働く人のメリットはある? ジョブディスクリプションとは

日本の代表的な企業の多くが加盟している経団連は、今後の新卒採用について、応募者をポテンシャルで採用し社内で教育する従来のやり方(メンバーシップ型雇用)を見直し、専門スキルを重視する「ジョブ型雇用」に移行していくと発表して話題になりました。

ジョブ型雇用とは、働き手の職務内容をあらかじめ明確に規定する雇用システムです。その運用にあたっては「ジョブディスクリプション」と呼ばれる職務記述書が重要になります。

この記事では、ジョブディスクリプションの概要と、労働者にとってどのようなメリットがあるのかを解説します。

ジョブディスクリプションとは?

ジョブディスクリプションとは、具体的な職務内容や業務に必要な経験・資格などを記述したものです。もともと欧米企業において採用や人事評価の場面で使用されているものを参考に、日本企業でも導入され始めています。

作成の目的は採用のミスマッチ防止や職務内容の整理

ジョブディスクリプションは、特定職種の人材を募集する時や、新たな人事制度を導入する時などに、人事担当者によって作成されます。

採用活動においては、必要なスキルを明示することで、採用のミスマッチを防ぐことに役立ちます。また、各ポジションの職務内容や権限範囲を可視化して整理することで、効率的な組織運営を行う狙いもあります

労働者側にもメリットがある

ジョブディスクリプションは労働者にとってもメリットがあります。職務内容がくわしく書かれたジョブディスクリプションがあることで、募集している仕事が自分の希望に合っているかを判断しやすくなり、組織やチームの中で自分の職務内容や役割を理解して仕事を進めることができます

また、人事評価ではどこで加点・減点されるかが明確になるので、評価への納得性が高まります

※くわしくは→ジョブディスクリプションがあるメリットは?

ジョブディスクリプションの記載例

Webマーケティングプランナーの職種を例に、具体的なジョブディスクリプションの記載例を紹介します。

※実際の様式は企業によって異なります。

【配属先】
マーケティング課
役職:課長

【雇用形態】
正社員(フルタイム勤務) 10時~19時

【主な業務内容・責任範囲】
このポジションでは、WEBメディアの制作・運用を通してコンテンツマーケティングを展開し、売上拡大と新規顧客獲得のために職務を行うものである。具体的な業務内容は次のとおり。

・WEB広告を軸とした集客のための企画立案および推進
・マーケティングの各データに基づいた新規顧客開発、イベント、キャンペーンなどの企画、提案
・企画、提案した施策の運用ディレクション、進行管理
・WEBメディア運用を通しての見込み顧客の獲得
・会社の他組織と連動してマーケティング成果を事業収益に直結させる

【職務の目的・目標】
このポジションでは、プロダクトの価値を最大化させ、WEBメディア事業を安定して継続的に高収益化させることや、見込み顧客を獲得することを目指す。

【評価基準】
このポジションにおける評価基準は次のとおり。

・主要な検索エンジンにおけるキーワードの上位表示
・WEBメディア1媒体あたり◯%のコンバージョン増加
・既存顧客数の◯割を維持または増加
・WEBメディア経由の新規顧客◯件以上獲得

【求められるスキル・知識・資格】
▼必須
WEB広告経験/実績
・広告運用、企画立案における顧客獲得実績 (リスティング広告/アドネットワーク広告/アフィリエイト広告など)
・代理店やネットワーク企業との取引、商談、プランニングの経験
・事業収益、広告評価に対する目標(KPI)設定と分析、改善する能力
・戦略をロジカルに考え、遂行できる能力
▼歓迎
・プログラミング、WEBディレクション経験
・データベース運用の知見

ジョブディスクリプションは担当する業務内容のほか、職務の責任範囲や目標求められる専門的なスキルなどが詳細かつ具体的に書かれています。

日本企業でなじみがない理由

日本でジョブディスクリプションを見聞きすることが少ないのは、主に二つの理由があります。一つは、選考の時点では職種を定めず入社後に配属を決める「メンバーシップ型雇用(総合職採用)」が主流であること。もう一つは職能給制度が広く浸透していることです。

日本企業の新卒採用では、スキルや専門性よりもコミュニケーション能力やポテンシャルを重視した採用活動が行われています。入社後はジョブローテーションにより幅広い業務を経験させる企業が依然として多く、この仕組みを支えているのが、メンバーシップ型雇用と職能給制度です。

