【残業代が出ない】違法パターンと対処法
いくら働いても残業代が出ない……。自分の職場の状況が当たり前なのか、悩んではいませんか?
残業が出ない会社にありがちなパターンと対処法を解説します。
これって違法?残業代が出ない6パターン
連日、遅くまで残業しているのにきちんと残業代が受け取れない状況では、仕事へのモチベーションを保てないですよね。そこで、残業代が出ないことに悩んでいる方にありがちな6つの状況を解説します。
残業代の出ないサービス残業は法律違反?
雇用契約書には『勤務時間:9:00~18:00』とあるのに、毎日遅くまで残業させられて、その分の残業代は出ていません。これは労働基準法違反では?
残業をさせているのに会社が残業代を支払わないことは違法の可能性があります。
会社が残業を命じているのに、残業時間に応じた割増賃金を支払っていないことは原則として違法です。
会社は、36協定という労使協定を締結すれば、労働者に残業を命じることができます。
そのため、36協定があれば、残業をさせること自体が直ちに違法となるものではありません。
ただし、労働基準法では、会社は労働者の残業に対して一定の割増賃金(残業代)を払うことを求めているので、それが支払われていないのは法律違反だと言えます。
固定残業代以外の残業代はもらえない?
雇用契約書の給料欄に「固定残業代を含む」と書いてありました。残業が1時間でも100時間でも、固定残業代しかもらえないのでしょうか?
そんなことはありません。固定残業代制度で会社が定めた労働時間を超えた分は、割増賃金が別途支払われます。
固定残業代制度は「基本給○○万円、うち固定残業代として△時間分の残業代○万円を含む」「毎月○○円を固定割増賃金として支給する」といった給与形態のこと。
労働基準法の定める制度ではありませんが、適正に運用される場合には法令違反とはならないと考えられています。
しかし、固定残業代制度が必ずしもすべての会社で適正に運用されているとは限りません。その運用に誤りがあり、適正な残業代が支払われていないケースも多々あります。
例えば、固定残業代制度を実施するためには、雇用契約において以下の2つの要件を満たす必要があります。
- 通常賃金部分と割増賃金部分が明確に区別されている
- 固定手当が残業の対価として支給されている
この2つを満たしていない場合、固定残業代の支給はそもそも残業代の支払いとは言えません。
固定残業代制度は、一定額を支払えば、それ以上の残業代の支払義務を免除する制度ではないのです。
裁量労働制だから残業代が出ない、は正しい?
会社から「裁量労働制だから残業代は出ない」と説明されました。深夜や休日まで働くことも多く、毎月みなし労働時間以上に働いているのですが、裁量労働制では当たり前なのでしょうか?
裁量労働制の場合は、みなし労働時間以上に働いても、実際の労働時間に応じた残業代は支払われません。しかし、正しく運用されているかどうかは慎重な判断が必要です。
裁量労働制度は、労働者の実労働時間にかかわらず、その労働時間を強制的に一定時間にみなしてしまうという極めて強力な制度です。
この制度が正しく導入、適用されている場合には、実労働時間が長時間となっても、企業には残業代の支払義務がありません。
しかし、このような強力な制度であるために、裁量労働制の導入・適用は法律の定める厳格な要件・手続きに従って行われる必要があります。
そのため、企業が「うちは裁量労働制である」と説明していたとしても、当該制度が法律の要求する厳格な制度要件や手続きを満たしていない場合、労働者は実労働時間に応じた残業代を請求できるということになります。
※参考→裁量労働制の概要|厚生労働省
一般事務職にも裁量労働制が適用されるの?
転職しようと考えている会社の求人票に業務が「一般事務」なのに、「裁量労働制」と書いてありました。一般事務にも裁量労働制の適用は可能なのでしょうか?
不可能です。裁量労働制は特定の職種しか対象となりません。
「裁量労働制」は、専門業務又は企画業務に従事する者に限り適用可能で、一般事務職には適用されません。
そして、この専門業務・企画業務に該当する職種については法令や通達で厳格に定められていますので、会社が勝手に専門業務や企画業務に該当すると整理しても意味がありません。
一般事務は専門業務でも企画業務でもありませんので、裁量労働制の適用は不可能です。
管理職は残業代が出ないの?
管理職の肩書はありますが、仕事の内容や給料は一般社員と変わりません。管理職なので残業代が支給されないのは仕方のないことでしょうか?
管理職だから直ちに残業代が出ないということはありません。
「管理職だから」という理由のみで残業代を支給されていない場合には、支払われるべき残業代が不当に支払われていない可能性があります(この問題がいわゆる「名ばかり管理職」の問題です)。
労働基準法は、「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)に対して時間外・休日労働の規制を適用しないとしており、管理監督者には残業代(時間外労働・休日労働に係る割増賃金)の支払義務はないと考えられています。
そのため、多くの会社では管理職=管理監督者という整理の下で、管理職には時間外・休日労働の割増賃金を支払っていません。
ただし、労働基準法の定める管理監督者かどうかは、その職責・勤務実態・待遇から「経営者と一体的立場にある者」といえるかどうかにより判断されるものであり、会社が一方的に与える役職や肩書により決まるものでありません。
そのため、会社において「部長」「課長」などの役職を与えられていたとしても、その職責・勤務実態・待遇から「経営者と一体的立場」とは認められない場合には、会社はその役職者に対する残業代の支払義務を免れることはできません。
年俸制でも残業代はもらえるのか?
