仕事を頑張っているのに… 評価されない人が見落としている大切なこと

「頑張っているのに評価されない」「仕事ぶりを正当に評価してもらえない」。そんな不満を感じている人は少なくないようです。

だからといって「評価に不満があっても、すぐ転職というのはおすすめできません」と言うのは、企業の採用責任者として2万人以上と面接した人事とキャリアのプロ・曽和利光さん。「頑張ってもなぜか評価されない人」が見落としていることを聞きました。

評価に不満が出ない会社なんてない

曽和利光さん(以下、曽和):これまで多くの会社で人事評価制度の設計・運用にかかわってきましたが、「評価に不満が出ない会社なんて存在しない」と断言していいほど、評価には不満がつきものです。「評価に対する不満」というのは、すべての会社が抱える普遍的な問題と言えるでしょう。

曽和利光(そわ・としみつ) 人事コンサルタント、株式会社人材研究所代表。リクルートなどで人事・採用部門の責任者を務め、2万人以上と面接した人事とキャリアのプロ。

曽和:だからといって、不満があっても「評価とはそういうものだから」と割り切って考えるべきなどと言うつもりはありません。

仕事で出した成果や、その成果を出すための努力が正しく評価されなければ不満を感じるのは当然ですし、上司や会社に対して不信感を持つのもごく自然なことでしょう。

実際、「会社に貢献しているのに評価されない」「上司の評価に納得できない」といった不満を募らせて、「この会社にいても正当に評価してもらえない」と転職を考える人は少なくありません。

ですが、そのような理由で転職を考えている人に対して、私は「本当に転職すべきか、もう一度考えてみてください」とお伝えしています。

なぜなら、「成果を正当に評価してもらえない」「自分の頑張りが認めてもらえない」と感じている人のほとんどが、共通して「見落としていること」があるからです。そのことに気づかないまま転職しても、次の職場もまた同じような不満を抱えることになる可能性が高いのです。

頑張っても評価されない人が見落としているのは?

曽和:では、頑張っても評価されない人が「見落としていること」とはどのようなものなのでしょうか。

思うように評価されないことで不満を感じるのは、「仕事の成果や努力は、必ず誰かが評価してくれ」と考えているからではないかと思います。ですが、実はそれは大きな勘違いなのです。

日本では古くから「お天道様が見ている」「努力は必ず報われる」といったことが言われてきました。これはまさに「正しいことをしていれば、いつか必ず誰かが認めてくれる」という価値観と言えるでしょう。

このように、「他者は信頼に足るものだ」というポジティブな見方を持つことを、心理学では「ベーシックトラスト(基本的信頼感)」と言いますが、評価の話に限って言えば、これは甘い考え方だと言わざるを得ません。

少々乱暴な言い方をしてしまえば、「上司は適正な評価をしてくれるはず」というのは幻想にすぎないのです。そして、頑張っても評価されない人のほとんどが、この事実に気づいていないと言えるでしょう。

なぜ上司の評価は納得できないものなのか

曽和:上司に適正な評価を期待できないのはなぜでしょうか。そこには、①上司が忙しすぎる②人はバイアスから逃れられない、という2つの理由があります。

理由1|上司が忙しすぎる

曽和:一つ目の理由は、上司が忙しすぎるというものです。かつての管理職は管理だけをしていればよかったのですが、今はプレイングマネージャー(マネジメントだけでなく自身の業務も担当する人)が基本。部下ひとり一人をつぶさに見ている時間がないというのが現実です。

それに加えて、人には「認知限界」があります。これは、アメリカの認知心理学者、経営学者であるハーバート・サイモンが提唱した概念で、1人のマネージャーが管理できる人数は6〜7人が限界とされています。しかし、今は1人のマネージャーが10〜20人を管理している会社も珍しくありません。

曽和:おまけにコロナ禍でリモートワークが導入されたことも相まって、上司と部下の関係はかつてないほど希薄になっています。非常に残念なことなのですが、このような状況で適正な評価ができるとは思えませんし、上司としても適正な評価をしたいと思いつつも、それが難しい現実があると言わざるを得ないでしょう。

