グループ会社の8割規制って何? 専ら派遣とは?禁止の理由や例外も

派遣社員として働いた経験のある人は「専ら派遣」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。

この記事では、専ら派遣の定義やデメリットについて説明します。

専ら派遣とは?

まずは、専ら派遣の定義やその現状について説明します。

派遣労働者の派遣先を限定する禁止行為 

専ら派遣とは派遣労働者を1社または複数社の会社に限定して派遣することで、労働派遣法で禁止されている行為です。

禁止される理由は、企業が特定の派遣会社から派遣社員ばかりを迎え入れ、その結果正社員雇用の機会が奪われることを阻止するためです。

【専ら派遣とは?】確保の努力せず/派遣会社→ほかの事業主|労働者派遣/派遣会社→特定の事業主|拒否/ほかの事業主→派遣会社

派遣先企業が専ら派遣の派遣会社を利用するメリットは、正社員よりも安い人件費で労働力を確保できる、あるいは状況に応じて人件費削減がしやすいことです。派遣会社にとっても、決まった派遣先に対して専ら派遣を行えば、一定の売上が見込めるというメリットがあります。

専ら派遣は通常の派遣に比べると、派遣先企業に安定的に労働力が供給されます。また、派遣社員は「賞与・昇給などがなく正社員に比べて人件費が低い」「派遣契約満了などのタイミングで解雇しやすい」といえます。

厚生労働省が定めている専ら派遣の判断基準は、以下の3つです。

〈派遣会社が「専ら派遣」と判断される基準〉

  • 事業の目的が専ら派遣である旨が、定款、寄附行為、登記簿の謄本等に記載されている
  • 派遣先の確保のために行う派遣会社の努力が客観的に認められない
  • 特定の事業者以外からの労働者派遣の依頼を正当な理由なく全て拒否している

専ら派遣と判断される基準は「派遣先確保のための努力が“客観的に認められるかどうか”」など、曖昧な部分があるため、なかには専ら派遣に該当する行為をしているにもかかわらず、通常営業している派遣会社もあるのが実情です。

ちなみに、大手の人材派遣会社の場合は、広告やホームページなどで積極的に派遣先確保を行っているため、専ら派遣には当てはまらないといえます。

※参考:厚生労働省|いわゆる「専ら派遣」について

専ら派遣の実態

専ら派遣は金融・製造・運輸や物流といった業種に多い傾向にあるといわれています。

それらの業種の大手企業の中には、リストラ対象者や退職者の再雇用先として、人材派遣会社を作っている企業もあります。

そして人材派遣会社で再雇用したリストラ対象者や退職者を、元々働いていた企業やそのグループ企業に派遣し(グループ内派遣)、専ら派遣状態となることもあります。

グループ会社が親会社に専ら派遣を行う場合も

企業によっては、人件費節約のためにグループ会社として人材派遣会社を設立して、親会社やグループ内の他の企業に専ら派遣を行う場合もあります。これを「グループ内派遣」といいます。

悪用されやすいグループ内派遣を規制するため、2012年10月に改正された労働者派遣法では、人材派遣会社はグループ企業への派遣割合を8割以下に抑えることが義務付けられ、事業年度終了後3カ月以内にグループ企業への派遣割合を厚生労働大臣へ報告することが必須となりました。

グループ内派遣の8割規制に違反した場合は、許可の取り消し、もしくは事業停止命令の対象となります。

専ら派遣を行った企業には罰則がある

人材派遣会社は「専ら派遣を行わないこと」が事業許可の条件なので、専ら派遣を行った場合はその時点で事業許可の取り消し、もしくは事業停止命令の対象となります。

そもそも派遣社員はあくまでも一時的な労働力として雇うことが前提です。そのため、特定の企業で継続して派遣社員として働かせる専ら派遣は、労働者のキャリアアップの機会を奪う可能性があり、法律で禁止されています

コラム:60歳以上の高齢者は専ら派遣の例外

派遣会社が雇用する派遣労働者のうち、30%以上が60歳以上であれば、専ら派遣であっても高齢者の労働を確保するための例外として認められます(派遣法施行規則第1条3項)。

ただし、例外が認められるのは「専ら派遣の派遣先が在籍していた企業ではない場合」「他の事業所を60歳以上の定年により退職した場合」をどちらも満たしたときに限られます。

専ら派遣かどうかを見極めるには?

