訴える方法や相談窓口も紹介 求人詐欺に遭ったら?

求人詐欺とは、企業が故意に実際の雇用条件とは違う情報で求人を出すことですが、実際にはどういったケースがあるのでしょうか?

求人詐欺の具体例とともに、万が一被害に遭った場合の対策や回避するためのチェックポイントについて解説します。

「これって求人詐欺?」と思ったら?

求人詐欺には、以下の2つのケースが考えられます。

  1. 応募した求人情報と、入社時に受け取った労働条件通知書の内容が違うケース
  2. 応募した求人情報(あるいは内定後に受け取った労働条件通知書)と給与や契約期間といった実際の労働条件が違うケース

「求人詐欺ではないか?」と感じた場合の対処法を紹介していきます。

 (1)求人情報と労働条件通知書・就業規則の違いを確認

万が一、求人詐欺ではないかと感じたら、まずは自分が応募した際の「求人情報」を確認しましょう

その上で「1 .応募した求人情報と、入社時に受け取った労働条件通知書の内容が違う」場合は会社と雇用契約を結ぶ際に発行される労働条件通知書」と見比べます。

一方「2.応募した求人情報(あるいは内定後に受け取った労働条件通知書)と実際の働き方が違う」場合は会社のルールを定めた就業規則」と見比べます。

求人情報と労働条件通知書・就業規則を見比べた上で、給与や残業の有無などの労働条件が求人情報と異なっていないかチェックしてみましょう。

求人詐欺の詳細や具体例については「そもそも求人詐欺とは?」で紹介します。

(2)専門家に相談する

求人詐欺かどうか自分だけでは判断がつかない場合、下記のような専門家に相談するのも一つの方法です。

その際は、求人詐欺の証拠となる「求人情報のコピー」や「契約書」「労働条件通知書」「就業規則」に加え、実際の働き方がわかる「給与明細」や「勤務表」などを用意しましょう。

求人詐欺にまつわる相談窓口には以下のようなものがあります。

「2.応募した求人情報(あるいは内定後に受け取った労働条件通知書)と実際の働き方が違う」ケースで、会社や上司に待遇の改善を持ちかけても改善されない場合、見切りをつけて退職することも視野に入れておきましょう。

(3)場合によっては退職や訴えることを検討する

「1 .応募した求人情報と、入社時に受け取った労働条件通知書の内容が違う」というケースでは、内定を辞退することで無用なトラブルに巻き込まれずにすみます。

入社後に、求人詐欺では?と思い、自分で調べたり、専門家に相談したりした結果その可能性が高い場合、訴訟を起こすという手段もあります。

訴訟を検討する場合、まずは労働問題に強い弁護士に相談してみることをおすすめします。
ただし、訴訟には時間と労力がかかるため、それなりの覚悟が必要です。時間や労力を無駄にする可能性があるため、しっかり考えてから決断しましょう。

コラム:求人情報と労働条件通知書、どっちが正式な条件?

求人情報と労働条件通知書で記載内容が異なる場合、労働条件通知書の内容が優先されるのが基本です。しかし、求人情報の内容が優先されると認められた裁判もあります。

平成29年3月、京都地裁において判決が下された「福祉事業者A苑事件」では「求人内容を正式な労働条件とみなす」という判断に至りました

当時64歳だった原告は、求人情報に「契約期間の期限や定年制がない」と記載されていたことからその会社に応募。面接で担当者に定年制の有無について確認したところ「まだ決まっていない」とのことで、そのまま採用されることになりました。

しかし、就職後に渡された労働条件通知書には「1年間の有期契約」と「65歳の定年制」と記載されていたのです。会社側に悪意はなく「労働条件は契約の際に改めて決めればいい」という認識でいたものの、京都地裁は求人内容を正式な労働条件とみなす旨の判決を下しました

そもそも求人詐欺とは?

求人詐欺とは具体的にどういったものを指すのでしょうか? よくあるケースについて紹介します。

求人募集時の労働条件と実際の労働条件が違うこと

求人詐欺とは「1.応募した求人情報(あるいは労働条件通知書)と実際の働き方が違う」もしくは「2.求人情報と労働条件通知書の内容が違う」ことを指します。

求人詐欺は入社後に気付くことがほとんどなので、求人情報とあまりにもかけ離れた働き方を要求されて短期間で退職することになったり、会社に訴えても相手にされずに泣き寝入りのような状態で働き続けたりする場合もあるようです。

しかし、求人情報と労働条件に相違点があっても、以下のように求人詐欺にあてはまらないケースもあります。

求人詐欺にあてはまらないケース

募集時には「給与25万円、職務手当支給」という条件だったが、面接後に「応募者の経験やスキルが採用基準よりも劣っていたため『給与22万円、職務手当なし』であれば採用する」との通知があった。

