転職支援のプロに聞く 30代で転職できる人の決定的な違い3つ
30代の転職は即戦力としてのスキルが求められるとか、マネジメント経験があったほうが有利といった話を聞くことがあります。
30代で転職を成功させるにはどんなスキルや能力が必要なのでしょうか。転職エージェントとして5000人超の相談を受けてきた山田実希憲さんに、「30代で転職できる人とできない人の決定的な違い」を聞きました。
「35歳転職限界説」はもはや都市伝説
山田実希憲さん(以下、山田):30代の転職というと「35歳転職限界説」(*)という言葉を思い出す人もいるかと思います。たしかに、以前は「35歳転職限界説」が言われることがありましたが、もはや都市伝説と言えるかもしれません。最近では30代以降でも転職の機会がつかみやすくなっていると感じます。
(*)厚生労働省が定義する若年者の年齢が34歳までであること、ミドル世代の求人数が若い世代と比べて少ないことなどから生まれた一説。
山田:終身雇用や年功序列が崩れて人材の流動性が高まる中、必要な人材を中途採用することは企業にとって合理的な選択肢のひとつになってきています。求職者としても、転職マーケットが成熟してきたことで、求人情報や企業情報に触れる機会が増え、転職先を探しやすくなりました。
その結果、30代だけでなく40代、50代の人にとっても以前に比べると転職しやすい環境になってきたと言えるでしょう。
30代で転職できる人とできない人の違い3つ
山田:とはいえ、転職が成功するかどうかは別問題です。20代であれば、素直さや柔軟性を買われて未経験の業界・職種でも転職できるチャンスは多くありますが、30代になると事情が変わってきます。
年齢は、その仕事をどれくらいやってきたかというわかりやすい目安です。そのため30代になると「これまで何をしてきたのか」「何ができるのか」が問われるようになるのです。
山田:もちろん、会社やポジションによって求められるスキルや能力は異なるので、「これができれば30代の転職は成功する」と単純に語ることはできません。ただ、私の経験上、30代で転職に成功できる人と、そうでない人には次の3つの違いがあると言えるでしょう。
〈30代で転職できる人の3つの違い〉
- 会社にどのように貢献できるか言語化できている
- 「人に語れる経験」を持っている
- 「自分の価値観」を明確にしている
それぞれどのようなことなのか具体的に説明していきます。
1.会社にどのように貢献できるか言語化できている
山田:1点目の違いは、30代で転職できる人は自分がどのように会社に貢献できるか言語化できているということです。
これまでやってきた仕事が自分の中で体系化されており、自分がどんな場面で力を発揮できるのか、どのように会社に貢献できるのかをきちんと言語化できる人が、30代の転職市場で評価される人だと言えます。
たとえば、飛び込み営業をやっていた人が「自分の強みは根性です」とアピールした場合、20代ならそれでいいかもしれませんが、30代となると転職市場で高い評価を得るのは難しいでしょう。
だからといって、「トップ営業でした」「目標は100%達成してきました」と実績ベースで語るだけでは不十分です。そもそも少ない人数の中でのトップかもしれませんし、単に目標設定が低かっただけという可能性もあるからです。
山田:そこで求められるのがスキルの体系化です。たとえば契約が取れるお客さんをどう見極めるのか、お客さんのニーズをどうやって聞き出すのか、自分のスキルと成功パターンを体系化していれば、売る商品が変わってもそのスキルは活かせますし、営業以外の仕事に応用することもできるはずです。
逆に、自分のスキルを体系化できていない人は、企業から見ると自社のどんな仕事でどのように貢献してくれるのかイメージがつきません。残念ながら、入社後に活躍する姿が想像できない人を企業が採用することはまずないでしょう。
マネジメント経験を求める企業は多い
山田:マネジメント経験についても同様です。30代以降はマネジメントスキルが必要とよく言われますし、実際、30代ならマネジメントを経験していてほしいという企業は多いというのが私の実感です。
ですが、たとえばゴリゴリの営業会社の場合、「自分が数字をあげればいい」と売ることだけに注力して、部下の面倒はほとんど見ないマネージャーもいます。
一概にマネジメント経験があると言っても、会社が求めているスタイルに合うかはわからないので、何人くらいのメンバーをどのようにマネジメントしていたのか、具体的に言語化しておくことが必要なのです。
2.「人に語れる経験」を持っている
山田:30代で転職できる人とできない人の2つ目の違いは、人に語れる経験を持っているかどうかです。
人に語れるといっても、たとえばNo.1になったとか、大きな成功を成し遂げたといった経験である必要はなく、失敗や挫折体験でもかまいません。大切なのは、仕事に真正面から取り組み、やれることをすべてやりきった経験があること。そして、その経験から何を学んだのかをしっかり言語化できることです。
