「とにかくやれ!」では失敗する 効率的に成長できる「20代の働き方」

「20代はとにかく働け」という話を聞くことがありますが、それで本当に成長できるのでしょうか。

企業の採用責任者として2万人以上と面接した人事とキャリアのプロ・曽和利光さんに「成長につながる20代の働き方」を聞きました。

「20代はとにかく働け」は正しいか?

「とにかくやれ」では乱暴すぎる

曽和利光さん(以下、曽和):「20代はとにかく働け」とか「20代はとことん仕事の量をこなせ」と言われたことがある人は多いことでしょう。「実際に働いて仕事を覚えろ」「仕事で活躍するための土台を作れ」という意味で言われているのだと思いますが、この言葉の半分は正しく半分は正しくないと私は考えています。

まず、なぜ半分は正しくないかといえば、20代の人にとっては「とにかく働いたら成長できるのか」「大量の仕事をこなしたら理想の社会人になれるのか」、確信が持てないはずだからです。

それなのに、私が見てきた限り「とにかくやってみろ」「やればわかる」としか言わない上司は決して少なくありません。

曽和:おそらく上司世代の多くは、「とにかく働け」と言われることにあまり疑問を抱かず、目の前の仕事に必死で取り組むことで力をつけてきたのだと思います。

そうした経験から「やってみればわかる」と考えてしまうのは、ある意味でしかたのないことですが、それでも「とにかくやってみろ」「やればわかる」というだけではいささか乱暴すぎると思うのです。

「できること」を増やしておくことは必要

曽和:ただし、能力開発の観点から言えば、20代のうちに「できること」を増やしておくことは必要です。

仕事で求められる能力・スキルはいくつかの階層で構成されています。たとえば、言葉遣いや態度、WordやExcelのスキル、報連相やタスク管理、ロジカルシンキングといったものは、どんな仕事でも求められるビジネスの基礎力と言えるでしょう。

それらの基礎力の上に業務遂行力というべき能力・スキルがあります。たとえば営業マンなら、顧客のニーズを引き出すコミュニケーションスキルや商品を売り込むプレゼンテーションスキルの他、商談を優位に進めるための交渉力やクロージングに持ち込むスキル、緊急のオーダーに応えるための社内調整力など様々な能力・スキルが求められます。

曽和:さらに営業マネージャーであれば、業務遂行スキルに加えてマネジメント能力や計数管理、人材育成、戦略策定といった能力・スキルが求められることになります。

こうした能力・スキルは一朝一夕に身につけられるものではありませんし、複数の基本的な能力・スキルを組み合わせることで、さらに上の階層の能力・スキルが構成されるという構造になっています。

つまり、20代のうちにできるだけ多くの基礎的なビジネススキルや業務遂行力を身につけておくことが、5年後、10年後の仕事の幅を広げ、より良いキャリアを構築することにつながるのです。

20代のうちにしか伸ばせない能力がある

結晶性知能、流動性知能とは?

曽和:もうひとつ知っておいてほしいのは、人には20代のうちにしか伸ばせない能力があるということです。

人の能力にはコミュニケーション能力や語彙力など、歳を取るにつれて積み重なっていく「結晶性知能」と、新しい情報を受け取ってそれを素早く処理する能力で単純記憶や数的処理といった「流動性知能」の2種類が存在します。

そして、後者の流動性知能は20代をピークにして年齢とともに下がっていくと言われています。たとえば仕事の速さは20代のうちに伸ばしておくべきもので、年齢を重ねてから処理能力のスピードを上げようとしてもそれは難しいのです。

曽和:流動性知能を伸ばすことは、筋力を鍛えるのに似ています。ダンベルを繰り返し持ち上げることで筋力がつくように、繰り返し身体に覚えさせていくことで増強されていくのです。数多くの計算問題を解くことで、計算のスピードが上がっていく様子をイメージしてもいいでしょう。

能力が身についたかどうか見極めるには?

曽和:たとえば計算問題を解き続けていると、途中で飽きてしまったり、つらいと感じたりする瞬間がやってきます。そして、これと同様のことは仕事でも起こり得ます。

ですが、「飽き」や「つらさ」を感じている状態では能力が身についたとは言えません。心理学では「処理の自動化」といって、無意識に作業ができて初めて「能力が身についた」と考えられています

たとえば、かつて私は企業の採用責任者として2カ月間に数百時間の採用面接をしたことがありますが、なぜそんなことができたかというと、ほとんど無意識で面接を進めていたからです。

無意識というと誤解されるかもしれませんが、候補者の話を聞いて「次は何を質問しようか」「あの点も確認しておかなければ」などと考えることなく、半ば自動的に必要な質問が口から出て面接が進んでいく状態だったということです。

