「退職してくれ」と言われたら? 40代から会社を辞めていい人・ダメな人

もし「会社を辞めてほしい」と言われたら、とどまるべきでしょうか、それとも新しい職場を探すべきでしょうか。

ミドル・シニア世代のためのキャリア相談特化型サービスを運営するルーセントドアーズ代表の黒田真行さんに、ミドル・シニアの転職事情アドバイスをお聞きしました。

「退職してほしい」と言われたら辞めるべき?残るべき?

――もし会社から「辞めてほしい」と言われたら、会社にとどまるべきか辞めて新しい職場を探すべきか悩む人は多いと思います。どのように判断したらいいのでしょうか。

黒田真行さん(以下、黒田):残念ながら、こういう人は辞めるべき、こういう人は辞めないほうがいいというように一般論として答えることはできません

そもそも置かれている状況が一人ひとり違うので、万人に共通するアドバイスなどありませんし、まして第三者が「辞めるべきだ」とか「こうしたほうがいい」などということはできません。退職するか会社にとどまるかは自分で決めるしかないのです。

とはいえ、「会社から名指しで退職を勧奨される」というのは尋常ではない状況ですし、その後、大きく関係性が改善するとも考えにくいので、ほとんどの人が次のステップについて検討を開始することになるのは当然のことだと思います。

黒田:しかし、当然ながら転職市場は決して甘くありません。多くの企業では、年齢が上がれば上がるほど、ポジションに付ける人が少なくなるピラミッド型組織になっています。そのため、中途採用で募集されるのは現場のプレイヤーである場合が多く、体力もあって頭も柔らかい若手の人材を求めるケースが圧倒的多数を占めるのです。

特に45歳を過ぎると、転職活動は長期戦を覚悟する必要があります。転職相談で会う人の中には、「1年間で100社に応募しても面接まで進めたのは2、3社」という人がめずらしくありません。

たとえば、以前、転職相談にいらしたAさん(50歳)は老舗百貨店で海外店舗の立ち上げ、拡大を担った実績を持つ人ですが、海外店舗の閉鎖を機に退職、転職活動を開始したものの1年以上経ってもまだ次の職場は決まっていません

辞めたほうがいいとか残ったほうがいいということは言えませんが、会社を辞めてしまえば次が決まるまで何年かかるかわからないようなケースでは、「会社を辞める前に転職先を探したほうがいいのではないか?」と提案することがあります。

2年間で200社に応募。それでも採用されない人も

――厳しい現実を前にして、途方に暮れる人が多いのではないでしょうか。

黒田:むしろ逆です。特に転職経験がなく、大手企業で長く働いてきた人は転職市場の実情を知らないので、活動開始時点では、途方に暮れるどころか「大企業にいた自分には多くの引き合いがあるはずだ」と自信満々なケースも多いというのが私の実感です。

たとえば、大企業で部長職に就いていたような人の中には、当たり前のように「前職の年収は1500万円だったが、中小企業に転職するなら年収1000万円でもいい」などと言う人もいます。中小企業では社長が年収800万円という会社もあるわけですから、実情を知ってしまった転職経験者からすれば「本気ですか?」という話になってしまいます。

それだけでなく、たとえば年収700万円で中小企業の課長職のオファーがあっても、「自分は年収1500万円だった」というプライドから断ってしまうなど、自分から案件をつぶしてしまうこともあるのです。

――そういった自信満々な人の転職活動はどのようなものになるのでしょうか。

黒田:たとえば2〜3年間で200社くらいに応募しても採用されないといったことが多いですね。厳しい現実を前に、最初は「年収1000万円くらいで管理職に」と言っていた人でも、最終的には「年収はいくらでもいいから雇用にありつきたい」「とにかく仕事にありつきたい」と考えるようになるケースもあります。

「35歳転職限界説はなくなった」と言われることが増えましたが、実際にはアルバイトで糊口(ここう)をしのいだり、希望とはかけ離れた転職を余儀なくされたりする人も少なくありません。元大手メーカーの営業部長が全く経験のない工場で軽作業のアルバイトをしたり、元地方銀行の営業課長が介護送迎車のドライバー職にやっと採用されたりといった例は多いですね。

40歳を超えても転職市場で評価される人とは?

――逆に、年齢にかかわらず転職市場で評価される人、需要がある人はどんな人なのでしょうか。

黒田高い専門性を持った人高い成果を出せる人は需要があります。たとえば、海外の法務に詳しい、ICT(情報通信技術)に精通しているといったスペシャリティーがある人です。

そうした人材であれば年齢に関係なく、海外進出のために海外法務責任者を求めている企業、ICT分野の新規事業開拓のためプロジェクトマネジャーやITエンジニアを求めている企業などに採用される可能性があります。

