Yes,Noで答えて簡単判定 その給料カットは違法?それとも合法?

給与は会社と労働者の契約で決まるもの。会社の判断で一方的に減給することはできません

多くの労働問題を手がける弁護士の佐々木亮先生にお話を伺い、減給が違法か合法か簡単に判定できるチャートを作成しました。

減給の理由を確認しよう

まず、なぜ減給が行われたのかその理由を確認しましょう。減給の理由によって判定のポイントが異なるので、減給の理由別に4つの判定チャートを用意しました。

  1. 経営悪化による減給→チャートA
  2. 通常の人事異動による減給→チャートB
  3. 降格(降職)人事による減給→チャートC
  4. 懲戒処分による減給→チャートD

自分が当てはまるチャートの設問にYes,Noで答えていくと、減給が違法かどうか判定できます。

経営悪化による減給の場合(チャートA)

会社の経営が悪化し、人員整理や倒産の可能性があることを理由に減給されるケースがあります。このケースでは次のチャートAを判定してください。

チャートA:経営悪化による減給 Q1減給について労働者本人の合意を得た Q2解雇するなどと脅されて、半ば強制的に合意させられている Q3持ち帰っての検討や第三者への相談を拒否されている Q4就業規則の変更によって減給した Q5経営状態が本当に差し迫っている Q6減給幅が適切である Q7会社からの十分な説明と従業員の2分の1以上の合意がある

解説1|減給するには労働者本人の合意が必要

そもそも労働者本人の合意なしに、会社の一方的な判断で減給することはできません

中小企業などでは、経営悪化を理由に社長の一声で減給されてしまうこともあるかもしれません。しかし、それは違法です。経営の悪化を理由に減給する場合でも、減給には労働者の合意が必要なのです。

解説2|解雇するなどと脅されて半ば強制的に合意させられているなら違法

本人が減給に同意した場合でも、「減給に応じないなら解雇する」などと脅しをかけて合意を強要したような場合、その合意は無効です。あくまでも労働者本人の自由意思に基づく合意でなければ認められません。

逆に言えば、自らの意思で減給に合意して雇用契約を改定した場合は、後から無効にすることは非常に難しいので、同意するかどうかは慎重に判断してください。

解説3|持ち帰っての検討や第三者への相談を拒否されているなら違法

会社から減給の打診を受けたとき、持ち帰って検討したり、第三者へ相談したりする時間を十分に与えられないまま合意させられた場合、その合意は無効となる場合があります。

たとえ上司や経営者からすぐに返事をするよう求められても、その場で返事をする必要はありません。考えさせてほしいと伝えて検討する時間を取ってください。

解説4|就業規則の変更による減給は合法の場合もある

個別に労働者本人の同意を得ていなくても、就業規則を変更することで減給できる場合があります。ただし、その際には会社は従業員に対して十分な説明が必要です。もし従業員の2分の1以上の合意を得ている場合は、十分に説明したとされる可能性が高まります。

しかし、そもそも減給する必要性が無い場合減給幅が必要以上に大きい場合は、たとえ従業員の2分の1以上が減給に合意していても無効になることがあります。

解説5|経営状態が悪く減給が必要なことが示されていなければ違法

解説4で触れたように就業規則の変更に基づいて減給することはできますが、その場合でも、そもそも本当に経営状態が差し迫っていて、減給が経営状態の改善につながることを会社が示さなければなりません。

その事実が示されていない場合は、違法の可能性が高いと言えるでしょう。就業規則を変更しても、必要性がない減給を行うことはできないのです。

解説6 減給幅が大きすぎる場合は違法

経営状態を改善するために減給が必要な場合であっても、その減額の幅が必要以上に大きい場合無効になることがあります。

会社から十分な説明を受けて、減額幅が適正かどうか確認しましょう。

人事異動、降格人事による減給の場合(チャートB、C)

人事異動や降格人事によって減給が行われる場合があります。まず、配置転換など通常の人事異動に伴って減給が行われた場合は、下のチャートの設問Bから判定をスタートしてください。

次に、たとえば課長から係長に格下げになったなど降格人事による給与カットの場合は、設問Cから判定を開始しましょう。

チャートB・C:人事異動、降格人事による減給 B-Q1雇用契約で職種や勤務地が限定されている C-Q1就業規則で降格制度が定められている Q2就業規則で職務ごとの給与が定められている Q3人事権の濫用に当たる

解説1-B|雇用契約で職種や勤務地が限定されている場合、同意がなければ違法

通常、従業員の職務内容や勤務地の決定権は会社にあります。基本的に従業員は異動を拒否することはできません。

そのため、給与規定で職種ごとに異なる給与が決められているような場合は、規定に定められた通りの人事異動による減給は合法となる場合があります。

ただし、雇用契約において職種や勤務地が限定されている、いわゆる「限定社員」については、その範囲を超えて異動を行う場合、本人の合意が必要です。したがって、本人の同意なしに限定社員を雇用契約に定められた職種や勤務地以外へ異動させて減給することは違法です。

解説1-C|就業規則で降格制度が定められていない場合は違法

役職・職位の降格自体は、降格制度が就業規則に定められていなくて、経営者や人事の裁量で行うことができます。

ただし、降格に伴う減給は、降格制度(降格処分)と賃金額の結びつきについて就業規則に明記されていなければ無効にできます。会社から降格による減給が通告された場合は、就業規則を確認してください。

