転職を成功させるために 年収は妥協していいとプロが語る本当の理由

転職で成功する人は、「絶対に叶えたい条件」と「妥協してもいい条件」を明確にしています。業種・業界、給料の高さや福利厚生など、さまざまな条件に、どう優先順位をつけていけばいいのでしょうか。

リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務め、転職希望者や就職活動中の学生に実践的なアドバイスを送り続ける人事コンサルタントの曽和利光さんに、「転職で妥協していい点・ダメな点」の見分け方を聞きました。

成功する人は「妥協してはいけない点」を知っている

曽和利光さん(以下、曽和):転職を成功させるには、何のために転職するのか、その目的を明確にしておくことが大切です。

給与や会社の規模、ポジションなど、転職先を選ぶ条件はさまざまです。すべての条件を満たす転職先が見つかればいいのですが、残念ながら世の中にそのような企業はまず存在しません

それに、高額な報酬や会社のネームバリュー、ユニークな制度など、魅力的な条件が目につき、つい目移りしてしまいがちです。

転職先を選ぶ条件(仮) 職種・業界 報酬 ポジション 会社の知名度 やりがい 勤務形態 勤務時間 残業の有無 福利厚生 etc

そのため転職活動においては、その目的を叶えるために「絶対に妥協したくない条件」「妥協してもいい条件」を決めておくこと。そして、他の条件に惑わされずに「自分が本当に叶えたい条件」を満たす転職先を選ぶことが大切です。

曽和利光(そわ・としみつ) 人事コンサルタント、株式会社人材研究所代表。リクルートなどで人事・採用部門の責任者を務め、2万人以上と面接した人事とキャリアのプロ。

「報酬」や「ネームバリュー」に惑わされると失敗する

曽和:上で述べたように、転職活動では会社のネームバリューや快適なオフィス環境、福利厚生など、いろいろ魅力的な条件が目につきますが、惑わされてはいけません

特に「報酬」「ポジション」「ネームバリュー」の3つは、ほとんどの人が魅力を感じるもので、つい「これだけの報酬がもらえるなら」「これだけ評価されているのなら」「こんな一流企業で働けるなら」と考えてしまいがちです。

いわば転職で判断を惑わされがちな三大要素と言えるでしょう。

転職で判断を惑わされがちな三大要素 報酬 今よりも高額な報酬を提示される 評価・ポジション 会社から強く望まれる。人によってはポジションと裁量が与えられる ネームバリュー その会社にブランド力、知名度がある

曽和:ですが、転職を考えているからには、「今の会社はここが嫌だ」「今の会社では無理だけれど、どうしても実現したい目的がある」といった「会社を辞めようと考えた理由」があるはずです。

それにもかかわらず、「給料が上がるから」「評価してくれたから」といった理由で、もともと考えていた転職の目的が叶えられない転職先を選んでしまったらどうなるでしょう。おそらく、新しい会社に移ってもまた同じ理由で辞めることになってしまいます。

もちろん、転職で叶えたい条件がはじめから報酬やポジションであれば問題ありません。経済的な事情から「年収○○○万円以上が絶対条件」という人もいるでしょう。

ですが、この3つの他に叶えたいと強く思っている条件があるなら、惑わされないように気をつけなければなりません。

転職で妥協してもいい3つの点

曽和:実は、前述した「惑わされがちな三大要素」は、特に20代での転職では「妥協してもいい点」とも言い換えられます

なぜなら20代は「キャリアの種まき期」だからです。キャリア種まき期とは、将来のためにスキルと能力を磨き、成長のために自己投資する期間です。

ですから、報酬やポジションよりも、「将来につながるスキルや能力が得られそうか」「その環境で自身が成長できそうか」という点を重視したほうがいいでしょう。

曽和:20代のうちに自己投資して高い成果を出せるスキルや能力を身に付けておけば、報酬は後から取り戻すことができますし、ポジションも自然とついてくるはずです。報酬やポジションを求めて転職を考えるのは、30代半ばからの「キャリアの刈取り期」に入ってからでよいと思います。

ネームバリューも同様です。会社のネームバリューと自身の成長は基本的に関係ありません。ネームバリューのある会社だからこそできる仕事もあるとは思いますが、その仕事が本当に身に付けたいスキルや能力につながるのかを考えるべきでしょう。

転職で妥協してはいけない3つの点

曽和:では、転職で「妥協してはいけない点」はどんなものでしょうか。結論から言えば、次の3つがあげられます。

転職で妥協してはいけない3つの条件 条件1 今の会社を辞めると決めた理由 条件2 自分が成長できる環境 条件3 自分に根付いている価値観

曽和:まず、1つ目と2つ目についてはこれまでご説明した通りです。今の会社を辞めると決めた理由をクリアできなければ、再び同じ理由で会社を辞めることになってしまいます。

