「家のローンが返せない…」 謎の主張を続けた生活残業マンの末路
生活残業を続けていると、周りの人の足を引っ張るだけでなく、本人の成長の機会も無くなってしまいます。
ブロガーのフミコフミオさんに、実際にあった「生活残業を続けた社員の末路」について綴っていただきました。
生活残業は百害あって一利なし
残業はないに越したことはない。でも、強いて言うならば、残業には良い残業と悪い残業がある。
良い残業とは、繁忙期や大型案件の納期が近づいたときの「やむを得ない残業」である。言い換えれば、やるべき仕事を全うするための残業である。
一方、悪い残業とは「ダラダラ残業」のことだ。本来ならば、所定時間内に十分終わらせられるはずの仕事を、ダラダラと働いた結果、発生する残業である。中には、生活費を稼ぐためにわざとダラダラ働いて残業を生じさせる「生活残業マン」もいる。
職場に生活残業マンがいると、周囲のモチベーションは下がる。本人の成長も期待できない。まさに「百害あって一利なし」なのだ(ちなみに、残業代が支払われない「サービス残業」は違法なので、良い悪い以前の問題である)。
生活残業を続ける50代社員の謎な主張
実は、僕が営業部長として勤めている会社にも生活残業マンがいる。
今の会社に転職してしばらく経った頃、不自然な残業を続けている部下がいることに気づいた。僕よりも年上の50代のベテラン社員で、役職や肩書はない。仕事上で目立つことが少ない、はっきり言って地味な部下である。
彼は、繁忙期でも納期の押し迫った状況でもないのに、一人だけ残業を続けていた。しかも、1日きっちり2時間ずつ。「あの人、仕事がないのに会社に残ってネットサーフィンしていますよ」という他の部下からの密告を受けて、僕はその部下を呼び出すことにした。
勤怠状況や業務の進捗状況、ネット接続状況など、もろもろの状況証拠をもって面談に臨んだが、罰則を与えるつもりはなかった。すぐに態度を改めてくれると信じていたからだ。会社としても残業ゼロを目指していることを伝え、「無駄な残業は今後一切やめてください」と告げて話は終わるはずだった。
だが、その期待は見事に裏切られた。彼は、「私にとっては無駄な残業ではありません」という想定外の主張を始めたのだ。
正直なところ、彼が何を言っているのかすぐには理解できなかった。でも、釈明を聞くのも上司の務めである。僕は、彼の言い分を聞くことにした。
生活残業マンが語った本音がすごかった
「給与を上げてくれませんか」「それが無理なら役職をつけて役職手当をください」と彼は言った。なぜ、そんな話になるのだろう。僕が話した内容は、いわば注意勧告である。マイナス評価につながる話をしているのに、なぜ彼は昇給と昇格を求めてくるのか。
ホームラン級の馬鹿なのか。「窮鼠猫を嚙む」的な言動なのか、それともヤケクソの「神風アタック」か…。理解が追いつかなくて頭痛がしてきた。
動揺する僕をよそに、彼は「残業をしなければ家のローンが返せません。子どもの学費を払えません。家族を養えません」と、立て続けに超個人的事情を訴えてきた。彼の主張を一言にまとめると、「給料を上げてくれれば残業はやめる」ということでしかない。滅茶苦茶だ。
改めて「会社として残業ゼロを目指していること」「意味のない残業はマイナス評価にしかならないこと」を説明したが、彼は聞く耳を持たない。相変わらず、「残業がなくなったら生活ができない」と繰り返すだけである。
このままでは話にならない。そこで、残業が発生しやすい部署への異動や、残業発生が不可避の大型案件担当チームに入れることなどを提案した。また、副業で収入を補ってはどうかという話もした(副業は解禁されている)。僕ができる最大限の譲歩である。
でも、そんな僕の親心を踏みにじるかのように、「違う仕事はやりたくない」「副業は大変です」「難しい案件は仕事も難しいじゃないですか」と、彼はすべての申し出を拒否した。まるで反抗期を迎えた子どものようだ…50代のくせに。
そして最後には、「今の仕事をゆる~くやりながら残業代を稼ぎたいんです」とまで言い切った。
なぜ生活残業がダメなのか
言うまでもなく、根本的に間違っている。残業は金を稼ぐ手段ではない。残業はそもそもあってはならないものであり、残業代が高く設定されているのは、残業をするものへのボーナスではなく、残業させる者へのペナルティの意味合いがあるからなのだ。
残業代目当てでダラダラと働かれてしまえば、会社は余計な人件費を支払うことになる。しかし、それ以上に大きいのは、一緒に働いている社員に与える負の影響だ。
ダラダラ働いている人間がいると、「チームの雰囲気が悪くなる」「モチベーションが下がる」「そこにいるだけでムカつく」といった、一緒に働く者のメンタルへの影響が大きい。
さらには、真面目に働くのが馬鹿らしくなって、生活残業というダークサイドに堕ちてしまう者が出てくるかもしれない(幸い、僕の職場にはダークサイドに堕ちた者は一人もいなかったが)。
生活残業を続けた社員の悲惨な末路
その後、会社が残業ゼロの方針をそれまで以上に強く打ち出したことで、彼はますます残念なサラリーマン人生を送ることになった。
まず、残業をする場合には、事前に上司(僕である)も許可を受けることが必要になった。そのため、意図的にダラダラと残業をすることはできなくなった。
それでも、彼の残業はゼロにはなっていない。ダラダラと仕事をする癖がしみついてしまった彼は、仕事をこなすスピードが極端に遅くなっていたのだ。そのため、同僚たちが所定時間内に難なく片付けている仕事量を、彼は残業せずに終わらせることができないのである。
それだけでない。残業を減らすために必死で仕事のスピードを上げた結果、彼の仕事は雑になり、ミスが多発した。当然、重要なプロジェクトからは外されるし、フォローする同僚からのクレームが増え、給与の査定ではプラス評価を受けることができずにいる。
さらに驚くべきことに、彼は最近、わざわざ他部署の雑用を引き受けて残業するという荒業を編み出した。いわば「残業代行」をすることで、わずかながらの残業代を稼いでいるのだ。副業もやっているようだが、とにかく仕事が遅いので効率が悪いらしいという噂を聞いた。
ダラダラと続けてきた生活残業が、彼をダメ会社員に変えてしまったのだ。生活費を稼ぐために続けてきたダラダラ残業が、結果として彼の収入アップを妨げている。
僕は上司なので何とか助けようと助言しているけれども、相変わらず「昇給」「昇格」を口にする彼への同情心はゼロに近くなってきている。
残業代稼ぎのためのダラダラ仕事は、会社や上司からの不評を買い、周囲への悪影響があるだけでなく、本人にとってもマイナスでしかない。まさに「百害あって一利なし」なのである。
この記事の執筆者
フミコフミオ
海辺の町で働く不惑の会社員。普通の人の働き方や飲食業や給食について日々考えている。現在の立場は営業部長。90年代末からWeb日記で恥を綴り続けて20年弱、主戦場は、はてなブログ。
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