証拠がない時はどうする? 給料未払いの相談先と請求方法

給料未払いが発生すると、生活に多大な影響が出ます。もし会社の経営不振で給料が支払われなくなってしまったら、どのように対処すれば良いのでしょうか。相談先や請求方法を解説します。

給料未払いは回収できる?どこに相談?

未払いになっている給料は回収できるのでしょうか?未払い給料の回収方法や相談先を解説します。

給料未払いは違法。ただし時効は3年

会社が従業員に給料を支払わなかったり、支払いが遅れたりすることは、労働基準法24条に違反します。会社には給料を支払う義務が、労働者には給料を請求する権利があります。

しかし、給料を請求できる権利には3年の時効があります。本来の給料日から3年を過ぎると、たとえ未払いの給与でも請求できなくなってしまいます。

※2020年4月以前に請求権が発生している賃金については、時効は2年。

会社が業績悪化や資金難などを理由に給料の支払いを拒否した場合、未払金を回収するためには法的な手続きをとる必要があります。時効を迎える前に行動を始めましょう。

給料未払いはどこに相談すればいいの?

給料未払いの相談は、労働基準監督署や、労働基準監督署と労働局に設置されている総合労働相談コーナー・法テラスといった公的な窓口のほか、弁護士司法書士社会保険労務士にすることも可能です。

警察は民事事件には介入しないので、給料の未払いについて相談することはできません。

なお、法テラスでの無料法律相談は一定の「資力基準」を満たすことが必要となります。資力基準とは、収入や不動産などの資産の基準で、その金額を下回らない限り、相談は有料となります。無料で相談したい場合、まずは労働基準監督署を利用するのが良いでしょう。

ただし、公的機関は自分の代わりに請求手続きを行ってくれるわけではありません。確実に未払金を回収したい場合は、弁護士などの法律の専門家に相談したほうが良いでしょう。対処方法を相談できるだけでなく、会社との交渉や法的な手続きもサポートしてもらえます。

未払い給料を請求するには証拠が必要!

未払い給料を請求するには、給与明細やタイムカードなどの証拠が必要です。証拠をもとに請求金額を算出します。

給料請求のために必要な証拠は3種類

未払い給料を請求するために必要な証拠は以下の3種類です。

  1. 本来の給料の金額がわかるもの
    …就業規則、雇用契約書、求人票など
  2. 実際の支払い金額がわかるもの
    …給与明細書、源泉徴収、給与振込口座の通帳など
  3. 労働していた事実がわかるもの
    …タイムカード、勤怠表、パソコンのログ、業務日誌など

タイムカードや勤怠表は会社が管理していて、入手しづらい場合もあります。そんな時は、勤務時間を記録した手帳やメモも証拠として利用することができます。

給料未払いの証拠がない時でも請求できる?

会社が証拠となる書類がある場合は、それを利用して支払いを請求できます。裁判所で文書提出命令の申し立て証拠保全手続きを行うことで、タイムカードなど会社が持っている証拠を提出させることが可能です。

これらの手続きは個人で行うことが難しいので、証拠が手元にない場合は弁護士に相談したほうがスムーズです。法律上、会社には賃金台帳等の作成と保存の義務がありますので(労働基準法108条、109条)、これらの証拠書類が存在しないということは考えにくいでしょう。

また、証拠保全等の法的手続きを利用しなくても、請求すれば会社が任意で開示に応じてくれるケースが一般的です。

コラム:給料未払いってどういう状況?

給料未払いは経営が悪化している会社で発生することが多く、数ヶ月に渡って支払いが滞る、支払われないまま倒産してしまう、というケースも珍しくありません。

最近では2018年の成人式当日に営業を停止し、大きな騒動を起こした振り袖レンタル業者「はれのひ株式会社」でも給料の未払いが起こっていました。

「はれのひ株式会社」では事業拡大に失敗したことで、2016年2月ごろから仕入先への支払いが遅れるようになり、2016年末には給料の支払いも滞るようになりました。

労働基準監督署が5回にわたって監督指導を行いましたが、状況は改善せず社長が逃亡。滞納税金や銀行からの借り入れなど会社の負債総額は約10億にのぼりましたが、資産は約1620万円しかなく、従業員の賃金約1800万円が未払いのまま2018年6月に破産してしまいました。