理由2|人はバイアスから逃れられない

曽和:2つ目の理由は、いわゆる「認知バイアス」の問題です。人は誰しも「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見・思い込み)」を持っています。たとえば、「単身赴任」と聞くと多くの人が「父親」を想像するように、過去の経験や知識、価値観から偏った判断をしてしまうのです。

なかでも、評価に最も影響を与えるのが「類似性バイアス」。心理学では「類似性効果」「類似性の法則」と呼ばれていますが、人を評価するときに自分に似ている人を高く評価することを言います。

実際、ある会社で、評価者(上司)と被評価者(部下)を5つのタイプに分け、評価の平均点を見てみたところ、「上司は自分と同じタイプの部下を高く評価している」という結果が如実に出たそうです。

曽和:もちろん、多くの会社が評価者に教育・研修を行って評価エラーを防ごうとしています。ですが、人には相性があるため、類似性バイアスを完全に排除することはできないのです。

自分の成果は自分で説明する責任がある

曽和:これらのことからわかるのは、評価を上司任せにしてはいけないということです。適正な評価を得たいのなら、あなた自身が自分の成果や努力を上司に説明して、理解・納得してもらわなければなりません。つまり「説明責任は自分にある」と自覚しなければならないのです。

「適正な評価ができない上司が悪い」「会社の評価制度がおかしい」と不満を感じているのなら、「それなら転職だ」と走り出してしまう前に、まずは自身の成果や努力を上司に伝える努力をしているか振り返ってみてはいかがでしょうか。

評価されていないと感じたらやるべきこと

曽和:説明責任は自分にあるといっても、ただ「頑張りました」と言うだけでは伝わるものも伝わりません。上司に自分の成果を伝えて、正しく評価されるためにはどうすればいいのか、3つのポイントをご紹介します。

〈正しく評価されるための3つのポイント〉

  1. 成果はファクトベースで伝える
  2. 上司との共通点を探す
  3. 当たり前水準を見直す

1|成果はファクトベースで伝える

曽和:ファクトベースで伝えるとは、事実に基づいて伝えるということ。つまり、「自分の頑張り=成果」を、たとえば「目標達成率120%」といったように数字などの事実を用いて説明することです。

そして、もうひとつ重要なのは、上司が求めている成果は何なのかを理解した上で、自身の成果を伝えなければならないということです。

たとえば、新規取引先の開拓を進めている営業チームを例に考えてみましょう。上司が結果のみを評価するタイプであれば、「200社に飛び込み営業をかけました」と伝えても評価されるのは難しいはず。上司は何社に営業をかけたかという努力ではなく、「取引先を何社開拓したか」という結果を求めているからです。

曽和:逆に、上司が努力や取り組みを重視するタイプであれば話は変わってきます。求められている成果が「開拓した取引先の数」であることは変わりませんが、「200社」という数字についても評価の対象になるはずです。

上司が何を求めているのか、何を評価するのかを理解した上で、自分の成果や努力を伝えなければ、適切な評価を受けることはできないのです。

2|上司との共通点を探す

曽和:先ほど、評価は類似性バイアスに影響されるということをお伝えしました。そこで提案したいのは、この類似性バイアスを逆手に取ることです。

学生時代の部活、趣味や好きな野球チームの話など、どんなことでもいいので上司との共通点を見つけて伝えてみましょう。そうすることで、あなた自身に対して興味をもってもらえれば、仕事ぶりや努力に目を向けてもらうことができるかもしれません。

共通点がなければ作ってもいいと思います。たとえば、上司の趣味に合わせて自分も何か始めるのもいいですし、上司が読んでいる本を自分も読んで感想を伝えてみるといったことでもかまいません。

曽和:念のためにお伝えしておくと、これは上司にゴマをするとか、ご機嫌を取るということではありません。上司との距離が近づけば、コミュニケーションも取りやすくなりますし、上司の仕事や成果に対する考え方を知ることにもつながります。

