転職を決める前に考えるべきこと 「やりがい」を理由に辞めるのは危険!
「今の仕事はやりがいがない」と感じて、仕事を辞めるか悩んでいる人は少なくないようです。
やりがいを感じない仕事は辞めていいのか、やりがいを見つけるにはどうしたらいいのか、人事とキャリアのプロ、曽和利光さんに聞きました。
仕事の「やりがい」に悩む人は少なくない
曽和利光さん(以下、曽和):これまで多くのキャリア相談を受けてきましたが、仕事の「やりがい」にモヤモヤした悩みを抱えている人は決して少なくありません。
特に20代前半に限って言えば、「新入社員は3年で3割辞める」と言われるように、その大多数が「やりがい」を理由に一度は転職を考えたことがあるのではないでしょうか。
曽和:誰もが「面白いと感じる仕事をしたい」「成長して活躍したい」と考える一方で、どんな仕事も面白いことばかりではありませんし、すぐに成果が出せるわけでもありません。むしろ仕事のほとんどは、地道な取り組みを粘り強く続けることで成り立っています。
加えて、これは人事を長年やってきた私の実感ですが、20代のうちに自分が本当に「やりたい仕事」を見つけて、その仕事を楽しめている人はごく少数です。
そう考えると、多くの人が目の前の仕事に面白みを感じられず、「仕事の意義がわからない」「やりがいを感じない」といったモヤモヤした悩みを抱えてしまうのも、当然といえば当然のことかもしれません。
「やりがい」がないなら転職してもいい?
曽和:ですが、やりがいを感じないからといって「それなら転職だ!」と走り出してしまうのは危険です。なぜなら、転職したからといってやりがいが見つかるわけではないからです。
仕事のやりがいとは、一言で言えば「その仕事をすることで得られる充足感や手応え」のこと。
どんな仕事であっても、自身の成長を感じたり、相応の報酬を得たりすることで、仕事に対する充足感や達成感が生まれます。自分のした仕事で褒められたり、人から感謝されたりすれば、それがやりがいになり、やがてはその仕事が天職となることさえあるのです。
曽和:つまり、やりがいとは、はじめからそこにあるものでもなければ、会社や上司に与えてもらうものでもなく、目の前の仕事に真剣に取り組むうちに徐々に生まれてくるものだと言えるでしょう。
にもかかわらず、「もっとやりがいのある仕事があるのでは…」とモヤモヤを抱えたまま、まるで青い鳥を探すように転職してしまったらどうなるでしょうか。転職先でも「この仕事も違った…」と再び転職を考えることになってもおかしくないのです。
▼天職を見つける方法は?
「やりがい」を理由に転職を考える前にすべきこと
曽和:だからといって、やりがいを理由に転職すべきではないと言いたいわけではありません。
目の前の仕事に真剣に向き合った結果、その仕事の面白みに気づき、やりがいを見出したものの、それでも「自分が求めているやりがいとは違う」と明確に言い切れるのであれば転職を考えるのもいいと思います。大事なのは、本気でそう言い切れるだけ、その仕事と向き合う努力をしたかということではないでしょうか。
曽和:以前、私が受けたキャリア相談の中にこんなケースがありました。相談者は総務の仕事に就いている20代で、「人や社会の役に立っているという実感がほしい。もっと人に貢献できる仕事をしたい」ということでした。
私は、以前在籍していた企業で、人事だけでなく総務も担当していたことがあるのですが、少し視点を変えてみれば、総務は社内の人に貢献する仕事だと言えます。「もっと人に貢献できる仕事をしたい」と思っていても、目の前に貢献できる人がいることに気づけば、仕事の捉え方は変わってくるのではないでしょうか。
私にとって、総務の仕事はやりたくてやったものではありませんでしたが、たとえば防災訓練やオフィスのレイアウト変更など、いざやってみると面白いと感じるところもありましたし、今、会社を経営する上で総務の仕事で学んだことは大いに役立っています。
その経験から言えば、どんな仕事であっても誰かの役に立っているはずですし、面白みを見出すことはできるはずなのです。
捉え方・工夫しだいで仕事は楽しくなる
曽和:今の仕事にやりがいや面白みを見出すといっても、具体的に何をしたらいいかわからないという人もいることでしょう。
そこでご紹介したいのは、「ジョブ・クラフティング」という考え方です。私はよく「意味付け力」とか「仕事を楽しむ力」と言い換えていますが、どんな考え方なのかは、有名な「NASAの清掃員」のエピソードをイメージしていただくとわかりやすいと思います。
このエピソードは、アメリカのケネディ大統領がNASAの宇宙センターを訪問した時、清掃員に「どんな仕事をしているのか」と尋ねたところ、清掃員は「人類を月に運ぶ手助けをしている」と答えたというものです。
曽和:この話から、同じ掃除という仕事であっても、ただ掃除をするだけと考えるか、NASAの一員として使命を果たしていると考えるか、目的を捉え直すことで、仕事の意義ややりがいが大きく変わるということがわかるのではないでしょうか。
目の前の仕事を「与えられたものだから」とただこなすのではなく、目的を捉え直したり、自分が楽しむための工夫をすることで、目の前の仕事を面白いものに変えていこうというのがジョブ・クラフティングの考え方なのです。
