「戦略コンサルタント」(86.29時間)、「マーケティングコンサルタント」(85時間)、「CIO、CTO」(80時間)となっており、業界ランキングと連動していることが分かります。
これらの仕事は、給料が高いことでも知られています。次は給料と残業時間の関係を見てみましょう。
「35歳~39歳の年収2000万円~3000万円の人」がもっとも忙しい
今度は、同アンケートより、年収別の残業時間をさらに年齢層に区切った集計を見てみると、もっとも残業時間が長い層は「35歳~39歳」の「年収2000万円~3000万円」のビジネスパーソンであることが見て取れます。
「まだまだ体力のある30代後半で、これまで培ってきた仕事の実力を活かしながらバリバリ働く、年収の高い人たち」がもっとも多忙であることは、想像に難くないでしょう。
残業時間が少ない企業ランキング
では、実際に残業時間が少ない企業とは、どのような企業なのでしょうか?
東洋経済ONLINEが2019年4月に発表した「『残業時間の少ない会社』トップ100」ランキングによると、1位は「アイサンテクノロジー」で平均残業時間は12分でした。
※出典:東洋経済ONLINE|最新!これが「残業時間の少ない」トップ100社だ(2019年4月25日)
ただし、残業時間が少ないからこそ、アンケートに回答している企業が集まっている可能性もある点に留意しつつ、ランキングを解釈する必要はありそうです。
残業が少ない会社の“共通点”はなかなか見あたらず、業種・業態もバラバラです。
ひとつ言えることは、平均年収が1000万円以上の高給企業は少ないということ。
上位100社の中では、月間平均残業が5時間37分で62位のスクウェア・エニックス・ホールディングス(約1430万円)と、7時間12分で100位のクリエイトSDホールディングス(約1120万円)だけでした。
残業が少ないと、その分の残業代を稼ぎにくいことが影響しているのかもしれません。
コラム:日本人は本当に働き過ぎ? 世界の残業事情
「Karoshi(過労死)」という日本語が海外でもそのまま使われているように、日本人はワーカホリック(仕事中毒)というイメージが世界でも根付いていると言われていますが、実は日本の労働時間は世界の各国と比較するとほぼ平均くらいです。
経済協力開発機構(OECD)が発表した、加盟国など世界38か国と地域を対象とした平均年間労働時間のランキング(2018年)を見ると、世界の平均は、1691時間。
そして日本の平均年間労働時間は、それを少し上回る1680時間、世界ランキングでは22位と、飛び抜けて高い順位ではありません。
※参照:GLOBAL NOTE|世界の労働時間国別ランキング・推移(OECD)
上位3か国は以下の通りです。
1位 | メキシコ | 2148時間 |
2位 | コスタリカ | 2121時間 |
3位 | 韓国 | 1993時間 |
この結果には各国違った事情があります。たとえば1位のメキシコでは賃金をもらって働ける機会が少なく、家事手伝いなど無給の労働も「労働時間」として反映されていることや、3位の韓国では平均月収(手取り)が日本円で14万円程度と低いため共働き家庭が多いことなどが挙げられます。
ではなぜ、日本人に「働き過ぎ」というイメージがあるのでしょうか?
たとえばアメリカの平均年間労働時間は1786時間で、世界11位。
日本よりも多いですが、アメリカ人は、長時間働くことを決して良いことだとは思っていません。アメリカでは、長時間労働をする人は、事務処理が遅い、効率が悪い、意志決定が遅いなど「仕事のできない人」と見なされます。
一方、日本では、長時間労働が「努力や忠誠心の表れ」と捉えられ、ともすれば会社から「よく頑張っているな」と評価されてしまうような風潮があります。
こうした日本人特有の労働観が、日本=働き過ぎ、というイメージを助長しているのかもしれません。
労働基準法が定める残業の規則を知ろう
この章では、法律で定められた残業に関する規則について、最低限抑えておきたい情報を紹介していきます。
実際の時間外労働や長時間労働におけるトラブルの対処法については、「これってアリ!? 残業にまつわるトラブル対処法」 を参照ください。
残業時間を取り決める「36協定」の効力と実態
「36(さぶろく)協定」とは、労働基準法36条に基づき、時間外労働や休日勤務等について、労使間で締結する協定書のことです。
労働基準法36条では、会社は法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える時間外労働及び休日勤務などを命じる場合、労働組合などと書面による協定(36協定)を結び、労働基準監督署に届け出る義務および、協定を結んだ旨を従業員に知らせる義務があります。
これらを違反したり、届け出を怠った企業には罰則があります。
このように、本来、残業をするということは、労働者と雇用者の取り決めがあるほど、大変なことなのです。
ところが、平成25年10月に厚生労働省労働基準局が発表した調査によると、中小企業の56.6%が36協定を締結しておらず、そのうちの半数以上が「時間外労働や休日出勤があるにも関わらず36協定を締結していない」=「違法残業を課している」ということが判明しました。
企業が36協定を遵守していない、また、従業員も協定の存在を知らずに、当然のごとく残業をしてしまっているケースが多いのが現状と言えます。
専門業務型裁量労働制とは?
