もらえる報酬や選ばれる基準も解説 社外取締役とは?

ニュースなどで目にする機会がある「社外取締役」という言葉。会社の経営者ということは知っていても、実際に何をする役職なのかわからないという方も多いのではないでしょうか。

この記事では社外取締役の仕事内容やもらえる報酬なるための要件を解説します。

社外取締役とは?

まずは「社外取締役」という言葉の意味を理解しておきましょう。

役割や仕事内容、どのような人がなれるのかも解説します。

社外取締役の役割は「第三者視点による経営のチェック」

社外取締役は株式会社の役員のうち、第三者の目線から経営を監督し、客観的な立場で経営判断を行う人のことです。その会社と取引や資本関係のない人が務めます。

日本の株式会社では社内から昇進してきた人が取締役に就くケースが多く、上下関係や慣れ親しんだ関係が原因で役員同士の監視機能が働きづらい傾向があります。

そのため、会社とは関係のない社外取締役が経営を監督することで不正行為を防ぎ、経営の透明性を高める役割を担っています。

そもそも「取締役」ってなに?

取締役とは株式会社の経営者を指し、主な仕事は取締役が集まる取締役会で会社の経営方針を決めることです。

取締役は法律で設置することが義務づけられており、会社の株主が集まる株主総会で選任されます。取締役の中には、会長や社長、専務、常務といった肩書をもつ役職者もいます。

社外取締役の仕事は社内取締役とほぼ同じ

社外取締役と社内取締役の仕事内容は一緒です。しかし、社外取締役には社内取締役とは異なる視点からの意見が求められます。

取締役の主な仕事は、取締役会や株主総会などの会議に出席することです。加えて、社外取締役には客観的な立場でほかの取締役を監督し、適切なアドバイスを行うことが期待されます。

特に以下のような場面では社内の取締役だけでは合理的な判断ができないため、社外取締役の働きが重要になります。

  • 創業者と経営者の間で会社の経営を巡って紛争が起こった
  • M&Aを巡って株主と対立している
  • 粉飾決算や偽装などの不祥事の兆候がある

社外取締役になれる人の条件

社外取締役になるには、その会社と利害関係がないことが条件となります。

例えば、取締役の家族や親会社の取締役を社外取締役にすることはできません

会社法2条15号では社外取締役になれる人の要件が細かく定められています。要件については、以下で簡単に紹介します。

  • 過去10年間、その会社や子会社の業務執行取締役等になっていないこと
  • 過去10年間、その会社や子会社の取締役・会計参与・監査役(業務執行取締役等を除く)になったことがある場合は、取締役・会計参与・監査役に就任する前の10年間、その会社や子会社の業務執行取締役等になっていないこと
  • 親会社等の取締役や従業員でないこと
  • 同じ親会社をもつ会社(兄弟会社)の業務執行取締役でないこと
  • その会社の取締役や重要な従業員の配偶者や二親等内の親族でないこと

※参考:
法務省「社外外取締役及び社外監査役の要件等の改正について」
法務省「会社法の一部を改正する法律について」

経営経験者が理想

社外取締役には、経営経験がある人が選ばれることが多いです。経営を監視する役割を果たすためには、利害関係の有無だけでなく経営に関する知識や経験も問われます

そのため優秀な経営者がほかの企業の社外取締役も兼任するケースも多く見られます。

例えば「ユニクロ」などを傘下に持つ株式会社ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長の柳井正氏は、日本ベンチャーキャピタル株式会社の社外取締役も務めています(2023年5月現在)。

また会社の課題によっては、会計士や弁護士、学者などの専門知識を持つ人が社外取締役に選任されるケースもあります。

コラム:社外取締役はどうやって決まる?

社外取締役は経営陣であらかじめ候補者を立て、株主総会で選任されます。

経営者の人脈から依頼することが多いですが、利害関係者は社外取締役になれないという制約があるため、経営に関する知識を持つ顧問を紹介するマッチングサービスやハイクラス向けの転職エージェントを利用して募集することもあります。

会社法改正によって設置する企業が増加

会社の関係者が取締役を務めることが多かった日本で、社外取締役の設置が増えた背景には2014年の会社法改正があります。

それまでは社外取締役を置くかどうかは各社に委ねられていましたが、この改正によって一定の要件を満たす上場会社などが社外取締役を選任しない場合はその理由を株主総会で説明しなければならなくなりました

また金融庁と東京証券取引所がまとめた「コーポレートガバナンス・コード」には、プライム市場上場企業は利害関係からの独立性基準を満たす独立社外取締役を取締役のうち少なくとも3分の1以上、それ以外の市場の上場企業は2名以上選任すべきと記載されています。

2021年には、東証一部上場企業で3分の1以上を独立社外取締役に選任した会社の割合は70%を越えました。翌年2022年の市場再編により、東証一部上場に代わるプライム市場では92.1%となっています

【3分の1以上の独立社外取締役を専任する上場企業(プライム市場)の比率推移】市場第一部/2014年/6.4%|市場第一部/2015年/12.2%|市場第一部/2016年/22.7%|市場第一部/2017年/27.2%|市場第一部/2018年/33.6%|市場第一部/2019年/43.6%|市場第一部/2020年/58.7%|市場第一部/2021年/72.8%|プライム市場/2022年/92.1%|JPX日経400/2022年/95.0%