それができる人は、仕事がうまくいった場合でもそうでない場合でも、なぜうまくいったのか、なぜダメだったのかをしっかり分析して次に活かせるものを得ています。
山田:一方、うまくいかないことを他人や会社のせいにする他責思考の人は、成功体験からも失敗体験からも学ぶことができません。うまくいったのは自分の力、ダメだったのは周りのせいと考えてしまうので、うまくいった要因やダメだった理由を分析することがないためです。
このような他責思考の人は転職してもうまくいきません。転職先で少しでも思うようにいかないことがあると「この会社もダメだ」と考えてしまいがちだからです。その結果、再び会社を辞めてしまうという悪循環に陥ることが多いのです。
成功する人はどんな経験も学びに変えられる
山田:30代で転職できる人は、どんな経験でも学びに変えることができる人です。成功体験を次につなげるだけなく、失敗体験についても「こういう理由で失敗したけれど、ここから学んだことを御社ではこのように活かしたい」と語ることができれば、企業側もその人が活躍する姿をイメージしやすいでしょう。
もし、そのような「人に語れる経験」や「やりきった経験」がないという人は、まずは自分のキャリアを棚卸ししてみてください。仕事に真剣に取り組んでいれば、きっとそうした経験が見つかると思います。
残念ながらそれでも思い当たる経験がないという人は、今からでも遅くありません。何かひとつでも「やりきった経験」を積むことができれば、大きな財産になるはずです。
3.自分の価値観を明確にしている
山田:30代で転職できる人とできない人の違いの3つ目は、自分の価値観を明確にしているかどうかです。
多くの人は、自分の強みやスキルを棚卸した上で「自分ができること」を軸に転職先を選ぶと思います。ただ、自分ができることだけで仕事を選んでしまうと、極端な言い方をすれば同じ業界、同じ業種の仕事しか選べなくなってしまいます。
山田:特に30代前半は自分の働き方を見つめ直すべき年代と言えます。結婚や出産を経て家族が増える人もいるでしょうし、子どもの進学や親の健康面などが気になり始める年代でもあります。また、仕事面ではマネージャーに昇格するなどポジションと責任がついてくるようになります。
ある意味で、自分の仕事だけをしていればよかった20代とは違い、30代はどのような働き方をしていくのか真剣に考えるべき年代と言えるのです。
そこで大切なのが、自分の価値観を明確にしておくことです。自分ができることだけを軸に仕事を選ぶのではなく、これから自分がどう生きていくのか、どんな仕事をしていきたいのか、やりたいことをとことん考え抜くことが30代の転職での大事なポイントです。
キャリアと同時に「感情」も棚卸しする
山田:自分の価値観を明確にするために私がおすすめしているのは、キャリアの棚卸しをするときに、「誰とどんな仕事をして、どのような結果を出したのか」という事実だけでなく、そのときに抱いた「感情」も書き出してみること。
その時にどういう感情だったのかがわかると、自分はどんな仕事をしたいのか、逆にどんな仕事をしたくないのかが見えてきます。
山田:同時に、たとえば19時には家に帰って家族と食卓を囲みたいのか、土日はしっかり休むけれど平日は多少の残業してでも仕事に打ち込みたいのかなど、どんな毎日を過ごしたいのかもイメージしてみましょう。
そうやって自分の価値観を明確にしたら、自分が本当はどういう働き方をしたいのか、その指針が見えてくるはずです。その上で、その働き方を実現するためには転職するべきなのか、転職するならどんな会社を選べばいいのか考えてみてください。それが、30代の転職を満足できるものにするための第一歩と言えます。
30代以降も活躍し続けるために
山田:転職するしないに関わらず、仕事で活躍できる人は日頃から自分を客観的に分析する癖がついている人です。
特に、仕事がうまくいったときにこそ、どうしてうまくいったかを振り返ってみてください。振り返ってみることで自分のスキルを体系化できるだけでなく、うまくいったやり方を他の仕事にも応用することで仕事の幅が広がっていきます。同時に、成功の裏側には力になってくれた人がいることにも気づくはずです。
決して一人で仕事をしているわけではないという自覚を持ち、自分のスキルを客観的に見極めることは、仕事の能力を高めるためにも転職を成功させるためにも必要なことと言えるでしょう。
取材・文/いしかわゆき(@milkprincess17)
この記事の話を聞いた人
転職エージェント
山田実希憲
Gemini Career(GEMINI Strategy Group)代表取締役CEO
1979年生まれ。法政大学卒業後、リフォーム会社を経て人材紹介会社であるJAC Recruitmentに転職。現在はジェミニキャリア(ジェミニストラテジーグループ)で経営、組織、採用に関するコンサルティング、個人の人生経営・キャリア支援を提供。累計5000名を超えるビジネスパーソンの転職相談を受ける。著書に『年収が上がる転職 下がる転職』(すばる舎)、『いずれ転職したいので、今のうちに自分の強みの見つけ方を教えてください!』(ぱる出版)がある。