研究職やITエンジニア、クリエイティブ職など、業務の性質上、仕事を行う手段や時間配分などを労働者自身で決めたほうが進めやすい仕事があります。
専門業務型裁量労働制は、そういった仕事において、会社が労働時間をきっちり決めない代わり、あらかじめ労使間で定めた時間を働いたものとみなす制度です。
▼対象業務
国により定められた19業務に限り、事業場の過半数労働組合又は過半数代表者との労使協定を締結することにより、導入することができます。
19種の業務については、下記のホームページを参照ください。
この制度では、成果物が評価対象となるため、出退勤時間の制限がなくなります。
労働者にとっては、自分の都合の良い時間で働けるメリットがある反面、長時間労働を引き起こす要因ともなり、労使間でトラブルが発生しがちです。
これってアリ!? 残業にまつわるトラブル対処法
最後に、残業時間に関する、よくあるトラブルへの対処法についてまとめていきたいと思います。
「みなし残業」のルールを把握しよう
みなし残業とは、実際の残業の有無に関わらず、あらかじめ給与の中に一定時間分の残業代が含まれて支払われる制度のことです。
「みなし残業」が適用される業務は、「事業場外労働」と「裁量労働」の2つに分けられます。
「事業場外労働」は、営業など事業所の外で働く仕事に適用される働き方。
「裁量労働」は、エンジニアやデザイナーなど専門職に多く用いられ、仕事の時間配分を労働者側の裁量に委ねられる働き方で、3章で触れた「専門業務型裁量労働制」は、こちらに当てはまります。
双方とも、実際の労働時間を把握することが難しいという共通点があり、一定の労働時間を働いたものと“みなし”て、賃金が支払われます。
実働時間の割に給与が低いと感じたら確認すべきこと
みなし残業制度の給与体系で働いているものの、労働時間に対して給与が低いと感じたら、以下の2点を確認しましょう。
(1)決められたみなし残業時間の超過分は支払われているか
(2)みなし残業代込みの賃金が労働基準法で指定されている最低賃金を下回っていないか
まず(1)について、例えば、「月給21万円 ※上記金額には30時間分のみなし残業代を含む」という給与契約であれば、残業が30時間を超えた分の残業代を請求することができます。
(2)については、例えば、みなし残業制を採用し、みなし残業を30時間と設定したとします。
東京都の最低賃金は1,013円(2021年3月月現在)、例えば1ヶ月の所定労働日数を23日、1日の所定労働時間を8時間で計算すると、
A.基本給 :1,013円×8時間×23日=18万6,392円
B.みなし残業代:1,013円×1.25(※)×30時間=3万7,986円
(※)時間外手当は時間給の1.25倍と定められているため
AとBの合計は、22万4,378円となり、これが最低賃金の額です。
この額を下回っている場合は、労働基準監督署に未払い分を通報することができます。
「サービス残業」から抜け出す方法
サービス残業とは、残業をしているにもかかわらず、法的に支払われるべき残業代が支払われない残業のことを言います。
世の中には、タイムカードは定時で打刻させ、その後に残業を強制したり、実働時間よりも過少に申告させる会社が存在します。
もし、そういった会社で働いているのであれば、労働審判や訴訟を起こすことができます。
- 労働のトラブルでお困りなら…法テラス
まずはここに電話するか、最寄りの法テラスを訪ね、相談しましょう。内容に応じて、法制度や相談機関・団体等を紹介してもらえます。また、実際に訴えを起こす場合は、長時間労働をしている事実を証明するものが必要となります。
自分でできることとしては、タイムカードや過少申告した書類のほかに、パソコンのログアウト記録を取っておきます。
加えて、実労働時間、実際の労働の内容などを記載したメモを残しておくとよいでしょう。パソコンのログアウト記録と毎日の労働時間や労働内容のメモとが一致すれば、残業をしていたことが認定される可能は高まります。
確実に証明できるものとまでは断言できませんが、何もしないよりははるかに有効といえるでしょう。
求人広告から見抜く「残業時間」と「残業代」
入社してから「こんなはずじゃなかった!」とならないよう、求人広告やサイトから残業時間の過多や残業代の支給方法を的確に見抜けるようにしましょう。
「残業月○○時間以内」で絞り込めるサイトあり!