解説2|就業規則で職務ごとの給与が定められてない場合は違法

通常の人事異動であれ降格人事であれ、職務に変更がないにもかかわらず減給された場合、その減給は無効にできます。

また、就業規則で職務等級と給与の対応関係が明記されていない場合、従業員本人の同意なしでの減給はできません。

解説3|人事権の濫用に当たる場合は違法

たとえば、営業職から企画職に異動になったけれど仕事内容はこれまでと変わらないなど、職務の変更が名ばかりで、実際の職務が変わらない場合は就業規則で職務ごとの給与が定められていても減給はできません(解説2参照)。

このほか、退職勧奨を拒否したなど会社の意に沿わない言動を取ったことを理由に、制裁的な人事異動や減給を行うことは、人事権の濫用に当たるため無効です。

通常の人事異動や降格人事による減給についての法的な制限はなく、会社のルールに委ねられています。

ただし、たとえば給与の2分の1がカットされるなど、従業員本人の生活を脅かすほどの極端な減給は、合理性に欠くものとして認められません。これも人事権の濫用に該当します。

このような減給が行われた場合は、労働組合や弁護士に相談することをおすすめします。

懲戒処分による減給の場合(チャートD)

無断欠勤や遅刻・早退、職務怠慢、虚偽申告、情報漏洩、各種ハラスメントなど、服務規律に違反したことへの罰として減給されたケースについては、次のチャートのDから判定をスタートしてください。

チャートD:懲戒処分による減給 Q1就業規則で懲戒事項および懲戒による減給が定められている Q2就業規則に基づく、合理的な理由がある Q3賞与の減額または出勤停止による減給である Q41つの処分の減給額が1日の平均賃金の半額を超えている Q5複数の処分への減給の総額が月給の10分の1を超えている

解説1|就業規則で懲戒事項および懲戒による減給が定められていない場合は違法

懲戒による減給の規定が就業規則に明記されていない場合、減給されてもそれは無効です。また、就業規則に明記されている場合でも、それが従業員に公開されていなければやはり無効です。

なお、規定は法律の範囲内のものでなければ認められません。規定が法律の範囲内かどうか確認したい場合は、弁護士などの専門家に相談してください。

解説2|就業規則に基づく合理的な理由がない場合は違法

懲戒処分として減給するには2つの根拠が必要です。ひとつは上の解説1で確認した通り、就業規則に懲戒による減給の規定が明記されていること。そして、2つ目は就業規則で規定した内容に基づく服務違反が実際にあったという事実です。

その事実があったかどうか確認するために、通常は会社から弁明の機会が与えられます。事実確認があやふやな状態での減給は無効になる可能性があります。そのような状態で減給された場合は、弁護士など専門家に相談することをおすすめします。

解説3|賞与の減額または出勤停止による減給の場合

減給とは、就業規則などで定められた給与を減額することです。

一方、賞与の支給額が、その都度、会社の業績や労働者の成績査定により決定される場合は、賞与の支給額が減らされても「減給」には当たりません(業績や査定とは関係なく、支給額が就業規則で決められているなど、賞与額が一定に決まっている場合は別です)。

そのため、査定評価が悪いなどの理由で、賞与の支給額が想定より下回っていても減給には当たりません

また、出勤停止の処分を受けたことで給与が支払われなかった場合も、減給には当たりません。

一般的には、出勤停止は減給より重い処分であり、出勤停止期間中の給与は支払わないものと定めている企業がほとんどです。この場合は支払われなくても合法です。

ただし、出勤停止の懲戒処分が有効であることが前提です。合理的な理由のない懲戒処分は無効なので、もし処分を受けた場合はそれが妥当なものなのか確認してください。

解説4|1つの処分への減給額が1日の平均賃金の半額を超えている場合は違法

懲戒処分による減給は、1つの服務違反に対して1回のみで、その減給額は1日の平均賃金の2分の1以内とすることが法律で定められています。

極端な例ですが、たとえば虚偽報告により会社に500万円の損害を与えたからといって、500万円の減給を受けることはありません。

平均賃金は3カ月間の賃金の総額を、その3カ月分の日数で割った額です。仮に月給30万円で3カ月の総日数が90日なら、「90万円÷90日×1/2=5,000円」が上限額なので、5,000円を超えた金額については無効です。

解説5|複数の処分への減給の総額が月給の10分の1を超えている場合は違法

懲戒処分による減給にはもう1つルールがあり、月給の10分の1を超えた減給は禁じられています。

仮に、虚偽報告、無断欠勤、遅刻、情報漏洩、パワハラ、セクハラの合計7つの懲戒処分を受けたとします。

解説4の計算例(月給30万円の場合)にあてはめると、1つの服務違反に対する減給額の上限は5,000円でしたから、7つの懲戒処分に対する減給額の上限は「5,000円×7=3万5,000万円」になるかといえば、そうではありません。

つまり、このケースでは3万円(月給30万円×1/10)が上限になるので、それを超える減給は無効です。

違法の可能性がある場合は専門家に相談を

ここまで見てきたように、会社が従業員の給与を減額するにはさまざまな規制が設けられています。「会社の業績が悪いから」「仕事でミスしたから」という理由で、一方的に減給しようとする経営者もいると聞きますが、会社が一方的に減給することは違法です。

ここで紹介したチャートに当てはめてみて、違法な減給の可能性がある場合には、労働組合や弁護士など労働問題の専門家に相談して対処しましょう。チャートだけでは最終的な判定をすることはできません。

また、個人の力だけで労働問題を自分に有利な形で解決するのは非常に難しいので、その観点からも専門家への相談をおすすめします。

取材・文/飯野実成

この記事の話を聞いた人

佐々木 亮

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団常任幹事。ブラック企業被害対策弁護団顧問。労働問題を軸に弁護活動を行い、ブラック企業への訴訟を精力的に行っている。著書に『武器としての労働法」(KADOKAWA)がある。

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