パタハラを受けたときの対処法も パタハラとは?
社会でさまざまなハラスメントが問題になる中、最近耳にする機会が増えてきた「パタハラ」。その意味と対処法について解説します。
パタハラとは?
育児に積極的な男性へのハラスメント
パタハラとは、育児に参加しようとする男性社員に対して、職場の上司や同僚が嫌がらせなどをすることを指します。英語で“父性”を意味するパタニティー(Paternity)に由来しています。
具体的には、育休の取得、短時間勤務の活用をする男性社員に対する嫌味な発言、不当な降格処分や部署異動などが挙げられます。
同じく育児に関するハラスメントに「マタハラ(マタニティー・ハラスメントの略)」がありますが、こちらは妊娠中、もしくは出産後の女性社員に対する職場での嫌がらせのこと。「出産ハラスメント」と呼ばれることもあります。
※マタハラについて詳しくは→マタハラとは|どこからハラスメント?定義・裁判事例・相談先も紹介
これってパタハラ?3つの事例と対処法
具体的に、どのような行為がパタハラに相当するのでしょうか。パタハラの代表的な事例・対処法を紹介します。
よくあるパタハラ3つの事例
よくあるパタハラの事例を3つ紹介します。
1育児休業を申請したら拒否された
男性社員の育児休暇取得が認められない、という事象はよくあるパタハラの1つです。
営業職、32才、男性
妻が出産したため、1ヶ月間の育児休業を申請したが会社からあまり良い返事は得られませんでした。
社長からは「男なのに育児休業を取るのか?奥さんにまかせればいいじゃないか」「休んでも問題ないのなら、そもそも会社に在籍している必要もないのでは?」といった暴言があり、結局育児休業を取れずじまいでした。
2育児のために時短勤務をしていたら嫌味を言われた
育児のために時短勤務で働く男性社員への心ない発言も、パタハラでは多く見られるようです。
IT系勤務、35才、男性
育児のために時短勤務制度を利用していたら、同じ部署の同僚や先輩から「早く帰れてうらやましい」「誰かさんのせいで残業が増えた」などと嫌味を言われるようになりました。そのため、社内で肩身が狭いと感じており、ストレスが溜まる一方です。
3育休明けに降格させられた
育児休業が明けて仕事に復帰したら、休業取得前とは任される仕事の内容が違ったり、降格させられたりといった悪質なパタハラもあります。
企画職、29才、男性
育休明けに仕事に戻ると、重要な会議や採用面接、海外出張などから外されるようになり、責任ある仕事を任せてもらえなくなりました。
さらに、正当な理由もなく減給を伴う部署異動を命じられました。以前のような仕事をさせてほしいと上司に相談しても取り合ってもらえないため、転職も検討しています。
パタハラかも?と感じたときの対処法
「これってパタハラ?」と感じた時の対処法を紹介します。
一人で抱え込まずに相談する
厚生労働省管轄の各都道府県労働局には、育児休業法等に関する相談に応じる雇用環境均等室(部)が設けられています。
ここでは育児休業取得にまつわるトラブルの相談も受け付けているので、こういった窓口を利用するのも選択肢の一つです。相談内容によっては、会社への指導や調停の開催などの援助が受けられることも。
また、嫌がらせをしてくるのが直属の上司や同僚の場合は、男女問わず育休をとったことのある先輩や信頼できる女性の上司、人事部のほか、可能であれば社長や役員など企業の上層部などに相談しても良いでしょう。
<都道府県労働局(労働基準監督署、公共職業安定所)所在地一覧>
場合によっては転職も視野に
パタハラ行為があまりにひどく、社内に相談できる相手もいないうえに状況の改善も見込めない場合は、退職を検討しても良いかもしれません。
転職先は、企業のHPなどで男性の育児休業取得状況を調べ、男性社員の子育てと仕事の両立について理解のある企業を選ぶようにしましょう。
コラム:パタハラにまつわる裁判例
パタハラにまつわる実際の裁判事例としては、スポーツ用品大手アシックス(Asics)のパタハラ疑惑が有名です。
2019年9月、東京地裁にてアシックスの男性社員が会社にパタハラを受けたとして、440万円の慰謝料などを求めた裁判の審理が始まりました。
▼パタハラ疑惑の概要
男性社員は、2015年から1年間育児休業を取得。さらに、第2子が生まれた2018年から再び1年間育児休業を取得しました。
育児休業前はマーケティングや人事などを担当していたものの、育児休業明けに出社すると子会社への出向を命じられ、物流倉庫で働かされたといいます。
その後本社勤務に戻ったものの、重要性の低い業務をまかされるなど会社から退職を促すような「無言の圧力」を受けたと主張。
男性社員は「これらの行為は育児休業を取得したいと考える他の社員に対する見せしめだ」として、会社を非難しています。いまだこの裁判は判決が出ていません。
パタハラと男性の育児休業の現状
パタハラの背景には、男性と育児休業を取り巻く状況があります。ここでは、日本における男性の育児休業の現状を紹介します。
男性の育児休業取得率は約7.5%
厚生労働省の調査によると、2019年の男性の育児休業取得率はわずか7.48%。10年前の1%台から年々上昇傾向にはあるものの、まだまだ取得率が低いのが現状です。
また、厚生労働省の別の調査では、男性の正社員が育児休業制度を利用しなかった理由(複数回答)として以下のような回答が得られています。
会社で育児休業制度が整備されていなかった | 27.5% |
育児休業を取得しづらい雰囲気だった | 25.4% |
業務が繁忙で職場の人手が不足していた | 27.8% |
自分にしかできない仕事や担当している仕事があった | 19.8% |
※参考:
厚生労働省「令和元年度雇用均等基本調査」
厚生労働省「育児休業取得者割合」
厚生労働省「男性の育児休業の取得状況と取得促進のための取組について」
今後は育児休業取得が義務化する?
政府は2017年に育児・介護休業法を改正し、子どもが生まれる予定の従業員に対し、個別に育児休業等の制度について知らせること、未就学児を育てる従業員に対し、育児目的休暇(子どもの行事参加のための休暇)を取らせることを企業の努力義務としました。パタハラの一因ともなり得る“育児休業や育児のための休暇が取りづらい風潮”を改善するためです。
現段階では男性社員の育児休業取得に法的な義務はありませんが、今後は取得を義務化する法整備を検討する動きもあり、政府は2020年に男性の育児休業取得率を13%まで引き上げるという目標を掲げています。
※参考:厚生労働省「職場における妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント対策やセクシュアルハラスメント対策は事業主の義務です」
コラム:男性の育児を後押しする企業の取り組み
社会でパタハラ問題が取り沙汰される一方で、男性の育児を支援する企業も増えています。
損害保険ジャパン日本興亜では、男性社員同士が子育ての悩みを話し合う場として「パパカフェ」を開設。子どもを持つ男性社員同士が、悩みを相談しあったり情報交換したりする場を提供しています。
日本IBMでは、社員の子ども向け学童プログラムを実施しています。この取り組みは、「夏休み中の子供を会社に連れて来られるとうれしい」という社員の声に応えて実現したもので、社員からも好評であるとのこと。
このような取り組みを実地する企業が増えることで、パタハラ問題の解決につながるかもしれません。
まとめ
パタハラとは、男性社員に対して育児休業取得を認めない、育児休業をとったことを理由に降格や減給をするなどの嫌がらせです。
職場でパタハラと思われる行為を受けた場合は、早めに信頼できる相手や人事部、労働局の相談窓口などに相談すると良いでしょう。