定義・裁判事例・相談先も紹介 マタハラとは|どこからハラスメント?
最近、マスコミなどで取り上げられることも多い「マタハラ」。パワハラやセクハラと並んで社会問題となっており、妊娠・育児中の女性にとっては他人事ではないかもしれません。
マタハラとは具体的にどんなハラスメントなのか、その定義や事例について解説します。
マタハラとは|定義や事例
「マタハラ」という言葉の意味や、どこからがマタハラになるのか、事例を元に解説します。
妊娠・出産を機に嫌がらせなどを受けること
マタハラとはマタニティハラスメントの略で、女性が妊娠・出産・育児を機に職場で嫌がらせや嫌味な発言をされたり、減給、解雇、雇い止めなどの不当な扱いを受けたりすることをいいます。
似た言葉としてパタハラ(パタニティハラスメント)があり、これは育児に積極的な男性が、上司や同僚から嫌がらせや不当な扱いを受けることを指します。
どこからがマタハラ?状況別に事例を紹介
マタハラは妊娠・出産した女性に対する嫌がらせを意味しますが、一体どこからがマタハラになるのでしょうか。
マタハラには明確な線引きや定義はないものの、一般的にマタハラになるとされる言葉や行為、事例をタイミング別に紹介します。
妊娠報告後
職場で妊娠を報告した女性に対して、上司や同僚が「妊婦だったら◯◯に違いない」と一方的に決めつけるような発言は、マタハラに該当する可能性が高いでしょう。
また、妊娠中のつわりなどに対して一切配慮しない言動も、マタハラになりやすいとされています。
▼マタハラになる可能性がある発言例
「つわりや体調不良で休みがちになるだろうから、責任ある仕事は任せられない」
「妊婦がいるとみんな気を使うから、家でおとなしくしているべき」
「妊娠は病気ではないのだから、通常通り仕事をするのが当たり前」
など
産休・育休中
産休や育休に入る際、妊娠・出産を理由に遠回しな表現で労働契約の変更を勧める言動も、マタハラになる可能性があります。
また、暗に自主退職を促すために「自宅や保育園からかなり遠い勤務地に転勤を命じる」といった不当な人事異動なども、マタハラに含まれるケースがあります。
▼マタハラになる可能性がある発言例
「子育てをしながらフルタイムで働くのは大変そうだから、アルバイトに切り替えた方がいいのでは?」
「産休前のポジションに戻れるかどうかは約束できない」
「復帰後は◯◯(自宅からかなり遠い場所)に異動してほしい」
など
職場復帰後
仕事と子育てを両立させる働き方への嫌味な言動も、マタハラになりやすいといえるでしょう。
出産後に職場復帰して働く女性の中には、時短勤務制度を利用したり、子どもの世話をするために残業ができなかったりする人もいます。そういった状況を非難するような嫌味な発言は、マタハラと捉えられても仕方ありません。
▼マタハラになる可能性がある発言例
「時短勤務の人は早く帰れていいなぁ。そのぶん俺たちが残業だよ」
「子どもがいると残業はできないだろうから、今後はアシスタント業務を担当してほしい」
「子どものためにも、仕事を辞めて子育てに専念すべきでは?」
など
これらの発言は仮に悪気がなくても、言われた女性を傷つけ仕事をしづらくさせるだけでなく、男女平等の考えに反し、女性の社会進出を妨げることにもなりかねません。
職場に妊娠・育児中の女性がいる場合は、たとえそれが気遣いから出た言葉であっても、言われた女性がどう捉えるのかを十分に配慮した上で発言する必要があります。
マタハラの相談件数は全体の約4割弱
厚生労働省の発表によると、2017年に各都道府県の労働局雇用環境・均等部(室)に寄せられた「妊娠・出産等に関するハラスメント」および「婚姻、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱い」の相談件数はあわせて6,940件となっています。
この数字は相談件数全体の36.2%にものぼり、多くの人がマタハラに悩んでいる現状がうかがえます。
また、同年に労働局雇用環境・均等部(室)が企業に行った是正指導では「妊娠・出産等に関するハラスメント」についてのものが最も多く、是正指導全体の39.5%を占めています。
このことから、行政は子育てしやすい社会の実現に向けて、マタハラへの対応に力を入れていることがわかります。
※参考→厚生労働省「平成 29 年度 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)での法施行状況」
コラム:逆マタハラとは?
