5000人と面談してわかった 年収アップ転職で失敗する人の共通点

年収アップを狙って転職したものの「こんなはずじゃなかった」と、すぐにまた転職を考えることになる人がいます。

転職エージェントとして、これまで5000人超の転職相談を受けてきた山田実希憲さんに、年収アップを狙った転職で失敗する人の共通点を聞きました。

転職で年収アップできる人の割合は?

山田実希憲さん(以下、山田):厚生労働省の「令和2年転職者実態調査」によると、転職によって賃金が増加した人は全体の39.0%、減少した人は40.1%、変わらないと回答した人は20.2%でした。つまり、約60%の人は転職しても給料が上がらなかったということです。

なかなか厳しい状況に思えますが、年収アップを目的に転職した人に限定して言えば、状況は少々違ってくると思います。

なぜなら、年収アップを絶対に譲れない条件と考えている人の多くは、「今よりも高い年収が提示されなければ転職しない」というスタンスで転職活動をしているからです。そのため、基本的に転職時の年収は上がっているというのが私の実感です。

転職時の想定年収しか見ない人が陥る「落とし穴」

山田:ただし、転職時のタイミングで年収が上がっていても、本当に年収アップ転職に成功したかどうかはまだわかりません。というのも、一口に年収アップと言っても、どのタイミングで年収が上がるのか転職後の年収がどう変わるのかが重要なポイントになるからです。

たとえば、年収400万円の人が年収450万円の条件で転職した場合、転職時の年収額だけで考えれば年収アップ転職は成功したように思えます。ですが、転職先の給与制度によっては、その後もずっと年収450万円のままというケースもありますし、評価次第では逆に下がってしまうケースもあり得るのです。

仮に転職しないでいれば、5年後、10年後の年収が450万円、500万円と上がっていたとしたら、転職アップ年収は短期的には成功と言えても、生涯年収的に考えれば失敗だったということになってしまいます。

また、転職時の年収は現状維持だった場合でも、1年後、2年後と確実に年収を上げていくことができれば、年収アップ転職は成功と言えるでしょう。

山田:このように考えると、転職時のオファー年収(想定年収)だけを見ても、年収アップ転職が成功したかは判断できないことがおわかりいただけるかと思います。

にもかかわらず、年収アップ転職を考える人の圧倒的多数が転職のタイミングで年収が上がるかどうかだけしか見ていません

私の実感としては、多くの人が転職後の年収を大きく左右する給与制度や評価制度については確認せず、オファー年収だけで転職を決めてしまっているように思えてならないのです。

年収アップを狙った転職の失敗パターン2つ

山田年収アップ転職の失敗パターンは大きく2つあります。

〈年収アップを狙った転職の失敗パターン〉

  1. 一時的に年収は上がったが、その後は下がってしまった
  2. 年収は上がったものの、それ以上のデメリットがあった

パターン1|一時的に年収は上がったが、その後は下がってしまった

山田:ひとつ目の失敗パターンは、上でもお話しした通り、転職時は年収が上がったものの、そこから上がらない、もしくは逆に下がってしまうというものです。

「給料が安い」「昇給しない」といった不満を抱えている人の場合、今の年収よりも高いオファー年収を提示されると、言葉を選ばずに言えば「舞い上がってしまいがち」です。そのため、入社後の年収がどうなっていくのか、きちんと確かめることなく、目先の金額に飛びついてしまう人が少なくありません。

今は人材不足で転職マーケットは売り手市場です。採用が難しいこともあり、企業は人を採用するために少しでもオファー年収を高く見せたいと考えています。そのため、特に同業他社から転職する場合など、多少の色をつけて高めのオファー年収を提示するケースもあります。

ですが、同時に「できるだけ人を安く採用したい」というのも企業の偽らざる本音だということを忘れてはいけません。逆に言えば、年収を高く出すということは、「この人を採用したら、きっと貢献してくれるだろう」という期待値の現れだと考えるべきなのです。

山田:転職先での年収は、採用する人の直前の年収額をベースに自社の給与水準と照らし合わせながら、その人への期待値を加味して決定するのが一般的です。

業界ごと、企業ごとに給与水準は異なるので、給与水準が高い企業に転職すれば自動的に年収は上がるとも言えますが、基本的には「転職で年収が上がる=それだけの期待値が加味されている」と考えるべきでしょう。

そのため、入社後に「期待したほど貢献していない」と評価されれば、当然、年収は上がらない、もしくは下がるということが起こり得るわけです。

パターン2|年収は上がったものの、それ以上のデメリットがあった

山田:2つ目の失敗パターンは、年収は上がったものの、それ以上のデメリットがあったというものです。

たとえば、年収は上がったけれど「仕事がハードすぎて肉体的にも精神的にもきつい」とか「利益至上主義的な経営方針で仕事に誇りが持てない」といったケースです。

山田:実際に、採用面接で厳しい話を聞いていても、目の前のオファー年収に惑わされてしまったケースがありました。その会社でやっていけるかどうか不安を感じながらも、「これだけもらえるなら…」と受け入れてしまったのです。

それでも年収は上がっているわけですから、年収アップという点だけに絞って考えれば成功と言えるのかもしれません。ですが、心身ともに健康な状態で働き続けることができなければ、その年収を維持できないのは言うまでもないことでしょう。