上記の場合、たしかに募集内容と内定後の労働条件は異なりますが、応募者本人に通知した上で合意があれば求人詐欺には該当しません

求人詐欺にありがちな4つのケース

求人詐欺にありがちな4つのケースを紹介します。

給与・残業代にまつわるトラブル

求人情報の記載内容と実際の給与や残業代の支払い額が異なる場合、求人詐欺にあたるかもしれません。

例)

  • 求人情報では月給25万円だったが、入社してしばらく経ってから「仕事をしっかり覚えるまでは20万円」と言われた
  • 求人情報には月給22万円とだけ記載されていたが、実は固定残業代5万円 が含まれていて基本給は17万円だった

このようなトラブルを避けるため、2018年1月に職業安定法が改正されました。

例えば、固定残業代制を採用している企業であれば、求人情報に下記の内容を記載しなければなりません。

  • 固定残業代分を除いた基本給の金額
  • 固定残業代の金額と算出にあたり設定された残業時間
  • 固定残業代の残業時間を超えた場合の割増額

雇用形態にまつわるトラブル

契約の際に、募集条件と雇用形態が違うことが発覚した場合、求人詐欺の可能性があります。

例)

  • 正社員で募集していたが、実際はアルバイトだった
  • 「正社員登用あり」と話を聞いていたので契約社員として入社したが、実際には正社員登用の制度はなかった

休日にまつわるトラブル

実際に働き始めたら予想外の出勤日があったなど、求人情報の記載よりも休日が少ない場合、求人詐欺にあたる可能性があります。

例)

  • 週休2日制のはずが、実は月1回の休日出勤をしなければならなかった
  • 「土日祝休み」との記載があったものの、実際には月に何度も土曜日も出社を強制され、振替休日もなかった

仕事内容にまつわるトラブル

求人情報の内容と実際の職種や仕事内容が違う場合、求人詐欺に該当することがあります。

例)

  • 事務職で採用されたのに、入社後は営業職に配属された
  • 業務内容はテレアポ営業と知らされていたのに、実際には訪問営業を強いられた

求人詐欺は減少傾向にある

求人詐欺はゼロではないものの、かなりの減少傾向にあります。

厚生労働省の調査によると、令和2年度中にハローワークの求人票の記載内容と実際の労働条件が違ったという申し出は4,211件で、前年度比27%減となっています。

法改正や企業側・応募者側の意識の変化もあってか、平成27年度から5年連続で減少しています。

※参考:令和2年度のハローワークにおける求人情報の記載内容と実際の労働条件の相違に係る申出等の件数|厚生労働省

求人詐欺の被害に遭わないための対策

求人詐欺に遭わないための回避策はあるのでしょうか? 自分でできる対策には、以下のようなものがあります。

求人情報・労働条件通知書をしっかりチェックする

求人詐欺の被害を避けるためにまずできることは、面接時に雇用形態、試用期間の有無、固定残業制や裁量労働制の有無、各種手当などの労働条件について確認しておくことです。

また、入社後のトラブルを防ぐため、求人情報はコピーして保管し、内定後に受け取る労働条件通知書や働き始めてからの実際の労働条件と比較できるようにしておきましょう。

※雇用条件について詳しくは→通知書で確認すべき13の雇用条件

SNSなどで応募先企業の評判を調べる

求人詐欺にあわないためには、応募を検討している企業の口コミやSNSでの評判をインターネットで調べておくのもおすすめ。現職の社員からのリアルな情報を拾える場合があります。

ただし、口コミサイトなどには不満を抱いている社員が書き込む傾向があるため、ネガティブな意見ばかりが目立っているという可能性も。また、インターネットの情報は匿名の投稿ゆえに嘘が混じっていることも少なくないため、全てを鵜呑みにしないようにしましょう。

また、投稿されている情報が古いこともあります。ネガティブな情報が書き込まれていても、すでに改善されていることもあります。気になる情報であれば、面接で確認してみましょう

社内の雰囲気を確認する

求人詐欺を回避するために、会社訪問や面接の際に、会社全体の雰囲気や社員の様子を確認しておきましょう。

求人詐欺を行う会社の特徴として、労働環境が良くないケースがあるためです。オフィスがあまりにも汚れていたり、社員が疲れ切っている人ばかりだったりする場合は、より注意を払って労働条件を確認しましょう。

まとめ

減少傾向にあるとはいえ、いまだに求人詐欺にまつわるトラブルは後を絶ちません。

求人詐欺に遭わないためには、応募の前に企業について入念にリサーチし、面接で労働条件・雇用形態をしっかり確認するといった対策を講じるようにしましょう。

この記事の監修者

社会保険労務士

三角 達郎

三角社会保険労務士事務所

1972年福岡県生まれ。東京外国語大学卒業。総合電気メーカーにて海外営業、ベンチャー企業にて事業推進を経験後、外資系企業で採用・教育・制度企画・労務などを経験。人事責任者として「働きがいのある企業」(Great Place to Work)に5年連続ランクインさせる。
現在は社会保険労務士として、約20年の人事キャリアで培った経験を活かして、スタートアップ企業や外資系企業の人事課題の達成から労務管理面まで、きめ細やかにサポートを行っている。