チャンスが多いからこそ要注意 20代後半の転職でやってはいけないこと

20代後半は求人数も多く、転職しやすい年代です。だからといって転職が成功するかは別問題。

この年代での転職を後悔のないものにするにはどうしたらいいのか、元転職エージェントで日本初、唯一の「退職学(R)」の研究家として1000名以上の働き方相談(有料)を受けている佐野創太さんに聞きました。

20代後半の転職でやってはいけない3つのこと

佐野創太さん(以下、佐野):20代後半は求人数も多く、転職しやすいタイミングと言えるでしょう。ただし、転職しやすいからといって後悔のない転職ができるとは限りません。

それどころか、これまで1000名以上の働き方相談を受けた経験から言うと、20代後半は転職しやすい年代だからこそ、転職「だけ」はうまくいったものの、転職先で「こんなはずじゃなかった」と後悔する人が少なくないのです。

そこで20代後半の転職を後悔のないものにするために、「やってはいけない3つのこと」をお伝えしたいと思います。

〈20代後半の転職でやってはいけない3つのこと〉

  • 転職エージェントに丸投げする
  • 「最高の会社」を追い求めてしまう
  • 「どんな仕事をしたいか」だけで会社を選ぶ

どんなことなのか、ひとつずつ見ていきましょう。

1.「転職エージェントに丸投げする」のはNG

佐野:やってはいけないことの1つ目は、自分の転職を「転職エージェントに丸投げする」ことです。

転職エージェントは非常に便利なサービスです。今より残業が少なくて、人間関係が良くて、やりがいのある仕事ができるさまざまな企業を紹介してくれます。加えて、求人の応募はもちろん面接日程の調整年収交渉履歴書や職務経歴書の添削までしてくれます。しかも無料です。

便利で手厚いサービスを受けられるので、転職したい人の強い味方になってくれます。ただ、便利で手厚いサービスであるがゆえに、転職エージェントに転職活動を丸投げしてしまう人がいるのです。

「転職エージェントに丸投げ」がダメな理由とは?

佐野:なぜ転職エージェントに丸投げしてはいけないのでしょうか。まず知っておいてほしいのは、転職エージェントは目的にたどり着くための「交通手段」だということです。

たとえるなら、転職エージェントは「めちゃくちゃ高性能な飛行機」のようなもの。「どこか暖かいところに連れて行ってください」と言えば、魅力的な行き先をいろいろ紹介してくれます。そして、最短の時間で行き先に到着できるようサポートしてくれるのです。

ただし、行き先が決まらなければ飛行機に乗れないのと同様、どんな会社に転職したいのか、希望する行き先は自分で決めなければ転職エージェントを有効に活用することはできません。

佐野:仮に転職エージェントに丸投げした場合でも、転職そのものを実現することはできます。たとえば、「とにかく営業職の求人を紹介してください」と転職エージェントに伝えれば、数多くの求人を紹介してもらうことができます。

そして、その中からおすすめの会社を聞いて「そこに転職したい」と言えば、転職実現に向けたサポートを受けることもできるでしょう。場合によっては、内定が出やすい会社を紹介してもらうこともできるかもしれません。

ですが、そもそもなぜ自分は今の会社を辞めたいのか、自分はどんな会社に転職したいのか、その会社で活躍できる勝算はあるのか、本音でとことん自分と向き合って考えておかないと、転職だけ実現してもその後の人生を好転させることはできません

佐野:特に20代後半は求人も多く、「こんな会社に入りたい」というはっきりした希望を持っている人でさえ、会社のネームバリューや高い給与など、魅力的な求人に惑わされてしまうほどです。

自分が本当はどうしたいのか本音を理解した上で、自分が納得できる会社を選ばなければ、いざ転職したものの「こんなはずじゃなかった…」と後悔することになりかねないのです。

