ボーダーラインはどこ? 内定取り消しになる5つの理由と対処法

採用内定をもらった後に「内定が取り消されるのでは?」と心配になる方もいるのではないでしょうか。

内定取り消しになってしまう理由や、取り消されてしまった時の対処法を紹介します。

内定取り消しになるのはどんな時?条件は?

「内定取り消し」になってしまうのはどんな時でしょうか。

 内定が取り消されてしまう理由5つ

法的にも認められやすい内定取り消しの理由には、以下のようなものがあります。

【内定が取り消されてしまう5つの理由】 ・経歴の詐称が判明した ・仕事に支障が出る病気、けがをした ・反社会的行為を犯した ・入社日までに卒業、退職ができない ・会社が経営困難になった

そもそも内定は法律上、雇用契約が成立したのとほぼ同じ意味を持ちます。よって客観的・合理的な理由(正当な理由)がない限り、企業は内定を取り消す(≒解雇)ことはできません。

しかし、内定者側に重大な問題があったり、会社が経営困難に陥ったりなど、合理的な理由がある場合は内定が取り消される可能性があります

自分自身の行動が原因で内定取り消しにならないように気を付けましょう。

それぞれのケースについて、詳しく説明します。

経歴の詐称が判明した

履歴書・職務経歴書に虚偽の学歴や職歴、資格を記載すると、経歴詐称として内定が取り消されることがあります。

単純な誤字程度であればあまり問題にされませんが、自分をよく見せようと意図的にウソをつくと、内定が取り消される可能性が高まります。

仕事に支障が出る病気、けがをした

「頻繁に通院が必要」「肉体労働ができない」など、仕事に大きな支障が出る病気やけがが内定後に発覚・発症した場合は、内定が取り消されることがあります。

ただし、時々通院する程度では、内定が取り消されることはありません。

反社会的行為を犯した

内定後に犯罪や社会的に許されない行為を犯した場合、内定取り消しの対象になります。

また、最近ではSNSでモラルを欠いた投稿をして炎上した場合も、会社に悪印象を与えたとして内定を取り消されることがあります。

入社日までに卒業、退職ができない

新卒の学生で入社までに単位不足などで卒業できない場合や、転職者が入社日までに現在の会社を退職できない場合、内定が取り消されることがあります。

会社が経営困難になった

内定者に非はなくても、企業が破産すると経営を続けることができないため、人件費削減のために内定取り消しになることがあります。

※詳しくは→企業側の都合で内定取り消しってあり?

【事例】これって内定取り消し?セーフ?

具体的にはどんな時に内定が取り消されるのでしょうか。

よくある事例別に、内定が取り消されるかどうかを解説します。

面接で資格を持っているとウソをついた

資格を持っているとウソをついた場合、経歴詐称に当たるため、内定が取り消される可能性があります。

とりわけ入社後の業務で必要な資格を偽った場合は、内定取り消しの可能性が高まります。また、のちのち合格証明書の提出が求められるため、最終的にはウソがばれてしまいます。

休職期間があるが履歴書に記載しなかった

休職期間を履歴書に記載しなくても、通常は内定取り消しにはなりません。

休職中も会社には在籍しているので、休職した事実を履歴書に書かなくても経歴詐称には当たらないためです。

ただし、現在も働ける健康状態でない場合は、内定をもらっても取り消されることがあります。

入社前健康診断の結果が悪かった

入社前の健康診断の結果が悪くても、仕事に支障が出るほど深刻でなければ、内定取り消しにはなりません

入社前の健康診断は社員の健康管理を目的に行われるもので、単に健康診断の結果が悪かったからといって入社を断られることはありません。

未成年飲酒をした

未成年飲酒をすると、内定を取り消されることがあります

未成年飲酒はれっきとした違法行為のため、中卒や高卒で内定をもらった人がうっかり飲酒をすると、内定を取り消されることがあります。

たとえ20歳以上でも、SNSなどから過去の未成年飲酒が発覚して内定を取り消される可能性もゼロではありません。

SNSで内定先の悪口・機密情報を投稿した

SNSで企業のイメージを悪くするような投稿をした場合や、研修で知った業務マニュアルや新商品情報などの機密情報を漏えいした場合は、内定を取り消されることがあります。

内定後に学校を中退した

内定後に学校を中退すると、内定を取り消されることがあります

例えば採用条件に「大学あるいは大学院を卒業していること」とある場合、大学を中退すると高卒扱いとなるため、条件を満たせなくなってしまうからです。

内定後に給与交渉を申し出た

内定後に給与交渉をしたからといって、印象が悪くなって内定が取り消されることはありません

ただし、交渉を重ねても折り合いがつかない場合は、結果的に契約が成立せずに内定を取り消されたり、辞退せざるを得なくなったりしてしまう可能性があります。

内定を保留にした

そもそも企業側から内定の連絡が届いても、応募者が承諾せず、返事を保留している間はあくまで内々定の状態であり、内定は成立しません

つまり、雇用契約が成立しているとは言えないため、保留期間が長引くと「採用人数の確保を急いでいる」「ほかの応募者が先に内定を承諾した」といった理由で内定(内々定)が取り消されることもあります。

夜のお店でアルバイトをしていた

内定後に夜のお店でアルバイトをしていたことを知られても、通常は内定取り消しにはなりません

そもそも履歴書や面接でアルバイトの経歴を申告する義務はないため、アルバイトについて伝えなくても経歴詐称にはなりません。

内定後にアルバイトについて知られたとしても、本人の適性や能力とは直接関係ないため、内定取り消しの理由にはなりません。

企業側の都合で内定取り消しってあり?