マタハラに対して「逆マタハラ」という言葉があります。
逆マタハラとは、妊娠・育児中の女性社員が、妊婦や母親という立場を利用して上司や同僚に対し、以下のような配慮に欠けた言動をすることをいいます。
- 仕事のミスをつわりなどの体調不良のせいにする
- 気遣ってもらうのが当然と思っていて、妊婦検診や子どもの病気などで急に休んだり早退したりしても、一切感謝や謝罪の言葉がない
- 被害者意識が強く、「マタハラだ!」と何かにつけて怒る
マタハラが社会問題化している一方、妊娠・育児中の女性と一緒に働く人々が逆マタハラに悩むケースも珍しくありません。
マタハラや逆マタハラを防ぐためには、妊娠・育児中の女性と一緒に働く人々とがお互いに理解し合い、思いやりの気持ちを持つことが大切です。
マタハラの裁判事例3つ
ここでは、実際のマタハラの裁判事例を紹介します。
マタハラ裁判では「育休後の解雇は育休法や男女雇用機会均等法に違反する」と判断した例がある一方で、裁判で原告社員の主張と異なる事実が明らかとなり、むしろ逆マタハラだとして企業が逆転勝訴した例もあります。
マタハラ裁判での判例は、企業と妊娠・出産を控える女性社員の向き合い方に影響を与える可能性も高いため、世間から注目を集めています。
マタハラが認められたケース
まずは、裁判でマタハラが認められたケースを2件紹介します。
ドイツ科学誌の出版社の裁判
ドイツ科学誌の出版社日本法人勤務の女性が「育休明けの不当な解雇は育休法などに違反する」として、解雇の無効確認や慰謝料220万円などを要求した裁判です。
<経緯>
原告の女性は2014年8月に産休を取って出産後、そのまま2015年3月まで育休を取得。
育休後に職場復帰を申し入れたが、同社からインド転勤もしくは収入の大幅に下がる職務を提示されたため断ったところ、同年11月に「職場の秩序を乱した」として解雇された。
<裁判結果>
2017年7月3日、東京地裁は女性の解雇を無効と認め、出版社に女性への慰謝料55万円と未払い賃金の支払いを命じた。
広島市の病院の裁判
広島市の病院で勤務していた女性が「妊娠を理由とした降格は男女雇用機会均等法に反する」として、慰謝料を請求した裁判です。
<経緯>
原告の女性は広島中央保健生活協同組合(広島市)が運営する病院のリハビリテーション科で、2004年から管理職の副主任として勤務していた。
2008年に第2子を妊娠したため、軽い業務への配置転換を希望。すると副主任から外され、復帰後も管理職にはなれなかった。
<裁判結果>
一審や差し戻し前の控訴審ではともに女性の請求は棄却され敗訴。
しかし2015年11月の差し戻し控訴審判決では、精神的苦痛による慰謝料も含めてほぼ女性の請求通りの約175万円の賠償が病院側に命じられ、女性が逆転勝訴した。
マタハラが認められなかったケース
続いては、マタハラが認められなかった裁判事例です。
語学スクール運営会社の裁判
語学スクール運営会社に勤務する女性社員が「育児休業の取得後に正社員から契約社員になったのはマタニティハラスメントにあたる」として慰謝料を請求した裁判。
<経緯>
原告の女性は2008年に語学スクール運営会社のジャパンビジネスラボ(JBL)に入社。原告は2013年に出産し、1年の育休中に子どもを預ける保育園が見つからず育休を半年延長。それでも保育園が見つからなかったため、会社に休職を申し出たが認められず、週3日・1日4時間勤務の契約社員として復帰。
その後、保育園が見つかったために正社員への復帰を申し出たものの「すぐには難しい」と正社員への復職が認められなかった。原告は会社への不信感を抱き始めたことで話し合いの場で上司の発言を録音するようになった。結果、禁止されている執務室での録音を続けるなど問題行為が改善されないことを理由に、女性は2015年9月に雇い止めとなった。
<裁判結果>
2018年9月の一審判決では、契約社員としての雇い止めは「合理的な理由を欠く」として無効となり、給与の約370万円と弁護士費用を含む慰謝料110万円の支払いが会社側に命じられ原告が勝訴。JBL社はこの判決を不服として控訴。
