手取りの差はわずか? フルタイムとパートの違いって?

パートからフルタイムになると、働き方や手取りはどう変わるのでしょうか?また、正社員とはどう違うのでしょうか?

パート・フルタイム・正社員の違い、フルタイムになった場合の手取りの変化や、フルタイム勤務のメリット・デメリットなどを紹介します。

フルタイムとパートの違い|正社員とは違う?

フルタイムとパート、フルタイムと正社員の違いを説明します。

フルタイムとパートの最大の違いは勤務時間

フルタイムとパートの最も大きな違いは勤務時間・勤務日数です。

【フルタイムとパートでは勤務時間が大きく違う】 フルタイム:月~金まで8時間ずつ、計40時間 |パート:月水各6時間、金3時間、土4時間、計19時間

フルタイムとは、会社が定めた週の所定労働時間分、きっちり勤務することを指します。所定労働時間は1日8時間、週5日勤務の週40時間が一般的です。

一方、パートとはパートタイムの略で、所定労働時間のうち、部分的に短い時間で勤務することを意味しています。

フルタイムとパートの違いは他にもあり、例えばフルタイムの方が有給休暇の日数が多く、支払う税金や社会保険料の種類・額が増える、などが挙げられます。

フルタイムと正社員との違い5つ

フルタイムは所定労働時間こそ正社員と同じものの、すなわち正社員(正規雇用)というわけではありません。

両者には「雇用形態」「雇用期間」「給与形態」「待遇」「異動に伴う配慮」の5つの違いがあります。

 

フルタイムのパート

正社員

雇用形態

非正規雇用

正規雇用

雇用期間

有期

無期

給与形態

時給・日給制が多い

月給制が多い

待遇

正社員に比べると劣る傾向にある

手当やボーナスなどが手厚い

異動に伴う配慮

転居を伴う異動は配慮してもらいやすい

転居を伴う異動でも配慮されにくい

異動や転勤は、就業規則や雇用契約書に「異動や転勤の可能性がある旨」が書かれていれば、正社員やパートなどの雇用形態に関わらず会社から命じられます。

しかし企業によっては、フルタイムのパートに対しては、転居を伴う転勤を行わないなど、独自のルールを決めて家庭の事情を配慮してくれる場合もあります。

フルタイムとパートの手取りはどのくらい違う?

ここでは、パートからフルタイム勤務に変えた場合の手取りの違いや、社会保険料・税金がかかる年収のラインを説明します。

【比較】フルタイムとパートの手取りの違い

具体例として、時給1100円のスーパーで働く東京都在住の主婦Aさん(30歳)が、パートからフルタイム勤務に変えた場合を例に見てみましょう。

 

パートタイム

フルタイム

手取り

6万6,000円

14万7,139円

A.額面給与

6万6,000円

17万6,000円

B.所得税

0円

2,980円

C.住民税

0円

0円
(翌年6月から課税)

D.社会保険料

0円

2万5,881円

※健康保険…協会けんぽ
※2020年度に納税する場合を想定
※勤務時間はパートタイム:月60時間勤務(週3日、1日5時間)、フルタイム:月160時間勤務(週5日、1日8時間)を想定

手取り額は6万6千円から15万円弱程度となり、約2.2倍に増えることがわかります。

勤務時間が約2.7倍(60時間から160時間)になる点を考えると、手取りの増加分が少ないと感じるかもしれません。

働いた割に手取りが増えないのは、フルタイムになって年収が上がり、給料から税金や社会保険料が天引きされるためです。税金や社会保険料がかかり始める年収のラインについては「【コラム】税金や社会保険料がかかる年収のライン」で解説しています。

フルタイム勤務に切り替えたときのおおまかな手取り額を知りたい場合は「フルタイムで働いた場合の額面給与×0.8」で計算しましょう。

※手取り額の正確な計算方法について詳しくは→給料の手取り計算方法&平均給与の実態

コラム:税金や社会保険料がかかる年収のライン

フルタイムで働き年収が一定の額を超えると、税金や社会保険料を支払う義務が発生します。「年収を増やしたいけれど、そのせいで税金や社会保険料を支払いたくない」という人は、次の表で支払い義務が発生する年収ラインを確認してください。