転職エージェントを最大限活用するために

佐野:転職する側としては、自分にはどんな会社、どんな働き方が合っているのか考えるところから転職エージェントにサポートしてほしいと思うかもしれません。

もちろん、そうした手厚いサポートをしてくれる転職エージェントもいます。ただ、転職エージェントは非常に忙しい仕事です。何人もの求職者の方を同時にサポートしなければなりませんし、土日もほぼ求職者との面談で埋まってしまいます。

手厚くサポートしたいと思いながら、現実問題としてそれができなくて悩む転職エージェントも多いのです。

佐野:むしろ転職エージェントは、たとえば「この会社ではどんな志望動機が評価されるか」「明日の面接を突破するにはどうしたらいいのか」といった内定を取るためのサポートで力を発揮してくれるはず。なぜなら、転職エージェントは自分が担当する企業がどんな人材を求めていて、どんな採用戦略を取っているのか知り尽くしているからです。

どんな会社に転職したいのかを決めるのは、あくまでも自分です。「●●な会社に行きたいのですが、そんな求人はありますか?」と、こちらから転職エージェントにリクエストするくらいがちょうどいいのです。

▼転職エージェントを使いこなすには?

2.「最高の会社」を追い求めてはいけない

佐野:20代後半の転職でやってはいけないことの2つ目は、「最高の会社」を追い求めることです。

上司が嫌い、給料が少ない、仕事内容が合わない…などなど、転職を考えるきっかけは現状に対する不満であることがほとんどです。転職先はそうした不満を解決できるところを選びたいと思うのは当然のことでしょう。

もちろん、いい会社はたくさんあります。誰もが知る一流企業や独自の経営で急成長が見込めるベンチャー企業、無名だけど従業員の幸せを何より重視する企業など、さまざまな「いい会社」が存在しています。中には、あなたの理想に限りなく近い「最高の会社」があるかもしれません。

ただし、そんな「最高の会社」があったとしても、「最高であり続ける会社」はありません。なぜなら会社は変わりますし、あなた自身も変わり続けるからです。あなたにとって今、最高の会社が5年後も最高であり続けるとは限りません。

佐野:いい会社に転職したと思っても、業績悪化で給料が下がることもあれば、人事異動で苦手な上司の下につくこともあるでしょう。その度に青い鳥を求めるように転職を繰り返せばどうなるでしょうか。

20代後半の今は求人も多く、転職先はいろいろあるでしょう。だからといって簡単に会社を辞めるようになってしまっては、すぐに行き詰まってしまうことは目に見えています。実際に私は、20代で2社目を早期退職した結果、「紹介できる求人はありません」と転職エージェントのサービス登録を断られてしまったのですから。

そんなことにならないために、転職先を選ぶ際に確かめるべきことのひとつは、「自分の時間や経験を使って、その会社を成長させたいと思えるか」ということです。もしそう思えるなら、業績が悪化して給料が下がっても、業績を立て直すために自分が努力しようと思えます。人間関係が悪くなっても、自分が周りに働きかけていい雰囲気を作っていこうと思えるはずです。

「会社で働くことの本質」を知っておこう

佐野:ただ、最近は「その会社を成長させたいと思えるか」ではなく、高い給料や充実した福利厚生、ネームバリューなど「その会社で働くことにどんなメリットがあるか」という視点で会社を選ぶ人が増えているようです。そうした動きを受けてか、企業側も離職率を抑えようと従業員のための施策を打つ企業が増えました

でも、従業員の希望を叶えようと福利厚生をどんどん充実させていった結果、利益率が下がってリストラせざるを得なくなった会社もあります。これでは本末転倒と言う他ありません。

あえて厳しいことを言いますが、会社は創業者の思いを実現するために作られた利益を追い求める存在です。そして仕事とは、あなたが時間と経験を投資して会社を成長させることなのです。

突き放されたように感じるかもしれませんが、それが「会社で働くことの本質」です。20代後半は、「将来、会社の中心的なポジションに就けるかどうか」の選抜が始まる年代。このタイミングで、会社で働くことの本質を知っておいてください。

