拒否する方法も解説 自爆営業の実態|強要されたら違法?
自爆営業といえば、近年さまざまな職種や業種で耳にする言葉で、社会問題の一つにもなっています。上司から自爆営業を強要されていて、断りたくても断れない人も多いのではないでしょうか。
ここでは、自爆営業の違法性や、拒否したいときの対処法について説明します。
自爆営業とは?違法になる?
自爆営業とはどのような行為を指すのでしょうか。具体的な内容や違法になるケースについて説明します。
自爆営業とはノルマのために自腹を切ること
自爆営業とは、会社の売上目標やノルマ達成のために、自腹による自社商品の購入を強要されることを指します。
ノルマの未達成を恐れる社員が自ら商品を購入するケースも、自爆営業と呼ばれます。
▼自爆営業の例
- 郵便局員…ノルマ達成のために年賀はがきを自腹で購入
- コンビ二の従業員やアルバイト…売れ残ったクリスマスケーキや恵方巻を自腹で買い取り
自爆営業は「お金に余裕がないので…」とやんわりと断っても上司から強要されたり、拒否したことによって社内での立場が悪くなったりすることもあるため、仕方なく自爆営業をしている人も少なくありません。
自爆営業は業種や雇用形態を問わず行われやすく、中には借金をしてまで行うケースもあるようです。
自爆営業が違法になるケース・ならないケース
企業が従業員に対して売上目標やノルマを設定すること自体は違法ではありませんが、ノルマや目標の設定方法や、強要の度合いによっては違法となる場合があります。
違法:強要やパワハラがあった
自爆営業を拒否しているのにもかかわらず、商品の購入をしつこく会社に強要されたり、拒否したことにより降格などの不当な扱いを受けたりした場合、企業はパワハラ等の民事上の責任を問われる可能性があります。
加えて、強要行為が悪質なケースでは、強要罪等にあたり刑事罰の対象となる可能性もあります。
違法:金銭的ペナルティがある
ノルマを達成するために商品の買い取り(自爆営業)をしなければならない、ノルマ未達成であれば給料から一定額が天引きされるなど、金銭的ペナルティが発生する場合は、労働基準法違反となる可能性が高いでしょう。
労働基準法では、罰金を伴う契約は認められていません(労働基準法第16条)。加えて、賃金からペナルティ分を一方的に天引きすることは、労働基準法24条の全額払いの原則にも抵触するため、違法です。
労働基準法第16条
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない
ただし、歩合制やインセンティブ制度が導入されている企業で、ノルマの達成率によって給料が変動するケースは、違法ではありません。
※インセンティブ制度・歩合制について詳しくは→インセンティブ制度とは メリット・デメリットや設計事例も
違法ではない:自分の意思で行っている
ノルマが達成できないプレッシャーを回避するために、労働者が自らの意思で自爆営業を行う場合は、違法と認められない可能性があります。
例えば「保険会社の社員が営業成績アップのために、自分で自社の生命保険に入る」などの場合です。
この場合、上司が自爆営業を直接命じることはせずに「どんな手を使ってでもノルマをクリアするのが当たり前」などと遠回しな表現をすることも。
「あくまでも社員が自分の意思で商品を購入している」という体裁を守りながら、実質的には自爆営業をさせる狙いであることが多いようです。
このように、実質強要されているような実態がある場合、違法と認められるケースもあるので、自分の状況について冷静に判断する必要があります。
コラム:郵便局での自爆営業の事例
自爆営業といえば、郵便局員のイメージが強いでしょう。
実際、ある郵便局では年賀はがきの販売ノルマが1人数百枚あり、そこで働く局員が自爆営業をしてすべて買い取り、最終的に年賀はがきを金券ショップに売ったという例もあります。
販売ノルマを達成できないと、人事査定に影響して昇給できないこともあるため、例え管理職でも自爆営業を余儀なくされる場合があるようです。
※参考:キャリコネニュース 郵便局員の“自爆営業”事情「年賀ハガキを400枚自爆」「ノルマ廃止も数万円するお歳暮商品を購入」
自爆営業を拒否したいときの対処法
自爆営業を強要されたら、きっぱりと断ることが大切です。もしそれが難しい場合は、以下のように対応しましょう。
一旦返事を保留し、証拠を集める
自爆営業を強要されたらきっぱりと断るのが一番ですが、難しい場合は「少し考えさせてください」「家族に相談します」と言って一旦保留にしましょう。
そして、保留にしている間に自爆営業を強要された証拠を集めます。
【証拠となるもの】
- ノルマが課せられている商品などを買ったレシートや明細書
- ノルマが記載された書類(電子メール)や掲示物の画像
- ペナルティが記載された書類(電子メール)や掲示物の画像
- 自爆営業を強要されたときの会話を録音した音声データ
自爆営業の相談先3つ
証拠を集めたら、自爆営業を拒否するための対処について相談しましょう。相談先は、次の3つが考えられます。
- 自爆営業を指示した上司のさらに上の上司
- 会社の管理部門やコンプライアンス部門、公益通報窓口
- 労働基準監督署
自爆営業を指示した上司のさらに上の上司
自爆営業を指示してきた上司のさらに上の上司や、他部署の信頼できる上司に証拠を提出した上で相談してください。
部署全体で自爆営業を行っている場合は、他部署の上司に相談するのが良いでしょう。
会社の管理部門やコンプライアンス部門
相談できる上司が近くにいない場合は、本社の管理部門やコンプライアンス部門などにメールで相談しましょう。このメールも証拠となるので、コピーをとって保存しておく必要があります。
労働基準監督署
上司に相談しても改善の見込みがなく、自爆営業を強要され続ける場合は、集めた証拠を持って、労働基準監督署の総合労働相談コーナーで相談しましょう。違法性が認められれば、会社に対して行政指導が入ることがあります。
ただし、労基署はよほど悪質な場合をのぞいて、問題の解決までしてくれないことが多いので、状況によっては弁護士に相談しても良いでしょう。
コラム:自爆営業で払った金額は取り戻せる?
もし会社の要求を断れず、自爆営業してしまった場合、払った金額を会社に請求することができます。
請求するためには、その損害が自爆営業によるものであることや、上司から強要されたことなどを証明する証拠が必要です。
会社が請求に応じない場合は、同じく自爆営業を強いられた同僚たちとともに集団訴訟するという方法もあります。
個人または集団で訴訟を行う場合は、いずれも労働問題に強い弁護士などの専門家に相談するのが良いでしょう。
まとめ
自爆営業とは会社の商品を自腹で購入させられることで、拒否したことによって不当な扱いを受けたり、金銭的ペナルティが発生したりする場合は違法と認められます。
自爆営業を強要された場合は、必ず証拠を集めたうえで本社の管理部門などに相談しましょう。
(文:転職Hacks編集部)
この記事の監修者
弁護士
南 陽輔
一歩法律事務所
大阪市出身。大阪大学法学部卒業、関西大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録(大阪弁護士会所属)。その後、大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立。誰もが利用しやすい弁護士サービスを心掛け、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行う。