仕事内容、求められる能力は? NPO法人に向いている人・いない人
「仕事を通して社会に貢献したい」と考えている人の中には、「NPO法人で働く」ことを選択肢として考える人もいることでしょう。でも、NPO法人にはどんな仕事があって、どんな人が向いているのでしょうか?
株式会社とNPO法人の両方を運営しているNPO法人ママライフバランス代表の上条厚子さんに、NPO法人と株式会社の違いや、NPO法人に向いている人の条件などを聞きました。
Q.NPO法人とは何ですか?
上条厚子さん(以下、上条):NPO法人とは「営利を目的とせず社会貢献をする団体」のことで、正式名称は「特定非営利活動法人」といいます。
たとえば、私が運営するNPO法人は、産後うつ・児童虐待をなくすことを目指して事業活動をしていますが、多くの団体が事業を通して、医療・福祉や環境保全、社会教育といった社会問題の解決を目標に活動しているのです。
Q.NPO法人は利益を出してはいけないのですか?
上条:NPO法人だからといって、利益を出してはいけないということはありません。
「営利を目的としない」というと、「お金を儲けてはいけない」と思われがちなのですが、それは誤解です。NPO法人であっても、お金を稼いで利益を出すこと自体は問題ありませんし、働いている人の給料もきちんと支払われます。
「営利を目的としない」というのは、「利益を分配しない」ということです。株式会社では、利益は株主に分配しますが、NPO法人には株主はいませんし、利益を分配することはありません。
NPO法人の活動で出た利益は、事業活動に回されて、さらなる活動展開のために使われます。
Q.株式会社とNPO法人は何が違うのでしょう?
上条:私は株式会社とNPO法人の両方を運営していますが、「事業を運営する」という点では、株式会社もNPO法人も変わらないと感じます。
NPO法人はボランティア団体とは違うので、事業を黒字化して経営を安定させること、働いている人に適正な給料を支払うことが大切だと考えています。
ただ、お金の流れは大きく3つの点で異なっています。
<NPO法人が株式会社と異なる点>
1利益を分配しない
2運営は主に寄付金で賄われる
3寄付金は課税されない
それぞれ具体的に見ていきましょう。
(1)利益を配分しない
まず、前述した通り、NPO法人でも利益を出すことは問題ありませんが、株式会社と違って、その利益を支援者や従業員に分配することはありません。ここでいう利益とは、収入から必要経費を引いて残る余剰利益のこと。従業員の給与は必要経費に当たるため、利益の額に関わらずきちんと支払われます。
(2)運営は主に寄付金で賄われる
一般企業の場合は、サービスや商品を受け取るクライアントや消費者がその対価としてお金を支払います。ですが、NPO法人ではサービスを受けた人が対価を支払わなくてよい場合が多いです。
たとえば、貧困家庭に対する支援など、お金がなくて一般的なサービスを受けられない人が対象となる場合がそうです。利用者から利用料を受け取る場合もありますが、サービスにかかる費用を支援者からの寄付や自治体などの補助金で賄なっているNPO法人は多くあります。
(3)寄付金は課税されない
NPO法人が受け取った寄付金には税金がかからないのも特徴です。ただし、NPO法人であっても、法人税や固定資産税などはかかりますし、収益事業を行っている場合は法人税が課税されます。
Q.NPO法人の仕事はどんなことをするのですか?
上条:NPO法人によって事業内容は様々ですが、仕事内容は大きく次の3つに分けられます。それぞれ説明していきましょう。
1活動方針の決定・運営
2活動資金の調達
3事務的な業務
(1)活動方針の決定・運営
事業を通してどんな社会を実現したいのか、団体の活動方針を決定して、運営を行う仕事です。
具体的な業務内容や経営計画を立てて、どんなサービスを提供するのか、どんなイベントを実行するのかといった活動内容を決めて実行していかなければなりません。
(2)活動資金の調達
NPO法人を運営し、活動していくために必要なお金を集める仕事です。国や自治体からの補助金、企業や個人からの寄付金が、NPO法人の活動資金の大きな割合を占めます。
国や自治体の補助金の申請をする他、受け取った補助金をどのように使ったか報告する業務もあります。また、自分たちの団体の理念や活動方針を広報して、支援者を集めるのはとても大切な仕事です。
(3)事務的な業務
NPO法人の規模にもよりますが、一定の規模の団体の場合、経理や総務といった事務的な仕事が必要になります。
職員の給与を支払ったり、社会保険などの手続きを行う他、取引先への支払いなど、一般的な会社と同じような事務作業を行います。
Q.NPO法人で働くことに向いている人はどんな人ですか?