では、このジョブ・クラフティングの力を身につけるにはどうしたらいいのでしょうか。その方法のひとつは「仕事を楽しんでいる人の真似をする」ことです。
もし、自分の周囲に同じ仕事を楽しんでやっている人、やりがいを持ってやっている人がいたら、その人が仕事でどんな工夫をしているのか観察してみてください。
もしくは、日常的にやっている仕事の習慣がないか聞いてみてもいいでしょう。その工夫や習慣を自分も取り入れることで、仕事の捉え方が変わったり、新しい気づきが生まれたりするかもしれません。
曽和:さらに言えば、実は仕事ができる人はジョブ・クラフティングの力が高いということもわかっています。
私は、人事コンサルティングの仕事で、いろいろな業界・企業で高い業績を上げているハイパフォーマーの特徴や共通点を調査していますが、業界や業種を問わず、高い成果を上げている人に共通する力の一つが、このジョブ・クラフティングの力なのです。
仕事のやりがいを見出すことはもちろん、仕事で高い成果を上げるためにも、ジョブ・クラフティングを意識してみることをおすすめします。
仕事に「飽きた」と感じたら要注意
曽和:もう1点、仕事のやりがいを考える上で重要なのが「飽き」の問題です。仕事と向き合い、能力・スキルが身についていく過程で、ある程度仕事に慣れてしまうと、どうしても飽きが出てきます。
その結果、「今の仕事は同じことの繰り返しだ」とか「これでは成長できない」などと感じて、「やりがいがない」と思い込んでしまうケースがあるのです。
曽和:ですが、その状態での転職は決しておすすめできません。「飽きた」状態というのは、まだ完全に仕事が身についたとは言えない状態だからです。
飽きたと感じるということは、まだ考えながら仕事をしているということ。心理学では「処理の自動化」といって、無意識で作業ができて初めて「能力が身についた」とされています。
たとえば採用面接の面接官であれば「次は何を聞こうか」「この点を確認するには、どう質問すればいいか」などと考えなくとも、候補者の話を聞きながら、次に聞くべき質問が自動的に口から出てくる状態になってこそ、面接に必要な能力が身についたと言えるのです。
この状態はコンフォートゾーンと呼ばれる状態で、コンフォートゾーンに入れば、より多くの仕事を楽に効率的に進めることができます。そうなれば、より高い視座が求められるマネジメントの仕事や、より深い専門性が必要な仕事に就けるので、やりがいに悩むこともなくなるはずです。
曽和:また、転職を考えるにしても、コンフォートゾーンに達して「この仕事に関しては、もう成長する余地がほとんどない」と言える状態になってからのほうがいいのは間違いありません。
私は、これまで2万人以上の採用面接を担当しましたが、中には何度か転職をしていて履歴書上のキャリアは華々しいものの、実は何の力も身についていないという人が少なからずいました。おそらく、能力が完全に身につく前に辞めてしまった人たちなのでしょう。
そのような残念な人材にならないためにも、仕事に慣れて「飽き」を感じたら、1日も早くコンフォートゾーンに到達できるよう、あえて仕事量を増やして忙しい状況に身を置くことをおすすめします。
▼コスパがいい努力とは?
どんな仕事も楽しめる人にチャンスは巡ってくる
曽和:最後に、多くの経営者や人事の人が共通して口にする、ある言葉をお伝えします。それは、「つまらない仕事なんてない。仕事をつまらないと思う人と楽しめる人がいるだけだ」というものです。
実際、社内であっても転職市場であっても、「仕事がつまらない」「やりがいがない」と言う人が評価されることはないと言えるでしょう。仕事をアサインする側の視点でいえば、「今の仕事がつまらないからもっと面白いことをやりたい」と言う人にチャンスを与えようと考えることなど、まずないのです。
むしろ、地道な仕事でも楽しむことができる人、希望とは違う仕事でも「やってみたら面白い」と言える人にこそ、チャンスは巡ってくるはずです。前述したように、仕事を楽しむ力を持っていることが、高い成果を上げられる人の特徴の一つだからです。
どんな仕事であっても、やりがいや面白みを見出すことはできるはず。これは私の経験則ですが、あまり忙しくなく時間がある人ほど、仕事のやりがいに悩んでいるように感じています。そんなモヤモヤを感じる暇がないくらい仕事に打ち込んでみることが、仕事の実力を養い、いいキャリアを切り開くことにつながるはずです。
取材・文/いしかわゆき(@milkprincess17)
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この記事の話を聞いた人
人事コンサルタント
曽和利光
株式会社人材研究所 代表取締役
京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート、ライフネット生命などで人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。著書に『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『日本のGPAトップ大学生たちはなぜ就活で楽勝できるのか?』(星海社、共著)など多数。