また、自身の成長につながるスキルや能力が身につく環境に身を置くことが、将来の大きな成果につながるはずです。

では、3つ目の「自分に根付いている価値観」とはどんなものでしょうか。

これは、世の中の風潮や人の言葉に左右されることのない「自分が本当に大切にしている価値観」のことです。たとえば、人をサポートして成功に導くことに喜びを感じる人もいれば、小さなチームが大きな成果を出せるチームに成長していく過程に価値を感じる人もいます。

こうした価値観は、多くの場合、その人の過去の経験から形成されています。小さなチームが大きな成果を出すことに価値を感じる人であれば、たとえば「部活のキャプテンとして弱小チームを強化し、強豪校を破って優勝した」ことが原体験となって、そのような価値観が形成されたということもあるでしょう。

曽和:このように「自分に根付いている価値観」とは、いわばその人のライフストーリーに紐づいた価値観と言えます。

中には、はっきりとした原体験はないけれど、「ずっと以前から一貫してこういうことに価値を感じる」という人もいますが、いずれにせよ自分はどんなことに喜びを感じるのか、どんなことに価値を置いているのか、自分に根付いている価値観を認知しておくことは非常に大切なことです。

自分の価値観を認知できていないまま転職先を決めたり、報酬やポジションに惑わされて価値観に合わない仕事を選んだりすると、結局はミスマッチが生じてしまい、転職先で活躍することも、長く働き続けることも難しくなってしまうでしょう。

転職先が自分に合うか確認する方法

曽和:自分で自分の価値観に気づくのは、実はとても難しいことです。

仕事における得意・不得意や能力の特性などは、上司や同僚から指摘されることで自覚できますが、価値観については他者からはわかりません。本人しか知り得ないのです。

そこで、転職先候補の会社が自分の価値観とマッチしているかどうか確認するために、私がおすすめするのは「why」を考えることです。

「why」とは、その会社に「なぜ魅力を感じるのか」ということ。一方、その会社の「何に魅力を感じるか」が「what」です。

私が以前勤めていたリクルートでいえば、たとえば「人生の節目節目で情報提供することで、人の生き方の多様性を生み出す企業だというところに魅力を感じた」というのは「what」。そして、「多様性を生み出す」という価値になぜ魅力を感じるようになったのかが「why」です。

この「why」は、ただ理由を言えればいいというものではなく、自身の過去の経験やライフストーリーに紐づいた価値観と照らし合わせて考えるべきものです。

たとえば、「過去にこうした経験をして、こんな考え方を持っているから、この会社に魅力を感じている」とか、「自分はこれまで一貫してこういう考え方で物事を判断してきている。だからこの会社は自分に合っていると感じた」といった答えがそれに当たります。

「what」「why」の考え方 what その会社の何に魅力を感じたか why その会社になぜ魅力を感じたか 自分の価値観に紐づいたwhyがあるか? なぜ「多様性を生み出す」という価値に魅力を感じたのか (例)学生時代、多くの留学生と友人になり、その生活を知ったことで、誰もが共存できる多様性のある社会を実現したいと考えるようになったから

曽和:もちろん「what」も大切なのですが、それ以上に、過去の経験やライフストーリーに紐づいた「why」が答えられるかどうかは、とても重要な意味を持っています。

なぜその価値に魅力を感じたのか、自問自答してみてください。その結果、誰もが納得するような「why」が自分の中で見つかれば、その会社は自分に合った会社である可能性が高いと言えるでしょう。

自分と価値観が近い会社で働くということは、仕事を頑張るエネルギー源となります。企業も面接などを通して「その人の価値観が自社に合うか」を見極めようとしています。

自分の価値観を知ることは、企業とのミスマッチを防ぎ、転職を成功させるために重要な意味を持っているのです。

理想のキャリアを築くために大切なことは?

曽和:理想のキャリアを描くために、成長できる環境に身を置くことはとても大切です。

ただし、その結果、今より給料が下がってしまうことがあるかもしれません。ですが長い職業人生の中では、次の飛躍に向けて一時的にしゃがみこむことが必要な時もあります。

スキルと能力を磨いていけば、しゃがみこんだ分は後から取り返すことができます。長期的な視点でキャリアを選択していきましょう。

取材・文/藤田佳奈美(@yakou_chuu_

この記事の話を聞いた人

人事コンサルタント

曽和利光

株式会社人材研究所 代表取締役

京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート、ライフネット生命などで人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。著書に『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『日本のGPAトップ大学生たちはなぜ就活で楽勝できるのか?』(星海社、共著)など多数。

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