2018年9月に労働基準監督署は最低賃金法違反の疑いで元社長を書類送検しましたが、横浜地検により不起訴処分とされ、収束しました。

未払い給料を請求する方法と費用

未払い給料の回収は、まずは会社と直接交渉し、話し合いで解決できない場合は法的な手続きに移るという流れで進めるのが一般的です。以下のような段階を踏んで支払いを要求します。

未払い給料の支払い請求の流れ:1.会社と交渉→2.内容証明郵便を送る→3.労働基準監督署に申告→4.調停・訴訟・支払い督促

【ステップ1】会社と交渉

まずは会社と話し合いの場を設けて、給料を支払ってもらうよう交渉しましょう。単に会社側が給料の支払いを忘れていた場合は、直接交渉することであっさり解決することもあります。

会社が給料の支払いを拒否した場合や、支払いを先送りにしてほしいと要求してきた場合は、次のステップに移ります。

【ステップ2】内容証明郵便を送る

直接交渉しても給料が支払われない場合は、未払い給料の請求書を内容証明郵便で企業宛に送ります。

内容証明郵便の記載項目

  1. タイトル(「請求書」など)・日付
  2. 会社との契約関係(入社日、所属課、氏名など)
  3. 未払いの期間
  4. 請求金額(未払い給料に加えて、遅延損害金なども記載)
  5. 支払期限(「本書面到達後○日以内」という書き方が一般的)
  6. 支払い方法(金融機関の口座番号など)
  7. 支払われなかった場合の措置(「労働基準監督署への申告を含むしかるべき法的措置を講ずる予定である」など)
  8. 通知人・被通知人の住所・企業名(被通知人のみ)・氏名

内容証明とは、いつ・どのような文書が誰から誰に差し出されたのかを郵便局が証明してくれる制度です。さらに配達証明をつけることで、相手がいつ受け取ったかを証明することができます。

内容証明郵便には法的拘束力はなく、これを送ったからといって支払いを強制できるわけではありませんが、3年の時効の進行を6ヶ月間止めることができます。

内容証明郵便は、対応している郵便窓口に原本と謄本2通、封筒を提出し、利用料金を支払うことで差し出すことができます。

内容証明郵便の利用料(2021年7月30日時点)

  • 基本料金…84円~
  • 一般書留の加算料金…435円
  • 内容証明の加算料金…440円(2枚目以降は+260円)
  • 配達証明の加算料金…320円

※参照:「内容証明」|郵便局

【ステップ3】労働基準監督署に申告

内容証明郵便を送っても期日までに支払いがない場合は、労働基準監督署に申告します。

労働基準法に違反していると判断された場合は、労働基準監督署が会社を調査し、是正勧告や行政指導を行います。悪質な場合には刑事事件として立件されることもあります。

ただし、労働基準監督署は労働基準法に違反している明確な証拠がないと動いてくれないこともあるので、できれば事前に証拠を用意しておきましょう。

会社がタイムカードの開示に応じない等、会社が不誠実な対応をしている場合には、労働者基準監督署から会社に対して記録を開示するよう指導してもらうこともできます。まずは労働基準監督署に相談してみましょう。

【ステップ4】調停・訴訟・支払い督促

労働基準監督署から是正勧告が出されても給料の支払いに応じない会社もあります。そのような場合、調停や訴訟などの法的手続きに移ります

未払い給料を請求するには5つの手段があります。それぞれメリットとデメリットがあるので、自分の状況にあった手段を選ぶ必要があります。

未払いの給料を請求する5つの法的手段とメリット・デメリット表:民事調停のメリット→手続きが簡単・弁護士に依頼する必要がない、民事調停のデメリット→会社側に調停への参加を拒否される可能性がある・調停が成立しないこともある・譲歩を求められることもある、労働審判のメリット→3回の調停で審判が出される、労働審判のデメリット→異議申し立てがあると訴訟に移行する、支払督促のメリット→証拠が不要・弁護士に依頼する必要がない、支払督促のデメリット→異議申し立てがあると訴訟に移行する、少額訴訟のメリット→スピーディーに結果が出る、少額訴訟のデメリット→請求額が60万を超えると利用できない・異議申し立てがあると訴訟に移行する、通常訴訟のメリット→時間をかけて審理を行える、通常訴訟のデメリット→手続きが複雑で弁護士に依頼しないと難しい・判決が出るまでに時間がかかる