上条:NPO法人に向いているのは、自分が解決したい社会的課題が明確になっている人、そして、その問題を解決したいという強い意思がある人だと思います。逆にいうと、それ以外の人は向いていません。
また、NPO法人の給与水準は一般企業に比べるとまだまだ低いのも事実です。ですから、何よりも給料や福利厚生など待遇の良さを重視する人にも向いていません。やりがい搾取はあってはならないことですが、待遇が多少悪くても、達成感ややりがいを重視する人が向いているといえるでしょう。
NPO法人で働くことを考えているなら、自分は何のために働くのか、何に価値を置いているかを、きちんと考えたほうが良いと思います。
なお、NPO法人であっても、コミュニケーション能力や実行力、企画力など一般の企業でも必要な、仕事を遂行するための能力が求められることは言うまでもありません。
Q.自分に合ったNPO法人の見極め方はありますか?
上条:ポイントは2つあります。まず1つは、問題意識が共通であることです。
具体的には、そのNPO法人で、自分が課題だと感じている社会問題の解決に取り組めるかどうか。そして、問題を解決することでどんな社会を実現したいのか、目指すゴールに共感できるかどうかも大切です。
そこが食い違ってしまうと、働いているうちに違和感が出てきてしまいます。そのNPO法人はどんなゴールを目指しているのかというところまで確認しておくとよいでしょう。
もう1つは、経営者の経営感覚です。残念なことですが、NPO法人を経営している人の中には、事業を経営しているという意識が薄い人がいるのも事実。「社会貢献をしているのだから薄給でもいい」といった考え方の持ち主もいます。
そうした経営者の下で働くと、やりがい搾取されてしまうことにもなりかねません。前述したように、給与水準が低いNPO法人が多いことは事実です。ですが、今は経営が厳しくても、事業拡大にしっかり取り組んで「経営を安定させて適正な給料を払える組織にしたい」と考えている経営者の下で働くほうがハッピーではないでしょうか。
Q.NPO法人の課題を教えてください
上条:「NPO法人は儲けてはいけない」というイメージがまだまだ強いことです。NPO法人は、働く人の犠牲の上に成り立っていると考えている人が多いと、人材が集まりにくく、安定した経営を実現するのが難しくなってしまいます。
また、実際にNPOを運営している人の中にも「特定非営利活動法人」という名前に縛られて、「お金を儲けてはいけない」と思っている経営者がいることも大きな課題だと感じています。
繰り返しになりますが、「NPO法人はお金を稼いではいけない」というのは誤解です。一般の会社と同じく、利益を出すことに問題はありません。株主配当のように事業で得た利益を支援者に還元したり、従業員に臨時ボーナスのような形で支給することはできませんが、事業の拡大に使うことで長期的に従業員の処遇をよくしていくことも可能です。
安定した経営で、しっかり利益を出せるNPO法人が増えていけば、社会問題が解決できるだけでなく、そこで働く人の処遇もよくなって、誰もがハッピーな社会が実現できると私は信じています。
取材・文/於ありさ(@okiarichan27)
この記事の話を聞いた人
特定非営利活動法人ママライフバランス代表理事
上条厚子
1981年生まれ。愛知県出身。椙山女学園大学卒業後、化粧品販売業でトップセールスとなる。自身の産後うつの経験から、子育て・子供の発達に関連する学びを深め、資格を取得。2016年から母親向けのセミナー講師として活動を開始。3年で400名を越える親子に指南し、自治体・公立小学校・国連行事へ登壇。地域の家庭教育推進委員やCBCテレビ番組審議員も務める。2018年にNPO法人の前身である市民団体ママライフバランスを立ち上げ、のべ1万人の親子と交流の場を創出。現在は、産後うつの予防に特化したプレママ・プレパパ向けプログラム「親のがっこう」を運営している。