黒田:ただ、そういった高い専門性を持った人は企業に雇用されなくても、個人事業主として独立する、起業するといった選択肢もありますね。

厳しい言い方になりますが、40歳、45歳を過ぎて企業に雇用されるしか生きる道がないという人にとっては、転職市場は非常に冷たいと言わざるをえないでしょう。

40歳以降も転職に成功できる人の共通点5つ

――現実は厳しいですが、それでも転職せざるを得ない状況に追い込まれてしまう人もいると思うので…。

黒田:その人にどんな可能性があるかは、その人自身の力量やスタンス、年齢によって様々です。ただ、年齢に関わらず「今さら別の業界でチャレンジするなんて無理だ」「今までの経験を捨てるなんてもったいない」「成果を出すために、これまでと同じ仕事がいい」といった思い込みを取り去ることができるかどうかは大きなポイントと言えるでしょう。

黒田:たとえば「この年になってプログラミングなんて勉強できない」と考えるのか、「今からでも求められる技術を身につけよう」と考えるのか、それは本人次第です。どちらがいい悪いではなく、あくまでも本人が決めること。

ただ、40歳以降も満足度の高い転職を実現している人に共通している特徴の一つとして、「自分の経験やスキルにこだわらず、新しいことにも積極的に挑戦できる」ことがあげられるのは、私の経験上、間違いないと思います。以下に、40歳以降も転職に成功できる人の共通点をまとめておくので参考になさってください。

〈40歳以降も転職に成功できる人の共通点〉

  1. 役職、年収にこだわらず、役割の重さや裁量の自由度を重視する
  2. 自分の経験やスキルにこだわらず、新しいことにも積極的に挑戦できる
  3. 企業に安定を期待するより先に、自分がどう貢献できるかを考える
  4. 経験や年齢を超えた人的交流を活発にしている
  5. 1〜2年という短期ではなく、5年、10年の長期でキャリアを考える

常に5年先、10年先を考えて行動する習慣を

――上にあげていただいた点は、年齢にかかわらずすべての人が意識したいことですね。

黒田:若手だろうとミドルだろうと、常に5年先、10年先を見越して、先手を打って自分がどう動くかを考える習慣をつけることは特に大切だと思います。

退職勧奨に話を戻せば、黒字で忙しく人手が足りないのに人を辞めさせる会社はまずないので、背景には業績不振で会社の存続に赤信号が灯っていることが考えられるでしょう。だとしたら、そのまま会社に残ってもジリ貧になっていく可能性は否めません。

自分の会社の先行きがどうなのか、中にいればある程度はわかるはずです。であれば、退職勧奨されようがされまいが、会社の先行きを見越して自分はどうすべきか先行きがない会社なら、いつまでその会社にいるのかといったことは自分で考えなければならなかったはず。

それにもかかわらず、退職勧奨が始まるまで会社に残っていたこと自体、自分の身の振り方を考えるタイミングが遅かったのではないかと考えざるを得ないでしょう

黒田:「転職するかどうかもっと早く判断できたのではないか」「こうなることを予測できなかったのか」と自問自答して、なぜ今の状況に陥ってしまったのかを考えてみてください。自分に何が足りなかったのか把握しておかないと、たとえ転職できたとしても同じことが繰り返されるおそれがあるからです。

その上で、自分が5年後、10年後にどのように働いていたいかを考え、そこに近づくためにどんなことでもいいので具体的な行動を起こしていただきたいと思います。

新たな活躍の場をつかみ取るために

――最後に、新しい一歩を踏み出そうとしている人を勇気づけられるようなお話をいただけないでしょうか。

黒田:事例をひとつご紹介しましょう。役職定年を前に、業績が急激に悪化した会社を退職したBさん(54歳)も、転職活動で苦汁をなめた一人です。新卒で一部上場企業に入社し、社内でもそれなりの地位にあったBさんは、当初はすぐに次の勤務先が決まるはずと考えていたそうです。

ですが、実際に転職先が決まったのは2年後のこと。年齢の壁を突破して面接までたどり着いたのは2年間で7社あり、その7社目で採用が決まりました。

黒田:採用が決まるまでの2年間はつらく厳しいものだったそうですが、Bさんによると、「自分は何者で何をしてきたのか。自分ができることは何なのか」といったことを徹底的に見直す機会になったそうです。これは「2年間の苦難を補ってありあまるものになった」とBさんは教えてくれました。

最後にもう一つ、Bさんの言葉をお伝えして厳しい現実と向き合う読者のみなさんへのエールとしたいと思います。

「ひたすら自分を信じて行動していけば、思いがけない形で人の縁はやってきます。少なくとも私はそのようにしてもたらされた人の縁によって、新たな活動の場が与えられました。ぜひ今の同僚や取引先、友人、後輩など、1人でも多くの関係者とのご縁を大切に育てておいてほしいと思います。もし、想定外の未来がやってきたとしても耐えられるよう、皆さんそれぞれのやり方で備えをしておくことをおすすめします」

取材・文/盛田栄一

この記事の話を聞いた人

ルーセントドアーズ代表取締役

黒田真行

1988 年、リクルート入社。2006〜13年まで転職サイト「リクナビNEXT」編集長。2014年ルーセントドアーズを設立。35歳からの転職支援サービス「Career Release40」、ミドル・シニア世代のためのキャリア相談特化型サービス「CanWill」を運営している。著書に『35際からの後悔しない転職ノート』(大和書房)など。

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