知らなきゃマズい会社の本音 「出世したくない社員」はいらない
「出世に興味がない」「出世しても苦労と責任が増えるだけ」。
こんなふうに考える人が今増えているようです。ですが、「そのような思考のままだと、いずれ会社から不要な人材という烙印を押されてしまうと、人事のプロ・西尾太さんは言います。
なぜ「出世したくない」思考が危険なのか、その理由を聞きました。
【会社の本音】出世したくない社員はいらない
最近、「出世したくない」「出世に関心がない」という人が増えているようです。
「給料が上がらないのに責任だけ重くなるのは嫌」「仕事が増えてプライベートの時間が取れなくなってしまう」…。
このような気持ちから出世したくないと考える人がいるのは、私にも理解できます。でも、会社は「出世したくない社員」をどう思っているのでしょうか。
いきなり厳しいことを言うようですが、「出世したくない社員はいらない」というのが会社の偽らざる本音です。なぜなら、「出世意欲がない人」は「成長意欲がない人」と見なされてしまうからです。
言うまでもなく、会社の目的は事業を大きくして利益を最大化していくこと、つまり成長していくことです。そして、社員の成長が会社の成長につながると考えています。そのため、会社は「成長意欲がない人」を一番嫌がるのです。
出世したくない人が抱える3つのリスク
会社が「成長意欲がない人はいらない」と考える以上、そこで働く人が「出世したくない」という考え方を持つことはリスクとなるでしょう。具体的には、大きく次の3つのリスクが考えられます。
このようなことを言うと、中には「管理職、マネージャーになりたくないだけで成長意欲がないわけじゃない」という人もいるかもしれません。
ですが、考えてみてください。仕事で成長すれば高い成果を出せるようになります。そうなれば、その人に「より高いポジションで事業拡大に貢献してほしい」と会社が考えるのは当然のことでしょう。
それなのに「出世したくない」「現状維持でいい」と言うのであれば、やはり会社にとっては「扱いにくい人」という評価になってしまいます。
いずれにせよ、会社という組織の中で働く上で、「出世したくない」という思考を持つことは大きなマイナスとなりかねないことなのです。
リスク1|給料は現状維持どころか下がっていく
出世したくない人が抱えるリスクの1つ目は、給料は現状維持どころか下がってしまう可能性が高いということです。
出世したくない人の中には、「給料に見合う分だけ働けばいい」「どうせ給料は頭打ちだから頑張っても無駄」と考えている人もいるかもしれません。
ですが、そのような考え方でいると給料は下がっていくリスクが高いと言えるでしょう。
かつて主流だった年功序列型の賃金制度であれば、高い成果を上げなくとも給料が上がっていきました。
しかし時代は変わり、今は多くの企業で成果・貢献度に応じた給料を支払う時価払い型の賃金制度への移行が進んでいます。年齢が上がれば給料も上がるという時代は終わったのです。
会社が評価するのは「給料以上の成果を出せる人」。具体的に言えば、25万円の給料で30万円分の働きをしてくれるような人です。
そして、実際にそうした働きを続けていれば、ブラック企業でない限り、会社は「成果を出しているから昇給させよう」と考えるはずです。
一方、「給料に見合う分だけ働けばいい」というのは、25万円の給料で25万円分の働きをすればいいという考え方です。
一見、合理的に思えるかもしれませんが、周りが成長して高い成果を上げるようになっていく中で、そのような考え方で仕事をしていたらどうなるでしょうか。
おそらく、「いつまでも成長しない人」「成果を上げられない人」と見られてしまうでしょう。そうなれば、マイナス評価となって給料を下げられてしまうことになるのです。
▼正しい評価を受けるために…
リスク2|会社の中に居場所がなくなる
2つ目は、会社の中で居場所がなくなってしまうリスクです。
出世したくないといっても、自分が40代、50代になった時に、いわゆる平社員のまま若い人と同じ立場になっても平気でいられますか?
それだけではありません。自分より年下の社員が出世して上司となり、「扱いづらい年上の部下」「職場のお荷物社員」として見られてしまう可能性もあります。
以前私が勤めていた会社では、人事異動の季節になるとそうした「職場のお荷物社員」のリストを前に、人事のメンバーが頭を抱えていました。
今いる部署の上司からは「○○さんを異動させてほしい」と言われ、異動先候補の部署からは「○○さんに来られても困る」と断られてしまう。つまり、社内にその人を受け入れてくれる場所がないのです。
そして残念なことなのですが、そういう人たちは、地方のグループ会社に飛ばされる、リストラの対象として名前があがる…といった不幸な末路を迎えることになります。
もちろん、出世して管理職になることだけがすべてではありません。専門性を高めて、専門職としてキャリアを切り拓く道もあります。
しかし、それにも相応の努力が必要です。成長意欲のない人には厳しい道だと言わざるを得ないでしょう。
リスク3|転職できなくなる
3つ目は、転職できなくなるリスクです。
20代のうちは求人数も多く、スキルや経験よりも人柄や素養、潜在能力を評価するポテンシャル採用なので、転職はそう難しくありません。
ですが、30代半ばを過ぎて40代以降になると、専門性やマネジメント経験が問われるようになります。つまり、高い専門性を持つ人か、マネジメント能力に長けた人でなければ転職市場で評価されなくなってしまうのです。
さらに、年齢とともに求人数も少なくなりますし、これまでに積んだ経験や実績がシビアに評価されて、入社後に活躍する姿が明確にイメージできない人は採用されなくなります。
そう考えると、「給料に見合った仕事だけしてればいい」「言われたことだけやればいい」という思考で仕事をしてきた人が、30代後半とか40代になって転職できるかといえば、それは難しいでしょう。
もちろん、条件を選ばなければ転職すること自体は可能だと思います。ですが、それでも就ける仕事はかなり限られてしまうと思います。
会社には居場所がない、希望通りの転職もできないとなると、経済的にもかなり厳しい状況に陥ることになってしまうのではないでしょうか。
▼「転職できる」「できない」を分けるのは?
危機感と成長意欲がなければ生き残れない
厳しいことをお伝えしてきましたが、「出世したくない」という思考のまま働き続けることのリスクをご理解いただけたでしょうか。
たしかに、出世すれば責任は重くなって仕事量も増えていきますが、悪いことばかりではありません。
まず、会社にもよりますが、多少なりとも給料が上がることでしょう。
そして、会社の中でのポジションが上がれば、自分の裁量で決められることが増えていきます。つまり、自分の仕事を自分でコントロールできるようになるので、仕事量が増えても、仕事自体は格段にやりやすくなるはずなのです。
もちろん、出世は自分の意思だけでできるものではありません。
ですが、出世を目指すくらいのつもりで成長意欲と危機感を持って働くことが、会社のためだけでなく、何よりも自分のためになるということを知っておいていただきたいと思います。
取材・文/藤田佳奈美(@yakou_chuu_)
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この記事の話を聞いた人
人事コンサルタント
西尾太
フォー・ノーツ株式会社
フォー・ノーツ株式会社代表取締役社長。「人事の学校」主宰。いすゞ自動車、リクルートを経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブにて人事部長、クリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。著書に『人事の超プロが明かすアフターコロナの年収基準』(アルファポリス)、『超ジョブ型人事革命 自分のジョブディスクリプションを自分で書けない社員はいらない』(日経BP)などがある。