それに対して欧米企業では、各ポジションの職務内容に応じた人材採用を行っています。募集の時点で具体的な雇用条件が記載されたジョブディスクリプションを提示することが一般的です。また、幹部候補を除くと、ジョブローテーションはほとんどありません。

ただし、近年ではIT業界などを中心に、国内でも仕事内容を限定する「ジョブ型雇用」が広まりつつあり、ジョブディスクリプションを用意する企業も増えてきています。

ジョブディスクリプションがあるメリット

企業が詳細なジョブディスクリプションを作ることによって、労働者にとってどのようなメリットがあるのでしょうか

業務が明確化されていてミスマッチがない

詳細なジョブディスクリプションがあることで、入社後に「思っていたのと違った」などのミスマッチが起きにくいというメリットがあります。

担当する仕事の内容や責任の範囲があいまいだと「採用時には聞いていなかった仕事をやらされる」などの不満がたまりやすくなります。

ジョブディスクリプションがあれば、責任の範囲を明確化できるため、業務内容について何か引っかかりを感じたとき、その記載内容をもとに関係者とすり合わせすることも可能です。

スペシャリストとして成長できる

業務内容がはっきりと明記されているジョブディスクリプションがあることで、その業務に集中して取り組みやすくなります。その結果、スペシャリストとして成長できる可能性が高まります。専門性を高めたいと考えている場合、ジョブディスクリプションがあることはメリットになるでしょう。

またジョブディスクリプションに必要なスキルが明記されている場合もあり、スキルアップを図りやすいといえるでしょう。

人事評価基準がわかりやすい

ジョブディスクリプションには評価項目が明記されていることもあります。その場合、評価結果や評価理由は納得性の高いものになるでしょう。とくに実績の評価について、やるべきことがはっきりしている分、できたかできなかったかが明確に判断できます。

ジョブディスクリプションを導入している職場では、仕事の難易度や責任の範囲に応じて給与が支払われる「職務給」が採用されていることも多く、仕事の内容や達成度が給与に反映されているという実感を持ちやすいでしょう。

ジョブディスクリプションについての注意点

ここでは、ジョブディスクリプションを見て求人に応募する場合の注意点について紹介します。

明記されていない項目は確認する必要がある

一般的な求人情報よりも詳細な記載があるジョブディスクリプションですが、様式や記載項目は企業の判断に委ねられているため、必ずしも知りたい情報があるとは限りません。不明点や疑問点があれば、面接の場で確認するようにしましょう。

また、ジョブディスクリプションはあくまでも標準的な職務記述になっているケースがほとんどです。面接を重ねるなかで職務内容や評価基準などで要望があれば、内容の一部を変更できるか交渉してもいいかもしれません

内容は経営状況の変化などで更新されることも

ジョブディスクリプションは一度決まったものが永久的に使われ続けるとは限らず、状況に応じて更新されるものです。

市場の変化にともない、企業が求める人材のタイプも変わるため、タイミングを逃すと同じ条件のポストはなくなってしまうこともあります。自分の希望するジョブディスクリプションを見つけられたら、応募についての早めの判断が必要です。

また、日本では海外ほど明確なジョブ型雇用が定着していないため、入社後もジョブディスクリプションを絶対視するのではなく、適時内容を確認することを心がけましょう

まとめ

行う職務の責任範囲、求められるスキルや評価基準など、仕事に関する詳細な情報が記載されているジョブディスクリプション

内容が絶対に変化しないわけではありませんが、基本的にスペシャリストとして同じ職務に集中することができます。

専門性を発揮したい方は、応募先の会社でジョブディスクリプションが提示されているか、チェックしてみてはいかがでしょうか。

(文:転職Hacks編集部)

この記事の監修者

社会保険労務士

三角 達郎

三角社会保険労務士事務所

1972年福岡県生まれ。東京外国語大学卒業。総合電気メーカーにて海外営業、ベンチャー企業にて事業推進を経験後、外資系企業で採用・教育・制度企画・労務などを経験。人事責任者として「働きがいのある企業」(Great Place to Work)に5年連続ランクインさせる。
現在は社会保険労務士として、約20年の人事キャリアで培った経験を活かして、スタートアップ企業や外資系企業の人事課題の達成から労務管理面まで、きめ細やかにサポートを行っている。
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