転職支援のプロに聞く 次を決めずに辞めていい人・ダメな人

「今すぐにでも会社を辞めたい」「もっと自分に合う仕事を見つけたい」と思っても、ほとんどの人は、転職先を決めずに辞めることに不安を感じるはず。

転職先を決めずに辞めていいのはどのような人で、理想の仕事を見つけるにはどうしたらいいのでしょうか。キャリアアドバイザーとして5000人超の転職相談を受けてきた山田実希憲さんにお話を伺いました。

Q.転職先を決めずに辞めていい人・ダメな人の違いとは?

山田実希憲さん(以下、山田):転職先を決めずに「すぐに辞めたい」という人に対しては、「いったん待ってください」とお願いしています。詳しい理由は後でご説明しますが、転職が必ずしも不満や課題を解決してくれるわけではないからです。

ただ、すぐに会社を辞めざるを得ない事情がある人転職先が見つかるまで待てない事情がある人の場合は話が違います。

たとえば、健康面の問題から仕事を続けられない人ブラック企業で働いていて精神的、肉体的に限界を感じている人などは、次が決まっていなくてもできるだけ早く退職することをおすすめします。

逆にそれ以外の人、たとえば仕事や待遇、人間関係に対する不満から「もう辞めたい」と衝動的に退職を考えている人は、繰り返しになりますが、いったん立ち止まって考える時間を持ちましょう。

Q.転職先が決まってなくても辞めていいケースを教えてください

山田転職先が決まっていなくても退職していいケースとして、次の3つがあげられます。

転職先が決まらなくても辞めていい3つのケース ケース1:長時間労働、パワハラなどで精神的・肉体的に限界を感じている ケース2:会社の経営状態が悪く給与の未払いが続くなど、金銭的に限界を感じている ケース3:業務でコンプライアンス的に問題ある内容を命じられ、法的なリスクを感じている

このようなケースでは、転職先を決める前に、速やかに退職することをおすすめします。生活そのものが成り立たなくなってしまいますし、違法行為に関われば経歴にキズがついて再就職が難しくなってしまうからです。

たとえば、最近相談を受けたAさんは、いわゆるブラック企業の経理担当者でした。サービス残業が当たり前で、帰宅時間は連日深夜。転職活動をしようにも拘束時間が長すぎて、何もできない状態でした。しかも、経理上のグレーな処理を行うよう命じられたそうです。

耐えきれなくなったAさんが退職を申し入れたところ、「人が足りないのに辞められたら困る」と話を聞いてもらえませんでした。それどころか社長に呼び出され、退職の意思を撤回するまで会議室で6時間も軟禁状態にされたそうです。

精神的に追い詰められて冷静な判断力を失いかけていたAさんですが、私との面談で退職の意思を再確認し、会社に退職届を出して転職活動を始めました。現在は新しい勤務先で経理担当として活躍しています。

Aさんのように、パワハラや退職妨害によって正常な判断力を失ってしまう人もいます。ただ、精神的に追い詰められていたり、ブラック企業でマインドコントロールされたりしている状態だと、自分で自分の状態に気づくのは難しいことです。

体調に異変を感じたり、家族や友人から「いつもと違う」「様子がおかしい」と指摘されたりした場合は、自分がどんな状況にあるのか第三者に話して客観的な意見をもらいましょう。場合によっては、労働基準監督署弁護士といった専門的な窓口に相談できることも知っておいてください。

Q.転職先を決めずに辞めてはダメな人とは?

山田:最初にお伝えしたように、すぐにでも会社を辞めたほうがいい事情がある人以外は、「すぐに会社を辞めたい」といわれても、いったん待ってもらっています。

つまり、基本的には転職先を決めずに会社を辞めてはダメということです。大事なことなので繰り返しますが、転職が不満や課題を解決してくれるとは限りませんし、次の会社を決めずに退職してしまうと、結果として転職が失敗するケースが多いからです。

Q.次を決めずに辞めると転職が失敗する理由とは?

