この内定先に転職していい? 不安なときに確認すべき、ただ一つのこと
応募先から内定をもらってひと安心…と思いきや「本当にこの会社でいいのか?」と不安になる人は少なくありません。
そんなとき、どうやって気持ちを整理すればいいのでしょうか?転職先選びで後悔しないために、入社を決める前にやっておくべきことを、延べ1,000名以上の転職者を支援してきた転職エージェントの結城さんに聞きました。
本当にこの会社でいいのか迷ったときは「転職の目的」を再確認しよう
――内定が出て嬉しいものの「本当にこの会社でいいのか」と迷ってしまうという声を聞きます。こういった場面で、結城さんはどんなアドバイスをしていますか?
結城:
そうですね。まず大前提として、そうした不安を抱くのはごく自然なことだと知っておいてください。
転職すれば、これまで築いてきた立場や人間関係を捨てることになります。しかも、転職先でどんな人たちと働くことになるのか、そこでうまくやっていけるのか、実際に入社してみるまでわかりません。
そう考えれば、現状に何かしらの不満があって転職を決めたとはいえ、今の仕事を捨てて未知の環境に飛び込むことに強い不安を覚えるのは当然のことではないでしょうか。
こういった不安と向き合って、後悔しない転職を実現するには、「この会社でなら頑張っていける」と自分を納得させられるかどうかが大切だと考えています。
――そんな前向きな気持ちになるには、どうしたらいいのでしょう?
結城:
当たり前と思われるかもしれませんが、何よりも大切なのは転職の目的が叶えられるかどうか、言い換えれば「転職を決めるきっかけとなった不満」が解消できるかを改めて確認していただきたいと思います。
というのも、転職活動を通じていろいろな会社を見ていくうちに、高い給与や成長性など魅力的な条件に惑わされてしまい、転職の目的があいまいになってしまうことがあるからです。
これは極端な例かもしれませんが、和気あいあいとした職場で働きたいと考えていたはずなのに、給与の高さに惑わされて選んだ転職先が、売上至上主義で人間関係が殺伐とした会社だったというケースもあります。
なぜこんなことが起こるかといえば、面接など選考の過程で転職先の社風に薄々不安を感じながらも、「これだけ給料がもらえるのだから」と自分を誤魔化すように入社を決めてしまう人も少なくないためです。
その結果、転職先の社風や職場の雰囲気に馴染めず、またすぐに会社を辞めることになったら、それほど不幸なことはないでしょう。
そのようなことにならないためにも、まずは転職の目的を再確認して、その目的が叶うかどうかを確かめることが、後悔しない転職先選びの第一歩だと私は考えています。
――言われてみれば当然のことですが、転職のきっかけになった不満を解消できなければ、何のための転職かわからなくなってしまいますね。
結城:
その通りですね。ですが、ひとつの不満だけに着目して転職先を選ぶというのも、現実的ではありません。
――どういうことでしょうか?
結城:
先ほどの例で言えば、和気あいあいとした職場で働きたいといっても、その他の条件がどうでもいいわけではないはずです。和気あいあいとした雰囲気でも、給料が安くて生活水準を大きく下げざるを得ないような会社であれば、その会社を選ぶことが正解とは言えないかもしれません。
そこでおすすめしたいのが、転職で叶えたいと思っていることを、マストとベターに分けてみることです。マストの希望は転職のきっかけになったこと(=本来の目的)・絶対に叶えたい条件で、ベターの希望はできれば叶えたいと感じていることです。
加えて、いま何に対して不安を抱いているかも確認しておくと、転職後に不安や後悔を感じるリスクを減らせるのでおすすめです。
- マストの希望:
転職の本来の目的。転職のきっかけになったこと・絶対に叶えたい条件。 - ベターの希望:
できれば叶えたいこと(魅力に感じていること)。 - 不安:
いま何に対して不安を抱いているのか?
結城:
具体的な方法ですが、たとえば下記のようなフォーマットを使って、「マストの希望」「ベターの希望」「不安」をすべて書き出し、「その希望が叶うかどうか」「その不安は解消できそうか」を確認していきましょう。
結城:
このとき、なんとなく叶いそう/叶わなさそうと評価するのではなく、面接や書類で確認した根拠を添えて考えるのがポイントです。「面接でこんな話を聞けたから」「こういう労働条件だから」など、第三者から見ても納得できるような根拠があると理想的ですね。
――根拠まで書けない場合はどうしたらいいのでしょうか?
結城:
もし情報不足で根拠を書けないなら、オファー面談を設定してもらうなどして、確認するのがいいでしょう。
オファー面談とは、内定後に労働条件や雇用条件のすり合わせを行う場のことです。人事担当や上司になる人だけでなく、配属先の社員など、入社してから一緒に働く現場の人と話すこともできるので、実際の仕事内容や職場の雰囲気なども確認できます。面接では聞きにくかったことを細かく聞けるので、ぜひ活用してください。
――たとえば、社風や人間関係など、実際に入社してみないとわからない点については、どう判断したらいいでしょうか?