自分が専ら派遣で働いているかどうか気になるという人もいるでしょう。

ここでは専ら派遣かどうかを見極める方法と、もし専ら派遣だとわかった場合にどうしたら良いのか紹介します。

簡単に見極められないのが現状

派遣社員として働いていても、自分の派遣会社が専ら派遣を行っているかどうかは簡単には見極められないのが現状です。

特定の派遣先しかない場合は専ら派遣の可能性が高いですが、派遣社員が派遣会社のすべての派遣先を把握するのは難しいためです。

ただし、他の派遣社員も含めてグループ会社にしか派遣されていないなどの理由から専ら派遣かもしれないと感じたら、専ら派遣のデメリットをしっかり把握して今後も働き続けるかどうかを考えましょう。

派遣の問題に強い機関に相談する方法も

派遣会社が専ら派遣を行っている可能性があると感じた場合は、派遣の問題に強い機関に相談する方法もあります。

一般社団法人日本人材派遣協会には、労働者派遣事業アドバイザーが派遣社員の相談及び苦情に対応する「相談センター」が設置されています。労働者派遣法など、法律に関するトラブルの相談も可能です。

「派遣会社の立場が弱く、派遣先とトラブルが起きても解決してもらえない」といった内容でも、まずは相談してみましょう。

※参考:一般社団法人日本人材派遣協会|相談センター

専ら派遣で働く3つのデメリット

自分で見極めることが難しいため、知らないうちに専ら派遣で働いてしまっているというケースもない訳ではありません

ここでは、専ら派遣の派遣会社に登録して働くことのデメリットを3つ紹介します。

【専ら派遣で働くデメリット】・派遣会社の立場が弱く、トラブルを解決してもらえない/・派遣会社が突然営業停止になる場合がある/・直接雇用してもらえる可能性が低い

派遣会社の立場が弱く、トラブルを解決してもらえない

専ら派遣で働く場合は派遣先が派遣会社の親会社であることも多いため、派遣会社の立場が弱く、派遣先の意見が優先されやすいこともあるようです。

本来であれば、派遣先でトラブルが起きたときには派遣会社が解決のために動いてくれることがほとんどです。しかし専ら派遣の場合、派遣先で理不尽な扱いを受けても、派遣会社が助けてくれない可能性があります。

派遣会社が突然営業停止になる場合も

専ら派遣は事業許可の取り消し、もしくは事業停止命令の対象となるため、専ら派遣が明るみになった場合は派遣会社が事業停止となり、突然無職になってしまう可能性もあります。

直接雇用してもらえる可能性が低い

一般的な派遣社員の場合、まれにスキルが認められて派遣先で直接雇用され、正社員や契約社員として働ける場合がありますが、専ら派遣の場合は直接雇用よりも安い労働力を安定的に確保するために行う場合が多いので、直接雇用されることはないと思って良いでしょう。

その上、業務内容が正社員と変わらないのにもかかわらず、大きな賃金格差があるケースも珍しくありません。

まとめ

専ら派遣とは、派遣労働者を1社または複数社の会社に限定して派遣することです。

労働派遣法で禁止されているため、明るみになれば派遣会社が事業停止になり、労働者にとっても、ある日突然無職になるリスクがあります。

派遣会社が専ら派遣を行っている可能性がある場合は、派遣問題に強い専門機関に相談してみましょう。

(作成:転職Hacks編集部)

この記事の監修者

特定社会保険労務士

成澤 紀美

社会保険労務士法人スマイング

社会保険労務士法人スマイング、代表社員。IT業界に精通した社会保険労務士として、人事労務管理の支援を中心に活動。顧問先企業の約8割がIT関連企業。2018年より、クラウドサービスを活用した人事労務業務の効率化のサポートや、クラウドサービス導入時の悩み・疑問の解決を行う「教えて!クラウド先生!®(商標登録済み)」を展開。

社会保険労務士法人スマイング 公式サイト

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