自分は経歴詐称などの悪いことを一切していなくても、理不尽な理由で一方的に内定を取り消す企業もあります。これは許されるものなのでしょうか。

違法と見なされ取り消し無効になることも

経営困難な場合を除き、企業側の都合で内定を取り消された場合は、違法として内定取り消しが無効になることもあります

一般的に、内定通知を受けた時点で労働契約が成立すると考えられており、内定取り消しは「解雇に相当する」と解釈されます。

そして解雇は法律上「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められています(労働契約法第16条)。

つまり重大な理由やしっかりとした正当性がないと解雇ができないのと同じように、内定取り消しも正当で合理的な理由が必要なのです。

内定取り消しが無効になるケース

具体的に以下のようなケースでは、内定取り消しの理由として不十分であり、無効になります。

  • 不合理な理由で内定を取り消された時
  • 整理解雇の4要素を満たさない時

それぞれ詳しく説明します。

不合理な理由で内定を取り消された時

「社風に合わない」「ほかの人を採用することになった」といった不合理な理由での内定取り消しは無効になります。

選考段階で知ることができる事柄や、抽象的・主観的な理由、そのほか企業側の都合による内定取り消しは、合理的でないと判断されます。

整理解雇の4要素を満たさない時

経営状況が悪化していても、整理解雇の4要素を満たさなければ内定取り消しは不当と見なされます。

<整理解雇(リストラ)に必要な4要素>

  • 人員整理の必要性
  • 解雇回避の努力義務
  • 解雇対象者の選定の合理性
  • 手続の妥当性

例えば「希望部署の業績は悪化しているが、会社全体の経営状況は解雇が必要なほど悪化していない」という場合は人員整理の必要性がないため、内定取り消しは無効になります。

コラム:公務員の内定取り消しは違法にならない?

公務員の場合、採用側の都合で内定を取り消されても違法ではないとする判例があります(最高裁昭和57年5月27日判決(判例時報1046号23頁))。

国家公務員は採用試験に合格し官庁訪問で面接を通過すると内定、地方公務員は採用試験に合格すると内定となりますが、民間企業の内定とは異なり内定者を採用する法的義務はないとされているからです

そのため、「予想よりも退職者が少なかった」、「財政状況が悪化した」といった採用側の都合で内定を取り消される可能性があります

ただ、実際には内定者側に問題がなければ、めったに取り消されることはありません。

※参考:
最高裁昭和57年5月27日判決(判例時報1046号23頁)

内定取り消し通知が届いたらどうする?

万が一内定が取り消された場合は、どのように対処すれば良いのでしょうか。

まずは内定取り消しの理由を問い合わせよう

内定の取り消しを通知されたら、まずは内定先の会社に取り消しの理由を問い合わせましょう。この時、証拠を残すためにメールや書面で回答を求めるのがポイントです。

内定の取消しは解雇と同じです。正当な理由がない限りは認められませんので、しっかりと取消しの理由を確認するようにしましょう。

納得できない時は撤回や損害賠償の交渉も

理由を問い合わせたうえで内定取り消しの理由に納得できず、どうしてもその企業に入社したい場合は、取り消し無効を訴えて裁判を起こすという方法もあります。

▼内定取り消しが無効になった事例

<アナウンサー内定取り消し訴訟>

日本テレビのアナウンサーとして内定をもらっていた女性が、クラブでアルバイトをしていたことを理由に内定を取り消されました。

女性は、内定取り消しは不当として訴訟を起こし、入社することで和解しました。

また、入社を諦める場合でも損害賠償を請求することは可能です。

▼内定取り消しに慰謝料請求した事例

<HIV内定取り消し訴訟>

HIVに感染している事実を伝えなかったことで病院の社会福祉士の内定を取り消された男性が、慰謝料の支払いを求めて訴訟を起こしました。

地方裁判所は、内定取り消しは不当として、病院を経営する社会福祉法人に慰謝料165万円の支払いを命じました。

ただし、裁判には時間とお金がかかります。

また、仮に裁判に勝って入社できたとしても、周囲の目が気になり職場の人間関係がうまくいかず、結局仕事を辞めることになる可能性もあります。

「理不尽な理由で内定を取り消しするような会社に就職しなくて良かった」と気持ちを切り替えて、無理に争わないという選択肢もあります。 

まとめ

内定をもらって安心していても、問題行動を起こしてしまった場合や会社が経営困難になった場合、内定を取り消される可能性があります。

苦労して手に入れた内定を自ら手放さないように、普段の行動や健康状態に注意しましょう。

中には不合理な理由で内定を取り消す企業もあります。取り消し理由に納得がいかなくても、泣き寝入りする必要はありません。

交渉や理由を確認したうえでの転職など、自分にできることを検討してみましょう。

(文:転職Hacks編集部)

この記事の監修者

弁護士

南 陽輔

一歩法律事務所

大阪市出身。大阪大学法学部卒業、関西大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録(大阪弁護士会所属)。その後、大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立。誰もが利用しやすい弁護士サービスを心掛け、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行う。

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