その結果、仕事がやりやすくなることはもちろん、成果を上げるという点においても間違いなくプラスの効果があるはずです。

3|当たり前水準を見直す

曽和:自分の成果や努力を上司に伝えると同時にやっていただきたいのは、自身の「当たり前水準」を見直すことです。

当たり前水準とは、「頑張った」と自己評価する基準のことです。勉強を例にするなら、たとえば1時間勉強しただけで「今日はめちゃくちゃ頑張った!」と思う人もいれば、5時間勉強しても「まだまだ全然足りない」と思う人もいます。前者は当たり前水準が低い人、後者は当たり前水準が高い人と言えるでしょう。

当たり前水準が他の人よりも低い人の場合、周囲の評価と自己評価にギャップが生じがちです。自分では「これだけやっているのに」「これだけ成果を出しているのに」と思っていても、周囲からは「それだけしかやっていない」と評価されているケースもあるのです。

曽和:どれくらいの成果を出せば評価されるのか、その水準は年次や経験、ポジションによって異なります。自分が考えている「評価される水準」と「求められる水準」にギャップがないか、改めて確認してみましょう。

周囲で評価されている人がどんな成果を上げているのか、自分と比較してみるのもひとつの方法です。また、どれくらいの成果をあげれば評価されるのか、評価されるために自分に足りないものは何なのか、といったことを上司に直接聞いてみるのもいいと思います。

仮に、自分の考えている当たり前水準が、上司から求められている水準よりも低かった場合には、足りない部分を埋めていく努力をすることで確実に評価を上げていくことができるはずです。

それでも評価に納得できなかったら

曽和:ここでご紹介した3つのポイントを実践しても、まだ「自分は正当に評価されていない」と感じるのであれば、転職を考えるのもひとつの選択肢と言えるでしょう。本当に上司に見る目がないか、もしくは上司に何らかの意図があってわざと評価を低くしている可能性があるからです。

何らかの意図というのは、たとえば、自分より優秀な部下に追い抜かされることを恐れて不当に低い評価をつけている、もしくは優秀な部下を他部署に引き抜かれないよう囲い込むためにわざと評価を低くしているといったことが考えられます。

どちらのケースも、そうした事実があることを客観的に証明するのは難しいことですが、まずは上司に「自分の成果に対して、なぜこの評価がついているのか」「評価されるにはどんな成果を上げればいいのか」といったことを確認してみましょう。

それでも評価の理由に納得がいかない、求められた成果を上げたのに評価されないといった場合には、さらに上の上司や人事部に相談することをおすすめします。それでも状況が変わらなければ転職を検討してみてはいかがでしょうか。

よりよいキャリアを築くために

曽和:評価に悩む人に向けて、最後にお伝えしたいことがあります。それは、評価のために仕事をするのはナンセンスだということです。もちろんビジネスパーソンにとって、評価は重要ですが、良い評価を得るために仕事をするのは違うと思うのです。

仕事で成果を上げるために重要なのは、「この仕事が楽しい」「この仕事が天職だ」といった内発的な動機づけです。そのような強い思いがあれば、他者からの評価といった外的な要因にモチベーションを左右されることはなくなります。

評価はあくまでも結果に過ぎません。大切なのは、目の前の仕事に真剣に打ち込むことです。目の前の仕事に真剣に取り組むことで成果が出れば、自然と評価も高くなることでしょう。そして、そうした努力の積み重ねこそが、よりよいキャリアを切り開くことにつながるはずなのです。

取材・文/転職Hacks編集部

▼ムリなく、ムダなく、成長したい

▼上司の評価に納得できない

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この記事の話を聞いた人

人事コンサルタント

曽和利光

株式会社人材研究所 代表取締役

京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート、ライフネット生命などで人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。著書に『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『日本のGPAトップ大学生たちはなぜ就活で楽勝できるのか?』(星海社、共著)など多数。

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