曽和:このような状態はコンフォートゾーンといい、私は何百回、何千回と面接を繰り返すことで無意識に面接ができるようになりました。

コンフォートゾーンに入れば、ほとんど汗をかくことなく、より速く、より多くの仕事を進めることができます。ですが、同時にこの状態は成長が止まった状態でもあります。

もし、今担当している仕事がコンフォートゾーンに入って成長が止まったと感じたら、新しいことにチャレンジするなど次の能力を伸ばすことに注力することをおすすめします。

「とにかく働け」だけでは能力は伸ばせない

曽和:能力を伸ばすためには、もちろん一定量をこなすことが必要ですが、とにかく働けばいいというわけではありません。

筋トレにたとえるなら、目指す筋力を養うために必要なトーレニング量は人それぞれ。1回の最適なトレーニング時間も違えば、必要なトレーニングの回数も違います。

30分×200回のトレーニングが必要な人もいれば、1時間×50回でいい人もいますし、1時間×200回が最適な人もいるといったように、その人の運動能力や持久力、筋肉の質によって効果的なやり方は人によって違うはずです。

筋トレであればトレーナーについてもらって、自分に合ったトレーニング時間や方法を指導してもらえますが、仕事ではそうはいきません。仕事で成長するための自分に合った方法を見つけるには、いろいろな方法を試して試行錯誤するしかないでしょう。

曽和:できれば、上司や先輩など第三者に見てもらいながら、自分が効率的に成長できる方法を学ぶことが必要です。本当は30分の筋トレに耐えるだけの持久力しか持たない人が、我流で1時間の筋トレを繰り返した結果、筋肉を傷めてしまったり、燃え尽き症候群に陥ったりするのはよくあることだからです。

誰もが受験などで学び方については熟知していると勘違いしがちですが、「知識の勉強」と「スキルの勉強」は似て非なるもの。知識は頭で理解したり、記憶したりできればそれでいいですが、スキルはそれだけで学べるものでもありません。

たとえば、プレゼンテーションはプレゼンテーションの本を読んでも、すぐにプレゼンテーションできるわけではありません。だからこそ、20代のできるだけ早い段階で「スキルの効果的な学び方」を学んで「できること」の最大化に取り組んでほしいのです。

ルーティンワークを楽しめるかが成長のカギ

「意味づけ力」を意識しよう

曽和:前述した通り、20代が伸ばすべき流動性知能能力を鍛えるには、繰り返し身体に覚えさせていくことが必要です。

とはいえ、20代のうちは「早く成長したい」「結果を出したい」と焦ってしまいがちなもの。地道な仕事を繰り返すことをつらく感じることもあるでしょう。そこでカギとなるのが「意味付け力」です。

曽和:たとえば元メジャーリーガーのイチローさんなど世界で活躍するアスリートであっても、実はやっている練習はほとんど毎日同じものです。でも、一流のアスリートはそのルーティンワークに対して毎回のテーマを作り、きちんと意味付けをすることでセルフモチベートしています。

これはビジネスでも同じで、たとえば面接官という仕事であれば、「ただ漫然と面接する人」と「インタビューに関する本を読み、その理論を学んだうえで毎回のテーマを決めて実践する人」とでは、まったく得るものが違うはずです。

スキルを効果的に身につけるには?

曽和:スキルを効果的に身につけるには、実践した結果に「今日はうまくいった」「今日はダメだった」と一喜一憂するのではなく、そこから得た学びを体系化して、他の場面でも応用できる形に落とし込むことが大切です。

アメリカの教育理論家であるデビット・A・コルブが提唱した「経験学習モデル」では、(1)経験を積み(具体的な経験)、(2)その経験を振り返り(内省的な観察)、(3)そこから教訓を引き出し(抽象的な概念化)、(4)実践してまた振り返る(積極的な実験)という4つのステップを繰り返すことで学びを深め、スキルを身につけることができるとされています。

〈経験学習モデルの4ステップ〉

  1. 具体的な経験
  2. 内省的な観察
  3. 抽象的な概念化
  4. 積極的な実験

曽和:この「経験学習モデル」のサイクルを意識して回すことで、効果的に学びを深め、自身の能力を伸ばしていただきたいと思います。

20代は確かな一歩を積み重ねる時間

曽和:ご存じの方もいるかと思いますが、最後に「確かな一歩の積み重ねでしか、遠くへは行けない」というイチローさんの言葉をご紹介します。

同じことの繰り返しやルーティンワークは、時に苦しいこともあるかもしれませんが、20代は将来の飛躍に向けて確かな一歩を積み重ねていく時間です。

たとえルーティンワークでも、一つひとつに意味付けをして真正面から取り組んでいけば、自分でも気づかないうちに揺るがない実力が身に付くことでしょう。

取材・文/いしかわゆき(@milkprincess17

この記事の話を聞いた人

人事コンサルタント

曽和利光

株式会社人材研究所 代表取締役

京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート、ライフネット生命などで人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。著書に『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『日本のGPAトップ大学生たちはなぜ就活で楽勝できるのか?』(星海社、共著)など多数。

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