ところが2019年11月の二審判決では、一審では無効とされた契約社員の雇い止めが認められ逆転敗訴。判決理由は、原告がマスコミに虚偽の情報を流し、会社にマタハラ企業の印象を植え付けようとしたことだった。さらに、原告女性によるマスコミに向けた発言はJBL社への名誉毀損に当たるとして、女性に約55万円の支払いが命じられた。
会社側には女性に対するプライバシーの侵害があったとして約5万円の支払いが命じられたものの、結果的に逆転勝訴となり、マタハラはなかったという判断が下された。女性は最高裁に上告する意向を示している。
マタハラかもしれない?と感じた時の対策・相談先
「これってマタハラ?」と感じた時は、どのように対応したら良いのでしょうか。
対策と共に相談できる窓口も紹介します。
妊娠・出産経験者に相談する
マタハラを受けないか不安な場合、まずは社内の妊娠・出産経験者に相談してみましょう。
妊娠・育児中の働き方や周囲の人々との付き合い方などについて相談してみると、「つわりがひどい場合は電車通勤が難しくなるから、前もってテレワークができないか相談しておくと良い」「子育て支援サービスなら◯◯が手頃な値段で使いやすい」といった妊娠・出産経験者ならではの具体的なアドバイスがもらえるかもしれません。
母健連絡カードを活用する
「マタハラを受けるのでは?」と恐れるあまり、「出社時間や働き方を調整してほしい」といった希望を会社に言い出しづらい場合は「母健連絡カード」を活用しましょう。
母健連絡カードとは、妊娠中の女性が医師から受けた指示を会社に伝えるためのツールです。
例えば病院で通勤緩和や休憩などの指導を受けた場合、医師に必要事項を記入してもらい、会社に提出します。
会社は母健連絡カードが提出された場合、男女雇用機会均等法第13条に基づき、カードの記載内容に応じた適切な措置を行う義務があります。
母健連絡カードを活用することで、妊婦健診での遅刻、つわりなどによる時短勤務に理解が得られやすくなるかもしれません。
「母健連絡カード」は以下のサイトからダウンロードすることも可能です。
→厚生労働省「母健連絡カード」(母性健康管理指導事項連絡カード)について
マタハラに強い相談窓口を頼る
実際にマタハラを受けている場合、マタハラに強い公共機関や民間組織の相談窓口を活用するのも一つの方法です。
相談する際は、事前にマタハラの内容について以下のようなポイントをまとめておくとスムーズです(可能であればマタハラにあたる音声データをとっておく)。
また、不当な扱いや嫌がらせの内容を含むメールやチャットなどの通信記録、正当な理由のない降格や異動の辞令通知といった証拠も準備しておくと良いでしょう。
▼マタハラについて相談する前にまとめておく内容
- いつからマタハラを受けているのか
- マタハラはどのような内容なのか
- どう困っているか(肉体的または精神的にどうツライのか、どんな業務内容や職場環境がツライのかなど)
- 今後どうしてほしいか(時短勤務を認めてほしい、普段よりも多めに休憩をとることを認めてほしいなど)
【マタハラ問題に強い相談窓口】
会社所在地を監督している労働局雇用均等部に相談
労働者と会社との間で民事上のトラブルが生じた場合、解決に向けた援助を行っている
弁護士・社労士といった専門家に相談できる(月-土09:00~21:30)
個人で加入できるユニオン(合同労働組合)
問い合わせフォームから相談
コラム:厚生労働省によるマタハラ対策
厚生労働省はマタハラ問題に対する政策として、2017年1月「男女雇用機会均等法」を改正し、企業には「マタニティハラスメント防止のために必要な措置」(マタハラ防止措置)をとることが義務付けられました。
その内容は以下の5つです。
- マタハラ禁止の方針の明確化・社内での周知
- マタハラについての相談体制の整備
- マタハラについての相談が発生したときの適切な対応
- マタハラの背景要因を解消するための措置
- マタハラを相談した場合のプライバシー保護などのルールの周知
この法改正によって、マタハラ問題の減少や改善につながることが期待されています。
まとめ
マタハラとは、妊娠・育児中の女性が職場で嫌がらせや不当な扱いを受けることです。
会社や社員は妊娠・育児中の社員に対して配慮すること、妊娠・育児中の女性社員は逆マタハラとならないよう、互いに歩み寄ることが重要です