自分の本音と向き合って、「会社の成長のために自分は何ができるのか」を具体的に言葉にできる会社が、あなたにとっての「いい会社」なのです。

3.「どんな仕事をしたいか」だけで会社を選ぶのはNG

佐野:やってはいけないことの3つ目は、「どんな仕事をしたいか」だけで会社を選ぶことです。

新卒での就活や、第二新卒と言われる年齢での転職であれば、どんな仕事がしたいのか、仕事で何を成し遂げたいのかといった「仕事の視点」に振り切って会社を選ぶ人も多いです。

ですが、特に20代後半は、結婚や出産・育児を考えたり、親の体調が気になり始めたりと、人生に変化が起こる年代です。仕事面でも余裕が出てきて「私生活を充実させたい」と考えたり、逆に「もっと仕事に打ち込みたい」と思ったり、ワークライフバランスに対する考え方が変わる年代でもあります。

佐野:そのため、20代後半になると自分はどういう働き方をしたいのか、どういう暮らし方をしていきたいのかという生活の視点が、会社選びにおいても重要になってきます。言い換えるなら、20代後半の転職は、自分がどう生きたいかを選ぶことでもあるのです。「生き方から働き方を選ぶようになる」ことが20代後半の転職の特徴です。

自分が本当に望んでいる働き方を知るには?

佐野:自分が本当に望んでいる生き方・働き方を知るには、手始めに平日の夜をどのように過ごしたいのかイメージしてみるといいでしょう。残業で少々遅くなっても仕事に打ち込みたいのか、家族と食事してゆっくり過ごしたいのか、そもそも家族を持ちたいのかソロで生きたいのか、本音で考えてみることです。

そして、いきなり転職に踏み出すのではなく、1カ月間でいいので自分がいいと思う「生き方、働き方」を実行してみましょう。「19時には家にいたい」と考えたら、そうなるよう工夫してみてください。「マーケティングがやりたい」と思ったら、会社のマーケティング部の同期の仕事を手伝ってみてください。

そうやって実際に「理想の生活」を送ることで、「やっぱり自分はこういう働き方が合ってる!」と確信することもありますし、逆に「やってみたら違った。自分には合わないみたいだ…」とわかることもあります。その気づきが、自分が本当に望んでいる働き方を選ぶ第一歩です。

そして、「自分が本当に望んでいる働き方」がわかったら、その働き方を実現するには転職が必要なのか、転職が必要ならどんな会社に転職すればいいのか、じっくり考えてみてください。

転職で人生を好転させるために

「会社を辞めたい」「転職したい」と思うのはごく自然なこと。風邪のようなもので、誰もが一度は経験します。

そう思ったときには、自分が転職したいと思った本当の理由は何なのか、自分はどんな働き方をしたいと思っているのか、自分の本音と向き合ってみましょう。そして、自分が望んでいる働き方、生き方を実現するために転職が必要だと本音で思えたなら、きっとその転職をきっかけにあなたの人生は好転していくはずです。

「会社辞めたいな」と思ったら、本音が疼き始めたということです。「本音が動き出したぞ」ととらえて、自分と向き合う時間を取ってみてください。

取材・文/三浦顕子

この記事の話を聞いた人

退職学(R)の研究家

佐野創太

1988年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、現株式会社パソナJOB HUBで転職エージェントに従事するも早期離職、無職を経験。出戻り後は新規事業担当兼Webメディア編集長となる。2017年に介護離職を機に独立。「退職後も声をかけられる最高の会社の辞め方」でつくる「セルフ終身雇用」を1000名以上に伝授。50社以上の「悪い退職」をなくす組織開発パートナーでもある。著書の『「会社辞めたい」ループから抜け出そう!』(サンマーク出版)はAmazon、楽天、書店ランキングで1位となる。静岡県生まれ、神奈川県育ち。1児の共働き夫。