【2名以上の独立社外取締役を専任する上場企業(プライム市場)の比率推移】市場第一部/2014年/21.5%|市場第一部/2015年/48.4%|市場第一部/2016年/79.7%|市場第一部/2017年/88.0%|市場第一部/2018年/91.3%|市場第一部/2019年/93.4%|市場第一部/2020年/95.3%|市場第一部/2021年/97.0%|プライム市場/2022年/99.2%|JPX日経400/2022年/99.5%

※出典:東京証券取引所「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況 及び 指名委員会・報酬委員会の設置状況」

社外取締役の報酬はいくらもらえる?

役員の報酬は高いイメージがありますが、実際はどうなのでしょうか。

ここでは、社外取締役の報酬について解説します。

社外取締役の報酬は中央値で840万円

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社が2022年に行った調査では、東証プライム上場企業の社外取締役の報酬総額は中央値で840万円という結果が出ています。

社長の1億1,224万円と比較するとそれほど報酬は高くないことがわかります。

社長や社内の取締役は常勤ですが、社外取締役は会議の時だけ出席するため報酬に大きな差が生じているようです。

社外取締役の報酬だけで生活している人はまれで、多くの人は、他社の経営者や弁護士、公認会計士などの本業を持っています

複数の社外取締役を兼任することも可能で、一人の社外取締役が兼務する社数3社(自社以外)以上が全体の22.1%。兼務社数が多いとそれだけ収入も増えます。

※出典:デトロイトトーマツコンサルティング合同会社「『役員報酬サーベイ(2022年度版)』の結果を発表」

報酬額は株主総会の決議で決まる

社外取締役の報酬は他の役員と同様に、株主総会の決議を経て決定します

株主総会では報酬の総額や算出方法を決定し、取締役会で個人別の金額を決める会社が多いようです。

税法上、事業年度の途中では報酬額を変更できないため、毎月同額の報酬が支払われることになります。業績がよくなったからといってすぐに報酬を増額することはできません。

社外取締役にはどのような責任がある?

会社の経営に問題があった時、監督の役割を担う社外取締役にはどのような責任が問われるのでしょうか。

経営責任は社内の取締役と同等

社外取締役にもほかの取締役と同じように、企業の全てのステークホルダーに対して責任があります。

取締役には「善管注意義務」や「忠実義務」があり、これに違反すると損害賠償責任を負わなければなりません。

善管注意義務とは、取締役として会社の経営に注意を払わなければならないという義務、忠実義務は法令や会社の定款、株主総会の決議を遵守し会社のために忠実に職務を行う義務です。

たとえ悪意が無くても、注意不足から経営判断を誤ったりほかの取締役の違法行為を見逃したりすると責任を問われる可能性があります。

ただし、高額な損害賠償を請求されるリスクがあると新規事業やM&Aなどの大胆な経営判断ができなくなってしまうため、社外取締役は損害賠償の限度を定める責任限定契約を会社と結ぶことができます。

取締役が責任を追求された裁判例

不祥事が起きると、取締役が億単位の損害賠償を請求される可能性もあります。実際の裁判例をご紹介します。

東芝事件

株式会社東芝でインフラ工事やパソコン事業など幅広い分野で利益のかさ上げが行われた事件。2015年に発覚した組織的な不正会計問題で、東芝と株主の男性は、歴代の社長を含む旧経営陣15人に賠償するよう求めていました。

2023年3月に東京地方裁判所はそのなかの5人に対し、総額で3億円余りの賠償を命じる判決を言い渡しました。

ダスキン事件

株式会社ダスキンが運営する「ミスタードーナツ」で販売していた肉まんに、食品に使用してはいけない添加物が含まれていた事件。

業者に口止め料を支払って隠蔽していたことが発覚し、2003年に株主が代表取締役・取締役・監査役に損害賠償を求める訴訟を起こしました。

隠蔽に関わった取締役2名に53億4,3500万円、隠蔽には関わらなかったものの違法添加物が含まれていたことを公表しなかった11名の取締役に総額5億5,800万円の支払いを命じる判決が下りました。

オリンパス事件

2011年にオリンパス株式会社で発覚した粉飾決算事件。損失を隠蔽していたことで株価が暴落。オリンパスと株主が当時の経営陣に損害賠償を求める訴訟を起こし、総額約590億円を支払うことが命じられました。

まとめ

社外取締役とは第三者の目線から経営を監視する、株式会社の役員です。

企業の経営に対して社内の取締役と同じように責任を負う一方で、第三者目線から会社経営を成功に導く重要な役割を担っています。

この記事の執筆者

「転職Hacks」編集部

株式会社クイック

株式会社クイックが運営する、転職活動にまつわる情報サイト「転職Hacks」の編集部。履歴書・職務経歴書の書き方や面接対策などのノウハウ記事、キャリアの悩みを解消するインタビュー・コラムを掲載中。

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