▼「年収」や「ネームバリュー」に惑わされると…

年収アップ転職で失敗する人の共通点

山田:これまで転職相談を受けてきた経験から言えば、こうした失敗パターンに陥ってしまう人には、ある共通点があります。それは、年収のコスパを考えてしまうことです。

つまり、「これだけつらい思いをしているのに給料が安い」「この年収でこんな大変な仕事は見合わない」といったコスパ感覚、言い換えれば自分の年収に対する感情的な納得感だけで転職を考えてしまうのです。「給与=我慢の対価」と考えていると言ってもいいでしょう。

その気持ちは私にも理解できます。働いている側としては、「これだけ大変なんだからもっと払ってほしい」と考えるのはごく自然なことではないでしょうか。

山田:ただ、一方の企業にとって、給与とは社員が成果を上げ、事業に貢献したことに対して支払う対価です。はっきり言ってしまえば、その人がどれだけ大変な思いで仕事をしていても、成果が上がっていなければ、企業としては年収は現状維持、もしくは下げるしかないのです。

もちろん、成果だけでなくプロセスについても評価する企業は多くあります。それでも、年功序列で自動的に昇給していく会社でない限り、成果を出していない人の年収を上げることはしないはずです。

言うまでもないことですが、転職する・しないに関わらず、年収をアップさせるには、スキルや能力を活かして成果を上げ、会社に貢献する必要があるのです。

山田:もし年収が思うように上がらないのなら、ただ感情的に「こんなに大変なのに年収が上がらない」と不満を抱くのではなく、自分が今以上の年収を得るだけの成果を上げているかどうか、自分の仕事を客観的に見つめ直すべきでしょう。

それをしないまま転職してしまえば、残念ながら転職先でも十分な成果を上げることは難しいと言わざるを得ません。

その結果、年収はよくて現状維持、悪ければ下がってしまうという事態に陥り、「こんなはずじゃなかった」と再び転職することになりかねないのです。

転職後も年収を上げ続けるために

山田:では、年収アップ転職を成功させて、年収を上げ続けるためにはどうしたらいいのでしょうか。そのためには、次の3点を改めて確認していただきたいと思います。

〈年収を上げ続けるために確認すること3つ〉

  1. 何を叶えるために転職するのか
  2. 自分の貢献価値は何か
  3. 転職先の給与制度や評価制度はどんなものか

1|何を叶えるために転職するのか

山田:年収アップを目的に転職するといっても、年収が上がりさえすれば他の条件は何でもいいという人はまずいないはずです。

自分が転職で何を叶えたいのか、年収以外の条件についても改めて確認していただきたいと思います。目先のオファー年収に惑わされて失敗しないために、これは妥協したくないという条件を自分の中で明確にしておいてください

2|転職先の給与制度や評価制度がどんなものか

山田:繰り返しになりますが、年収アップ転職が成功したかどうかは、転職時のオファー金額だけでは判断できません。入社後の年収がどうなるのか、給与制度や評価制度についても必ず確認しておきましょう。

オファー年収は、内定が出るタイミングで提示されるのが一般的です。内定を承諾するか決断する前に、オファー面談(労働条件や業務内容の確認を行う面談)を設けてもらって、給与体系や評価の方法・基準などについてすり合わせておくことをおすすめします。

3|自分の貢献価値は何か

山田:前述したように、転職後の年収は、採用する人の直前の年収額と自社の給与水準をベースに、期待値を加味して決定します。つまり、転職で年収アップを実現するには、採用側である企業に高い期待値を持ってもらわなければならないということです。

そして、企業に高い期待値を持ってもらうためには、「自分にはどんなスキル・能力があり、会社にどのように貢献できるのか」ということ、つまり自分の貢献価値を明確に伝えることが必要なのです。

山田:そのためには、これまでやってきた仕事を棚卸しして、自分が持っているポータブルスキル、つまり転職で会社や仕事内容が変わっても活かせるスキルや能力を言語化しておきましょう。

同時に、目の前の仕事に全力で取り組み、ひとつでもいいので人に語れる経験を持っておくことが大切です。

人に語れる経験というと何か大きな成功体験を想像するかもしれませんが、失敗や挫折体験でもかまいません。大切なのはそこから何を学び、転職先でその体験をどう活かしたいかといったことを自分の言葉で語れるようにしておくことです。

たとえ失敗経験であろうと、仕事に全力で取り組んでいれば、そこから何かしら次に活かせる学びや教訓を得られるはずです。そのような「人に語れる体験」を積み重ねていくことが、自らの貢献価値を高め、年収アップ転職を実現するための大きな財産になはずです。

取材・文/盛田栄一

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この記事の話を聞いた人

転職エージェント

山田実希憲

Gemini Career(GEMINI Strategy Group)代表取締役CEO

1979年生まれ。法政大学卒業後、リフォーム会社を経て人材紹介会社であるJAC Recruitmentに転職。現在はジェミニキャリア(ジェミニストラテジーグループ)で経営、組織、採用に関するコンサルティング、個人の人生経営・キャリア支援を提供。累計5000名を超えるビジネスパーソンの転職相談を受ける。著書に『年収が上がる転職 下がる転職』(すばる舎)、『いずれ転職したいので、今のうちに自分の強みの見つけ方を教えてください!』(ぱる出版)がある。

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