民事調停

民事調停は当事者同士が話し合うことで円満に問題解決を図る手続きです。

調停には裁判官1人と調停委員2人以上で構成される調停委員が同席し、合意に至れるように解決策などを提示してくれます。

調停によって会社が給料の支払いに合意すれば調停調書に合意内容が記載され、調停調書で定めた期日通りに支払われない場合は、差し押さえなどで強制執行することもできます。

▼メリット
手続きが簡単なので、弁護士に依頼する必要がありません。申立書等の書式は簡易裁判所に備え付けのものがあります。

▼デメリット
調停への参加を相手に強制することはできません。また、支払額を引き下げたり、分割払いに応じるなど、ある程度譲歩が求められる可能性もあります。

加えて、話し合いがまとまらなかったときは、そこで終わりになってしまいます。労働審判のように裁判所が何らかの決定を出してくれるものではありません

▼裁判所に支払う手数料
請求額が100万円の場合は手数料5,000円

※裁判所から書類を送るための郵便切手代などが別途必要

民事調停の流れの図:申し立て→調停(通常2~3回)→(合意できた場合)調停成立、(合意できなかった場合)調停不成立※調停に代わる決定が出される場合も

労働審判

労働審判は民事調停と同じく、話し合いによって解決を図る手続きです。

労働関係のトラブルに特化した審判で、裁判官と労働関係に詳しい労働審判員で構成される労働審判委員会が解決に当たります。

弁護士に依頼しなくても手続きは可能ですが、十分な証拠を提出する必要があります。

▼メリット
調停(審理)の回数が3回までと決まっておりスピーディーに手続きが進みます。3回で調停が成立しなかった場合には、裁判所が解決策を示した労働審判を出してくれます。

▼デメリット
労働審判に異議申し立てがあると通常の訴訟に移行してしまいます。

▼裁判所に支払う手数料
請求額が100万円の場合は手数料5,000円

※裁判所から書類を送るための郵便切手代や弁護士費用などが別途必要

労働審判の流れの図:申し立て→審理・調停(3回まで)→(合意できた場合)調停成立、(合意できなかった場合)労働審判→(異議申し立てなしの場合)調停成立、(異議申し立てありの場合)労働審判

支払督促

支払督促は、簡易裁判所を通して未払い給料の支払いを求める文書を送る手続きです。

会社側が督促に対し異議申し立てをしなければ、差し押さえなどの強制執行が可能になります。

▼メリット
証拠を提出する必要がありません。また、自分で簡単に手続きを行うことができます。

▼デメリット
相手から異議申し立てがあれば通常の訴訟に移行してしまいます。一方的に支払いを催促することになるので、ほとんどの場合は異議申し立てが出され、訴訟に持ち込まれます。

▼裁判所に支払う手数料
請求額が100万円の場合は手数料5,000円

※裁判所から書類を送るための郵便切手代などが別途必要

支払い督促の流れの図:申し立て→(異議申し立てありの場合)訴訟手続き、(異議申し立てなしの場合)仮執行宣言発付→(異議申し立てありの場合)訴訟手続き、(異議申し立てなしの場合)確定

少額訴訟

少額訴訟は、請求額が60万円以下の場合に簡易裁判所で行える訴訟です。

▼メリット
スピーディーに判決が出ます。原則として1回の審理で判決が出るので、通常の訴訟よりも簡単に利用することができます。また、訴状のテンプレートが用意されており、弁護士に依頼しなくても手続きを進めることができます。