年収額

納める税金・保険料の種類と条件

100万円を超える

住民税がかかるようになる(自治体によっては異なる場合もある)

103万円を超える

103万円を超えた分に対して、所得税がかかるようになる

106万円以上

5つの条件に合致すると、厚生年金・健康保険の保険料がかかるようになる

・正社員が501人以上
・収入が月88,000円以上
・雇用期間が1年以上
・所定労働時間が週20時間以上
・学生ではない

130万円を超える

厚生年金・健康保険」または「国民年金・国民健康保険」の保険料がかかるようになる

150万円を超える

配偶者の税金が優遇される「配偶者特別控除」の控除額が、年収に応じて満額から徐々に減るようになる

実際の年収のラインは、住んでいる市区町村や配偶者の収入額などによって上下します。以上の年収額はあくまで目安として考えてください。

※参考
・住民税について→家族と税|国税庁
・所得税・社会保険料について→103万、106万、130万、150万円の壁 | 日本FP協会

フルタイムは結局、損?メリットは?

パートと比べて労働時間が増えるわりに、税金や社会保険料がかかるため手取りが思うように伸びないフルタイム。働き損と感じる人もいるでしょう。

ここでは、パートと比較したフルタイムのメリット・デメリットを紹介します。

【フルタイムのメリット】 ■経済的な余裕が生まれる ■ケガや病気をしたときに手当がもらえる 【フルタイムのデメリット】 ■家族手当がもらえなくなる ■家事・育児に割ける時間が短くなる

フルタイムのメリット

フルタイムのメリットは下記の2点です。

経済的な余裕が生まれる

パートからフルタイムに変えると、いくら税金などが引かれるとは言え、労働時間の増加にともない、やはり給料・手取り額が上がって経済的な余裕が生まれます

また、今の勤務先で正社員になれるよう交渉したり、高い時給を求めて新しい勤務先を探したりする手間を考えると、フルタイム勤務への変更は比較的簡単に年収を上げられる方法と言えるでしょう。

増えた分の収入は子どもの養育費や貯蓄に回すことができるため、小さな子どもがいる人や、今後まとまった出費の予定がある人は、フルタイム勤務に切り替えるのも一つの手でしょう。

ケガや病気をしたときに手当がもらえる

フルタイムでは、仕事や通勤以外の場面でケガや病気をして会社を休んだ場合に、傷病手当金という手当を受け取ることができます。

傷病手当金はフルタイムを含む健康保険加入者のみに適用され、国民健康保険の加入者では受け取ることができません。

※新型コロナウイルス感染症による場合、国民健康保険でも傷病手当金が支給されます。

健康保険に入るためには労働時間や収入などの条件がありますが、フルタイム勤務は加入の条件を満たします。

健康保険に加入すると、急なケガや病気で収入がゼロになる心配はなくなります。

※健康保険の概要や加入条件など、社会保険について詳しくは→社保完備ってどういう意味?メリットも解説

※休職中の給料について→休職中に給料は出ない?かわりにもらえる手当を解説【うつ病は?】

フルタイムのデメリット

フルタイムで働くデメリットは下記の2つです。

家族手当がもらえなくなる

これまで配偶者の勤務先の会社から家族手当が支給されていた場合、フルタイム勤務に切り替えることで受け取れなくなる可能性があります。

人事院の調査によると、約8割の会社が家族手当に対して社員の配偶者の収入による制限を設けており、その基準として多いのは103万円または130万円でした。

フルタイム勤務を検討している方は、パートから切り替える前に、夫や妻に家族手当の支給条件を確認しましょう。

※出典→2019年(平成31年)職種別民間給与実態調査の結果|人事院

家事・育児に割ける時間が短くなる

パートタイム勤務からフルタイム勤務になると、やはり家事や育児にかけられる時間は少なくなります。 

無理なく仕事と家事・育児を両立するためには、食材の宅配サービスを利用して買い物する時間を減らす、夫や妻と協力して子どもの送り迎えをするなどの工夫が必要です。

フルタイムのパートにまつわるQ&A

フルタイムやパートに関する疑問とその回答をまとめました。

フルタイムやパートは何日有給をもらえる?