まず、残業時間については、求人情報に「残業月平均○○時間程度」などと明記されていることがあるので、よく読んで確認しましょう。
また、こだわり検索などで残業が少なめの会社を絞り込める求人サイトもあります。「残業月○○時間以内」で絞り込み検索できるサイトをいくつか紹介します。
ただし、求人情報に書いてあることはあくまでも企業側からの発信なので、サービス残業の有無等までは判断できません。口コミサイトの情報を参考にしたり、実際にその会社で働いている人を探して話を聞くのが確実でしょう。
「みなし残業制」「年俸制」導入の企業の求人例と注意点
「みなし残業制」が導入されているかどうかは、求人情報の給与欄や、残業手当については福利厚生欄などに記載されていることが多くあります。
▼給与欄に書かれている場合の記載例
月給20万円~30万円 ※上記には月40時間分のみなし残業手当が含まれています。
月給21万円 ※上記金額には30時間分のみなし残業代を含みます。
▼福利厚生欄に書かれている場合の記載例
時間外手当(40時間を超えた場合に支給)
残業手当(みなし残業時間を越えた場合のみ支給)
残業手当(みなし残業40時間有り)
また、給与欄に「年俸制」と記載された求人を見かけることも多いでしょう。
年俸制は、1年に支払われる給料の総額を決め、それを12等分して毎月の月給とする給与体系です(16等分してボーナス時に上乗せする場合もあり)。
年俸制を取り入れている企業の残業代の扱い方や具体的な金額算出方法は、企業によって異なります。気になる場合は、面接の際に企業に確認しましょう。
<年俸制導入企業の残業代の記載例>
「年俸には1月あたり○○時間分の時間外労働手当を含む」
「年俸には年あたり○日分の休日出勤手当を含む」
「年俸には1月あたり○万円分の時間外労働、休日出勤手当を含む」
コラム:自ら残業を減らす工夫をすることも大切
残業時間の多さがあまりにも多すぎる業務量から来ている場合は、一度会社と話し合う必要がありそうです。しかし残業時間が長いのは当たり前と諦めている人、諦めて何となくダラダラと残ってしまっている人も、実は多いのではないでしょうか。
そんな場合は、少しの意識改革や工夫を行うことで、残業時間は減らせる可能性があります。
「定時で帰る!」という目標を持ち、効率良く仕事を進める習慣をつけるのです。業務効率化の一例を紹介します。
<定期的な業務の棚卸と選別>
不要な会議、打ち合わせの削減など、業務のムダを徹底的に追究する。
<空き時間にできることを探す>
外出先でのちょっとした空き時間や営業先への移動時間などに、メールチェックなどを済ませる。
<働き方を工夫する>
朝、少し早く出社し、1日の業務を整理してから仕事に取りかかる。
これらを意識することで、昨日よりも早く仕事が片付き、早く帰れるようになるかもしれません。できることから始めてみてはいかがでしょうか?
まとめ
あなたの残業時間は、平均と比べていかがでしたか?
最近、過労死のニュースを耳にする機会が増えました。
労働基準監督署が認定する「過労死ライン」の残業時間は、80時間。国もそうした働き方を強いる会社への立ち入り調査を強化するなど、さまざまな対策を講じています。
残業=企業への忠誠心、と言わんばかりに、どこか残業することが美徳のようにされてきた向きのある日本ですが、バブル期に栄養ドリンクのCMで謳われた流行語「24時間戦えますか?」の精神は、今の時代にはそぐわないと、国や社会も気づき始めた段階に来ているのではないでしょうか。
この記事を読んで、これからの働き方を見直すきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
(文:転職Hacks編集部)
この記事の監修者
社会保険労務士
山本 征太郎
山本社会保険労務士事務所東京オフィス
静岡県出身、早稲田大学社会科学部卒業。東京都の大手社会保険労務士事務所に約6年間勤務。退所後に板橋区で約3年開業し、2021年渋谷区代々木に移転。若手社労士ならではのレスポンスの早さと、相手の立場に立った分かりやすい説明が好評。様々な業種・規模の会社と顧問契約を結び、主に人事労務相談、給与計算、雇用保険助成金などの業務を行う。