結城:
そうですね。給与や残業時間など定量的な情報ならファクトで答えてもらえるので誤解も生じにくいですが、社風や人間関係、一緒に働く人の雰囲気など定性的な情報は、言葉で説明されても実際のところは理解しにくいものです。
オファー面談で現場の社員の話を聞く、口コミサイトの書き込みを読むなど、できるだけ情報を集めたら、最後は「これなら問題なさそう」「自分とは合わないだろう」といったご自身の判断を信じてみてはいかがでしょうか。
内定先でどれくらい希望が叶うか、客観的に判断しよう
結城:
マストの希望(本来の目的)、ベターの希望、不安を具体的に書き出して可視化することで、どれくらい自分の希望が叶うか客観的に判断することができます。
まず見ていただきたいのは、マストの希望(本来の目的)が叶うどうかです。冒頭でもお伝えしたように、本来の目的が叶わない転職先は決しておすすめできません。
本当に叶えたい希望が叶うかどうか、高い給与や成長性、ネームバリューといった魅力的に見える条件に惑わされていないか、しっかりと確認してください。
ベターの希望については、いわば加点要素と考えるといいでしょう。たとえば、「年収をアップしたい」というマストの希望に加えて、「残業時間が少ない」「完全リモートワーク」といったベターの希望も叶えば理想的ですが、すべての希望が叶う100点満点の会社など存在しません。
ここで大切なのは、叶えることができないベターな希望については、自分で納得して妥協できるかどうかです。この条件は叶えられなくてもいいと自分自身で納得できれば、転職後に「こんなはずじゃなかった」「やっぱり前職のほうがよかった」といった無用な後悔をなくすことができるはずです。
――納得して妥協することが大切なんですね。
結城:
3つの要素と入社すべきかの評価を図で表すと、下記のようなイメージになります。大前提として「マストの希望」の円の中にある企業を選んで、他の2つの要素の円も重なる企業だと希望が叶いやすい=評価が高まるという形ですね。
結城:
なお、不安に関しては払拭できないからといって極端にネガティブになる必要はありません。どれだけ転職先について調べたとしても、未知の環境に飛び込む以上は不安が完全になくなることはありませんから。
どうしても不安が残る場合は、その不安と代わりに得られるものを比較してみるといいでしょう。たとえば、「今より残業が増えそうだ」という不安があっても、そのぶんきっちりと年収が増えて、ワークライフバランスも許容できそうなら、不安よりも得られるもののほうが大きいと考えて、転職を前向きに捉えることができるでしょう。
もし、希望が100%叶わなかったとしても…
――現実的な問題として、たとえば「給料をアップする」という目的は叶うものの、想定した金額に届かなかったりすると思います。こういう場合は、あきらめるしかないのでしょうか?
結城:
たしかに、希望を100%叶えられないケースはあります。たとえば、希望年収が800万円だったものの、入社時点では年収700万円になる…といったケースが分かりやすいでしょう。
こういった場合には「当初の目標が妥当か」「入社後に目標に届くか」の2つを考えてみましょう。
まず「当初の目標が妥当か」についてですが、そもそも当初に立てた目標は相場観が掴めておらず、自分のスキル・経験では届かない条件を設定してしまうことが少なくありません。それに、給与水準は業界ごとにだいたい決まっていますし、企業は自社で決めた賃金テーブルに基づいて給与を支払うので、そこから大きく逸脱した金額が支払われることは基本的にありません。
この場合、転職活動を続けるうちに相場観が掴めてくると思うので、業界や企業の給与水準と照らし合わせながら、「今の自分なら、このくらいの条件が妥当だろう」と納得できるかどうかで入社の判断をしてみましょう。
2つめのポイントとしては、「入社後に目標に届くか」を考えるといいでしょう。たとえば、今のスキルや経験では届かない年収額でも、入社後にスキルアップした結果、実現できる例は多々あります。入社時の条件がそもそも生活できない水準だとしたら問題ですが、転職先の給与制度や評価制度を確認した上で、実現できる可能性があるなら、将来を信じて入社する選択肢も十分現実的ではないでしょうか。
――将来的に希望が叶う可能性が高ければ、それを信じて頑張っていけそうです。
結城:
まさにその「頑張っていけそう」という感覚が重要です。
繰り返しになりますが、すべての希望が叶う100点満点の会社など存在しません。多少は妥協しなければいけないことがあっても、「入社後に努力すれば希望が叶いそうだから、頑張っていけそう」と思えるかどうかが重要です。
自身の不安と向き合い、それでも「転職する」と決めたのなら、自分の判断を信じて思い切り仕事に打ち込んでほしいと思います。その転職を「後悔しない転職」にできるか、「転職に成功した」と言えるかどうかは、入社後のご自身の努力にかかっています。
この記事の話を聞いた人
キャリアアドバイザー
結城 賢治
株式会社クイック 最高人事責任者/上席執行役員
株式会社クイックに新卒入社。20年以上にわたりキャリアアドバイザーとして転職支援に携わり、企業の採用戦略にも精通している。コーチングの手法を取り入れ、求職者と伴走しながら個人の可能性を引き出すキャリアコンサルティングが強み。求職者からの信頼も厚く、転職後のキャリア相談の依頼も多い。現在は最高人事責任者として、自社の採用・育成・評価制度を牽引。新卒・中途採用の面接官も務める。キャリアコンサルティング技能士の資格も保有している。