フルタイム勤務で受け取れる有給休暇の日数は10日で、仕事を始めて半年経つと与えられます。

一方、パートタイム勤務の場合は、たとえば週の所定労働日数が3日で労働時間が週30時間未満なら、勤続半年で5日の有給休暇を取得できます。

取得できる有給休暇の日数は、週の所定労働日数・時間や勤続年数によって変わります。

【フルタイムでもらえる有給日数】(勤続年数・付与日数): 半年・10日 |1年半・11日 |2年半・12日 |3年半・14日 |4年半・16日 |5年半・18日 |6年半以上・20日

 【パートでもらえる有給の日数】((週の所定労働日数)1日・2日・3日・4日): <勤続年数> 半年/1日・3日・5日・7日 |1年半/2日・4日・6日・8日 |2年半/2日・4日・6日・9日 |3年半/2日・5日・8日・10日 |4年半/3日・6日・9日・12日 |5年半/3日・6日・10日・13日 |6年半以上/3日・7日・11日・15日

フルタイムやパートは賞与をもらえる?

従来、賞与をもらうには「正社員であること」が条件の会社も多く、フルタイムであろうとパートであろうと、非正規雇用である限り、賞与をもらえないケースが一般的でした。

しかし、同じ仕事には同じだけの賃金が支払われるべきという「同一労働同一賃金」の考えに基づく法改正によって、2020年4月から雇用形態による不合理な待遇格差をなくす動きが広まっています。

この法改正により、正社員と非正規雇用で給料や賞与の金額に差をつける場合、合理的な理由が必要になりました。

今後は「非正規雇用だから」という理由だけで賞与が支給されない会社は減っていき、正社員と同じ仕事をしている場合、同じだけの賞与が支払われるようになると期待されています。

※同一労働同一賃金について→同一労働同一賃金とは?非正規の給料や賞与、働き方はどう変わる?

フルタイムで働いたら残業させられる?

就業規則に所定労働時間を超える労働があると明示されていれば、フルタイムでもパートでも残業はあります

ただし、パートタイム勤務者が残した仕事をフルタイム勤務者が引き受けることもあるため、どちらかと言うと、フルタイムのほうが残業する可能性が高いかもしれません。

残業した場合は会社に残業代をもらいましょう。また、残業した分の給与がきちんと支払われているか、残業代の正しい計算方法を理解しておくと良いでしょう。

※残業代の計算方法について詳しくは→正しい残業代の計算方法【すぐわかる図解つき】

フルタイムで働くのはきつい?

パートタイム勤務からフルタイム勤務に変更したことで、 やはり体力的にきついと感じる人もいるようです。

体力に自信のない方は、一気にフルタイム勤務に変更するのはやめた方が良いかもしれません。

まずは週の勤務日数を1日だけ増やしたり、1日の労働時間を増やしたりして、徐々にフルタイム勤務に近づけていく工夫をしましょう。

まとめ

フルタイムとパートタイムの違いは勤務日数と勤務時間の長さです。

パートタイムからフルタイムに変えると、経済的な余裕が増えますが、その一方で税金・社会保険料の支払い義務が発生したり、家事・育児の時間が少なくなったりします。

フルタイム勤務を検討している人は、増える手取り額と自分や家族の状況を照らし合わせて考えましょう。

(文:転職Hacks編集部)

この記事の監修者

社会保険労務士

三角 達郎

三角社会保険労務士事務所

1972年福岡県生まれ。東京外国語大学卒業。総合電気メーカーにて海外営業、ベンチャー企業にて事業推進を経験後、外資系企業で採用・教育・制度企画・労務などを経験。人事責任者として「働きがいのある企業」(Great Place to Work)に5年連続ランクインさせる。
現在は社会保険労務士として、約20年の人事キャリアで培った経験を活かして、スタートアップ企業や外資系企業の人事課題の達成から労務管理面まで、きめ細やかにサポートを行っている。
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