山田次の会社を決めずに退職すると転職が失敗する理由としては、主に次の3つがあげられます。それぞれご説明していきましょう。

次を決めずに辞めると転職が失敗に終わる3つの理由 理由1:自分を客観視できていない 理由2:冷静な判断ができなくなってしまう 理由3:綺語から「計画性のない人」「すぐ会社を辞める人」と評価されてしまう

理由(1)|自分を客観視できていない

山田:私の経験上、何か嫌なことがあったり、不満を感じたりした時に衝動的に会社を辞めてしまう人の中には、自分を客観視できていない人が多いようです。

少し厳しい言い方になりますが、第三者から見るとその人自身に原因があるのに、「この会社では自分の力を発揮できない」「上司が正しく評価してくれない」などと、うまくいかないことを外的な要因のせいにしているのです。

たとえば、自分の評価が低いことに不満を感じた時、「評価しない会社が悪い」と決めつけるのは簡単です。ですが、「なぜ評価されなかったのか」「今の会社で評価されるには何が必要なのか」という視点から、自分に問題はなかったか、改善できる点はないのかと振り返ることをせずに会社を辞めても何の解決にもなりません。

たしかに評価基準があいまいな会社は存在します。でも、その人自身にも問題があった場合、本人がそのことに気づかなければ、新しい職場でも同じことの繰り返しになってしまうでしょう。

また、自分の市場価値や能力を実際よりも高く見積もってしまっている人も、自分を客観視できていないと言えます。そのような人の中にも、「辞めても何とかなる」「この会社は自分がいるべき場所ではない」と衝動的に会社を辞めてしまう人がいます。

自分を客観視できていなければ、思うように転職活動を進めることはできません。辞めてしまった後に、「こんなはずじゃなかった」と後悔することになる典型例と言えるでしょう。

理由(2)|冷静な判断ができなくなってしまう

山田:転職を考えるきっかけは、何かに「不満を感じたから」という場合がほとんどです。その不満を掘り下げ、なぜ不満を感じたのかその不満は転職によって解消されるのか冷静に判断しなければ、転職を成功させることはできません。

ですが、一時の感情に引っ張られて、「とにかく辞めたい」と今の会社を辞めることが最優先になってしまうと、そのような冷静な判断ができません

しかも実際に退職してしまえば、「明日の生活はどうしよう」「早く次の仕事を決めなければ」焦りが出てしまいます。そして、その焦りがさらに判断力を鈍らせます

その結果、「少しくらい給料が安くてもしかたない」「体力的にきつい仕事でもしかたない」と妥協してしまえばどうなるでしょうか。

転職先とのミスマッチに耐えられなくなって、こんなはずではなかったと再び転職活動を始めることになりかねません

理由(3)|「計画性のない人」と評価されてしまう

山田:採用する側の企業は、次を決めずに退職してしまう人を「転職先を決めずに辞めた計画性のない人」「うちに入ってもすぐ辞めてしまうのでは」と評価することがあります。

正当な理由があれば別ですが、会社からそのように評価されてしまうと、大きなマイナスです。転職活動が不利な状況に陥ってしまうのは言うまでもありません。

Q.「辞めたい」と思ったらまずやるべきことは何ですか?

山田:「会社を辞めたい」とを感じたら、まず「なぜ辞めたいと思ったのか?そのような状況になってしまった原因は何なのか」と自分に問いかけ、内省することです。

内省とは、起こった出来事を客観的に振り返り、自分自身について見つめ直すこと。辞めたいと感じた理由は何か、自分に原因はなかったかを客観的に振り返ることで、本当に退職すべきか冷静に考えられるでしょう。

たとえば、「この会社では正当に評価されない」と不満に思っているのなら、なぜ自分は評価されないのか、自分に問題はなかったか、自分自身を振り返る必要があります。

仮に「スキルは高いけれどコミュニケーションが取りづらい」という評価を受けているのであれば、その評価をいったん受け入れて、周囲への協調姿勢を見せるなど、改善に取り組むことが必要です。

そうすることで、今の会社での評価が高まり、転職しなくても活躍の幅を広げることができるかもしれません。仮に「やはり転職する」と決意したと場合でも、転職市場で高い評価を得られるはずです。

Q.自分に合った会社・仕事を見つける方法はありますか?