会社から「年俸制だから残業代は出ない」と説明がありました。残業代は諦めるしかないのでしょうか?
「年俸制だから残業代が出ない」は明らかに誤りです。年俸制と残業代支払い義務は無関係です。
年俸制だから残業代が出ないという話はちらほら聞いたことがあるかもしれません。
年俸制はあくまで賃金を年単位で定める制度に過ぎず、会社の割増賃金支払義務とはまったく関係ありません。
「年俸制だから残業代が出ない」という説明はそれ自体、明らかに誤りです。
コラム:業務委託と雇用
業務委託を受けている個人事業主であっても、実態としてその会社の従業員と同じような形態で仕事をしていれば、実質的には雇用契約を締結する者(労働者)であると評価されることがあります。
労働者として評価される場合、労働基準法の適用を受け、その会社の従業員と同様の残業代が支払われます。
ただし、この労働者かどうかという判断には明確な基準はなく、以下のような事情を総合的に考慮して判断されます。
- 会社からの仕事依頼に対して諾否の自由があるかどうか
- 業務について会社から具体的な指示・命令を受けているかどうか。
- 業務について会社に時間的・場所的な拘束を受けているかどうか。
- 業務対価が仕事の内容・質の対価ではなく、作業時間の対価として支払われているかどうか。
- 会社に専属しているかどうか。
- 事業者性を有しているかどうか。
未払い残業代を請求する前に
「残業代を会社に請求したい」。しかし、そこまでではない場合、まずは残業をなるべくしないための対策を考えてみてはいかがでしょうか。
STEP1 仕事の効率を上げる
まずは、そもそも残業をせずにすむよう、努力することも大切です。
1日、1週間ごとのスケジュールを立て、メールや電話などの雑務は手短に終わらせるなど、メリハリをつけて効率よく仕事を進めることができれば、自ずと残業時間が短くなっていきます。
STEP2 仕事の割り振りについて相談する
会社から一人では処理しきれない膨大な仕事を振られれば、当然ながら残業は避けられません。もしそのような状況にあれば、まずは上司に業務量が厳しいことを伝え、部門内で分散することができないか相談してみましょう。
STEP3 転職して経済的な安定確立
長時間労働は、ワーク・ライフ・バランスの観点からは好ましくないですし、何よりも自身の健康を害する可能性があります。STEP1やSTEP2を行っても改善が見られない場合は、転職も視野に入れても良いかもしれません。
残業に関する法律の基本
残業に関する法律の定めについて、改めて基本的な部分を押さえておきましょう。
法定労働時間は1日8時間、週40時間
労働基準法の決める法定労働時間は1日8時間、週40時間で、正社員、契約社員、アルバイト全てに共通する規律です。法定労働時間を超える労働(時間外労働)について、会社には割増賃金の支払義務があります。
また、毎週1日あるいは4週間を通じて4日を休日(法定休日)としており、就労を命じた場合(休日労働)も企業は割増賃金の支払義務があります。
さらに、労働基準法では、22時~5時までの時間帯を深夜としており、深夜に就労を命じた場合(深夜労働)も企業には割増賃金の支払義務があります。
このような時間外労働、休日労働、深夜労働に対する割増賃金を一般的には残業代と呼んでいます。
残業を命じるためには36協定が必須
労働基準法は、原則として法定労働時間以上の労働を命じることを認めていません。
会社にこれが認められるのは、労働者と労使協定を締結し、労基署に届け出た場合のみです。
そのため、会社が時間外・休日労働を命じるためには、事業場で所定の労使協定を締結し、これを所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。
この労使協定は、労働基準法36条に定められているため「36(サブロク)協定」といわれています。
また、36協定を結んだとしても、残業時間には原則、上限が定められており、36協定を締結すれば、企業は何時間でも残業を命じられるわけではありません。
割増率は残業の内容によって異なる
残業に対しては割増賃金の支払いが義務となることは上記のとおりです。
そして法律の定める割増率は、時間外労働は通常の賃金の125%以上、休日労働は135%以上、深夜労働は125%以上とされています。
まとめ
残業代ゼロ法案、過労死など、働き方の多様化によって会社員の労働環境への関心が高まっています。同時に未払い残業代にも注目が集まっています。
働き損ということがないように、正しい知識を得て、正当に残業代を受け取れるようにしましょう。
この記事の監修者
弁護士
梅澤 康二
プラム綜合法律事務所
東大学法学部卒業。在学中に司法試験に合格したのち、2008年に弁護士登録。翌年には最高裁判所司法研修所を修了する。アンダーソン・毛利・友常法律事務所での7年間の勤務を経て、2014年にプラム綜合法律事務所を設立。労務全般や紛争等の対応のほか、企業法務なども取り扱う。