▼デメリット
60万円を超える請求はできません。また、判決に対して異議申し立てがあると通常の訴訟に移行してしまいます。

▼裁判所に支払う手数料
請求額が60万円の場合は手数料6,000円

※裁判所から書類を送るための郵便切手代や弁護士費用などが別途必要

少額訴訟の流れの図:訴状・証拠書類提出→被告の答弁書・証拠書類受領→審理(原則1回)→和解、もしくは判決

通常訴訟

調停が成立しない場合、異議申し立てがあった場合は、通常訴訟に移行します。

▼メリット
審理の回数に制限がなく、納得がいくまで徹底的に争うことができます。

▼デメリット
手続きが複雑で弁護士に依頼したほうがよいものの、費用が高額になってしまいます。また、民事訴訟の審理期間は平均9ヶ月で、判決が出るまでに時間がかかります。

▼裁判所に支払う手数料
請求額が100万円の場合は手数料1万円

※裁判所から書類を送るための郵便切手代や弁護士費用などが別途必要

通常訴訟の流れの図;訴状提出→被告の答弁書受領→審理→和解、もしくは判決

コラム:弁護士費用の相場はどのくらい?

未払い給料の回収を弁護士に依頼した場合の報酬は、事務所や未払金の額によって異なります

多くの事務所では旧日本弁護士連合会報酬等基準をもとに料金を設定しています。例えば100万円の支払い交渉を依頼し、全額回収できた場合の報酬は以下の通りです。

  • 初回相談料…30分5,000円
  • 着手金…10万円
  • 報酬金…16万円

着手金は交渉の成功・不成功にかかわらず支払う料金、報酬金は給料を回収できた際に支払う料金です。このほか、書類の印刷代や切手代、日当などの実費は別途必要です。

また、交渉がうまくいかず訴訟を起こす場合は、訴訟の着手金を追加で支払う必要があります。

料金体系は事務所によって違うので、弁護士に依頼する場合は事前に金額を確認しましょう。また、弁護士費用の支払いが難しい場合には法テラスの立替制度が使える可能性もありますので、この点も併せて弁護士に尋ねてみてください。

給料未払いに関するQ&A

最後に給料未払いに関するよくある質問と回答をご紹介します。

退職後でも未払い給料は請求できる?

退職した後でも未払いになっている給料を請求することができます。ただし、本来の給料日から3年が過ぎると時効が適用されて請求できなくなってしまうため、早めに請求しましょう。なお、2020(令和2)年4月より以前に発生した賃金の時効は給料日から2年ですので、注意が必要です。

社長が逃亡している場合は請求出来る?

社長が逃亡している場合、未払賃金立替制度を利用すれば未払いの給料の最大8割を国が立て替えてくれます。
この制度は会社が倒産した場合に、国が未払いの給料の一部を代わりに支払ってくれるものです。利用条件には「会社が1年以上事業を行っていたこと」「会社が倒産したこと」などがあります。まずは労働基準監督署に相談しましょう。

バイトの未払い給料も請求できる?

アルバイトやパート、派遣社員、契約社員にも正社員と同じく給料をもらう権利があります。
ただし、アルバイトでは請求金額が少なく、弁護士に依頼するのは難しいかもしれません。民事調停や労働審判などを自分で起こすのも1つの手段です。

バックレて辞めた場合は請求できる?

勤め先に無断で欠勤し、事実上退職している場合でも、法律上は働いた期間の給料を請求できます。
ただし、無断欠勤・無断退職したことを理由に会社側から損害賠償を請求されることもあります。

給料が遅れた分の利息は請求できる?

給与未払いがあったとき、未払いの給料とあわせて、遅延損害金・遅延利息を請求することができます
民法404条では本来の給料日の翌日から年3%の利息がつくと定められています。また、給料が未払いのまま退職した場合、賃金の支払いの確保等に関する法律第6条で、退職日の翌日から年14.6%の遅延利息がつくと定められています。

まとめ

未払い給料は会社に請求することができます。

証拠を揃えたり会社と交渉したりするのはハードルが高いという方は、まずは労働基準監督署や労働総合相談コーナーなどで対処方法を相談してみましょう。

この記事の監修者

弁護士

南 陽輔

一歩法律事務所

大阪市出身。大阪大学法学部卒業、関西大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録(大阪弁護士会所属)。その後、大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立。誰もが利用しやすい弁護士サービスを心掛け、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行う。

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