山田:自分に合った会社・仕事に就くためには、自分の仕事に対する価値観やスキル・能力を客観的に見つめ直すことが大切です。

キャリアの棚卸しを行って、自分が持っている「仕事に対する価値観」「強み」を把握しておきましょう。

仕事に対する価値観を知る方法

山田:まず自分の価値観を知る方法ですが、これまでの仕事を振り返って、自分は「どんな時に達成感や喜びを感じるのか」「どんな状態だと力を発揮できるのか」を把握しましょう。

たとえば、指導した後輩が成果を上げたことに強い達成感や喜びを感じるなら、成長をサポートすることに価値を感じる人と言えます。また、自分の仕事で喜ぶ人の顔を見るのが何よりも嬉しいという人であれば、ユーザーの反応をダイレクトに感じられる仕事で力を発揮できるかもしれません。

自分がどんなことに価値を感じているかがわかれば、自分がやりたいことや自分に向いていることが見えてきます。逆に、自分がやりたくないことを把握しておくことも大切です。自分の価値観に合った会社や仕事を選ぶためには、やりたくないことを避けることも必要だからです。

自分の強みを確認する方法

山田:自分の強みは何なのか、自分のスキルや能力が他の業界や会社でも応用できるものかを知るには、自分の仕事の進め方を振り返って体系化しておくことが有効です。

たとえば営業職なら、どうやって見込み客の情報を獲得しているか、どのように成約に持ち込むのか、自分が実践しているやり方を整理してまとめてみましょう。

自分の仕事の進め方を体系化できたら、異業種で働く友人や転職した先輩など、社外の人、異業種の人からの評価を聞いてみることです。転職活動を視野に入れているのなら、転職エージェントに評価してもらうのもいいでしょう。

自分の仕事の進め方やスキルが、他の会社、他の業界でも使えるものであれば、それがどこに行っても通用する自分の強み・能力となります。

自分の強みがわかれば、今の会社で「自分のこうしたスキルを活かして、こんな業務で成果を上げたい」とアピールすることもできますし、転職の際に自分のアピールポイントを明確に伝えられます。

Q.理想の転職を実現するために今日からできることを教えてください

山田:理想の転職を実現するには、日常的に日々の仕事を振り返り自分の価値観や強みを把握しておくことが大切です。転職活動を始めてから、キャリアの棚卸しに取りかかるようでは遅いです。

これまでキャリアの棚卸しをしたことがないという人は、まずメモを取ることから始めてみましょう。自分の仕事の進め方や、仕事で嬉しかったこと、苦しかったことを書き留めておくのです。

そうすることで、自分はどんな仕事が好きなのか仕事で成長するためにどんな能力を身につける必要があるのかが見えてきます。

転職を成功させるためだけでなく、自分自身の成長のために、日々の仕事の振り返りをおすすめします。

取材・文/鈴木雅矩(@haresoratabiya1

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この記事の話を聞いた人

転職エージェント

山田実希憲

Gemini Career(GEMINI Strategy Group)代表取締役CEO

1979年生まれ。法政大学卒業後、リフォーム会社を経て人材紹介会社であるJAC Recruitmentに転職。現在はジェミニキャリア(ジェミニストラテジーグループ)で経営、組織、採用に関するコンサルティング、個人の人生経営・キャリア支援を提供。累計5000名を超えるビジネスパーソンの転職相談を受ける。著書に『年収が上がる転職 下がる転職』(すばる舎)、『いずれ転職したいので、今のうちに自分の強みの見つけ方を教えてください!』(ぱる出版)がある。

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